アル中とさしす組   作:大塚ガキ男

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こんばんは!お待たせしました!




アル中と存在しない記憶。

 

 

 

 

 朝の風が少しだけ熱を含み始めたことに、朝の通学路で気が付いた。

 まだ梅雨は明けきっていないというのに、ワイシャツの襟元を不快にすり抜ける風がどこか夏の匂いに変わっている。

 学校まで真っ直ぐと伸びたアスファルトからゆらゆらと立ちのぼる夏の熱気。暑さへの小さな抵抗と言わんばかりに、足元の熱気を少し意識的に踏み潰しながら校門をくぐってみる。

 学校の購買の冷蔵棚にはいつの間にかスポーツドリンクが山のように補充され、食堂の小さなテレビでは春季大会のダイジェストが無音で流れている。

 砂まみれのユニフォーム、帽子のつばから滴る汗、ベンチで声を枯らす控え選手たち。

 音がなくても、画面の向こうの熱量だけは()()に伝わってくる。

 昼休み、屋上からグラウンドを見下ろせば、グラウンドを区切って各部練習に励んでいる体育会系生徒達が「ファイト!」「一年声出せ!」と、部の枠組みを乗り越え、互いに負けじと掛け声を重ねていた。

 夕方のニュースでは、甲子園球場の外周を映した映像が流れる。まだ本番には早いはずなのに、周囲にはすでに記念写真を撮る人の姿があり、スタンドには新しい横断幕が準備されているという。アナウンサーの声は落ち着いているのに、その言葉の端々から、季節が大きな節目へ向かっていることだけははっきりと伝わってくる。

 日が沈み切ろうとしているのに未だ元気に鳴き続ける蝉の声を聞きながら、ふと思う。夏はまだ始まっていないはずなのに、もうどこかで始まっている。グラウンドの土の匂い、テレビの中の白球、熱に浮かされた世間。

 それらが静かに重なり合って、ひとつの合図のように告げているのだ。

 今年もまた、甲子園の季節が近づいている、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……フラれたショックから変に拗らせるのは別に良いんだけどさ、それがどうしたら()()()()()()()()()ことに繋がんの?」

「まぁ慌てるな虎杖(ブラザー)。今説明する──それよりも、掃除の手が止まっているぞ」

分かってる(わーってる)って。あまりにも長文喋るもんだから休憩かと思っちゃったの」

虎杖(ブラザー)も記憶に新しいだろう。つい先日の()()()()()──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 昼休み。

 屋上にて。

 本来ならば立ち入りが許されていないが、鍵が壊れていることから一部の生徒の間では()()として扱われている南棟校舎の屋上。

 重たい鉄扉を開ければ目当ての人物はすぐに見つかり、虎杖は小さく片手を上げながら声を掛けた。

 

「おーっす、おつかれ東堂」

「来たか虎杖(ブラザー)。待ちくたびれたぞ」

 

 転落防止の為に屋上をぐるりと一周囲うフェンス。

 自身の身長の2/3程の高さのフェンスの(ふち)に身体を預け、アンニュイな表情でグラウンドを見下ろしていた東堂は、虎杖の声にすぐさま振り返って不敵な笑みを見せた。

 

()()()()って……どうしたん?」

「調べたいことがあってな、オマエにも協力してもらう」

 

 昼休みの屋上は、夏先に相応(ふさわ)しい眩い日差しに包まれていた。

 フェンス越しに見える遠くの街並みが、ゆらゆらと熱を帯びて揺れている。時折風が強く、東堂の内なる熱量を表すかのように制服の裾を旗めかせた。

 

「なんだそりゃ。期末の勉強でもすんのかよ」

「そんなわけないだろう。IQ53万の俺に勉強など必要ない」

「アホ丸出しのIQじゃん。……で、じゃあ何調べるってんだ?」

 

 虎杖が東堂の発言に、想像よりも真剣ではなさそうな案件だと理解して肩を落とす。

 虎杖の問いかけに、東堂は「決まっているだろう」と腕を組み、当然のようにこう言った。

 

「高田ちゃんのことだ」

「またかよ懲りねえな! オマエこの前フラれたばっかりじゃねーか!」

 

 虎杖は額を押さえ、溜め息を空へ吐き出す。その正面で東堂は腕を組み、堂々と仁王立ち。

 横目でグラウンドを見下ろした東堂の表情は、まるで告白に敗れた男ではなく、これから世界を獲る将軍のソレ。

 視線が虎杖の方へと戻る。

 

「そうだ! だが思い返してみろ! 俺をフッたときの言葉を!」

「『好きな人がいる』、だろ」

「じゃあ虎杖(ブラザー)、その好きな人とは誰だ?」

 

 東堂の目が真剣そのものに輝く。真昼の太陽がその瞳に反射し、無駄にドラマチックだ。

 

「知らんけど、オマエじゃない誰かだろ」

「そう、わからない。だから、まだ『実は俺でした』という線も消えてはいない」

「消えてるよ。俺の話聞いてる?」

 

