side こころ
すみかに内緒で抜け出して、現場に駆けつける。やばい事だとは分かっているが、この前の掲示板の事がどうしても気になっていた。休止し続けても良いが、それではダメだと強く理解した。ここは一丁軽く怪人を倒して元気さをアピールしよう。そう考えてここまで走ってきたが…軽く倒せない相手に遭遇してしまったのは、抜け出したオレへの天罰だろうか。
「拙ハⅦトモウスモノ!オ相手願ウデゴザルヨ?魔法少女ヨ…」
Ⅶと名乗った怪人の姿はこれまでと違ってかなり小柄だった。口調も相まって、まるで忍者のようだ。だが、戦い方がその通りだとも限らない。ただでさえブランクがあるオレなのだ。先入観を持たないようにしないと。
「久しぶりの戦闘だからな…速攻で決着を付けさせてもらうぞ!」
何やら特殊な構えをしているⅦ。今までのオレだったら間違いなく光弾を放っていただろうが…既に手の内がバレているようなものなのだから、今回は牽制はいらないだろう。そう考えて一気に距離を詰める。驚いたような顔を見せるⅦに、渾身の右ストレートを放つ。決まった。完全に隙を付いた一撃は吸い込まれるようにⅦの横っ面にクリーンヒットする。このまま押し切ればいける!既に引き絞っていた左の拳がⅦを捉えるのも時間の問題。
その…はずだった。
「がっ…は…⁉︎」
右の拳を当てた次の瞬間、オレは大きく吹き飛んで壁に叩きつけられていた。頭が混乱する。一体何が起きているのか。オレは間違いなく右の拳であいつの顔面を打ち抜いたはずだ。なのに…一体何が起きている?
「お前…何を…したんだ…⁉︎」
「ハテ?何ノコトヤラ?」
身体のダメージはそれほどではない。だが、あまりにも不意にダメージを受けたせいで未だに理解が及んでいない。ダメだ。情報が全く繋がらない。混乱したままのオレはⅦの接近を許してしまい、そのまま拳を打ち込まれた。
「ぐぁっ……!」
「隙アリ…デゴザルナ?」
しまった。久しぶりの実戦とはいえ、油断しすぎた。だが、結果オーライだ。これまでの怪人を上回るであろう痛みが来る。経験した事のない痛みがどれほどのものかを期待していると…来た。だがそれは…とても弱々しい、痛みだった。
「……痛く…ない?」
変だ。これまでの戦闘経験からしても、この程度の痛みで収まる筈がない。ラスボスが作った怪人である以上は、これほど弱い攻撃の筈はない。何か裏があるのではないか。毒か?催眠か?何かが仕込まれているのではないかと考えてみるも、当てはまる症状は身体に起こらない。どうやらこの怪人、防御は強いが攻めは弱いようだ。
「こんな程度だったら幾らでも喰らってやる!
こっちはその防御を貫けば勝ちだからな!」
「言ッテクレルデゴザルナ?」
攻撃に専念出来る、となればもはや余計な思考は要らない。さっきは不意だったから吹き飛ばされたものの、受けることを知った上で戦うならあれくらいなんて事はない。謎の力で反撃されようが、押し切れるはずだ。このまま攻め続ければ…勝てる‼︎
Ⅶが見せた怪しげな笑みを意に介さず、こいつの防御を突破するためにオレは全力を振い始めた。
side リズ
「やっぱりブランクは大きいみたいだね、こころ…」
明らかに戦闘IQが下がっているこころを見て、心底そう思った。昔の彼女であれば、敵の能力も分からないのに無茶をする事は…なかったわけじゃないなぁ⁉︎いや何というか…確かにやってる事は同じなんだけどね?こう…スタンスが違うというか…「今はどうしようもない」からどうにかする方法を閃くまで戦い続けるのと、「多分大丈夫だから」で突破出来るまで戦い続けるのは違う。後者のような半ば諦めたような考えの元で戦うのでは、きっと足元を掬われる。大丈夫だとは思うけど…万が一の可能性も考えて、すみか達へ連絡はしておこう。
僕が表舞台に出るのは…まだ、早い。
side こころ
「はぁ…っ…!はぁ…っ!」
…おかしい。何度やっても防御を突破出来ない。幸いダメージの蓄積も遅いからまだマシだが、このままだと手詰まりだ。一度大きく跳躍して距離を離す。一旦冷静になって体勢を立て直そう。そう考えた時だった。
「……ぅ…ぐ…っ⁉︎」
「ドウカシタカ?魔法少女ヨ…」
立っていられなくなり、思わず膝を付いた。一体何が起きた?これまで喰らってきた攻撃はどれも軽いものだった。攻撃で血を吐くような事もなく、せいぜい吹き飛ばされる程度だ。吹き飛んだ先で壁にぶつかりはしたが、その程度でダメージを受けるはずがない。仮にダメージの蓄積があったにしても、この不死鳥の力による回復がある以上は気にしなくても良いはずだ。だが…現にオレは立てないほどに消耗している。
