「3199」で主題になるであろうデザリアムを省いてはいますが、2205での出来事を無かった事にするような暴挙まではしていません。また2023年㋄現在で公開されている「3199」の要素も最低限取り込んでいます。
連載中に「3199」の追加情報で採用可能な情報が出次第、それらをプロットにフィードバックする形で反映していこうと思います。
注:公式でボラー艦の艦種名が公表されたため、各艦の艦種名を公式のものと同じものへ変更しました。
西暦2207年。
四年前のガトランティス戦役、更にその前のガミラス戦争からの復興も進む地球は平和な時代を謳歌していた。
先の絶望的な消耗戦を繰り広げたガトランティス戦役からはや四年。軍備の拡張で後回しにされていた民間の復興も徐々にその規模を拡大し、ガミラス戦争後も荒涼としていた大地には緑が戻り、都市の再建が進んでいた。
そんな青と緑に輝く地球を一人の男が地球軌道上の航宙艦艇の艦橋から眺めていた。
「地球か……青く輝くかつての姿を取り戻しつつある星……」
専用の椅子に腰かけて地球をガルマン・ガミラス帝国総統アベルト・デスラーはその青く輝く地球を内なる感情を含めた表情で見つめていた。
「やはり、彼の事を思い出しますか?」
地球を見つめるデスラーの脇からガルマン・ガミラス帝国首相ローレン・バレルが問う。
無言を返すデスラーにバレルも地球に視線を向けながら続ける。
「貴方の甥、ランハルト・デスラーが我々人類と言う種を守る為にその命を捧げてはや四年。早いものですな、クラウスが死んでもう四年です。可愛げが出て来た彼が守った星は今こうして今も青く輝いている」
傍らで語るバレルの言葉に耳を傾けるデスラーの脳裏に自身の甥、ランハルト・デスラーの姿が映る。
血塗られたデスラー家の家系争いから追放され、その後紆余曲折を得てガミラスの地球大使として赴任したバレルの元でクラウス・キーマンとして働く一方、民主ガミラスとデスラー体制派との間で活動する二重スパイとなり四年前のガトランティス戦役では宇宙戦艦ヤマトに乗艦してヤマトの乗員と共にテレサの元へ向かい、そこでデスラーと再会を果たした。
最終的にデスラーと共に征く道ではなく、苦楽を共にしたヤマトと地球と共闘する道を選んだランハルトは地球に攻め込んだガトランティスと地球との戦争で地球人類のみならず全宇宙の「人類種」の絶滅を目論むガトランティスを止める為にその身を捧げ命を落とした。
デスラーが今バレルと共に乗っている艦の名はデウスーラ三世級特一等航宙戦闘母艦「クラウス・キーマン」。デスラーが直々に名付けた艦だった。デスラーとしては「ランハルト・デスラー」と命名したいところもあったが、建国間もないガルマン・ガミラス帝国国内には「デスラー家の真実」を明かすにはまだ早いと判断した事、地球との親善外交船としての任務も兼ねた任務の性質上地球防衛の為にその身を捧げたガミラス人の名は地球人からの対ガミラス感情も多少は和らぐだろうと言う判断から「クラウス・キーマン」と命名された。
地球との外交船も兼ねているとは言っても「デウスーラ三世」の同型艦なだけに地球で言う所の波動砲であるデスラー砲は装備されている。寧ろ現在ガルマン・ガミラス帝国が敵対している星間国家との戦いを想定し、収束モードしか撃てなかった一番艦「デウスーラ三世」とは違って拡散モードも選択可能な様にマイナーチェンジが施されている。また地球で言う波動防壁に当たるゲシュタム・ウォールも強化されており準同型艦または改デウスーラ三世級と言ってよい具合に違いが生じている。
「しかし、本当に宜しいのですね? 貴方自身が地球に降り立つと言う事は地球市民から何か狼藉を振る舞われる可能性もあると言う事ですよ」
「その覚悟無くしてここまで出向いたりはせん。石を投げたければ投げればいい。かつてこの星を滅ぼしかけた全て責任は私に回って来る。地球人の中には家族を我がガミラスの手で失った者は大勢、いや無数にいる。私が憎まれて当然だろう。
