side なぎの
今日はこころを除いた3人で話し合いをしている。こころは今頃例の怪人にマッサージされている頃だろう。新しい獣化がどんな影響をもたらすかが分からない以上、一度疲れをとっておこうという判断だった。今回の話し合いの内容は、敵が獣化を仕込んできた事についてだ。
はっきり言って、意図が読めない行為だった。
弱点になり得るものは一応あるとはいえ、明らかに強くなるようなもの。こころが言っていたように、敵ががやる行為としてはおかしいのだ。気になるのは、「推し」がどうこうとか言っていた事。
仮に敵であるならばあり得ないような話だが、既に前例が居るせいで可能性としては高い。何かしら意図があってこちらを強化しようとしているのだろう。現状は相手の好意?を信じるしかない。
あれ以降渡した相手には会っていない。
獣化した原因に関しては、すみかは行きつけの店の新人さんから貰ったケーキ。なぎのはやけに大人びた子供から貰った花。よつはは胡散臭い占い師のお姉さんに貰った首飾り。
あまりにもバラバラすぎて逆に分からない。分かっている事は、相手が相当の技術力を持っている事。おそらくこちらに好意がある事だけだ。
それにしても…最近はこころと一緒に戦えていない。
私達が強くなった事もあり、一人でも十分勝てるようになった為だ。こころの疲労を取るために一緒に出掛ける事も減った事で、さらに戦う機会は無くなっている。
後で映像を見直すたびに、こころが傷ついているのを見て心配になる。私達がいれば防げたような状況を見るたびに、居ても立っても居られなくなる。この前の吸血鬼なんて酷かった。あんなに恐ろしい事をするなんて。一瞬こころが本当にやられてしまったかと勘違いするほどだった。もちろんいかがわしい意味で。
挙げ句の果てに、行った場所が行った場所だ。もし少し別の場所に行っていたら、どうなっていた事か。ともかく、またあんな状況が起こるのなら放っては置けない。
「…で、どうしよう?」
「そうですわね…常に誰かが横に居る訳にもいきませんし…」
「流石に…それは…プライバシーが…」
「そうよね…流石にやりすぎな気もするわね…」
本当はそれくらいしたいのだが、こころのプライバシーを考えるとやりすぎている。確実ではあるものの、これをやるのは最終手段だろう。そう考えていたのだが…
「やぁすみか!なぎのもよつはも!」
「リズ?一体どうしたの?もしかしてこころに何か…」
いつもは見ないリズがやってきた事で、まさか…と冷や汗が垂れる。こころに何かあったのではないか。恐る恐る聞いてみれば…
「そのまさかだね!まさか…マッサージが嫌で逃走するとはね‼︎今はどこに行ったかが分からないから探している所なんだよ…そっちは見ていないかい?」
「逃げたの⁉︎あんなに安静にするって言ってたのに…」
「信じられませんわね…マッサージからそんなに逃げたいだなんて…」
「…大丈夫…かな…?」
何と。こころはマッサージが嫌すぎて逃げ出したらしい。それも肝心の獣化「蝙蝠」を使って。信じられない。あれだけ言ったというのに、まだ懲りていないようだ。
「リズ、良ければ私達もこころを探すのを手伝うわよ?」
「良いのかい⁉︎それは助かる!」
「えぇ、探すなら人手が多い方が良いですもんね!」
「…早く見つけて…マッサージ…させないと…」
あまりにもふざけた話ではあるけれど、こころが全力で逃げている以上こちらも全力で探さなければいけない。魔法少女の力を使った鬼ごっこなんて初めてだ。
「じゃあ…よろしくね!すみか!なぎの!よつは!」
「えぇ!任せて!」
「任せてくださいまし!」
「…任せて…‼︎」
side こころ
危なかった…‼︎間一髪で逃げ出すことが出来た。あのままマッサージされる訳にはいかない。あんなのを受けたらどうなるか。ただでさえ、最近は獣化の影響が普段の生活にも出てきているのだ。いつも以上に敏感になった身体では、到底耐え切る事は出来ないだろう。