 風が一層強く吹き、フェンスが鳴る。

 虎杖のツッコミは、風に流されていく。

 

「分からないならば調べるしかないだろう!」

「はぁ……。一応聞いとくけど、どうやって調べるつもりなんだよ」

「決まっているだろう、高田ちゃんを尾行する。彼女に近しい人物ならば尻尾を掴めるはずだ」

 

 言い切った東堂の背後で、太陽が雲の陰に隠れる。妙に壮大だ。

 

「予想はしてたけど最悪の方法だな」

「ついてこい虎杖(ブラザー)。その男が高田ちゃんに相応しいかどうか、俺が確かめる。今日は部活も無いし、このまま自宅へ帰るはずだ」

 

 東堂はマントでも翻す勢いで踵を返す。もちろんマントは無い。東堂が着用しているのは、ただ着崩し、挙句好き勝手に改造した制服だ。

 虎杖は天を仰ぎ、静かに呟いた。

 

「またなんか始まった……」

 

 

 

 

 

 

 

 そして放課後。

 東堂曰く高田ちゃんの通学路。

 住宅街に続く細い道。夕暮れの影が長く伸び、犬の散歩をする人や、買い物帰りの主婦が行き交う。電柱の陰に、不自然に大きな二人組が潜んでいた。

 

「ホントに尾行すんの?」

「ここまで来たらもう後退はできないだろう」

 

 東堂は真剣な目で前方を見つめる。物陰に隠れているはずなのに、体の半分がはみ出している。

 

「いや前進もしたくねぇんだけど……」

「俺は朝から尾行を続けている。今更引き返せない」

「オマエ、珍しく見かけないと思ったら……」

 

 虎杖の視線が、じわりと冷える。

 

「ふむ、それらしい人物との接触は無し……か。特に怪しい行動も見られんな」

 

 高田ちゃんは至って普通に歩いている。スマホをちらりと確認し、まっすぐ帰路を進むだけだ。

 東堂と虎杖も、高田ちゃんから一定の距離を保ちつつ、電柱から電柱へとジグザグに移動していた。

 

「自宅突き止めるとか……これ犯罪なんじゃね」

「問題ない。そもそも俺は最初から把握済みだ」

 

 東堂の逞しい胸が誇らしげに張られる。

 

「やべぇなオマエ……流石に引くわ」

「特に寄り道もせずに帰宅。さすがは真面目な高田ちゃんだ……」

 

 彼女は家の門をくぐり、静かに扉を閉めた。

 途端に周囲の音が耳に入ってくるようになり、その微かな喧騒と当たり前の日常から来る平穏が、尾行の終了を如実に告げていた。

 

「……もう気は済んだろ。飯食って帰んぞ。もちろんオマエの奢りで」

「なっ! 待て虎杖(ブラザー)! 今月は小遣いが……!」

「知るか! ていうかこの前のラーメン代も返せ! 慰めのつもりで奢ったんだからな! お前落ち込んでねえじゃん!」

「落ち込んでいるに決ま──マズい虎杖(ブラザー)! 隠れろ!」

 

 東堂の表情が一変する。猛獣が獲物を察知したように、鋭く前方を睨む。

 

「なんだよもう!」

 

 次の瞬間、曲がり角の向こうから誰かの足音が近づいてきた。

 東堂の目が、戦闘前のそれに変わる。

 尾行は終わったはずだった。

 しかし、現れた。

 新たな人物が、高田ちゃんの家の前に現れた。

 

「……誰だ、あの男(アイツ)は」

 

 東堂が、電柱の陰から片目を出して男を睨む。見覚えのない男は、東堂と虎杖と同じ高校の制服に身を包み、スクールバッグを肩越しに指に引っ掛けて歩いている。

 右腕は骨折しているようで、清潔そうな三角巾によって胸の前で固定されている。

 男は足を止める事なく、躊躇する事なく。

 当然のように高田家の門をくぐった。

 

「不審者め……! 成敗してやる!」

「ちょ、待て待て! お前知らんの? あの人」

 

 目に見えない刀を腰から抜こうとした侍、いや東堂の肩を、その背後で隠れていた虎杖が慌てて掴んで引き留める。何をするんだと振り返った東堂──虎杖を睨む両目は血走っていて、東堂の真剣さと必死さが窺える。

 

「知るか! 誰だあの男(アイツ)は!」

「兄貴だよ。高田ちゃんの」

 

 

 

 

 

 

 

「……義兄がいたとは」

「なんでお前が知らねーんだよ」

 

 自宅知ってんのに。

 小さな公園の中にある二つのブランコ。

 その内の一つに座った虎杖は、隣で少し窮屈そうにブランコに尻を収めている東堂に向かって健気にツッコミを入れていた。

 

