アル中とさしす組   作:大塚ガキ男

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バカ短ぇっす!




日常。昼

 

 

 

 

「そして、(かおる)匂宮(におうのみや)の板挟みに悩んだ──」

 

 静けさ。

 開け放した窓の外から流れ込む微風に前髪をくすぐられながら、俺といずるは授業を受けていた。

 それぞれ机一つ分のスペースを空けて、窓際から硝子、いずる、俺、傑という席順。使い古されてはいるが、それ故にアンティークな面持ちで佇む黒板に、滑らかにチョークを走らせている夜蛾先生。

 退屈な授業。俺は頬杖をついて、左隣のいずるに視線を向けてみた。

 

「…………」

 

 いずるは黙々とノートに黒板の内容を写している。つい先日くっ付いたばかりの左腕の義手が窓の外の太陽光を反射し、俺のサングラスに命中した。

 

「……いずる」

 

 授業中の退屈に耐えかねて、その名を呟いてみた。

 

「……なんだよ」

 

 いずるはノートに記す手を止めずに(古文の授業なのでノートを縦にしている)返答の言葉だけをこちらに寄越してきた。

 リアクションがあったことに、俺はなんだか無性に嬉しくなってしまう。

 

「……いずる」

「……だからなんだよ」

「……呼んでみただけ」

「……カップルかよ、オレ等」

 

 本当に()()してやろうか。

 小声でのツッコミに心の中で脅し文句をつけてみる。何食わぬ顔で出の横顔を見つめてみるが、俺の頭の中はいずるへのラブコールでいっぱいだった。

 

「……なにしてんの」

「……授業受けてる。夏油と硝子ちゃんの為にいつもよりちゃんとノート取ってんの」

 

 いずるの言葉を受けて、身体を反対に──右隣へと向けてみる。

 空席だった。

 そう。

 今教室で授業を受けている人間は、俺といずるしかいなかった。

 傑は山梨の方まで任務に出ていて、硝子は高専に運び込まれた急患の対応中。

 授業に出ることの出来ない二人に頼まれて(いや、いずるのことだから善意で自主的に(おこな)っているという可能性もある)黒板の内容をノートに書き込んでいるらしい。

 

「……ふーん」

 

 溜め息。

 退屈だ。授業中でなければ、存分にいずるとイチャついていられたのに。

 夜蛾先生の拳の大きさは俺の頭頂部がくっきりと覚えているので、授業中に泰然といずるに席を寄せるなんて真似(マネ)は出来ない。

 教科書を開き、夜蛾先生のお言葉を話半分に聞いておくことしか出来ない。

 

「お前も受けろよ、()()()()

 

 いずるがノートを一枚捲り、真っ白なページの右上からまた書き込み始めた。

 

「…………」

 

 いずるは元々右利きで、義手になったことで強制的に左利き生活となった。十何年と慣れ親しんだ利き手を捨てての(変な意味に取るなよ)その生活は未だ慣れることはなく、遠目で覗き込んだノートの文字はお世辞にも読めた物ではない。

 

「……俺は良いんだよ。枕草子なんて、ガキの頃家で読んだことあるし」

「今も十分ガキだろ」

「あ?」

 

 聞き捨てならない発言に、いずるが左手で持っていたシャーペンを〝蒼〟で奪い取る。

 返せよ。

 ようやくこちらを向いたいずるに、俺はニヤけを抑えられなかった。

 

「返してほしい?」

「うん」

 

 即答。

 しかしいずるの答えは机の端に置いていた酒瓶を口に含みながらの適当なモノ。

 あまり返してほしくはなさそうだ。

 

「どーしよっかなぁ」

「先生ェ! 五条がイジワルしてきまーす!」

「あ、バカ──」

 

 

 

 

 げ   ん

 

 

 こ   つ

 

 

 

 

「いずるの所為で酷い目にあった……」

「ペン返してくれないから」

「ちょっと板書写せないくらい良いじゃん」

「オレは良くても、後でノート見る二人が困っちゃうだろ?」

「……ごめん」

「謝れて偉い」

「へへっ」

 

 いずるが「エア撫で撫で」と言いながらこちらに向けて頭を撫でるジェスチャーを見せる。

 惜しむらくは机同士の距離が空いてしまっているので、あくまで()()でしかないということ。

 しかし俺は挫けることなく、いずるに頭を撫でてもらえていると想像を働かせながら手の動きに合わせて頭を揺らすのだった。

 第三者から見れば、その様子は十分ガキだった。

 

「…………」

 

 そして、授業は続く。

 夜蛾先生はこちらに確認を取ってから黒板の文字を消し、また話の続きを白いチョークと桃色のチョークを交えて書き記していく。

 枕草子を語る上で重要となるワンポイントは夜蛾先生オリジナルのミニキャラが吹き出しから逐一教えてくれていて、授業が始まって今の今までに述べ9体のミニキャラが書き下ろされているが、流石というかそのどれも被りは無しだった。

 

「…………」

 

 暇だ。

 腹も減った。

 この授業が終われば昼休みか。

 なんて右手で頬杖を付きながら考えてみる。退屈凌ぎと目の保養ついでにいずるの方を向けば、いずるはせっせと──

 

「……寝てんじゃねぇか」

 

 酒が回ったのか、それとも暖かな日差しに負けたのか。いずるは机に突っ伏して、静かに眠ってしまっていた。

 

「……可愛い寝顔」

 

 思わずサングラスをズラして見入ってしまう。

 

「…………」

 

 左手を翳す。

 

「…………」

 

 〝蒼〟。

 居眠りをしているいずるが──机と椅子ごと、ゆっくりとこちらに引き寄せられる。

 

「…………」

 

 床との摩擦音で夜蛾先生に気付かれぬよう、床から机と椅子の脚を少し浮かせるという超高等技術で脳味噌にそれなりの負荷をかける。

 

「…………」

 

 やがて、真隣。

 机はくっ付き、肩が触れ合う距離。隣並んで授業を受ける。

 こんな機会(そして同期達から邪魔されない機会)滅多に無いというのに、当のいずるは幸せそうな顔で眠り続けている。

 

「……フッ」

 

 左手の人差し指で、いずるの頬をつつく。いずるはその刺激に目を瞑りながらも眉を顰め、口元をモゴモゴさせていたが、目は覚まさず。

 また幸せそうな顔で眠りを堪能し直している。

 

「……頭撫でろよー」

 

 静けさ。

 風の音。

 教室。

 二人の空間。

 二人だけの空間。

 夜蛾先生に気付かれるその時まで、俺は授業そっちのけでいずるの寝顔を見下ろし続けるのだった。

 

 

 

 





なんかこういうのも今の内に書いておかないとなと思って書きました。
あと2人分あります。
ではまた。
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