side こころ
ようやく解放された。確かに以前よりも楽だし、間違いなく疲れも取れたのだろう。オレが家にいる間は特に強力な怪人が出るという事もなく、なぎのもよつはも圧倒し続けていたようだ。やっぱり遠距離高威力は強い。
すみかはどうなのかといえば、前にも増して強くなっている。魔法の応用が増えているのだ。見えない鎧で攻撃を防いだ所で鎧を拡大して吹き飛ばしたり、拳が当たる瞬間だけ拳の鎧を伸ばして不意打ちするなど。果ては鎧を一瞬解除する事で隙を突いたりと、最初と比べると明らかに戦闘が上手くなっている。
そのため、前と比べて3人とも別々の敵と戦う事が多くなった。一人前になっていくのは嬉しい。傷つきにくくなるし、何かあった時に助けに入る際に庇う事でピンチを起こしやすくできる。オレのピンチをだが。
まぁよっぽど庇う状況なんてこないけどな!
そう思って居たのだが…割と早くその状況は起こった。
すみかの妖精、ライから連絡が入ったのだ。どうも苦戦しているようで、助けに来て欲しいとのこと。久しぶりの敵に心を躍らせつつも、すみかが心配なので全速力で向かう。そこでオレが見たのは…
「か…はっ…‼︎」
「所詮鎧の魔法少女と言えどこの程度か…つまらんのう!」
怪人に片腕で首を絞められている、すみかの姿だった。
首を掴まれたまま持ち上げられている。怪人の背丈は大きく、すみかは足が地についていない。既に抵抗する力は残されていないようで、自慢の鎧を使う事もできないらしい。手足は弱々しく揺れているものの、次第に動かなくなっていく。
「すみかぁああああああ!!!!!」
許せねぇ。怒りで頭が真っ白になる。ステッキをへし折るほどの力で握りしめ、最大級に魔力を貯めた状態で怪人に殴りかかる。
「ほう!増援が来てくれるとはのう!これは楽しめそうじゃわい!」
怪人はオレの全力の一撃を簡単に片手でいなすと、すみかへの興味を失ったのかゴミでも捨てるように放り投げた。
「てめぇ‼︎すみかに何しやがる‼︎」
こいつの目の前で光弾を炸裂させて目眩しに使い、一気に離れると同時に地面にぶつかる寸前のすみかを抱き止める。
「すみか!しっかりしろすみかぁ‼︎」
「…ぁ…ここ…ろ…?」
オレが抱き止めた瞬間に安心したのか、プツンと糸が切れるように気絶した。あたりに水色のカケラがキラキラと散らばる。変身が解けたのだ。魔法少女は変身が解除されると、周囲に宝石が砕け散ったかのように光のカケラが飛び散る。解除に追い込まれる条件は、魔法少女の気力が尽きる事。
つまりそれは、すみかの気力が尽きるまでいたぶられたという事。
「そろそろ良いかのう?儂もこれ以上は待てんぞ?」
「…よくも」
「ん?」
「よくもすみかを‼︎おまえは絶対に許さねぇ‼︎
保護なんかしてやらねぇ…もう命乞いしたって無駄だ‼︎」
「何を言い出すかと思えば。
あんな軟弱者どもと一緒にされては困るぞ?」
ここ最近、組織から逃げ出してきたようなまともな怪人が多かったせいで忘れかけていた。やはりこいつらはダメだ。組織に忠誠を誓うようなやつらは特に。
「じゃあ良い!ぶっ飛ばしてやる‼︎」
まずは観察だ。怪人の背丈は大体3Mくらい。筋肉はかなりあるようで、ボディビルダーほど膨らんでいる感じではないが、引き締まっている。口元にはジジイらしいような喋り方に合った白い立派な髭が生えている。一際目を引くのはその甲羅だ。傷一つ見られず、鈍く光っている。
どうやら亀の怪人のようだ。トゲトゲとした甲羅でない事から、甲羅による攻撃は警戒度を下げても良いだろう。
「まぁそうカッカするでない。
儂は亀怪人のカメ爺。お主の名を聞こうか?」
「…プリズムハート。」
「そうかそうか!先ほどの…ブランドダイヤじゃったかの?」
「ブライトダイヤだ‼︎」
「すまんのう?名前を覚えるのが苦手でのう…
弱者の名前などいちいち覚えておれんのじゃよ。」
「…つくづく人をおちょくるな!おまえは‼︎」
イライラしてくる。ただでさえすみかをやった憎い相手だというのに、更に怒りが湧いてくる。ダメだ。このままじゃあいつの思う壺だ。冷静さを失ってしまえば、逆転があるとはいえオレが動けないうちにすみかをやられてしまうかもしれない。