浮舟出(うきふねいずる)先輩。……俺、委員会で一緒だから知ってんだよね」

「……何故、名字が違う」

「義理だとなんかあるんかな? 別に気にならないから聞いてなかったけど」

「俺だって、毎日尾行しているわけではないし、決して家の中を覗いたりはしない。ましてや高田ちゃんとはクラスも学年も違う義兄。完全に守備範囲の外だった。なんという失態………………はぁ」

「あー、また落ち込み(面倒くさい)モード入った」

 

 これ長いんだよな。

 虎杖は沈む夕陽を一瞥し、眩しさに目を逸らすついでに項垂(うなだ)れた。

 

「しかも()()の兄だぞ? ………………はぁ」

「義理だとなにかあんの?」

 

 落ち込み、地面に顔を向け続ける東堂。このまま続けば地面と熱い接吻を交わしてしまうのではないかと危惧する程の落ち込み具合に、虎杖が会話を意識的に続ける。

 虎杖の問いに、東堂は立ち上がって叫んだ。

 

「あるに決まっているだろうッ! 義理なら高田ちゃんと結婚出来るッ! つまり、高田ちゃんの好きな人が浮舟出であるという可能性も……!」

「ねーよ」

「何故言い切れる!」

「あのなぁ……」

「さっきの()()虎杖(ブラザー)も見ただろう!」

 

 

 

 

 

 

 

『あ、お義兄(にい)ちゃんお帰り〜。今日パパとママ帰り遅くなるから、夕飯自分達で用意してだって』

『マジ? 知らなかった』

『お義兄(にい)ちゃん、スマホ見ないもんね』

『参ったな、もう少し早く知れればスーパー寄ってこれたのに』

『その右手で自炊は無理だって! それよりも……外食しよ?』

『おぉ、良いとも。どこか行きたいところある?』

『駅前に出来たハンバーガーショップ! 内装がダイナー風で可愛くて気になってたんだよね!』

『オッケー、鞄置いてくる』

『あっ、あと帰りにアイス買ってもらいたいかも! ダッツ!』

『はいはい、仰せの通りに。可愛い妹様』

 

 

 

 

 

 

「うぅ……! こんなの絶対付き合ってるではないか……!」

「うわぁ、号泣してる……」

 

 両目から大粒の涙を流し、その涙が夕陽に反射してそれはそれは美しい煌めきを生み出している。

 虎杖は東堂を慰めるべく──そして重大な事実を伝えるべく「大丈夫だよ」と切り出した。

 

「大丈夫なものか! 適当を言うな!」

「…………」

 

 言い返されても、めげずに切り出した。

 

「……ウチの高校さ、なんか一つは委員会入れってルールあるじゃん」

「……あるな。俺は高田ちゃんと同じ委員会を勝ち取ったが」

「そこは興味無いからスルーすっけど」

「おい」

「俺は別に入りたい委員会も無かったから、丁度枠が空いてた保健委員会に入ったんだよ」

「そこに、浮舟出もいたということか」

「うん。保険委員長」

「…………」

 

 東堂が黙る。

 話を聞く姿勢に入れたのか、それとも嗚咽を漏らさぬよう口を封じているのかは分からないが、虎杖は続けた。

 

「浮舟先輩メッチャ良い人でさ、俺なんかにもすっごい話しかけてくれるし、すっごい優しくしてくれんの。俺大好きなんだよあの先輩」

「……成る程、高田ちゃんだけでなく虎杖(ブラザー)のハートをも射止める好漢──快男児というわけか」

「射止めてはねぇって。少なくとも、高田ちゃんのことは」

虎杖(ブラザー)のハートは射止められているのかッ⁉︎」

「恋愛とかじゃなく、()()()()ってニュアンスならね?」

「なに!? じゃあ高田ちゃんはどちらのニュアンスで射止めてないということになるんだ!?」

「あぁもううるせーな!」

 

 落ち込んでいるくせに口数が多く、しつこい上に面倒くさい東堂に嫌気が差したのか、虎杖が遂に叫んだ。ブランコから立ち上がり、東堂の前まで移動し、しゃがんで東堂の肩を前後に強く揺さぶった。

 

「聞け東堂! 浮舟先輩が保険委員会に入り、委員長まで担っている理由はな──保険委員会担当、養護教諭の家入先生のことが好きだからだよッ!!」

「ッ⁉︎」

「あと浮舟先輩のクラスの担任の歌姫先生と、ウチの学校の理事長やってる冥冥さんって人のことも好きって言ってた! これは先輩自身から直接聞いた間違いの無い確かな情報!」

「ッ……!?」

「分かるか東堂! 浮舟先輩はな、年上好きなの! だから同い年どころか年下の高田ちゃんには、間違っても惹かれない!」

「ッ……! つまり、そういうことか!」

「いや今言ったので全部だわ」

「なんだ虎杖(ブラザー)、水臭い! そんな大事な情報、早く教えてくれれば良いものの!」

「あー良かった。立ち直った。反動でまた別ベクトルで面倒くさいのはもう気にしないでおく」

 