彼らと友情を今なお維持出来ているだけでも奇跡と言うに他ならない。この奇跡を維持し続ける為なら狼藉の一つや二つ、百でも構わん。今のガルマン・ガミラスにはこの奇跡で出来た地球との友情が必要なのだ」
そこまで言ってふとデスラーはバレルに顔を向けた。
「バレルくん、君のご家族は……」
「先月確認が取れました……やはり駄目でした……」
「そうか……すまなかった。あの時無理にでも『デウスーラ三世』が降下していたら」
沈痛な表情でデスラーはバレルに詫びた。
二年前。謎の外敵デザリアムによる攻撃で惑星としての寿命が尽きつつあったガミラス星は破壊され、多くのガミラス臣民が犠牲となった。惑星の寿命から来る新天地への移住計画自体ははるか前よりスタートしており、二年前にガミラス人発祥の地であり当時はボラー連邦と言う巨大な星間国家の資源惑星となっていたガルマン星の解放直後から移住が始まっていた。その移住計画真っ只中にデザリアムの無差別破壊攻撃でガミラス星は破壊され、バレルの家族達も無数のガミラス臣民犠牲者の中の一人となった。
「過ぎたことを悔いても始まりません。あの時貴方が生き延びてくれたお陰でガルマンとガミラス、二つの星に住まわっていた星の民を一つに導く方が今ガルマン・ガミラス帝国の総統としてまとめ上げ、導いてくれている。あの時無理に救出を敢行して艦がマグマに呑まれて沈んでいたら、ガルマン・ガミラス帝国を統べる者が居なくなってボラーを前に我々は成す術も無かったでしょう。
貴方が居てくれるおかげで私もヒス総理の後釜をするだけで済んでいる。今は過去よりも明日の事を考えましょう」
「そうだな」
とは言え、デスラーとしてあの時ああしていれば、と思ってしまうモノはある。ガミラス星がマグマに包まれる中、臣民を救助せんと強引に降下しようとしたデスラーの座乗艦の降下先にバレルの家族が住まう家があったのだ。
たれらばの話をしてももうどうにもならないとは言っても、デスラーとして自分の命と引き換えに見殺しにしてしまったと言う罪の意識に苛まれる事が今でもある。
しかし新国家としてガミラス星の生き残りやそれ以前の植民惑星への入植などで銀河各地に散っていたガミラス人がガルマン人と共に建国したガルマン・ガミラス帝国は今、新たな脅威にその日々の安全を脅かされていた。
ボラー連邦。確認されている人類が存在する銀河の星々の凡そ三分の二を支配下に置く巨大な星間国家だ。ガルマン星も元々はボラー連邦の辺境中の辺境に位置する資源惑星だった。資源と言っても鉄や石炭と言った天然資源だけでなく、ガルマン人自体も人的資源として搾取され奴隷以下の扱いを受けていた。
デスラーが艦隊を率いてガルマン星を統治していたボラー連邦の代表との外交交渉を行い、交渉決裂後の戦闘でガルマン星を奪還、解放して以降、ガルマン・ガミラス帝国とボラー連邦は戦争状態へ突入しつつあった。
この二年で急激にガルマン星、現在はガルマン・ガミラス帝国本星は発展し、荒野が広がっていた大地には都市建設が進み、デザリアム軍との戦闘で損耗したガミラス軍はガルマン・ガミラス帝国軍として再建、再編成が進んでいるが、広大な支配領域から得られる圧倒的な軍事的物量を誇るボラー連邦軍の数度に渡るガルマン・ガミラス帝国への侵攻作戦にデスラーは危機感を覚えていた。
これはガルマン・ガミラスの問題とは言え、今のガルマン・ガミラスだけではボラーの侵攻を防ぐ事は出来ない。
そこでデスラーが藁にも縋る思いで頼ったのが安全保障条約を結んでいる仲である地球だった。地球はかつてガミラスとの戦争で滅びかけたが、宇宙戦艦ヤマトの活躍と「ヤマト」がイスカンダルから持ち帰ったコスモリバースシステムのお陰で奇跡的な復興を遂げた。ガトランティスと言う新たな外敵に再度敗北を喫しかけたもののまたしてもヤマトの活躍もあってこれを退け、現在は平和主義国家としてガミラス戦争、ガトランティス戦役で受けた戦災復興と地球人としての種の繁栄に力を注いでいる。
今のガルマン・ガミラスに頼れる同盟国は地球以外ないと言っていい。フェルラントと言った親ガミラス国や同盟国はあるにはあれど強力な宇宙艦隊を保有しているガミラス同盟国となる星間国家は地球しかない。