「はて?おちょくる気はないんじゃがのう?」
返す言葉で煽ってくるこいつに対しての怒りを一旦沈め、なぜすみかが負けたのかを考える。先ほどオレの全力の一撃を片手で受け流した事、近接に特化したすみか相手に勝った事を考えると、大体予想はつく。こいつは相当な技巧派なのだろう。尖った一芸で追い詰めたというよりも、攻撃をいなす事で気力を削いだに違いない。
「じゃあこっちからいくぞ‼︎」
近距離が得意と分かれば、遠距離で戦うまで。後方に大きく跳んで牽制で光弾を放つ。避けようともしない亀怪人。放たれた光弾は胴体に直撃した…なっ⁉︎
「随分とぬるい攻撃じゃのう?あくびが出るわい…」
違う。光弾は直撃していない。当たる直前で流されたのだ。一瞬して光弾が後方に着弾し、大きな土煙をあげる。思ったよりもこいつは技量がやばいらしい。先ほどよりも距離を離そうと後ろに跳んで…
「遅いのう‼︎」
「ごぼっ⁉︎」
腹のど真ん中に強烈な衝撃が来た。同時に強烈な不快感が身体を襲う。わけが分からない。今何が起こった?身体が痛みを理解し始めたのか、お腹の辺りからじわじわと痛みが広がってくる。どうやらオレは殴られたらしい。それを理解した瞬間、口いっぱいに胃液と血液の混ざった何かが充満する。胃液の酸っぱさと血液の鉄臭さに耐えられず、思わず吐き出してしまう。
殴られた勢いのまま地面に叩きつけられた事で、オレの周りには大きな亀裂が走った。息をつこうとするが、上手く呼吸が出来ない。ぼやけた視界から見えるのは、衝撃で破れて腹部に穴の空いた服と、亀怪人の腕がオレの腹に突き刺さり、拳が直接肌にめり込んでいる所だった。
「か…は…っ…!」
「二度も同じ行動を取るなど愚の骨頂。
お主…学習能力がないのう?」
亀怪人が何か言っているようだが、聞こえない。頭の中は痛みと息苦しさでいっぱいだ。久しぶりの痛みとしてはかなり良いもので、身体中に広がる痛みは信じられないほどのもの。呼吸も出来ないほどの痛みは久しぶりかもしれない。酸素が足りなくて視界がチカチカとし始める。
「一撃でこれとは…もっと期待しておったんじゃがのう?」
「……ぁ…‼︎…っ…‼︎」
亀怪人は拳をめり込ませたまま、ぐりぐりとねじ込むように動かしたり、より強く押し込んだりしている。内臓が掻き乱されているようだ。殴られた瞬間よりも強烈な不快感が身体全体に広がっていく。ここまでのピンチは久しぶりだ。こういう痛みが欲しかったんだよなぁ…と思いつつ、こいつと戦ったのがすみかで良かったとも思う。鎧が無ければどうなっていたか。今のオレのような苦しみを受けていたかもしれない。
「ほれほれ、起きんか!この程度でへばるお主ではないじゃろう?」
せっかくだしもう少しこのまま痛みを堪能していたいが、そうも言ってられない。この隙にすみかを狙われたらたまったものじゃない。なんとか起きあがろうと力を込めると、怪人はすっと力を抜いてオレから離れた。
「そうじゃよそうじゃよ!それでこそ噂に聞くプリズムハートじゃのう‼︎それに引き換えさっきのブランドダイヤとかいうのは…守りは堅かったがそれだけじゃ。見え見えの攻撃ばかりでつまらん。受け流していれば勝手に疲労していったからのう…最後に軽くはたいてやればそれであのザマよ。」
「かっは…!げほっ!けほっ!…はぁ…はぁ…‼︎」
「さて、息も整ったようじゃし…今度はお主から来るといい!」
どう攻めようか。あれだけ離れたのにも関わらず、一瞬で距離を詰めるスピード。放たれた光弾を受け流す技術。一撃でここまでのダメージを叩き出す火力。…決めた。これしか無いだろう。
オレは敢えて接近し、光弾を目の前で炸裂させて目眩しにする。
「同じ技は二度も通じんと言ったじゃろうが‼︎」
「ぐぅ‼︎」
当然、一度目の前で見せた亀怪人には通用しない。煙の中から掌が飛び出してきて、オレの首を掴む。
「全く…なぜそう学習能力がないのか…む?」
「げほっ!かかったな…‼︎」
それは想定内。ステッキに貯めた魔力を用いて、超至近距離で最大火力をぶち当てる。オレも巻き込まれる自爆のようなものだが、確実に当てるにはこうする他ない。
「まいったのう。裏を掻かれたのは儂じゃったか。」
「じゃあな亀怪人‼︎プリズムハート・スプラッシュ‼︎」