「ぐっ…!ぜぇ…っ…ぜぇ…っ!一体…何が…⁉︎」
「ココマデダメージガ蓄積シタンジャ…モウ動ケナイデゴザルナ…」
「回復…してる…はず…なのに…!」
あり得ない。受けたダメージが回復しないなんて事はこれまで無かった。それに、こちらの攻撃が流されるのも不可解だ。分からない事だらけで頭が混乱していく。
「混乱シテイルデゴザルナ…種明カシトイクデゴザルヨ?」
「種…明かし…?」
そうして告げられたのは、オレのブランクを大きく示すものだった。こいつの攻撃は一発一発はほとんどダメージにもならない。だが、衝撃は体の内部にじわじわと浸透し、体内に残り続けていた。衝撃波は体内で他の衝撃波とぶつかり合う事で威力を増し、より強力になった事でオレの回復上限を上回っていた。常時回復するというオレの能力の弱点である継続ダメージ。それを見抜くことが出来ないほど、オレの勘は鈍っていたのだろう。蓄積されたダメージはじわじわとオレの体を蝕み続け、立てないほどに消耗させていた。
「ぐっ…うごけ…ねぇ…!」
「無駄ダ魔法少女…既ニ立ツチカラモ無イ上ニ、ソチラノ攻撃ガ通ラナイ!モハヤ詰ミデゴザル…」
詰みってわけじゃあ無いが、それ以外については悔しいが事実だ。向こうの謎の手段によってこちらの攻撃は通らず、一方的にダメージを喰らっている。肝心の痛みに関しては…正直残念だ。もどかしい痛みが身体中に広がっているのだが、それまでだ。身体を思うように動かせない事も相まって、まるで毒のようだ。だが、意識ははっきりしている分屈辱的だ。
「まだ…だ…!」
だが、諦めるという選択肢は無い。何か方法は無いか。これまでの戦闘経験から逆転の目を探していたオレだが、そんな隙を相手が見逃すはずは無い。ゆっくりと近づいてきた怪人が足を使ってオレの体をひっくり返し、無理やり仰向けにしてきた。
「デハサラニ追イ詰メルデゴザルヨ!」
言葉とは裏腹に、奴が構えたのは拳では無く手のひら。勢いよく振り抜くでも無く、ゆっくりとオレの腹に近づけて軽く乗せた。たったそれだけ。それだけにも関わらず…次の瞬間オレの身体は大きく跳ねていた。
「っあ…⁉︎あああああああああ!!!!!」
突如として身体全体を痛みと快感が貫いた。頭が真っ白になり、勝手に身体が跳ねる。自力では動かせない身体が面白いようにビクビクと跳ねている。視界がチカチカし、思考がまとまらない。こちらを襲った痛みと快感の波は引く事は無く、むしろ身体全体を反響する事で大きくなっていく。まともな思考が出来るようになったのは、腹に触れられてから10秒が経過したあたり。無防備な姿を晒し続けたオレを嘲笑う怪人の声が聞こえ、ようやく思考がまとまってきた。
…何をされた?軽く腹を乗せられただけのはずだ。だが、実際はオレが動けなくなるほどの痛みと快感が襲ってきた。奴の話を元に考えれば、体内に残留している衝撃波を一斉に共鳴させたのだろう。それなら全身にダメージが入ったことも、波が中々引かなかった事も納得出来る。
体内のダメージに加え、久々の痛みと快楽に動けなくなっているオレに、怪人は容赦なく追撃を繰り出す。いっそ殴ってくれた方がマシなほどの状況だが、己の優位を知っている奴はまるで弄ぶかのように、腹を軽く指でつつく。
「ホラホラ!指一本シカ使ッテナイデゴザルヨ?」
「…っ‼︎やめ…っあ‼︎トントン…するな…っ…!」
腹、特に丹田をトントンと指で突かれている。先ほどとは違い、じっくり反応を楽しむために手加減された衝撃波はじわじわと身体を広がっていき、もどかしい痛みを生み出している。甘い痛みが生み出す蕩けるような快感は、初めての経験だ。なるほど。これまでは強力な一撃こそが至高だと考えていたが…こういうのも中々オツなものだ。
身体を動かせずにいる事でなおさら身体の感覚が鋭敏になっているため、どの部分に衝撃波が残留しているか、そこからどう反響しているか、他の衝撃波と共鳴しているかがよく分かる。いや、無理やりに分からされている。
「おまえ…っ…何が…したいんだ…!」
「殺スノハ簡単ソウダカラ遊ンデイルデゴザルナ!」
「は…ぁ…!ん…ぁ…!くぅ…っ!」
