一般警察官の日常   作:名無しの権左衛門

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警視庁港警察署爆発事件

 今日は非番だー! やったー!

と喜んでいるけど、実は空元気なんだ。

そもそも勉強とアルバイトばかりで、自分の趣味なんてものを醸成する期間がなかった。

だからやることなんて何もなくて、今日も堤無津川緑地公園で軽く運動するくらいしかやることがない。

 のほほんと走っていると、見たことがある少年たちがサッカーをしていた。

その試合を休憩がてら、スポドリ片手に見ていると大暴投ならぬ蹴って放たれたボールが、山なりに飛んでいく。

 

 飛んでいった先には、ここ堤無津川緑地公園の花壇を見に来たであろうカップルがいる。あ。という間に、カップルを襲うと思ったボールは、男性が軽やかな足さばきでボールを止めた。止められたボールは、そのまま蹴り返される。

光彦くんともう一人が、飛ばしてしまった先の男性に謝りに行った。

 育ちが良いねーと感心しながら、過ごしていると自分への視線が2つ増える。

好奇心とか無関心ではなく、強い興味の視線だ。

 

 おかしいなぁ、今日は非番だしそんなに顔が売れているわけではないっていうのに。

 

「河野巡査!」

「やあやあコナン君。サッカーはもういいのかい?」

「うん! ちょうどメンバー交代なんだ!」

 

 興味の視線の一人であるコナン君が、僕が座っているベンチの隣に座る。

めちゃくちゃ明るい笑顔だね。きっと聞きたいんだろうなぁ。

守秘義務があるから、ちょっとご遠慮したいんだけどなー。

 なんて思っていると、さきほどボールを飛ばされたカップルの男性が隣りに座ってきた。帽子とサングラスで人相をある程度、カムフラージュしているんだけど匂いでわかった。黒羽くんだ。そして、このカップルだと思っていた女性の方が、中森青子か。

 

「こんにちは、河野巡査」

「はじめまして、河野さん」

「初めまして、中森警部の娘さん」

 

 怪盗キッドを追っている警視庁港警察署捜査二課、中森銀三警部の娘。

彼女は色んな意味で有名だし、警察学校でも時折耳に挟んだ。

だから、なんでこんなところに居るんだと思わなくもない。

そもそも黒羽くんは、探偵ごとがあまり好きじゃないとか言ってなかったか?

 

「へ~青子のこと知ってるんですね!」

「警察関係者なんだから、知ってるだろーよ」

「快斗には聞いてない!」

「へいへい」

 

 元気な娘さんだ。かくいう平成のホームズさんはというと、僕の胸ポケットにしまい込んである手帳から、マジック・ザ・ギャザリングのカードと死体が発見された場所を書き込んでいる地図を取り出し、ここで広げてみせた。確かに胸の部分が膨らんでいることがわかったのは反省すべき点だけど、やすやすと取られる自分は本当に警戒心がないよなぁ。

 そして広げられた地図を、僕らが見れるように近場にある屋根付きのテーブルベンチへ赴いて広げる。黒羽くんたちは、コナン君が向かっていくのを察知して追いかけていった。はあ……始末書ぉ。

 

「マジック・ザ・ギャザリング。1993年にアメリカが発祥のトレーディングカード。

芸術性の高さから、高額で取引され大会では大量の警備員が居るという。

更に、盗難ところか強盗殺人が認知されており、億万長者にもなれる存在だという」

「ポケモンカードや遊戯王も、商業用カードになってから熱を帯び始めているけど、

歴史が違うね」

「ああ。現代のお手軽彫刻だからな! それに世界で1枚しかないというような限定カードが多すぎるのも、資産価値を高める一因になっているらしい」

「トレーディングカードねぇ。で、今回使われているのは……」

「お父さん曰く、海外で在庫過多になったのを輸出途中で紛失。もともと価格崩壊気味だったから、気にもとめていないみたい」

「管理能力悪すぎじゃねーか?」

 

 なんで二人ともここにいるんだろうなあ。っていうか、黒羽くんがコナン君をなんとも思っていないってことは、まだ邂逅していない? そんなはずない……と思う。コナン君視点で状況を見ていないから、アニメのどこまで来ているのか把握できない。

そもそも毎日が忙しすぎて、確認する意味がない。

 

「河野巡査。今、どうなってるの?」

「あー、ここだけのハナシにしててよ。今朝焼却炉から腕、女優一人の頭、県議会議員の心臓、大量の鳩の死骸から、ギャザリングカードがみつかってる。すくなくとも、女優の方は愉快犯による便乗で終わってる」

「そのカードは?」

「描くよ。待ってて」

 

 情報交換に役立つ絵描きのちからは、警察学校のときから鍛え始めた。

入る前はそんな趣味らしい趣味はなかったと記憶している。

この筆記力は自他ともに、違うイメージを抱かないことに成功しているんだ。

おかげで伝言ゲームをいちいちしなくて良くなってる。

 さすがにギャザリングカードは、デザイン性が高すぎて完全なコピーはできない。

雰囲気はともかく造形は合ってるから大丈夫だよ。

 

「で、ゴミ捨て場、グリストラップで見つかってる遺体はどうなったの?」

「特殊カードの『四肢切断』になったよ」

「それは公式にないな」

 

 ギャザリングカードの一覧を取り出した黒羽くんは、ペラペラとめくっている。

そこに今回発見された場所を書き込んでいってる。

これが愉快犯じゃなければいいんだけどね。

話題を沸騰させるために色々と装ったとか、とてもじゃないけど悪いイメージが湧くぞ?