ステッキから放たれた光は、オレと亀怪人を包みこんで…少しして大爆発を引き起こした。
「…ぁ…ぅ…‼︎」
なんとか耐え切った。衣服はボロボロで、ステッキも限界を迎えたようで壊れてしまった。とりあえずこれで終わりだ。中々いい痛みだった。久しぶりの復帰戦としては十分だろう。
「…へへ…っ!なんとか…勝てたか…‼︎」
だからこれは…オレの油断だった。
戦闘の勘が鈍っていたのだろう。亀怪人を相手にしていたのに、最大の武器を見落としていたのだ。
「ふぅ…危なかったわい。」
「…は…?な…なんで…おまえ…!」
「甲羅に隠れておったんじゃよ。儂の自慢の甲羅での?見てみい、傷一つないわ。」
嘘だろ?あれはオレの全力だぞ⁉︎ステッキが壊れるくらいに力だって込めた‼︎反動と巻き込まれた事でオレがボロボロになるレベルだぞ⁉︎
「ぐっ…この‼︎」
「やけになっちゃいかんじゃろう。ほれ!」
「ごぶっ‼︎」
半ばヤケになって放った拳の勢いを利用され、クロスカウンターのような形で一撃を貰ってしまう。痛い。鈍く広がっていく先ほどとは違い、鋭く刺さったかのような痛みだ。だが、怯みそうになるのを堪えて再び拳を繰り出す。
「先ほどまでの意気が見る影もないのう?」
「まだ…まだ!」
諦めるわけにはいかない。時間を稼いで、もう一度作戦を練り直すしかない。ただがむしゃらに拳を突き出せば、受け止められた上でがっしりと掴まれた。
「では…こういうのはどうじゃ?」
「な…う゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」
やられた。しっかりと掴まれた状態から一気に固められ、腕をへし折られた。腕が変な方向に曲がっていて、動かす事もできない。
「こちらの足もサービスじゃよ!」
「っぐぅう゛う゛う゛!!!!!」
流れるように繰り出された蹴りが右足に直撃し、勢いのままに骨を砕かれる。痛みのせいもあり、力を入れらなくなって膝をついてしまう。
「いいのう!その目!まだ諦めておらん目じゃ‼︎」
「………っ‼︎」
「戦いとはこうでなくてはな‼︎楽しくて仕方がないわい‼︎」
だが、まだ勝機はある。それを手繰り寄せれば良いだけだ。
「これで本当に終わりだ…‼︎覚悟しろ亀怪人‼︎」
掌に魔力を集める。ステッキは無いが、攻撃は可能だ。ただし制御も何もあったものじゃ無い。そういえば昔もやったことがあったな。最終手段は、実質自爆だ。さっきのステッキありきの時よりも遥かに火力が高いが、受けるダメージはアレの比じゃない。下手をすればどうなるか…まぁ仕方ない。残る全ての魔力を注いでトドメとする。
「また自爆か!懲りないやつじゃのう‼︎」
「そこだ‼︎」
分かっていた。オレが自爆すると分かれば、こいつは甲羅の中に避難する。それが狙い目だ。魔力を貯め切って輝きを増す掌を、甲羅の穴から中に突き刺す。こうすれば逃げ場はない。一気に魔力を解放する。
瞬間、桁違いの痛みと熱がオレを包む。轟音と閃光。危なかった。一瞬意識が飛びかけた。だが、なんとか踏ん張って意識を保ち、怪人がやられた事を確認する。
直撃を喰らいながらもなんとか甲羅から這い出た亀怪人は、もはや虫の息だ。オレもだが。ようやく倒せた…そう思ったところで、亀怪人がまさかの手に出る。
「手ぶらでは…死ねんのう…!せめて…道連れに!」
「すみか…ぁ…‼︎」
まずい。あのままでは、倒れているすみかにとどめをさせてしまう。でも、もうオレは身体を動かす事も出来ない。どうしたら良い?このままじゃ…すみかが…すみかが!!!!!
もうダメかと思ったその時、見覚えのない銀色の光が亀怪人を貫いた。
「ごぁあああああ!!!!!」
先程までの余裕は見当たらぬような断末魔を残して、亀怪人は爆散した。
「何…が…?」
「…良かった」
誰が助けてくれたのだろうか?銀色の力を使う魔法少女なんて見た事も聞いた事もない。薄れゆく意識の中、オレが見たのは…銀髪碧眼で白いローブを被った、魔法少女の姿だった。
最後のキャラはまた出てきます。
作者の性癖は銀髪碧眼です。他意はありません。
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