一般警察官の日常   作:名無しの権左衛門

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資産盗難事件

「米花町交番から移動してきた巡査、河野正だ」

「本日づけで、こちらの交番に所属することになる河野です。

よろしくお願いいたします」

 

 新聞の一面を飾ったことがある少女転落事件の報復事件は、

瞬く間に少年探偵団と僕の『巡査』としての名が広まった。

よしよし! このまま5年以内に、刑事課へ所属してやるぞ!

 

「次に私だが、美堂という。巡査長でもある。よろしくな」

「俺っちは、田中だぜ!」

「おん? おいらは、杉方。よろしく」

「お前ら……部長の前では、ちゃんとしとけよ?」

「メリハリは大事なんで」

 

 結局やることはあまり変わらないってこった。

ロードバイクやママチャリに乗って、巡回しなさいってよ。

人使いが荒いんだからさー。

たまには立番させてほしいぜ。

 と願ってすらいないことを思いながら、遠くなってしまった米花町商店街や帝丹小学校等を訪れる。ここらは以前勤めていた交番の管区と被るので、少し巡回や挨拶を済ませたら別の方向へ向かうぞ。

 

「おっ、河野巡査じゃないか」

「あれ、佐伯さん。お世話になっております」

 

 公園で少し休憩していると、佐伯さんが犬を連れて散歩していた。

以前の事件の顛末や世間話を交わして、今はどうなっているのかを伺う。

まあ新聞やニュースで大々的に報道されてしまったから、

さわりは把握できている。

 でも、舞台裏なんて知る由もないから聞いてみるぞ。

どんな言葉が出てくるか、とても楽しみだ。

 

「結局のところ、西多摩市長と米花市長はどうなりました?」

「逮捕と計画の凍結だとさ」

「それは……残念でしたね」

「ああいや、米花町の『花の都』は予算をそれほどかけることもないから、

そのまま続行するってよ」

「そうなんですね。よかったです」

 

 詳細は新聞の通りで、西多摩市のニュータウンが再度凍結され、

人口減少も相まって今後このような議題が上がることはないと断言されている。

もちろん、米花市も中央区である米花町の公園に桜を追加で植えるだけで、

管理が難しい薔薇はなくされたのだという。

 だからお互いにあおりを食らったというわけだ。

それに盗まれていたものも、計画書だったり花の種といったものばかり。

犯人は亡くなり、どうしようもない。

そこで市長の周辺に群がる怪しい人物を、黒羽くんや知り合いの白馬という青年が

一緒になって解決していったという。

 

 佐伯さんはこの『花の都』に関わった知り合いみんなのケアに勤しんでいたらしい。

なにかの縁ということで、近くの空き地を買って植物園を開く予定なんだとか。

 

 万事うまく行って良かったと思うよ。結末は最悪だけど。

 

 佐伯さんとわかれて、しばらく巡回する。

この時間帯だとあまり人が出歩いていないし、平日ということも相まって社会人が

勤務先に集まっている。以前のような空き巣が、こんな空き時間に発生することもあるから、気を抜くこともできやしない。

 っと、おんやあ?

何やら不審な人影を発見する。

 

 空き巣か? 最近防犯グッズの開発が急務になっていて、それに関する販売合戦が行われている

最中だというのに。こういう二番煎じは、面倒な上コナン世界ということも相まって

頭脳犯が湧いて出てくる。あの手この手で、一般市民の財貨を奪おうとするんだ。

絶対に許しはしないぞ。

 アパートが立ち並ぶ低所得者が多く住んでいる区画を中心に、速歩きで巡っているようだね。

どこに用事があるのか、静かに追跡してみよう。

 

<河野~? そろそろ事務作業の時間だぞ?>

「すみません、美堂巡査長。不審な人を発見したのでしばらく、やらせていただきたいのですが」

<捜査中の追跡なら、杉方に代わってもらうように>

「わかりました」

 

 残念ながらタイムリミットだ。現行犯逮捕が明らかな逃走犯なら、そのまま追跡できたっていうのに。

なんとなくだけど、怪しいんだよなあ。

挙動不審というわけじゃないんだけど、なんか脅迫めいた表情をしている。

更にアパートの敷地内に入って、生け垣に何か細工をしているんだ。

 服装や足取り、頭髪からみて生活の質はあまりよろしくない。

ストレスもありそうだし、よく見ればズボンの裾がよれよれだ。

他にも呼吸の質がよくないといったこともある。

 

 何につけても不審であるというわけじゃない。

それでも、今回の追跡対象であるおじさんは、とても怪しいことをしているんだ。

 

「やっと見つけた」

「遅いですよ、杉方巡査」

「すんまへんな。んで、被疑者候補は?」

「あの人です」

 

 影からその人物を見てみると、時折周囲を見渡している。

そしてどこかへ立ち去るのを、杉方巡査が追いかけていった。

僕は目配せされたように、埋められたものを確認する。

 埋められたものは、なにやらケースに入れられたトランプカードのようだ。

いや、トランプというにも……ああ、これはギャザリングのカードだ。

芸術性が高いためか、トレーディングカードとして資産の一部と数えられることがあるらしい。

 

 だからこそ貴重かもしれないカードを、生け垣の根本に埋めていくとか正気ではないと思われる。

すぐに杉方巡査と情報を共有して、米花署の捜査刑事に引き継がないといけない。

ぬあー、事件を追いかけたかったなー。

……交番に帰るか。

 

 

 

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