 虎杖からの情報によってすっかり立ち直った東堂。両足で地面を蹴り、ブランコに揺られ始めた。

 終いには鼻歌混じりに立ち漕ぎまでし始めた。

 

「現金なやつ」

 

 ブランコを乗りこなし、高笑いする東堂を見て呆れ笑う虎杖。

 夕陽に彩られた小さな公園、青春の一ページ。

 

「あの……、なーんでオレの好み(タイプ)バラしちゃってるワケ?」

 

 背後から、声。

 二人して振り返れば、そこには三角巾で右手を吊った男──浮舟出が立っていた。

 

「う、浮舟先輩!?」

 

 東堂の表情が驚愕に染まり、ブランコから飛び降りて身構える。

 浮舟は自由な左手を上げた。

 

「よう虎杖君。それに、俺の妹のことを尾行してた東堂君」

「ヤッベバレてる」

「妹が気味悪がってたからさ、尾行(こういうの)は控えて欲しいんだよね」

「も、申し訳無い……」

「ご、ごめんなさい……」

 

 二人して頭を下げる。こういう時に東堂を指差して「俺はコイツに付いて行っただけで!」と変に言い訳をしないことを、東堂も浮舟も内心好ましく思っていた。

 

「──浮舟出!」

「は? タメ口?」

「すみません先輩! あとで引っ叩いておきますので!」

「──いや、お義兄(にい)さん!」

「おにいさん?」

「高田ちゃんを俺にください!」

「「…………」」

 

 それは、まだ自分にもチャンスがあると改めて気が付いた男の、度重なる逡巡の末の勇気。

 東堂は浮舟の前まで駆け、勢いそのままに土下座をして叫んだ。制服や額が砂に(まみ)れることを(いと)わず、つい先ほどまで嫉妬していた男の足元で頭を下げた。

 

「……成る程ね、妹の前にオレを()()()()()()()()()って分かってるんだ」

「あぁ、本能的に察しただけだがな……」

「東堂君の本能は正しいよ。妹はモテるからね、オレみたいなセーフティがいないと変な男に引っかかりかねない」

「なら──」

「でも、君にお義兄(にい)さんと呼ばれる筋合いは無いよ」

 

 ──しかし、蛮勇であった。

 にべもなくそう返された東堂。伏せられた顔を中心に、砂が湿っていく。

 

「また泣いてる……」

「まぁ東堂君、取り敢えず頭を上げてよ」

「上げん! 俺のこの思い、認めて貰えるまでは……! 何時間だって下げ続けるッ……!」

「いやさ、ウチの妹のこと尾行(ストーキング)するような男子においそれとOK出せるわけなくない?」

「正論だ……」

 

 東堂(変な奴)とばかり(つる)んでいるからか、麻痺していた感覚。浮舟を前にして、虎杖はその正しさに打ちのめされるのだった。

 

「オレの妹はアイドルでもやっていけるくらい可愛いし、勉強だって出来る頑張り屋さんなんだ。どこの馬の骨かも分からない泣き虫君に釣り合うような(タマ)じゃないんだよ」

「うぅ……! なにも言い返せん……!」

「だろうなー」

 

 身体を震わせて嗚咽する東堂。虎杖がしゃがんでその背をさする。

 もう帰ろう。

 虎杖がそう提案しようとしたその時、東堂がガバッと顔を上げた。

 涙と砂で頬を汚したとんでもない形相で、浮舟に向かって叫んだ。

 

「しかし……! だからと言って諦められるほど(ヤワ)な愛ではない……!」

 

 真剣。

 見下ろす浮舟は、東堂の言葉をどう受け取ったのか。

 数秒。公園内に静寂が走り、静寂の中吹いた風にヒュウ、と短い口笛が添えられた。

 

「さっきも言ったように、オレの妹はそこらの男にくれてやるような存在じゃない。オレには妹の未来を守る義務がある」

「あぁ、分かっている」

「それでも妹と付き合いたいのなら、君も妹に釣り合うくらいのビッグな男にならないとね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「はぁ……、それで甲子園を目指すってこと?」

「あぁ。高田ちゃんに釣り合う男になるには、それくらいしかあるまい」

「絶対他にあると思うけど」

 

 虎杖は掃き掃除をしながらそうぼやき、人気の無い野球部室をぐるりと見渡してみた。

 

「部員も俺等以外いねぇし」

「まさか部室が元部員の溜まり場になっていたとはな。二、三発殴れば高校球児の心を取り戻すかと思ったのだが……」

 

 二人の脳裏に、昨日の大立ち回りが蘇る。切った張ったの争いの末、残されたのは荒れた部室と割れた窓。東堂と虎杖は、何をするにもまずは掃除をせねば──そんな現状だった。

 

