鉄血のクドリャフカ~100日後に死ぬ衛兵~   作:河灯 泉

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3話――1日目

 ぱん、ぱん、ぱん。

 

 腕を真っ直ぐ伸ばし、指先にほんの僅かな力を込める。すると華奢な身体をほんのちょっとだけ揺する衝撃が伝わり、耳朶を打つ爆発と空気を切り裂く凶器の音が響き渡る。とても簡単なことだ。魚を三枚におろしたり卵を片手で割ったりリンゴの皮を綺麗に剥くよりもずっとずっと楽にできてしまう。

 当然のことながら俺は銃を撃った経験などない。だがこの身体はそれができて当たり前であるように振舞う。

 

 視線の先にあるターゲットはほぼ同じ箇所に穴を開けられ、射手がどれだけ優秀なのかを証明している。

 

「次」

「はい」

 

 撃ち切ったハンドガンをテーブルに置き、そこから今度はサブマシンガンを手に取る。

 チャンバーチェック、マガジン装填、コッキングレバーを引いてセーフティを解除すればまた的が動き出す。

 3点バーストで軽快なリズムを刻み、1マガジン撃ち切ったら素早くリロード。今度はフルオートで反動制御の確認。

 

「次」

「はい」

 

 アサルトライフルを手に、また同じ作業を繰り返し。

 

「次」

「はい」

 

 軽機関銃、狙撃銃、ショットガン。扱いに違いはあれど歴戦の軍人のように十全に運用してみせる。

 成長期真っ盛りであろう小さな体躯に不釣り合いな撃ち方だろうとこの義体にはなんら負担にならず、電熱線をバイポットのように足元へ展開するだけで大口径の反動を抑えきる。大の大人だろうと下手に撃てば腕や肩を痛めるだろうに、モデルガンでも撃ってるような気楽さだ。

 しかし電熱線の接続時に感じられるなんとも言えない刺激は気にならないように早く慣れないといけないな。産毛が抜けるようなピリッとした痛みと同時に思わず気の抜けた声が漏れ出そうな快感、それにそれ以上の人体に相応しくない異物への不快感。通常の武装には1本しか使わないが、より高出力の武装には2本同時に使う。最大数の3本を使うものは……まだ開発途中なのかドクターも知らされていないのか、軍部の機密だと返された。最強武器の電熱砲とか俺も使えるのかな。……辺り一面焼け野原と汚染地域になるからできれば使いたくはないが、超高耐久のラスボスすら一発で終わるRTAご用達切り札の有無は現実となったここでも重要だろう。

 ……後々使う機会がありそうな工具武器系統も闇市で見てこないとな。一発限りで割高とはいえ生命線である門の防衛ではひとつのミスも許されないのだから。

 

「射撃試験終了。……前から優等生だと差異が見られないのは難しいところだな」

「……ありがとうございます」

 

 相変わらず表情の見えないドクターからの称賛を受けて少し安心する。もしこれで成績が落ちていたらどんな不都合が生まれたことか、考えたくもない。

 義体だからできるのかこの身体(クドリャフカ)の無意識が覚えているからなのかはわからないが、どちらであっても悪いことではなかろう。兵器の出来は悪いよりも良い方がずっといい。

 

 なお当然のことながらここへ来る途中で服は支給してもらったのでジャケットはドクターに返した。半裸姿の不審な戦闘兵器からぱっと見ただの徴兵少女へジョブチェンジ。

 

 その後も屋内訓練場の一角で筋力測定や立ち幅跳び、シャトルランや腕立て伏せなどいつかの体力測定を思い起こさせるテストを行った。どれも力がどうこうを通り越して化物じみた数値が叩き出されたのは……流石は超科学大国の義体といったところか。もしかしたらこの世界の人類が自分の知ってる人類より強いだけかもしれないが。

 ちなみに3本の尻尾と化した電熱線も子供並の力で動かせることが判明した。電熱線自体がそれなりの重量なので力仕事にも精密作業にも向かないが邪魔な時に一々手で動かす必要がないのは楽でいい。……用を足すときとかね。肉体の半分以上を機械に置換した義体とはいえまだまだ経口摂取に体内消化、排泄のサイクルからは逃れられないのだ。

 

「そろそろ栄養補給――食事にしよう。午後は丸々メンテナンス用に空けておいたけど今のところは問題ないかな。稼働状態は安定しているようだし」

「はい、食欲は……まったくと言っていいほどありませんが、食べることはできると思います」

 

 運動時に少量の水を飲んだだけで後は動きっぱなしだったが、この身体が省エネなのか電熱線のエネルギーを動力にしているのか、驚くほど疲れず腹も減らない。気分はまるでフリーダムガンダムか。例えが完全に人間やめてて悲しい。でもちょっとだけかっこよさを感じるのは男子ソウルの名残か。

 

 ドクターが手を打って他の技術者たちをまとめ、一言二言打てば響く会話を交わしたかと思えばすぐこちらへ向き直る。

 どうやら他の人たちはまだ仕事が残っている……というかさっきまで行っていたテストのデータを解析するのがここからの本番らしい。

 なので食堂へ向かうのは俺とドクターだけ。他にも部署の違う兵士や研究者のような人がちらほら見えるが、みんなドクターの姿を見ると友愛か敬遠の態度を取る。国民の等級制度についてはよく覚えていないし今もわかっていないが、ドクターはかなり高い地位にいるのだろう。高いと言っても所詮上には上がいて結局逆らえない仕組みなのだろうけど。

 

 ドクターが配給機に半券のような紙切れを入れてボタンを押すと金属のようなプラスチックのような、なんとも不思議な素材のトレーと、その中で仕切られた名状しがたい固形物の塊が複数と錠剤とカプセルがざらざらと出てきた。パンが無ぇ! 乾パンすら無ぇ!! ピンクの塊は肉に見えるが食いもんには見えねぇ!!!

 手渡された自分の半券を同じように機械へ食わせ、ひとつしかないボタンをぽちっと押せば簡単工業栄養補給セットの一丁上がり。なんだここはディストピアかカゾルミアか。

 

「今日は国民食4号か……普通だな」

「この……なんというか、餌のようなモノが普通なんですね」

「何も覚えていないはずの君の普通と不満が何を基準としているのかは興味があるが、残念ながら今はこの人間用の餌が普通だ。7号にもなると錠剤だけになるからな」

「うわ……」

「もし高官たちが今も変わらず天然物を口にしていたら私は彼ら()許さなかっただろう。もっとも、彼らが食べる1号はもう少しマシな品目と味付けになっているが」

「……ということは彼らもほぼ同じ、この……合成物を食べているのですか?」

「個人的に所有している物はあるだろうが、配給の都合上概ねそうだ」

「最高指導者も?」

「………………さぁね。私は彼がこういった餌を食べる姿なんて見たこと無いよ」

 

 食べ物の恨みは怖いな。今まで聞いた中で最も声色が本気だった。

 あんまりこの人のことは怒らせないようにしよ……。

 

 食事の味については……語るまでもなく、語れるほどの内容でもないので省略。10秒チャージが恋しくなった。

 




※人体に電熱線を直結させる意味はない。義体だからできたことですね。
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