アル中とさしす組   作:大塚ガキ男

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こんばんは!本当にごめんなさい!


浮舟。

 

 

 

 

 むかしむかし。

 せんねんいじょうもむかしのはなし。

 みののくに、やまのちゅうふくあたりのむら。

 しんでんづくりとよばれるおやしきのいりぐち、せいもんにて。

 おおあわてのようそうでほうこくをいれてきたしようにんのことばに、おとこはすくなといたていえんからゆったりとしたあしどりでせいもん──にしのよつあしもんへとむかいました。

 しようにんにもんをひらかせれば、そこにはすこしまえまでかおなじみだったみやこのやくにんや、じゅじゅつかいをになうめんめんが、みちいっぱいににならんでいました。

 

「ひぇ〜。御三家の皆さんに、暗殺部隊に征伐部隊。奥の方には天元様まで。驚きました、これはまァ〜皆さんお揃いで」

 

 おとこはじしんのしょうめんにたつじんぶつ──だいじんをむしし、とおみのしぐさでかおみしりをさがします。

 

「惚けるな浮舟。お前のことだ、()えていたのであろう」

 

 だいじんににらまれ、おとこはきのぬけたかおでわらいました。てきいのなさをあらわすためのおこないが、かえってほうもんしゃたちにはあやしくうつっているのでした。

 

「ははは、嫌ですね。前にも説明しましたけど、オレの未来視は()()()()()()()()()えないんですからね」

「……そうだったな」

「大人数で、都から遥々山登りですか。して、何の御用で?」

 

 このむらは、むらびとぜんいんがおとこのしたについているという、しょうしょうとくしゅなむら。そのとくしゅさゆえにみやこからだいぶはなれたやまのいっかくにそんざいしており、このむらにたどりつくまでのおうとつのおおいやまみちでは、ぎっしゃでのいどうはこんなん。

 

「……まさか、全員徒歩で来たんですか?」

 

 こんなくぎょう、いったいだれがいいだしたのかとおとこがあわれみをこめためでひとびとをみわたしたところで、だいじんがきりだしました。

 

「ここでは何だ、中で話そう」

「それは屋敷の主であるオレのセリフなんですけど……まァ分かりました。皆様お酒は?」

「要らぬわ。どうせ貴様、あの生臭坊主からくすねた質の悪い酒を飲んでいるのだろう」

「そりゃあ、オレの大好物であるレモンサワーとかに比べたら質は悪いですけど。アレはアレで結構気に入ってるんですよ?」

「また訳の分からぬことを……」

 

 しようにんにひとこえかけ、おとこはおおにんずうをもんのうちへとまねきいれます。

 しかし、おとこのはからいをことわるようにだいじんがおおにんずうをまえにむきなおりました。

 

「これより入るのは、天元様と麻呂と御三家当主のみ。日月星進隊(じつげつせいしんたい)五虚将(ごくうしょう)は隊長のみ入れ。後の者は屋敷の周囲で待機せい」

「「御意」」

 

 だいじんのことばに、ぶかたちがしゅういにちります。ふおんなけはいをさっちしたむらびとたちがおびえたひょうじょうでとおくからみまもりますが、おとこは「大丈夫だよ」とあんしんさせるようにみぎてをふってなだめるのでした。

 

「準備も何もしてないので、この人数じゃ母屋は無理です。庭園でもよろしいですか?」

「構わん。むしろその方が都合が()い」

 

 じゃりをふみしめ、あるくはけいはちにん。やしきのあるじであるおとこをせんとうに、ひろくひらけたていえんへとむかいます。

 

「時に浮舟。お前、左腕はどうした」

「あぁこれ。オレってば紙装甲なんで呪霊にやられちゃいました」

「フン、自分の未来は視えないというのはどうやら本当のことらしいな」

「今信じたんですか? 酷いなァ」

 

 そのどうちゅうでのかいわ。

 おとことだいじんのあいだに、ひとりのおんな──てんげんさまがはいってきました。

 だいじんがおとことのあいだにたてとなってはだかります。

 

「天元様、不用意に近付いてはなりませぬ」

「そんな人を危険物みたいに言わないでくださいよ。ねェ天元様」

「うん、大丈夫。浮舟は性格こそ悪いけど良い奴だから。それに、結界はもう張ってある」

「……左様ですか」

 