「アイツ等全員逃げちゃったし、部室は滅茶苦茶だし」

「気にするな虎杖(ブラザー)。二人で一から始めよう」

「二人で?」

「あぁ」

「甲子園目指すん?」

「勿論だ」

「……無理じゃね?」

「何を言う。俺とオマエのバッテリーを前に怖いもの等──」

「いやいや、野球って九人でやるスポーツだから! そもそも二人だけだったら部としても認めてもらえねぇかもしんないし!」

 

 虎杖はルーキーズを観ていたので、投手と捕手の二人だけでは試合が成立しないというのはすぐに分かった。野球において重要なのは部員同士の絆と助け合い。そして、『夢にときめけ! 明日にきらめけ!』の精神。

 しかしそもそも、部員が九人揃えられることが一番重要だ。ルーキーズと違って、ドロップアウトした仲間達に再びバットを握らせることは出来ない。

 そもそも仲間がハナから存在しないのだから。

 しかし──

 

「よく言った、東堂君!」

 

 部室のドアが勢い良く開かれる。

 二人して振り返れば、そこには三角巾で右手を吊った男──浮舟出がバット片手に立っていた。

 

「お、お義兄(にい)さん!?」

「う、浮舟先輩!?」

「ははは、一方的に『ビッグな男になれ』とは言ったものの、まさか甲子園を目指し出すとは思わなくてさ」

「止めに来たのか? しかし、俺の決意はそんなことでは──」

「違う違う、むしろ逆」

「逆?」

「応援しに来たんだよ。部員、いないんでしょ? オレ骨折してるから運動は出来ないけど、マネージャーの真似事くらいは出来るから」

「お、お義兄(にい)さん……!」

「先輩、良いの?」

「勿論。一緒に甲子園を目指そう!」

「お義兄(にい)さん……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「そっかァ、言われてみればそんなこともあった気がするわ」

「普段なら安心する先輩の包容力が今だけは(あだ)になってる!」

 

 回想終了。

 たった今、東堂の口から語られた存在しない記憶。

 しかし脳裏に浮かぶビジョンだけはしっかりと三人の間で同じモノが共有されていて、現実に戻ってきた今もグラウンドの土の香りが鼻の奥に残っている気がした。

 虎杖は「目ぇ覚ましてよ!」と隣に立つ先輩の肩を揺すって正気に戻そうとするも、当の浮舟も別に洗脳状態に陥っているわけではないので効果は無し。

 そんな二人から少し離れた位置に特級呪霊──花御。そこから更に離れれば、腕を組んだ東堂が度重なる再会に感涙しながらも気丈に笑んでいる。

 といった具合の位置関係。

 

「そうだろう。時に、義弟にあたる俺のことは気楽に葵もしくは弟君と呼んでくれて構わんぞ」

「オッケー、今まで通り東堂君と呼ばせてもらうぜ」

「フッ、冷たいお義兄(にい)さんだ……」

 

 だが、それでこそ俺が認めたお義兄(にい)さんだ! 

 東堂が目を見開いて叫ぶ。

 その叫びが再戦の合図になったのか、それとも回想という理不尽極まりない強制待機時間に花御が遂に痺れを切らしたのか──定かではない。

 しかし、兎にも角にも。

 東堂の叫びと同じタイミングで花御が動いた。

 右手を勢いよく地面に叩きつけると、密かに地中に張り巡らさせていた木の根が爆散。

 腐葉土や落ち葉を巻き込んで浮舟、虎杖、東堂──それぞれの足元から──そしてこの辺りの一帯から、大小様々な根の鋭い先端が彼等の肉体目掛けて殺到した。

 

「またかよッ!」

 

 浮舟が舌打ちをしながらも、側に生えていた木の枝部分まで跳び上がって根から逃れる。

 

「東堂ッ!」

 

 浮舟とは反対に、虎杖は地面が揺れた瞬間に直感を信じて前方へと駆け出していた。地中から飛び出てくる根の大群に身を捩り、時には左右に避けながら花御の元へと走り続ける。

 

「再会の邪魔をしてくれるな、特級ッ!」

 

 再び始まった戦闘によって涙は止まったものの、未だその両頬はビショビショに濡れている東堂。野暮な特級呪霊にけじめを付けさせるべく、虎杖と同じタイミング、同じ速度で挟み込むように花御へと迫っていた。

 

⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(厄介なことに)……!」

 

 右手を地面に触れさせている花御。

 前後から迫り来る強敵に歯噛みし、未だ枝の上に待機したままこちらに向かってこない浮舟の姿を一瞬視界に捉えてから──呪力で出来た木の根を自らの足元から生み出す。

 直径2メートル程の根は花御の足場となり、二人から逃れるように上へ上へと伸びた。

 

「させるかよッ!」

 

 ここにきて浮舟が、手頃なサイズの木の枝を一本ずつ両手に握り締め、周囲の気を引くように叫ぶ。

 上昇中の花御のみならず、虎杖と東堂の視線も集めたことを確認した浮舟。手に持っていた枝2本を花御に向かって投げた。

 