 そうおもいながら、周辺の地図だけじゃなく東都の地図帳も取り出して書き込んでいく。しかしどう見ても関連性が見いだせない。

 

「ダメだ。わっかんねえ」

「カードの方がダミーなのか?」

「あ、カードってほとんどが英語なんでしょ? 頭文字とか」

「安直すぎるだろ……やってみっか?」

「全体で54件も発生しているのに、わかるのか?」

「やるだけやってやんよ。河野巡査、地図をぐちゃぐちゃにしちゃうけど、いい?」

「いいよ」

 

 ん? ふと、視線を感じた。と思ったら消えた。

周囲に感覚を薄く広げるように、してみるけれどあまり強い気持ちの揺らぎが出ていない。だけど先程感じた視線と逆の方向から、足音が聞こえる。

 その足音は見るよりもわかった。そう、小嶋元太だ。

コナーン! と叫びながら走ってきた彼は、集中しているコナン君に話しかける。

緊急の用事らしいが、彼が話している間不審かつ気配が希薄な大人が一人。

 

 勘が言っている。あいつは黒だ。犯人は犯行現場へもどるというが、本当に戻って来るやつがいるか。

 

「河───」

 

 全力で走り出す。もちろんあの変装した背丈が若干低いやつも、こちらに背を向けて走り出す。視界に収めて距離を縮めたかったが、河川敷ということで堤防を登る必要がある。相手はピッチ走法で一気に駆け上がっていく。その背中に、コナン君のサッカーボールが突き刺さった。

 

「コフッ」

 

 僕はすぐにわざとらしいヒゲや帽子、厚着だと思われるコートを脱がそうとした。

しかし相手は僕の腕をひねっては、脚を使って拘束を抜け出してくる。

一般市民かと思ったけれど、さすがは名探偵コナンの犯人だ。

無駄なハイスペックを披露してくるじゃないか!

 肩の関節を外されて痛みで動けなくなった僕を置いて、颯爽と逃げ出そうとした。

だが。

 

「いい加減!」

「観念しなさい!」

 

 黒羽くんと中森さんが、制圧してくれた。

 

「いつつ……」

 

 アスファルトを利用して、肩をはめる。

しばらく安静にして、逃げようとした男をとっ捕まえることに成功したぞ!

 

「ありがとう、黒羽くん、中森さん」

「「どういたしまして」」

「さあ、素顔を見せやがれ!」

「河野さん、肩痛みますか?」

 

 コナン君も上がってきて、黒羽くんがこの男を固く締めているところを剥いていく。

中森さんに介抱されながら、男の素顔を拝むことができた。

それと同時に、服から見つかった唯一の手がかり。

 

「「「『港を滅ぼす者』?」」」

 

 異口同音で疑問符を浮かべる。

男の顔の方だが、口も鼻もボロボロのくせに意識を保っている。

鼻のボロボロ具合だけど、クロコダイル(石油性)を多量摂取した人みたいな感じ。

拘束を抜けられたのも、少々脳のリミッターを外していたからなんだろう。

 

「港ってなんだ?」

「それよりも坊主、河野巡査に見せなくて良いのか?」

「あ、そういや」

 

 痛みが少し引いてきた僕に、コナン君は元太くんから渡されたと思われるカードを渡してくる。

 

『殺戮の暴君』:この呪文は打ち消されない。

ーよそ者は太陽帝国により「飼いならされた恐竜」に驚くが、ともに生きている者は完全に飼いならすことなどできないことを知っている。

 

「おい、青子! 警部がいる場所は、港警察署だったよな!?」

「え、うん。そうだけど」

「だったらまずい! すぐに退避を」

「ちょ、待ってよ快斗! 今まで警察に被害なんてなかったじゃない」

「青子さん、お兄さんの言うとおりだよ。急に意味ありげで、なおかつ接触してきたんだ。せめて注意だけでも促してみない?」

「コナン君まで? うーん、わか────」

 

 空気が揺れた。すぐにカバンから大きな無線機を取り出して、目暮警部の無線機へ直接電話する。今の時代だとそこそこ大きな携帯電話だけど、まだまだ連絡網が脆弱。ならば、直接無線機でかけたほうが早い。後で懲戒免職だけど、四の五の言ってられない。

 

「な、なんだ、今の」

「花火じゃないよな」

「あ、あれ?」

「どうした、青子」

「お父さんの部署内線に繋がらない!」

「なんだって!?」

 

<はい目暮だ>

「おはようございます、南交番の河野です」

<河野くんかね? 一体何が>

「警視庁南警察署で爆弾テロです。対応する部隊を派遣して下さい。

また、救急と消防もお願いします」

<待て待て! そんなことを言われてもだね、直接電話するのは>

「今、堤無津川緑地公園で犯人の一味を捕らえました。

コナン君や黒羽君、中森青子さんと一緒に尋問しています」

<なっ!?>

<『警視庁港警察署で爆弾テロが発生。実行犯は1名。

ライフルを乱射し、手榴弾で襲撃しました。

機動捜査隊はただちに防弾チョッキを着用の上、現場へ急行して下さい』>

 

 あーらら。すこし遅かったかな?

 

<わかった。すぐさま急行する! 河野くん、堤無津川緑地公園にも応援を送る。

対応を頼んだぞ>

「は! かしこまりました!」

 

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