それにしても非常にまずい。この状態から抜け出す方法が思いつけない。ブランクに加え、体験したことのない痛みと快楽が思考を邪魔してくる。このままではダメだ。奴が遊んでいるうちにどうにかしなければ。なんとか出来ないかと頭を回す事、十数分。とっておきの策を思いつく。十数分もかかったのは断じてこの快感を味わっていたかったとかじゃない。本当に思いつくのに時間が必要だっただけだ。多分。
今の身体で出せるだけの魔力を込め、腹を直に撫でようとしてきた怪人に向かってステッキから光弾を放つ。直撃させる事は出来ず、掠めただけに終わったが…これで良い。最後の抵抗が虚しく終わったと煽るこいつが、オレの策に気づく事は出来ない。
発射した光弾は弾ける事なく、重力に従って自由落下し…落下に気づき、飛び退いた怪人に触れる事なくオレに直撃した。二重の策を突破してやったと喜ぶ怪人だが、生憎この策は…三重の策だ。直撃した光弾は緻密に組み上げられたオレの中の衝撃波をかき乱し、細胞を破壊して無理やり体外へ衝撃を放出した。無理やり壊してしまえば、いかに衝撃波が身体に溜まろうが関係はない。
「はっ…はっ…!どうだこの野郎!」
「ホウ…参ッタデゴザルナ…アレヲ破ルトハ!ダガシカシ!コチラノ防御ヲ破ル術ヲ持タヌ以上ハ勝テンデゴザルゾ!」
確かにそうだ。こちらの攻撃が通らない原理は未だ不明だが…なんと無く予想はついている。奴に攻撃を当てた際の感覚と、吹き飛ばされた時の感覚、衝撃波の感覚は…どれも同じだった。つまり、奴は衝撃、もとい衝撃波を上手く操っていたのだ。こちらの攻撃を受け流していたのは、能力ではなく奴の技量。衝撃波を体内に残留させ、好きなように共鳴させるなんて芸当が出来る以上、これほどの事を出来てもおかしくはない。
「じゃあ…こういうのはどうだ?」
攻略するなら…これしかないだろう。あえて分かりやすく大きく拳を振り上げて、奴にぶつかる直前に光弾を放つ。奴が想定したタイミングとインパクトの瞬間をずらす事で、受け流しを成立させない。
「ガァッ⁉︎」
「これなら…いけるよな!」
オレがやっているのは、言わばモーションをずらしているようなもの。タイミングよく受けられないようにすれば、奴は攻撃を防げない。なるほどな。戦い始めたタイミングのオレは愚直に突っ込むことしか考えておらず、スピードもパワーもこいつより上だったのにも関わらず、直線的で分かりやすい攻撃ばかりだった。見切られて当然だ。ブランクが無ければすぐに気づけただろうに、やはり戦わずに居るのはダメらしい。
面白いように攻撃が入るようになってからは、一方的だった。文字通りボコボコになるまでに殴りまくった事で、もはや受け流しすら出来ないⅦ。いつも通りの光線技をぶち込めば、お決まりの台詞と共に爆散した。次はⅥらしい。休んでいる暇はない。戦わずにいる事の危険性はよく分かっているつもりだったが、思っていた以上に深刻だった。特に、痛みへの耐性が下がる可能性を考慮していなかった。前のオレだったら、動けていたかもしれない。今回はなんとかなったものの、次も上手くやれるとは限らない。
すみかに怒られるのは怖いが、なんとしてでも戦う事を認めさせなければいけない。決意を新たにして帰宅したオレを出迎えた、
……青い般若の鬼神を見たことで決意が揺らぎかけたかどうかは、想像にお任せする。そういば許可なく抜け出してたな、オレ。やっべ‼︎
こころを笑えないくらいにブランクがあるので書くのが大変でした…
とりあえず完結はさせます。なので最後まで応援よろしくお願いします‼︎
モチベup&番外編用?人気度アンケート どの魔法少女が好き⁉︎
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桃井こころ/プリズムハート
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青木すみか/ブライトダイヤ
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藤原なぎの/グリッドスペード
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緑谷よつは/シャイニークローバー
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白銀あかり/レイスターレット
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リズ/プリズムイクリール