(いって)……」

 

 投げた際に、負傷した肩から血が噴き出たが無視。

 彗星の如く。

 呪力の軌跡を伸ばし、空気を貫いて進む木の枝2本。東堂は木の枝の軌道を、そして浮舟の行動の真意を理解して一人感嘆の言葉を呟いた。

 

「……成る程、流石はお義兄(にい)さんだ」

「東堂!」

「分かっているさ、虎杖(ブラザー)!」

 

 もう手の届かない高さまで伸びてしまった木の根と花御。虎杖はどちらかの身体を足場にして上へ──そう考えていたようだが、東堂は違った。

 東堂は──そして浮舟は違ったのだった。

 拍手(clap)

 拍手(clap)

 東堂の術式、不義遊戯(ブギウギ)が発動すると、拍手の甲高い残響を森に残したまま虎杖と東堂の姿が消える。

 二人が立っていた場所には、2本の木の枝が転がっていた。

 

「ッ!?」

 

 突如として眼前に現れた二人の姿に、花御の思考が驚愕に支配される。反撃に転じるよりも先に、花御の顔面には二人の靴底がめり込んでいた。直径2メートル程の大きさの根、その端まで転がっていく。

 花御の右手が離されたことにより、上昇し続けていた根の動きが止まる。それに伴い地面付近に舞い上がっていた土埃や枯葉も、やがては消えていった。

 

「逃がさねーよ」

「まだ始まったばかりだろう」

 

 口元を拭いながら立ち上がる花御の前に、虎杖と東堂が立ち塞がる。

 周囲の木々よりも倍程度高い位置まで伸びた根の上にいるにもかかわらず、二人に恐れの感情は無い。拳を今一度握り締め、特級討伐へとまた一歩着実に突き進んでいた。

 

「…………」

 

 直径2メートル。逃げ場のない円形の根の上は、今や獣と人間が同じ檻の中に閉じ込められたように静まり返っている。

 中央に立つ花御。岩を削り出したような白い巨体は、首は太く、肩は盛り上がり、特級に相応しい呪力が身体から滲み出ている。

 二人の肌を、花御の呪力がジリジリと紫外線のように刺す。

 攻撃に備える為か、花御は身体の向きを半身に変える。足運びで足元を震わせ、この根の上──引いては高専の森すべてが支配圏だと無言で主張していた。

 

「引きつける」

「応とも」

 

 虎杖と東堂の短い声が重なる。二人は対角線上に散り、円周に沿って動き出した。

 直径2メートルという、中心に立つ花御の両腕のリーチ内に収まる程度の狭い空間。しかし狭いからこそ、位置、そして数の利が致命的になる。

 先に仕掛けたのは虎杖だった。低く踏み込み、花御の懐へ突っ込む。呪力を帯びた拳が腹部に吸い込まれたが、まるで岩壁を殴ったような感触。真正面からの特攻故、想定はしていた抵抗。しかし想定以上に拳を押し返してくる抵抗(硬さ)に歯を食いしばる。

 間も無く、反撃。

 花御の太い腕が横薙ぎに振るわれ、空気が唸る。だが、腕の軌道にはもう誰もいない。虎杖の立っていた場所には、またしても木の枝が。

 入れ替え(crap)

 剛腕が捉えた木の枝が虚しく折れる。霧散していく呪力は、先程投擲した浮舟の物だった。

 

⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(即席の呪具にしたというのか)……!」

 

 ガラ空きの背後に東堂が滑り込む。根の円周の(ふち)ギリギリを蹴り、距離を殺して跳ぶ。鉛のように硬い膝が巨体の後頭部を打ち、鈍い衝撃音が響いた。

 

「そして! お義兄(にい)さんの鬼謀はこれだけに留まらんッ!」

 

 入れ替え(crap)

 折れた木の枝が呪具としての役目が終了する直前に、またしても虎杖に変わった。

 入れ替わる前に地上で予め低くしゃがんでいた虎杖。

 その手には地上で浮舟から渡されたのか、複数本の木の枝(呪具)

 花御が警戒し両腕を前に構えるが、虎杖は手にしていた木の枝(呪具)等を花御の足元にばら撒いた。

 刺してこないのか──花御の予測にノイズが混じったところで、虎杖はしゃがんだ姿勢から右足をバネのように勢い良く跳ね伸ばす。ほぼ180度開脚された状態で、花御の顎を下から蹴り抜いた。

 

⬛︎(ガハ)ッ……!」

 

 入れ替え(crap)

 入れ替え(crap)

 虎杖と東堂は決して同じ場所に留まらない。攻めたら変わる。変わる瞬間、もう一方が踏み込む。虎杖がばら撒いた木の枝(呪具)も入れ替えのパターンに組み込み、花御の巨体が振り向くたび、標的はすでに別の位置へ移っていく。

