こんばんは!短いです!
「浮舟の術式はね、代々死者しか降ろせないんだ」
──まあ降霊術といえば普通はそうなんだけど。
夏油傑は誰に向けるでもなく注釈を入れながら、一人語り続けた。
無量空処が極僅かな時間発動されたこの場には先程までの観衆のざわめきも叫び声も無く。
五条悟の荒い呼吸音。
駅の冷たい床に転がり、耐え難き痛みに呻く
静かなホームに声を響かせる夏油傑。
音はその三方向からしか聞こえてこなかった。
「今回の場合、フォーカスを当てるべきは母親の
「……は?」
「しかも面白いのが、浮舟出同様術式の使用には制約があってね。
「だから、告別式の時には気付けなかったのか……」
五条が渇いた笑いを洩らす。
その刹那、ホームに倒れていた
「……いずるの母ちゃんは、今いずるを降ろしてるんだろ」
「さっきからそう言ってるんだけどね」
「降霊術中に術者が死んだ場合、降ろされていた
「普通なら『肉体への固定が出来なくなって
「そんなこと分かってんだよ。俺はただ……ッ」
五条の表情が
五条は懸念していた。降霊術という括りにおいても、確実にイレギュラーと言える浮舟の母の術式。そんな浮舟の母が死に往く今、その身に降りている浮舟出の魂はどうなるのか、と。
「あ、もしかして浮舟出も一緒に死ぬんじゃないかって心配してる? 大丈夫だよ、
五条の懸念に気付いた夏油傑が溌剌に嘲笑った。
──死なないのか。ならば良い。
今目の前で想い人の母親が息絶えようとしているのに、心の底から安堵してしまった自分に腹が立った。
五条は考える。
夏油傑と浮舟の母の関係も気になるが、夏油傑が明かした5分間の降霊時間という制限。おちおち安堵したままでもいられない、と五条は夏油傑を無視して血を流して倒れている浮舟の母に語りかけた。
「……いずる」
暗闇の洞窟を壁伝いに歩いているような、五条のか細い問いかけ。
浮舟出の母は息を切らしながら答えた。
「ご、五条……?」
と。
想い人と同じ声量、イントネーション。
そして異なる声の質。
「
声色は(五条が彼女と最後に会ったのはもう10年も前のことなのではっきりと記憶しているわけではないが)浮舟出の母のもの。
しかし語る口調は、トーンは。
五条にとって馴染みのある
六眼が使えずとも、そう確信した。
「……ここは、渋谷駅の地下五階だよ」
「ねぇ、なんかメチャクチャ胸痛いんだけど、〝僕〟の胸どうなってる……?」
「いずる、大丈夫だから。落ち着いて」
「〝僕〟さっきまで硝子ちゃんと話してたのに、なんでこんなことにッ……」
「いずる、時間が無い。伝えたいことがあるんだ」
痛みに苦しむ
強過ぎる痛みに自らの状況を正確に把握出来ていないようで、降霊の事実には気付いておらず、
「ちょ、なんだよこの血……。もしかして、〝僕〟の──」
「いずる」
静寂。
声を荒げた五条に少し怯えたような表情を見せた
少し離れたところで事の成り行きを観察していた夏油傑がくつくつと笑っている。その様を見た
「夏油じゃない、よな」
と周囲の状況に目を向け始めた。
「真人に、火山頭に、知らん奴に……この突っ立ってる人達は大丈夫なのか?」
「大丈夫、生きてるよ」
五条が溢せば、
その緩んだ表情に、五条は現実を突き付ける。突き付けねばならない。
「傑は……残念だけど、死んだみたいだ」
残された時間は互いに、あまり無い。
「な、なんでッ……」
突き付けられた
「分からない。ただ、アイツは傑の身体を使ってこれから何かするつもりだ。僕を封印する為だけに傑を利用したとは思えない」
「封印……。五条
「無理っぽい。あ、触らないでね。何が起こるか分からないから」
「そうは言ったって」
「良いから」
「…………」
五条の突き放すような物言いに、
五条が
目は合わない。
「お願いがあるんだ」
「……言えよ」
五条は意を決する。
「目が覚めたら、僕を助けに行こうだなんて考えないでほしい」
「……は?」
目が合った。
「傑の仇を討とうだなんて、間違っても考えないでほしいんだ」
「……なに、言ってんだよ」
「僕は、夏油傑の口振りから
「……オマエ、バラしたのかよ」
「いやぁ、五条悟が勝手に計算しただけだよ。私はただ、浮舟出はずっと一入を降ろしていると──」
「ひ、ひとしお?」
「……?」
「
「もう良いってそのリアクション。……というか、知らないで降ろしてたんだ」
「降ろすって……もしかして飲酒のことか? マジかよ、〝僕〟あれまだデフォルトかと思ってた」
「……君、本当にバカなんだね。しかも酷くつまらない」
「──いずる。お願いだから、約束してほしい」
「…………」
「いずる……?」
先程まで身体を震わせながら顔を持ち上げていた
五条が恐る恐る名を呼べど返答は無く。
夏油傑は五条を励ますように、にこやかな笑顔で返した。
「良かったね、元の身体に戻れたみたいだよ」
浮舟出:飲酒によって寿命が引かれるのではなく、正確には酒を飲むことで霊を身体に迎え入れ、
強いお酒を飲めば飲むほど、浮舟一入が貸してくれる力の割合が大きくなる。
木の檻を曲げたりパンダを投げ飛ばしたりする馬鹿力も、浮舟出の呪力コントロールではなく浮舟一入によるモノ。
浮舟出には浮舟一入を降ろしているという自覚は無かった。
「んぐっ……こうやって飲むとさ──〝オレ〟呪術師になれるんだよ」
夏油傑(羂索):訳あって浮舟一入に会いたがってる。浮舟一入から聞いている為、浮舟出の術式について詳しい。
「一入、早く私に顔を見せてくれないか」
五条悟:六眼で浮舟出の寿命が引かれる条件は知っていたが、今日に至るまで浮舟出がナニカを降霊している様子を確認出来なかったので、単純な基礎だけで戦っているのかと勘違いしていた。
寿命が引かれないに越したことはないので──そして助言を機に降霊をするようになってしまったら元も子もないので──浮舟に寿命云々のことは話していない。
「…………」
浮舟一入:自分を降ろすことの出来る浮舟出という存在に合わせて、色々画策していた。しかし受肉ではなく魂を降ろしているだけなので、まだ身体の主導権は奪えない。
「強かったっしょ、オレの力」
訳あって、書いていたお話は二つに分け合った方が良いなと思ったので、短い話を2日連続で更新する形を取りました!すみません!
また明日!