ガルマン・ガミラスの防衛の為に助力を願う為に、デスラーは自ら地球へと参ったのだ。
「地球も決してボラーの並ぶ物量がある国ではありません。それに二年前のデザリアムとの戦いに巻き込んでしまったからには彼らがデザリアムに報復を含めて狙われる可能性も無いとは言い切れない。我が母星を容赦なく破壊したデザリアムです。地球に対してもどんな手を使うか分からない。
最悪断られる可能性もあります。その事は分かっていますね?」
確認する様に尋ねるバレルにデスラーは頷く。
「無論だ。友情とは必ずしも無償で得られるものでは無い。それに友人を便利屋扱いする事は非常におこがましい事でもある。
だが今のガルマン・ガミラスにはそのおこがましい態度を取らなければ明日は無い」
最後の言葉と共に再びデスラーが地球を見つめ直した時、艦橋内に「クラウス・キーマン」乗員の大気圏突入準備の号令がかかった。
赤いビームの光芒が漆黒の宇宙空間を飛び抜け、青紫の艦体色の戦艦の舷側を射抜く。
射抜かれた個所から誘爆の炎を走らせ、真っ二つにへし折れた艦体が宇宙の塵となって消え去る。
「敵前衛艦隊、撃破!」
「まだコイツらは前菜だ! 次はスープだぞ」
ガルマン・ガミラス帝国艦隊第1空母打撃群司令官兼旗艦ガイペロン級多層式航宙母艦「ランベア」の艦長のフォムト・バーガー大佐の檄を飛ばす声が「ランベア」の艦橋内に響き渡る。
「艦隊の損害は?」
第二波が来る前に自身の艦隊の損害をバーガーは確認する。
「クリピテラ級3、ケルカピア級2、デストリア級1大破、ガイデロール級1中破。撃沈はありません。大破艦は離脱して後方の工作艦に預けます」
「ようし」
とは言ったものの、初手から六隻が戦列から脱落するのはやはり痛いものだとバーガーは右手の拳を握り締める。バーガー艦隊とも呼ばれる第1空母打撃群はクリピテラ級航宙駆逐艦一六、ケルカピア級航宙高速巡洋艦八、デストリア級航宙重巡洋艦八、ガイデロール級航宙戦艦二、CCC級航宙戦闘母艦三、そして「ランベア」の計三八隻だったが、大破艦を後方に下げた結果三二隻に数を減らし、その内一隻は手負いの状態ながら無理をして前線に残っている状態だ。
対する敵、ボラー連邦軍は前衛第一波だけも五〇隻以上のクロトガ型戦艦(戦艦A)、アマンガ型ミサイル戦艦(戦艦B)、ガノンダ型航宙母艦と言った艦艇で構成された大艦隊で押し寄せて来た。ガノンダ型航宙母艦は艦載機の数がそれほど多くない事もあって、アンドロメダ級前衛武装宇宙艦の空母型のガミラスライセンス生産艦であるCCC級「ノイ・バルグレイ」「ノイ・シュデルグ」「ノイ・ダロルド」と「ランベア」の四隻の航空戦力でも充分拮抗出来、航空優勢の失陥は起きなかったものの、逆にバーガー艦隊も航空優勢の確保は出来なかった為艦隊への満足な航空支援が行えず、結果として激しい砲撃戦でどうにかこうにかボラー艦隊を退けた形だった。
「偵察機より入電。敵前衛第二波、五七隻、警戒ラインへ進入中」
「全艦、大破艦の離脱完了まで第二防衛ラインまで一時後退。航空隊、補給急げよ」
戦術的後退を指示しバーガーは「ランベア」と共に艦隊を一旦防衛線を後方へと下げる。大破艦が離脱して後方の工作艦に修理されてまた戻って来れば艦隊の頭数は元通りだ。少なくとも頭数は元通りになる。
「つっても、どこまでこの戦線を維持できるか……」
両腕を組むバーガーは「ランベア」の周囲を囲む僚艦の艦体に目を向ける。どの艦も真新しい修理の跡が残っている。地球製なだけあって鉄壁の防御機構である波動防壁を備えているCCC級ですら、波動防壁臨界点を迎えて防壁が消失し直に艦にダメージを受けた時の傷跡に応急処置を施しただけである。
唯一バーガー艦隊で無傷を保っているのが「ランベア」だけだった。八年前に「ヤマト」と交戦して被弾してからこっち「ランベア」が被った被害は無い。バーガーは「『ヤマト』に一発ぶん殴られてから幸運の女神に目を付けられた」と「ランベア」の強運を例えているが、その強運も果たしていつまで持つかと不安になる局面が多々あった。
