鉄血のクドリャフカ~100日後に死ぬ衛兵~   作:河灯 泉

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サマーセールで買った鉄騎の少女 Cavalry Girlsが終わったので久々(1年ぶり)に。


7話 ――10日目

 

 

 結論から述べると全部思い出した。

 いや全部というと語弊があるか。

 

 ――義体クドリャフカ特務兵としての記憶だけ思い出せた。日本語様様だ。

 

 ついでに日記を読んでいる間にドクターから手渡された【大事なお知らせ:消費税導入】でさらに鮮明となった。クソが。住民税についての愚痴も日本語でだけ書かれてたからわかってはいたけど二重三重に取っていく気満々じゃねぇか。衛兵は武器調達が自己負担なのでこういう課税が地味に積み重なっていって追い詰められる要因となるのだ。

 まぁそれだけこの国が末期だというのは最初から知っていたことなので今更。

 

「……調子はどうだ、クドリャフカ特務兵」

「はい、大まかな記憶は取り戻しました」

「それは良かった」

 

 本心なのか怪しい平坦な声色のドクターだが、また一から全部教え直して調整して原因解明してと仕事が積み重なって嬉しい人間なんていないだろうし本音で言っているのだろう。そろそろこの人との付き合い方もわかってきた気がする。良くも悪くも価値を示し続ける限りドクターは私を悪いようにはしない。大事に大事に、ただの道具として運用する。そんな人だ。まぁ本心がどこにあるのかはまだまださっぱりわからない程度の付き合いしかないのだけれど。

 

「戦況の変化は記憶――把握しているか?」

「はい。敵機械兵の種別と物量の増加に対する戦術の構築は急務だと思います。……現状、現場が個別に対応していますが、戦略的観点から申し上げますと一度上層部へ持ち込んでいただかなければこのままでは戦術的敗北が続くだけかと」

 

 軍部がそれを素直に受け入れてくれるかは別だが。

 あちらもこのままでは押し込まれて負けるって現実は見えているのだ。その上で、人間というのはどうしようもない生き物で、自らが滅ぶ寸前であっても足の引っ張り合いや薄っぺらいプライドを守ろうとする諍いがやめられない。

 

「制空権だけは最後までこちらが優位だろうから空軍の発言権が弱まることはない。一方、地上の戦線は後退し続けている……そして彼らは他者の弱みが見えたら刺さずにはいられず、自らの傷を隠したがる習性を持っている」

「どうして仲良くできないんでしょうね」

「お国柄、というやつだ」

 

 我々下っ端はそこまで歪んでないのにねー。

 

 あ ほ く さ。

 

 

 

「防衛部の返答次第だが、これからも君には外門防衛部隊の支援を行ってもらうつもりでいる」

「支援、ですか?」

「戦線が全方位から圧力が掛けられている以上、門もいずれどこかが崩れる。君の役割はその崩壊を1日でも遅らせることだ。支援対象は全ての外門防衛部隊となる」

「あの、いくら私でも分身とかできませんよ……?」

「早期警戒網から送られてくる敵情報から私が戦力配分を考える。君が考えるのはいかに早く救援に向かい殲滅するかだ」

「そういうことであれば、了解しました」

 

 どうせ元から拒否権なんてないし。

 空輸ドローンとかないかな。ジェットパックみたいな装備があれば10mくらいの高さから投げ出されてもなんとかなりそうだし。

 いくら私が小回りの利く戦術兵器として期待されてるって言っても一人でどれだけやれるのか不安はあるけれど。マルフーシャ達が頑張って一区画の門を守れても他が突破されたら意味ないからね。少しでも生存日数を伸ばす為にも一肌脱ぎましょうか。

 

 まぁ私が人工皮膚を脱いだらその下は人工筋肉なんですけどね。さらにその下は超合金の強化骨格。

 天然の身体どこ? ここ?

 そこになければないですね。

 いや神経とか血管とか内臓とか手が加えられはしてるけどちゃんと自前の器官だってあるし………………ある、はず。

 

 まぁいいや。

 

「今日は再処置と調整の予定で一日埋めてあるから後は自由に過ごすといい」

『わんっ』

「はい、了解しました。じゃあスプートニクは私の部屋に連れて行きますね」

「当然。それは君のモノだ」

『わんわんっ』

 

 がちゃがちゃと金属の足音を鳴らしながら、嬉しそうに尻尾を振る機械の箱。これ本当に犬かな……犬に見えないんだけどな……いやでも動きは犬っぽいかも。この先、犬がいるぞ。あるいは犬。

 ちなみに中に犬の脳が入っているとかそういうホラー展開はない。ちゃんとした、完全な機械だ。

 

「ところでこの……犬……? って人気商品だったんですか?」

「……さぁ。癒しになるかは個人差があるからね。売り出してすぐ戦争が始まったから千体分の生産で終了した、ただの資源の無駄遣いだよ」

「そう、ですか……」

 

 なんかやけに棘のある評価だな。犬嫌いなのかな?

 しかし見たところスプートニクの動きに粗はなく、私と同じくスムーズな関節稼動と重心移動が行われているように見える。ただの玩具がここまで高性能なのは流石としか言いようがない。こんな国を褒めたくはないけど、悔しいことに発明力と工業力は認めざるを得ない。

 

「では、失礼します!」

『わんっ』

 

 プログラム通りの流れるような動きで敬礼してからさっさと退室。

 スプートニクはこれ本当に玩具かと疑いたくなるほど賢く、私の歩幅に合わせてチャカチャカ鳴らしながらついてくる。大型犬並みのサイズの金属の塊なのに結構軽そう。その気になれば騎兵として使える道もあったのでは、と思わないでもない。玩具に求めることではないだろうけど。

 

 

 

 

 

 こんこんこん、と軽いノックをしてから自室のドアを開ける。

 

「た、ただいま~……?」

『わふっ』

 

 しかし返事はなし。

 当然っちゃ当然か。時刻はお昼前。普通なら職務に励んでいる時間だ。

 

「ライカにダメって言われたらどうしよ……いや言わないとは思うけど。とりあえずスプートニクはこの部屋から出ないようにね」

『わおんっ』

 

 部屋の中でがしゃがしゃ歩き回る犬。臭いを嗅ぐ機能はないけど、その忙しなさは新居へ引っ越したばかりの犬っぽさを感じるような……いや、わからんけど。

 

「うーん……なにしよ」

 

 犬のことはひとまず置いておいて、実質非番となった今日一日をどう過ごすかを考える。

 

 1,寝る。

 この先タイムリミットがあるのに時間を無駄にするのはよろしくない。

 2,遊ぶ。

 どこで誰と? 犬と? 戦時下だっての。

 3,買う。

 何を?

 

「武器はまだ十分あるし……弾薬も今のところは大丈夫でー……あ!」

 

 そうだ、闇市に行こう。

 

 

 

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