 けしてひとまえにでるふくそうではない、まっしろな()()()()()()というよそおいでであるくてんげんさま。

 ひとえとは、じゅうにひとえのいちばんうちがわにきる、いわばしたぎのようなもの。うすくすけていて、なつばはへやぎとしてもこのまれるこのふくを、てんげんさまはどういうわけかしつないがいをとわずへいきなかおをしてであるいてしまいます。

 しかし、いぜんおとこに「おっぱい丸見えじゃないですか」とこばかにされていこう、すけないきじにかえたのだとか。

 すうひゃくねんをいきるてんげんさまに、ここにきてはじらいがうまれたのか。

 それともおとこのぶれいなたいどにただただむかついたのか。

 さておき。

 はなしているうちに、ていえんにたどりついたいっこう。ひろいていえんのすこしさきにはしきちをかこうようにへいがたてられていて、そのむこうにはきぎしかみえません。

 いけのうえにかかるはしのらんかんなどにすきなようにちらばったごさんけのめんめん。

 だいじんがさっそくほんだいにはいろうとしたところで、てんげんさまが「少し休む」といっぽうてきにきゅうけいをせんげんしました。

 ほかならぬてんげんさまがやすむのであれば、それにならうほかなく。みなすきなように、しばしのあいだきゅうそくをとるのでした。

 

「……一入(ひとしお)

 

 ひとしお。

 おとこのしたのなまえです。

 おとことてんげんさまはそれなりにしたしく、おおやけのばでなければ、てんげんさまはおとこのことをしたのなまえでよんでいました。

 つまりは、こごえでのやりとり。

 

「どうしたんですか、天元様」

「薄々感じているとは思うが、私達がここに来たのは君と交流を深めに来たからじゃない」

「そりゃまァ、数ヶ月前に退職届? 絶縁状? を一方的に叩き付けてから会ってなかったワケですし。……もしかして、皆さんブチギレですか?」

 

 おとこのけねんをおびたしつもんに、てんげんさまはまっしろなながいかみをいちどかきあげただけで、めいかくなかいとうはさけました。

 

「君がいなくなってから、都は散々だよ。疫病に飢饉、呪霊も昼間から往来している」

「そんな、前以って数ヶ月先までの未来を教えておいたじゃないですか」

「……この際言わせてもらうけど、君の暦の数え方変だよ。そのまま告げられた官吏が気の毒だ」

「……すんません。まだ太陰太陽暦(旧暦)なんでしたっけ?」

「それに、未来を教えられても対処が出来なくちゃ仕方がない。一入だって大事な戦力だったんだけどね」

 

 うでをくみ、どこかおこったようなたいどでかたるてんげんさま。すうひゃくねんをいきるてんげんさまはかんじょうのきふくにとぼしく、いつもへいきなかおで──もしくはつまらなそうなかおですごしています。

 しかし、このおとこ。かたることおこなうこと、すべてがへん。てんげんさまのかんじょうも、おとこのまえではあらわれやすいのでした。

 

「……あのですね、オレの未来視は──」

「そろそろ、始めるとしよう」

 

 てんげんさまのことばに、なにかいいかえそうとしたおとこ。しかしだいじんがてをたたいてしゅうもくをあつめてしまったので、くちをつぐむしかありませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「あれ〜、浮舟じゃない。何してんのよこんなところで」

「……オレの家なんで、そりゃあいますよ」

「クックック」

 

 とあるひ、うきふねてい。

 にわにでておはなみをしていたおとことすくな、それからうらうめ。

 そのばにとつじょとしてあらわれたほぼぜんら(おびがなく、まえがひらききったきものをいちまいだけはおっている)のおんなに、いちどうはそれほどおどろかずになれたようすでたいおうするのでした。

 おんな。

 なを、よろず。

 にいなめさいにまねかれたすくなのまえによろずがあらわれてから。

 そして、すくなめあてにところかまわずおしかけるようになってから。

 みな、きちのなかとなっていました。

 

下臈(げろう)め、また来たのか」

「アンタに用は無いの。黙ってコトコト人肉煮込んでなさい」

「──宿儺様……! この女を殺す許可をッ!」

「よせ、俺は今機嫌が良い。ついでにコイツにも飯を出してやれ」

「承知、致しました…………………………………………」

「沈黙長いわね」

 

