鉄血のクドリャフカ~100日後に死ぬ衛兵~   作:河灯 泉

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タイトルとあらすじの通り。100ワニが流行ってた頃に書いてた残骸をどうにかこうにかしていきます。


1話――1日目

 

 

 

 ――ピ、ピ、ピ、と規則正しい電子音が響く。

 たくさんの誰かの声が脳内を駆け巡る。

 血肉が蠢き内側から爆ぜてしまいそうだ。何が異物で何が正しい体なのか、元の形はもう思い出せない。

 世界に問われる。拒絶される。お前は誰だと。

 

 ――自分は、何者なのだろう。

 

 

 

「バイタルサイン……チェック、いずれも正常値です」

「電熱線稼働率……チェック、出力安定しています」

「脳波上昇……チェック、起動します」

「拘束具の安全装置は?」

「セーフティのままです。解除しますか?」

「……いや、まだそのままでいい。条件付けの確認を」

「了解。【コード19571004】発信」

 

「――カゾルミアに栄光あれ」

 

 ……知らない声と知らない言葉がどこからともなく――自分から聞こえた。

 産声は最悪の一言から始めないといけないのか?

 

 

 

 

 

 ――1日目。カゾルミア連邦首都カゾルミア5区第Ⅹ研究棟危険物製造所

 

 

 

 お国の為に身を粉にして働く衛兵生活、はっじまーるよー!

 

 

 

 ――はっじまーるよー、じゃねぇんだよ。

 

 いったいいつだれがどうしてこうなったのかはわからないが、どうやら自分は転生してしまったようだ。

 何故そんな結論に至ったかと言えば簡単で、性自認が男であり日本という平和な温室(物理)育ちの記憶を有しているからだ。いやもしかしたら全部夢か妄想だったのかもしれないが。はいはい胡蝶の夢胡蝶の夢。うるせぇ俺は俺だ。

 さて、性自認の話をしたことから察しの良い者ならお気づきになられることでしょうが現在の体は女性のそれであり違和感を抱くのに十分すぎるほど身体と心が噛み合っていない。……性別が違う以外にも原因はあるがその話は後にして。

 

 『溶鉄のマルフーシャ』というゲームがある。

 ある日突然徴兵され、敵国の機械兵から門を守る仕事をするマルフーシャという少女が主人公で操作キャラクターなハイテンポ重税防衛シューティングゲーム(?)だ。サクサク進む爽快感と健気な少女たちの生活模様がとても良かった。みんなもやろうね。そして絶望しろ。

 

 転生してから前世のゲームの話なんかをしていたらそりゃあもう関連性がないはずもなく、自分のいる世界がそれだと判断するに足りる材料に溢れていてこれからの短そうな人生に思いを馳せているわけです。

 というのもこのゲーム、すべてのエンディングがバッドエンドなのである。主人公だから不幸な目に遭うとかじゃなく、まず所属する国が詰んで終わっているような状況。

 周辺諸国すべてが連合を組み、社会主義極まった軍事独裁国家カゾルミアへ宣戦布告をし、戦争以前に自国から亡命した研究者のせいで人を素材にした機械兵が新鮮な素材を得る為に全方位から攻め込んできているという悲惨な戦況に陥っている。当然の如くこの国の主導者がここからすべてを跳ね除けられるほど優れているはずもなく、その圧倒的科学力と軍事力は何物にも負けないなんて幻想に過ぎず、嘘10割のプロパガンダと精神論と総力戦で戦線が首都まで後退し続けているものとする。地獄かな? 俺にとって死後の世界と言えなくもないから本当に地獄かも。

 バッドエンドの内容の8割は敵国に捕まるか抵抗した後に射殺されるかで、残りの2割は自国内で死ぬのと次の戦場へ回されるもの。(救いは)ないです。

 

 ――とまぁ、覚えていることを羅列した時点でこれもう救いようがない世界だしどうしようもないな? と思ってしまうのも無理はない。この国がどうなろうと狂気に駆られた連合国の戦争が終わることはないだろう。敵がいなくなれば平和になるなんて夢物語に過ぎず、次は連合国内から新たな敵を担ぎ上げて人がいなくなるまで争い続ける。

 つまりこの世界の人類は(たぶん)滅亡する。例え少数が生き残ったとしても文明は崩壊すること間違いなしだろう。殺戮機械とミュータントとモヒカンが蔓延る次々回作をお楽しみに!

 

 ――だがしかし、諦めたところで目の前の現実が優しくしてくれるわけでもなく。

 こうなってしまったからにはできる限りのことをしなければなるまい。すぐに死にたいわけでもないし。っていうか素直に殺してくれる方がまだ優しい。

 

 目覚めてからまだ目が慣れていないのか、見世物のように光を当てられて薄らとしか開けられないし眼球から頭の奥まで突き刺すような刺激が辛い。できることなら手で覆って光を遮りたいがどうしたことか腕が動かせない。目を閉じてても文字や計器のような何かがぼやけて見えるがそれは断片的にしか理解できない。

 

「おい、何か不具合は確認できたか」

「――はい、いいえ。問題ありません。起動実験は成功しました。クドリャフカ特務兵のスペックは当初の構想通り十二分に発揮できるものと思われます」

「ならば精々開発費分は働いてみせたまえよ。それができるというから許可してやったのだから」

「承知しています」

「……ふん、人形風情がどれほどの役に立てるというのか。まったくこれだから科学者など――」

 

 厭味ったらしくぶつくさ呟きながら部屋を出ていくお偉いさんの気配。薄目の横目で見たところ軍服にギラギラゴテゴテとした大量の勲章を重そうに着けていたが、こんな赤い国に未来なんてないので御大層なだけの飾りに価値などないのだ。自らの地位が根本から脅かされるだなんてあぁいう人間は死ぬ瞬間まで理解できないだろうが。……現実感がないのは俺もお互い様か。

 

 ……それにしても『クドリャフカ』ときたか。十中八九それが俺の名前なのだろう。

 前世――前の世界で言わずと知れたソ連の宇宙開発計画で無重力の世界へと飛び立った犬の名だ。溶鉄のマルフーシャに登場するキャラクターはみなロケットに乗った動物の名が付けられている為、違和感はない。……ライカという子が存在しているのでなんか関連性*1がありそうだが、そのあたりは追々調べればすぐにわかることだろう。少なくともこれまでのこの身体の持ち主(クドリャフカ)の記憶とかが一切ないのでなんもわからん。

 

 こんな状態で何もわからず逃避してどうなるわけでもないし、行先もない。そもそも今まだ動けないし。

 

 こうなったからにはやっぱり戦うしかないんだろうなぁ。

 嫌だなぁ嫌だなぁと内心呟いても誰かが助けてくれるわけでもなく。せめて自力で満足のいく死に方を選べるように頑張らないといけないんだよね。いや死にたくもないけど流石に無理だろうなって。

 

 やるだけやるしか、ってやつだ。

 

*1
クドリャフカはライカの別名でありソ連公式発表ではライカが正しい




この手のIFテーマでゴール時に条件さえ満たしていれば後はどうでもええやろ感はBiimシステムRTA解説風が相性良いと思うんですけど詳しいネタを知らない自分では書けないので仕方ないね。
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