そのため、獣化「蝙蝠」の飛行で必死に移動してきた訳だが…すぐにバテてしまった。日中での活動、特に体力を消耗する飛行をしたのだ。あっという間に疲れ切ってしまった。
しかし、気は抜けない。もしかしたら、事情を察知したすみか達が探しに来るかもしれない。リズが直接来ない事を考えると、恐らく分かっていて直接転移してこないのだろう。急いで感覚が研ぎ澄まされる獣化「犬」になり、いつでも逃げられるように準備して身を潜める。
しばらくすると、声が聞こえてくる。この声はすみかだ。そんな声をあげて探していては、逃げてくれと言っているようなものだろう。
バレないように抜き足差し足で移動しようとして…見えない壁にぶつかる。まさか。
「見つけたわよ…こころ!」
「なっ…何でバレたんだ⁉︎声をあげてたのだってそっちのはず…」
「そっちはただの囮。こうやって声を出しておけば、こころは必ずビクッと震える。やましいことや隠し事があると、こころって必ずこうやって震えるのよ?気づいてなかった?」
そんなバカな。そんな癖があったなんて。自分でも一切気づいていなかった。確かにそれなら納得だ。いくら隠れていたとしても、大きな声がするたびに震えていては簡単に分かってしまう。
さて、ここをどう切り抜けるか。見えない鎧をぐにゃぐにゃと捻じ曲げられるようになったすみか相手では、しっかり捕まってしまえば逃げられない。接近戦は危険だ。さっさとここを離れようとして…足が止まる。否、動かない。
いつの間にか、両足を絡め取られていたようだ。鎧に包まれて圧迫される感覚は何ともいえないが、ぴくりとも体を動かせないのは非常にまずい。そうこうしている間に、足だけでなく胴も、果ては頭以外をがっしりと固められてしまった。どれほど緻密な制御だろうか?思っていた以上に強くなっていて驚くと同時に、このままでは抵抗する手段が無くなる事に焦る。
あまりやりたくは無いが、もうこれしか無い。演技で騙す‼︎具体的には、身体が締め付けられて骨が折れそうとか何とか言っていれば良い。ステッキの中には、いつでも見られるようにと録画してあった戦闘の映像がある。音声だけで再生すれば…骨が折れる音などいくらでも出せる。ちょうどこの前の翼を捻ったあいつの音声が役に立ちそうだ。すみかには悪いが、なんとしてもマッサージからは逃げなければならないのだ。
「…ぁ…ぐ…苦し…‼︎」
「そんな訳無いでしょう?コントロールは完璧。騙せるとは思わないことね?」
意を決して音声を流す。オレが苦しんでいる演技を見ても最初は演技としてしか見ていなかったすみかだが、骨が軋む音がし出してからは明らかに動揺し始めた。
「あり得ない…私が制御を誤っているわけがない…どうせ…演技なんでしょ?そうよね…?」
困惑している顔を見るたび、罪悪感が湧いてくる。だが、これしか逃げる方法は無いのだ。トドメとばかりに、一気に骨が砕かれる音声を流す。
「〜〜っ!!!!!」
「こころぉ‼︎嘘…私はなんて事を…早くリズに!治してもらわないと…」
「今だぁ‼︎」
「……まさか‼︎計ったわね!こころぉ!!!!!」
一気に制御が消えた。今だ。獣化のスピードを生かして、一気に逃げ去る。すみかの姿が無くなる頃まで走り続けて、ようやく止まる。何とか逃げ切れたようだ。
後で謝り倒さなければならない。必要ならばお出かけもしよう。もちろんオレの奢りで。罪悪感で胸が張り裂けそうになったものの、これは仕方ないことと思いながら逃走を続ける。
進んだ先に、身長よりもはるかに高い草が生い茂った場所が見えた。確か、元はただの空き地だったが外来種が繁殖してしまって人がなかなか入れなくなっている場所だったか。これ幸いと草をかき分けて中に入っていく。ここならゆっくり身体休められるだろう。そう思った矢先…
「なるほど…すみかから逃げ切ったのですね?