 すくなのいうことにはすべてしたがううらうめ。はらのなかにばくだいなさついをのこしつつも、めをふせ、あたまをさげてちょうりばにもどっていきました。

 

「あなた、なんで浮舟の屋敷にばかりいるの? 私のところにも来て頂戴よ」

「たわけめ、行くわけがないだろう」

「なんでよ」

「つまらん上に、つまらん邪魔が入る」

 

 らんかんから、まいちるはなびらにしせんをなげ、めでおいかけ、にわいしにおとしてから。

 すくなはおだやかなひょうじょうでつづけます。

 

「ここは良い。静かだ」

「も〜〜〜〜うっ! だったらここの村人の首いくつか派ねて蹴鞠でもしましょう! つまらないつまらないっ!」

「うちの村人に悪さしないでくださいね」

「うるさい浮舟! アンタ冴えない顔してるから嫌いよ!」

「とほほ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「浮舟よ、都に戻ってこい」

 

 ばをととのわせ。

 だいじん、てんげんさま、ごじょうけ、ぜんいんけ、かもけ、じつげつせいしんたいのたいちょう、ごくうしょうのたいちょう。

 みんなでおおきくひろがり、そのちゅうしんにおとこをせいざさせてかこんでいます。

 おとこは「またその話か」とうんざりしたようすでへらへらとわらいました。

 

「勘弁してください、オレはしがない貴族でしかないんです。御三家でもないのに毎回会合に出席だなんて、窮屈過ぎて首が締まってしまいます」

「都にはお前の未来視が必要だ」

 

 おとこのめをみて、おえらいがたははつげんします。

 しかしおとこは、そのことばこそにうんざりそているようで、いやみったらしくかえしました。

 

「必要なのは、都ではなくあなた方(呪術界)でしょう」

「……どういう意味だ」

「オレがどれだけ呪霊の発生を先読みしても、疫病の原因を突き止めても──非術師の民達はいつも後回しだ」

 

 おもいだすは、せまいへやでのかいごうでのこと。

 おとこがみたみらいはまずじゅじゅつかいのちゅうしんにてきょうゆうされ、じわじわとそとがわへとじょうほうがひろがっていきました。

 つまり、まもるべきみやこのたみたちのことをどれだけおもっていても、はしまで──ひじゅつしにいきわたるまでにはおそすぎるのがげんじつでした。

 たべものも。

 のみものも。

 くすりも。

 いつもいつも、じゅじゅつしがゆうせんされていました。

 

「オレは呪術界を救いたいんじゃない。この()を救いたいんだ」

「しかしだな、浮舟よ。まず我々が助からんことには、誰がこの国を護ると」

 

 かといって、おとこひとりではなにもなせず。

 おとこはむりょくでした。

 むりょくなうえ、さきだけはみえてしまっていました。

 

「アンタ等が生きていても、民達がいなければ()は成り立たない! 違うか!?」

()()、落ち着きなさい」

「……天元様」

「お前の気持ちも良く分かるさ。私も、かつて同じような悩みを抱いたことがある」

「…………」

「だから、今日はこうしてお願いしに来たんだ」

 

 とにかく、まずはおちついて。

 ながいときをいきるてんげんさま。ひとをなだめることにもたけているようで、きぞくらしくもなくついこえをあらげてしまったおとこのこころを、やわらかなひょうじょうでたやすくいさめてしまいました。

 おとこはおおきくいきをはき、あたまをふっておちつきをとりもどし。

 

「──お願いなどする必要は無い。最初から()()すれば良かったのだ」

 

 おえらいがたが、ひたいにあおすじをうかべたままおとこをにらみつけ──じつげつせいしんたい、ごくうしょう、それぞれのたいちょうにあいずをおくりました。

 

「お前達、()()

「「御意」」

 

 りょうたいちょうがすばやくうごき、おとこをしばりあげてじめんにおしつけます。ほほにじゃりがささりながら、おとこはよゆうそうにわらいました。

 

「なにするんですか、痛い」

「どうやら、宿儺と(つる)んで頭がおかしくなったようだな」

「……はぁ?」

「──浮舟一入(うきふねのひとしお)。これより貴様を呪術界に対する明確な脅威と見做す」

「……(いち)大臣のアンタが勝手に決めちゃダメだろ」

「帝も、宿儺の悪逆にはほとほと困り果てていらっしゃった。よって報告など事後で構わぬわ」

 