 花御が苛立ち、入れ替えによって目の前に出現した木の枝(呪具)を掴む。攻撃を一時停止した虎杖と東堂を尻目に、祈るように両手で丹念にへし折り、屋根よりも高い根の上から空に撒いた。足元に転がる残りの木の枝(呪具)等も、同様に根から落としていく。

 

⬛︎(これで)⬛︎⬛︎(やり易くなった)

 

 花御が地面を踏み割るように前進する。

 その間も虎杖と東堂は入れ替えを駆使しながらダメージを与えるが、花御が二人に対して取った選択は、反撃ではなく防御。冷静に思考を切り替え、どちらか一人を確実に仕留めるべく腕を伸ばす。

 二人が入れ替わった際の体格差による差異等関係無い。入れ替えるなら入れ替えてみろ、と花御は端まで追い詰められた東堂に向けて手を伸ばす──

 ズシン。

 根が、揺れた。

 

「……なんだ? 

 

 ズシン。

 気のせいではない。確かに揺れている。

 

「……まさか」

 

 ズシンッ。

 大きく、断続的に揺れている。

 

⬛︎(浮舟出)……!」

 

 一歩でも下がれば遥か下まで真っ逆さま。そんな状態の東堂が地上に視線を落とす。そこには、直径2メートルの根の根元に両手をめり込ませた浮舟がいた。

 

虎杖(ブラザー)!」

「どうした!」

「高所からの落下訓練は受けているか?」

「は? それどういう──」

 

 先程までの一つのインパクトからなる断続的な()()ではなく、地殻変動によって引き起こされるような継続的な()()。東堂に(なら)って地上を確認しようとした虎杖が、根の端まで辿り着くよりも先に──根が傾いた。

 

「ちょ、うおぉッ!?」

「気張れよ虎杖(ブラザー)

 

 重力が斜め下方向へと働き、靴裏の摩擦が負け、ズルズルと滑り始める。虎杖も花御も、転倒──そして落下しないようになんとか耐えている状況。

 

「東堂お前ッ、腕組みながら格好付けてるけど大丈夫なの!?」

「案ずるな。俺は特級を押さえつける」

 

 腕を組み、重力に従って根の端から端まで滑っていた東堂。言葉と共に特級に掴み掛かり、喉輪攻めの要領で共に根から落ちていった。

 段々と小さくなる東堂と呪霊の姿を見て、虎杖の背筋が俄かに冷え始める。

 

「あぁヤバい! 受け身でなんとかなる高さか? コレ!」

 

 立っていられない程の傾き。およそ45度。

 端に掴まり、ふと下を覗く。

 がっぷり。

 浮舟が力士の如く根にしがみ付き、横へと倒そうとしているところだった。

 

「無茶苦茶してんじゃん先輩!」

 

 虎杖が嘆く。

 そうこうしている内に、遥か下から衝撃音。花御が地面に叩き付けられたからか、霧のように根が霧散。虎杖は頭が下か足が下か──一体どちらが受け身に対して適しているのか──物凄い勢いで迫ってくる地面に対して頭を働かせながら──落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ∪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 孤独。

 疎外感。

 地面に埋まっていくドリルを丁度上下の向きを逆さにして作動させているような速度で天へ天へと伸びていくぶっとい根。

 遥か上空で戦う虎杖君と東堂君、そして呪霊。

 一人地上に取り残されたオレ(あと二人と入れ替わりで帰ってきた木の枝2本)の心に浮かんだ感情は、その二つだった。まぁ他にも飲酒から来る全能感やら飲酒から来る吐き気やら色々あるのだが、大雑把に言えばその二つだった。

 仲間に入りたい。

 しかしこの高さをよじ登る訳にもいかず、手慰みにそこらの木の枝を折りまくって片っ端から呪力を流し込んでいると、虎杖君がパッと現れる。

 

「先輩なにしてんの?」

「良いところに。コレあげる」

 

 質問に答えないオレの態度に未だ両眉を八の字に傾けたままの虎杖君。その両手に木の枝等をガラガラと手渡す。

 あ、消えた。

 上を見上げても、垂直に伸びる根の上で何が行われているのかは視認出来ない。ただただ陽の光に目を焼かれ、首が痛むばかり。

 

「つまんねェな、酔い醒めるって」

 

 ぼやくも誰も答えない。

 

「──痛ッ、なんなんだよクソが……」

 

 それどころか上からパラパラと木屑が落ちてきて目に入る始末。右肩には大穴が空いてやがるし、気分は最悪だ。

 

「…………なんかムカついてきちゃったなァ」

 

 仲間外れ。

 こちとら飲酒によってテンションが馬鹿みたいに高くなっているというのに、興が乗ることも気分が上がることもない。ただ内なる破壊衝動(フラストレーション)が溜まるばかりで、それどころか発散出来る相手もいない。

 

「…………オレも仲間に入れてほしいよなァ」

 