流石はこころ…!ですが、すぐに見つけて差し上げますわ‼︎」
「…っ⁉︎」
危ない。思わず声が出そうになった。何でなぎのがここに⁉︎草で隠れているため直接は見えては居ないが、空き地の一角で涼んでいる。
「…ですが…あっついですわ!今日は何でこんなにも熱いのでしょうか?こころを探したいのに…暑くて動きたく無いですわ!」
そんなピンポイントで同じ場所に行く事なんてあるか⁉︎びびって震えそうになるのを何とか抑え込む。大丈夫。バレていない上、休んだらなぎのはここから離れていく。そうして安心しきっていたのが良くなかったのだろう。
「あっついですわ!こうなったら草の中で少しでも涼んで…おや?」
「…ようなぎの!…元気か?」
「み…見つけましたわー⁉︎」
草の中に涼みに来たなぎのに見つかってしまったのだ。誤魔化そうと挨拶をするが、騙されてくれない。
仕方なく草の中に逃げ込む。これだけ草があれば、振り切ることも可能だろう。
「このままでは逃げられる…ならば‼︎この草!全部刈り取ってやりますわ!!」
「嘘だろ!?」
なぎのが刈り取ると宣言した途端、尋常では無い数の斬撃が一気に草を刈っていく。跳弾を駆使した斬撃は、余すことなく草を刈り尽くしていく。まずい。このままでは位置がバレてしまう。光弾を作り出した後、なぎのの目の前に飛ばして破裂させる。目眩しだ。草を刈るのに集中していたなひのは反応が遅れ、まともに閃光を浴びた。今しかない!
全力でなぎのから見えないように駆け出す。音を大きく立てようが関係ない。今は逃げることが先決だ。またもや全力疾走で逃げ切ったオレは、次の隠れ場所を探す。
見れば、ちょうど良いところに瓦礫がある。上手く組み立てれば中に入れそうだ。瓦礫の中に入り込み、何とか隠れる。これで一安心…と思ったのも束の間、急には連続で爆発する音が聞こえてきた事で驚いて声を出してしまう。幸い爆音のおかげで目立ちはしなかったが、最後の砦がまだ残っていた。よつはだ。連鎖による爆破を用いる事で、破壊に特化している彼女だが…索敵は苦手だろう。そうたかを括っていたのがよくなかった。
「…声は…聞こえた…!ここの瓦礫の山の…どこかにいる…‼︎なら…全部爆破して炙り出す‼︎」
嘘だろう?そんな暴力的な解決法ある?なぎのの草を刈るのはまだ分かる。だが、瓦礫を全部ぶっ飛ばそうはやばすぎる。確かによつはの破壊力と制御があれば出来るかもしれないが、ごり押しがすぎる。
そんな事を考えている暇もなく、爆音が鳴り響き始めた。さてどうするか。後少し休めれば、獣化「蝙蝠」で逃げられる。それまで時間を稼ぎたいが…悠長な事は言ってられない。イチかバチかだ。
「オレはここだ!よつは!」
「…観念…したんだ…?」
「…そうだな。確かに、健康を考えれば仕方がない事だ。大人しくマッサージを受ける事にするよ。」
「…そっか…!じゃあ…着いてきて…っ!?」
「甘いなよつは‼︎オレが諦めると思ったか⁉︎
そんな訳ないだろ‼︎何があっても…オレは絶対に諦めない魔法少女だからな‼︎」
「…かっこいいのに…台無し…‼︎」
上手く騙した隙に獣化「蝙蝠」で変身し、そのまま飛び立つ。散々逃げ回った事で日が落ちてきた。運はオレに味方している‼︎
「やった‼︎3人から逃げ切れた‼︎
とりあえずはマッサージは延期にできる‼︎
やったああああああああ!!!!!」
…まぁ。リズが裏で手を引いている以上、この話のオチは分かっていたようなものだったのだが。完全に油断しきったところを、最強の魔法少女に狙われたオレに勝ち目はなかったのだった。
「…逃げちゃダメ」
「は…?うぉっ⁉︎何だこれ…身体が…動かな…‼︎」
銀の魔法少女。現在最強と名高い彼女は、今だけはオレの敵だった。蝙蝠の高速移動を上回るどころか、光を使って完全に身体を拘束されてしまう。詰んだ。
速度で上回られている相手に動きを封じられた上、こちらの力はもうほとんど残ってない。だが、決して諦めることなく相手を見つめる。向こうもその碧眼で見つめてきたのち、一瞬目を逸らした。今しかない。全力で魔力を解放しようとして…
「見つけたわよ…?よくもまぁ逃げてくれたわねぇ?
これは…お仕置きが必要ねぇ…?」
耳元で囁かれた言葉に、全身が総毛立つ。この瞬間、オレは全てを諦めた。終わった。文字通り詰んだ。この後、オレがどうなったかなど言うまでもない。一つ言えることがあるとするなら…二度と逃げないようにしよう。信じられないほどえげつないお仕置きを受けたオレは、心に固く誓うのだった。
実質3人回なのでセーフって事で
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