 だいじんはひとこきゅうおきまして。

 

「呪術界への協力を拒む以上、我々はお前を尋問しなければならぬ」

「と、いうと」

「お仲間──両面宿儺に関することを洗いざらい吐くか、我々への協力を誓うか」

 

 こちらをみおろすだいじんのひとみに、おとこはひゅう、とくちぶえをならしました。

 てんげんさまが、すかさずあいだをとりもちます。とおまわしにおとこをたすけようと、いまのだいじんのはつげんのぜひをやりだまにあげようとしました。

 

「良いのか、大臣。場合によってはお前も処罰を」

「今ここで浮舟(未来視)を取り逃がす方が問題なのです! 天元様、どうかご理解いただきたい!」

 

 つばがとぶほどのいきおいでりきせつするだいじん。てんげんさまもそのはくりょくにひいてしまったのか、おとこのほうへとかけよっていきました。

 

「……一入。まずいことになったぞ」

「みたいですね」

「フリでも良い。取り敢えず、協力すると発言するんだ」

 

 いいか。

 おとこのせなかにてをおき、いいきかせるてんげんさま。

 しかしおとこのけついはかたく、かたくなでありました。

 

()ですよ」

「何故だ。このままじゃ君はッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「お〜い、ケンちゃんや〜い!」

「気安く話しかけないでくれないか、不愉快だ」

「そう言うなってェ。……あ、今度またお酒もらえる?」

「またかい? ちょっと君、頻度が異常だよ。いくら私が都から造酒を許されている寺院の坊主だからって、酒はなにも湯水の如く湧いてくるわけじゃないんだよ。()酒、造っているんだ。手間暇かけてね」

「説明口調サンキューな。……今日は、ちょっとお願いがあってさ」

「お願い事が多いね」

「都の役人の中にさ、雷使う術師がいるって知ってる?」

「勿論知っているとも。……ただ、見てみたら話に聞くほど魅力的じゃあなかったけどね」

「というと?」

(いかづち)一つ振るうにも、一々祈りを捧げなくちゃいけないらしい。その場で平伏して、しかも二刻」

「二刻っつーと、1時間くらいか」

「よく分からないけど、理解してくれたなら良い」

「じゃあさ、ケンちゃん。ソイツの身体乗っ取ってよ」

「…………はぁ?」

「お願い! ()()()()()()()()()教えてあげるから!」

()()()()()()()()()……、ね。気にはなるけど、まずは理由を聞かせてくれないか。今の身体にだって、それなりの愛着が出てきたところなんだ」

「またまたァ。『この寺の書物を好き勝手読み漁るにはこの身体しか無かったんだよ。ハァ、なんでこんな不細工を……』ってこの前嘆いてたじゃん」

「うるさい。そんなに必要なら私じゃなく本人に頼めば良いじゃないか」

「いやー、普通の神経を持つ人なら絶対やってくれないようなことでして……」

「? どういう意味かな」

「いやいや、なんでも! 理由だっけ? 教える教える──実はさ」

「なんだい」

「とある山の奥にある社に、雷落としてほしくてさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ぐ、ぐああああああああああッ!」

「強情な男よ! ()()()()の一言が何故言えぬ!」

 

 のどのおくにからまるけつえきによって、おとこのさけびごえはしめりけをおびていました。

 だいじんにつきしたがうじつげつせいしんたいとごくうしょうのりょうたいちょうのてによって、おとこのからだにはたしゅたようなごうもんがほどこされていました。

 おとこがいためつけられていくようすを、だいじんはおんどのかんじさせないひとみでただただみおろしていました。

 ぼうでうたれ。

 みずでせめられ。

 がんめんをなぐられ。

 てきとうなはをぬかれ。

 つめをはがされ。

 ゆびをおられ。

 おとこはくもんのこえをあげていたみにもだえますが、けしてだいじんのおもうとおりにははつげんしませんでした。

 それどころか。

 

「あー、なんだか証言したくなってきたなァ。そういえば宿儺様って、見かけによらず意外と話聞いてくれるタイプだったなァ。大臣様と違って」

「おのれッ! 浮舟ェ!」

 

 おとこのちょうはつに、みているだけだっただいじんがかせいします。おとこにつかみかかり、こぶしをにぎっておとこのほほになんどもふりおろします。

 