 不満の言葉を呟き終える頃には、オレの両手は木の根にズブズブと沈み込んでいた。

 特級呪霊お手製の根は間違ってもマシュマロみてぇな材質で出来てはおらず、寧ろ例えを挙げるならば金属類にあたる硬さ。

 しかし飲酒(呪力)で強化されたオレのフィジカルでは伸ばした両手が折れ曲がることはなく、力のままに根の繊維を押し潰し、奥へ奥へと強引に掻き分けていく。

 

「虎杖君も東堂君も強いし、()()()()()大丈夫っしょ。そんでもって特級呪霊が着地ミスってダメージ負ってくれりゃあ万々歳ってことで──ふんッ!」

 

 太い根を抱き締めるように上体をぶつけ。

 両足を強く踏み締め。

 腹斜筋と背筋に特に力を入れたまま。

 自らの身体ごと横に倒す。

 この根が大きなかぶみたいに綺麗に抜けなくても、ぐにゃりと曲がっても捩じ切れてもどうなってもいい。

 ただオレのことを忘れて頭上で三人仲良く楽しんでる空気がぶち壊れれば良いなの一心で、歯を食い縛る。ギチギチと異音を奏でる根に寄り添い、その音をより大きく鳴らすことに専念する。

 やがて。

 すぐ近くで衝撃、それから土埃。した方へと顔を向ければ、地面に頭を減り込ませた特級呪霊と、そんな特級呪霊の喉元を掴んで地面に押し付けている東堂君の姿が。

 次の瞬間には根は消えて身体が軽くなっていた。

 

「うん?」

 

 すぐさま特級呪霊から距離を取った東堂君と、頭を振りながら立ち上がった特級呪霊。いつ殴りかかってやろうかな等と考えている中、ふと、頭上に(かげ)り。本能的に両腕を前に差し出せば、次の瞬間には虎杖君の身体が両腕にすっぽりと収まっていた。

 お姫様抱っこの体勢で、目を丸くした虎杖君と目が合う。ウインクしちゃお。あ、抱き付かれた。

 

「先輩ッ……!」

「おぉ、よしよし怖かったね。虎杖君と東堂君(二人)なら大丈夫かなと思ってさ」

「そりゃ、死にはしないだろうけどさ! だからって何しても良いわけじゃないかんね!」

「ごめんね、今度着地教えてあげるよ。丁度順平君に教えることになってたんだ」

「今くらいの高さから落ちても大丈夫なヤツ……?」

「あぁ。大丈夫な上に飛び切り格好良い、スーパーヒーロー着地をね。デメリットは膝が痛むことくらいだけど、まぁ呪力で護ればど〜とでもなるし」

 

 涙目の虎杖君を慰めつつ、笑い合う。視界外の方向から手を叩く音が聞こえたかと思えば、オレの両腕に収まっている人間が東堂君に変わっていた。

 

「うわっ、びっくりした」

虎杖(ブラザー)より身体の大きい俺のことすらも軽々抱きかかえ、そして何より直径2メートル程の大きな根をへし折る程の剛腕。やはり興味深い。酒を飲むだけで果たしてそこまでの膂力が手に入るものなのか? 何かしらの縛りを結んでいると考えるのが妥当だが……初対面の時に酔っていなかったこととなにか関係があるのか? 仮に、飲酒をすることによってそれなりの代償を支払っているのだとしたら、四六時中酔っているわけではないことにも説明が」

「オレの腕の中で頭働かせないでくれよな、東堂君」

 

 腰と膝を曲げて東堂君の身体を地面に近付けるが、東堂君はオレの両腕の中から抜け出すことは決してなく。

 なんでコイツ特級の前でこんなに隙だらけなんだよ、と自分自身にも当てはまってしまいそうな悪態を心の中でついてから、やんわり「降りろ」と伝えてみる。

 声さえ掛ければ、東堂君は「すまない」と短い謝罪の言葉を述べてから自分の足で立ってくれるのだった。……コイツの鋭さ危ないな。

 もう少し考えさせていたらオレの天与呪縛(術式)のことバレていたかもしれない。

 要注意だ。

 

「ねぇ、オレも戦いたいんだけど」

「あぁ、丁度俺と虎杖(ブラザー)もお義兄(にい)さんの戦い振りを見たいと思っていたところだ」

 

 無言で東堂君の目を見れば、「邪魔はしないさ」と微笑まれる。

 

⬛︎(浮舟出)⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(こんなにも自然を破壊して)⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(山の神に申し訳ないと思わないのですか)……!?」

「ハァ〜〜〜〜〜〜? 何言ってンだよ枝公」

 

 懐から酒瓶を取り出して、また一口。

 一層滲み出る呪力に東堂君が両手を上げて後退り、虎杖君も東堂君の隣に合流。

 オレは特級呪霊を前に、今までの破壊衝動(フラストレーション)が両拳に(みなぎ)っているのをヒシヒシと感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





存在しない記憶の部分に手こずり、気が付けば14000文字まで膨らんでいってました!
あとがき、あとで書きます!
ではまた!

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