「もうやめろ! 大臣、やり過ぎだ!」

 

 おのれのたちばと、おとことのかんけい。いたばさみになやむてんげんさまが、きをみはからってとめにはいります。

 しかしだいじんはそのてをちからづくでふりはらい、てんげんさまはそのばにしりもちをついてしまうのでした。

 

「両面宿儺がいる限り、都の呪霊は強くなるばかり! こうするしか──力づく(こうする)しかないのですッ!」

 

 なぐりなれていないのでしょう。

 おとこをなぐるさいに、おとこのはにあててしまっただいじんのこぶしはひふがはがれてあかくそまり、そのいたみにたえかねておうだをちゅうだんしました。

 

「大臣様ァ……、オレこのままじゃ死んじゃいますよ……」

 

 うそではないのでしょう。

 かたるおとこのくちのはしからはだらだらとちがながれつづけており、もうめもひらかないほどいたみにうちひしがれていました。

 

「……、そうか」

「そうだ大臣。こうも痛めつけては頷けるものも頷けないだろう。そうだよな、浮舟」

 

 いきをととのえるだいじん。

 おとことのあいだにはいるてんげんさま。

 おとこをおさえつけているりょうたいちょう。

 せいかんをつらぬくごさんけのとうしゅ。

 しずかなていえんのおがわには、おとこからながれたちがまじっていました。

 

「……では、()()()()()()()()()

「なに?」

「どうしたのですか天元様。他者反転なんて、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 だいじんのきずついたこぶしがひらかれ、しろくあたたかいひかりにつつまれました。

 

「反転術式でお前を治し、また拷問を再開する。お前が首を縦に振るまで、それを何度も何度でも繰り返す」

 

 すくなうんぬんのはなしはだいじんにとってはこじつけにひとしいのか、しゅだいはやはりおとこがみやこにきょうりょくするかどうかのいってん。

 なさけようしゃのないことばに、おとこのくちからかわいたわらいがこぼれました。

 

「はは……」

 

 しろくあたたかいひかりにつつまれただいじんのてが、おとこにのびます。

 かおのはれをひかせ、きずぐちをふさぎ、ぬけたはを──はがれたつめをくっつけるべく、おとこへとのびていきます。

 しかし。

 

「…………何故、効かぬ」

 

 だいじんのてがふるえました。

 

「何故、麻呂の反転術式が効かぬのだ!」

 

 りょうたいちょうによってくみふせられ、ほほをじめんにおしつけられたおとこ。

 くちのはしが、ぶきみにつりあがりました。

 

「へへっ……」

「答えろッ!」

 

 だいじんがどなっても、おとこはちからなげにわらうのみ。

 ふと、おとこをくみふせていたりょうたいちょうのうちひとり。ごくうしょうのたいちょうがあわてたようすでしんげんします。

 

「大臣、このままでは死んでしまいます!」

「どうしろと言うのだ!」

 

 はんてんじゅつしきがきかないおとこ。

 いぜん、まだおとこがみやこに──じゅじゅつかいにつかえていたころ。

 おとこいわく、かみそうこう──すぐにけがをしてしまうおとこが、たしゃからはんてんじゅつしきをこうしされているところをみたおぼえがありました。

 それでなくても、はんてんじゅつしきがきかないにんげんなどきいたことがない。

 やがて、だいじんのあたまにおそろしいかせつがうかびあがりました。

 

「……まさか、縛りを!? 何故そんな、不利益しかない縛りを──いや、重要なのはそこではない! わざわざ反転術式が効かなくなるような縛りを設けたということは、()()()()()()()()()()()()()()()()ッ! 浮舟貴様、自分自身の未来も()えていたのかッ!」

「当たり前じゃないですか……、ピュアだなぁ大臣様ったら……」

 

 だいじんが、おとこのむなぐらをつかみあげます。

 たいせいがかわったことによりりょうたいちょうのてがはなれ、それによっておとこのからだがだらりとだいじんのうでのちからだけでつられているようなじょうたいになりました。

 おとこにはもう、じりきでたつちからものこされていませんでした。

 

「何故こんなことをする! この未来が()えていたのなら、もっと手前で回避することも出来た筈! 何故黙って拷問を受けた!」

 

 しにぎわのおとこと、しにぎわまでいためつけただいじん。

 しかしおいつめられているのは、だいじんのほうで。

 わけのわからぬげんぎょうにこんらんし、こたえをえるべくおとこにむかってこえをあらげることしかできませんでした。

 

「大臣……、この際オレの意思なんて関係無いんですよ」

「どういう、ことだ」

「重要なのは……、この結果を宿()()()がどう受け止めるかということです……」

「き、貴様ァ!! まさか、(けしか)けるつもりか!? の、呪いの王を! 我々にッ!」

「大臣、まずいです! 浮舟の呼吸が!」

「ッ──」

 

 むなぐらをつかまれ、くるしそうにかおをしかめるおとこ。

 はんてんじゅつしきがきかないおとこ。

 いまもう、すぐにでもしにたえてしまいそうなおとこ。

 こんかいのいっけんをしり、みやこをおそうであろうりょうめんすくな。

 じしんのせきにん。

 みやこへのせつめい。

 さいごのちからがぬけ、くびをだらんとまえにたらしたおとこ。

 さまざまなことをいっぺんにかんがえただいざん。

 ながねんみやこに、みかどにつかえてきただいじんがおうのうし、やがてかいけつさくをみちびきだしました。

 

「…………」

 

 りょうてでつかんでいたむなぐらをはなし、おとこをじめんにころがします。

 ゆびさきにこめたじゅりょく。

 ためらいなく、おとこののうてんをうちぬきました。

 

「大臣ッ!? 何を!」

「分からぬか、この愚か者が! 我々は、()()をしていたのだぞ! このまま死なれては、奴は呪いに転じてしまう! だから呪力で殺したのだ!」

 

 だいじんのかいけつさく。

 

「…………」

「大臣!」

 

 だいじんのかいけつさくは、まだとちゅうでした。

 

「…………浮舟は、本当に呪力で死んだのだろうか」

「……大臣?」

「麻呂が止めを刺す前に、既に息絶えていたのだとしたら……?」

 

 だいじんのあたまに、さいあくなみらいがよぎります。それはみらいしというばかげたのうりょくをもっていなくとも、よういにたどりつくけっかでした。

 

「…………お前等」

「「はい」」

「この村の住人を全員殺せ」

「「…………は?」」

()いか! もし浮舟が麻呂の呪力よりも前に死んでいた場合、奴は呪いに転じてしまう!」

 

 だいじんはめをちばしらせてどなりちらします。

 

「浮舟の術式がもし相伝ならば、その子孫は必ず浮舟を再び蘇らせてしまうッ! 麻呂は浮舟の子孫の顔を知らん! だから全員殺すのだ! 直ちに全ての隊員に伝えよ! 未来視を復讐の為に使われてみろ! 我々に──都に勝ち目は無いのだぞッ!!」

「「──ぎょ、御意ッ!!」」

 

 そして。

 このむらをひげきがおそいました。

 おとこのそばでなきくずれるてんげんさまをよそに。

 おとこのやしきにいたしようにんたちも、にげまどうむらびとたちも、じゅじゅつしがひとりのこらずころしてまわりました。

 ぼうぜんとたちつくすごさんけのめんめんをおきざりに。

 やがて。

 すべてがおわったあと。

 だいじんのしんげんをもとに、いかのはつれいがなされました。

 

 

 ──()()の記録を呪術界から完全に抹消すること。

 

 ──()()の血、呪われた血が流れている親類を見つけ次第直ちに処刑すること。

 

 ──先日(せんじつ)都に返還された()()の左腕は忌庫にて厳重に保管し、以降の持ち出しを禁ずること。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 そして、月日が経ち。

 幾ら調べても浮舟の左腕には呪力が込められていないことが分かり。

 左腕が無い術師に()めてみても、何も起こらないことが分かり。

 いつしか浮舟に対する畏れも薄れ。

 記録を抹消したことにより、呪術界の上層部と御三家を除いてその名を知る者は段々といなくなり。

 更に月日が経ち。

 左腕が忌庫に保管されているということすら曖昧になる程の月日が経ち。

 新たなる持ち主が現れることを知っていた何者かの手によって、浮舟の左腕は人知れず武器庫へと移動したのでした。

 

 

 

 

 

 

 





ひらがなで読みづらいのは今回が最後です!これまで三回も読みづらいことしちゃってすみませんでした!もうしません!
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