艦は修理出来ても、乗員の消耗はどうにもならない。皆、バーガーを含めて連日の連戦で疲労が溜まり始めている。
「メシ食う暇もねえぜ」
ぼやきながらバーガーは第二防衛ラインと定めた宙域への後退を急いだ。
地球では地球連邦大統領とデスラーとの首脳会談が執り行われていた。本来であるなら国賓としてまぬかれ、祝賀パレード等が執り行われている筈だったがデスラー自身がそれを固く固辞した為「クラウス・キーマン」が新・富士宇宙港に着陸して直ぐに大統領官邸にリムジンで向かったデスラーは連邦大統領との首脳会談に臨んでいた。
「デスラー総統、遥々ガルマン・ガミラス星からご足労いただき恐縮です」
軽く一礼をした連邦大統領にデスラーもガルマン・ガミラス式の一礼をして挨拶に応じる。
「本日は私の方から地球の方々に重大な要請があって来訪させて戴いた。こちらから出向くのが礼儀と言うモノであろう。
早速だが、本題に入りたい大統領閣下」
二人は大統領府の会議室のテーブルの席に座ると会談を始めた。時間も惜し気な表情のデスラーに連邦大統領も省ける事は省いて事を進めるべきだと心得ていた。
「重大な要請、と言う事ですがデスラー総統。我が地球連邦に具体的にどのような要請を申し出ると言うのです?」
「貴方がた地球でも話は出回っていると思われるが、我がガルマン・ガミラス帝国は現在、ボラー連邦の戦争状態に突入した。ガルマン星を奪還するにあたって事前に外交努力は尽くしたが彼らは取り合う術も無く、話し合いのテーブルの座に就く事も無かった。
故に我等は武力を持ってガルマン星を奪還し、ボラー連邦の残存勢力、捕虜等をボラー連邦本土へ送還したのだが彼らはガルマン星を我がガミラスに奪われた事で自身のプライドを傷つけられたと思ったようで度重なる我がガルマン・ガミラス本星への侵攻を試みている。
大統領閣下、私は貴方がた地球人の平和主義に敬意を表したい。我がガルマン・ガミラスが今後見習って行くべき対外姿勢だと私は思っている。だからこそ私はガルマン星を奪還する際、武力に訴える前に外交努力による解決を重視した。無用な血を流す事を良しとしないからこそだったが、ボラー連邦からすれば我々は家畜と全く変わらなかったのだ。家畜と話し合いはしない、それが彼らの主張であり意志だった。
どれ程平和的な解決を望んでも私は家畜の王に過ぎなかった。だから最終手段として武力行使に出た。そしてボラー連邦は我々家畜風情に負け、領土を失陥した。
辺境に位置する資源惑星一つ、失っても腹が痛む様な国ではない。だが我々がガルマンを奪還した事でどうやら連邦内ではかねてからボラー連邦の圧政に苦しむ各地の自治共和国の分離主義運動が活発化してしまったらしく、我々ガルマン・ガミラス帝国は単なる領土の掠め取り者では済まされなくなった。
今なおボラーはガルマン星の奪還と連邦の支配体制にひびを入れた我が国を抹殺し、分離主義運動への見せしめにしようとしている。我々としてここで負ければガルマン、ガミラス民族は再び無限の宇宙に自らの居住に最適な星を探す果てしなき旅に出ざるを得なくなる。
それだけではない。地球へも何れ彼らが侵略の手を伸ばす可能性が高い。現に我が国と接触する前、君たちの領域にボラーの船が流れ着いている」
「火星で発見された異星文明の戦闘艦の事ですな。当該船舶は残念ながら現存しませんが調査資料や写真が残されており、尚且つ我が地球防衛海軍の艦艇はその異星文明の戦闘艦を解析して得られた技術で誕生した様なものです。
始め私は異星人との初めての邂逅はガミラスではなく、火星に流れ着いていた戦闘艦の持ち主たちであると思っていましたが、三〇年以上の時を経てボラーの船だったと言う答えが導き出され、何かの因果を感じざるを得ない所です。
デスラー総統、貴方の仰る通り我が地球連邦にとってもボラーは潜在的な脅威となるでしょう。ですが、貴方がたに直接助力をすればボラーは我が国を直接的な敵対国とみなすでしょう。我が国として他国の争いに介入する事は望ましい事ではありませんし、敵を新たに作り三度地球本土を危険に晒す頃は大統領の任を預かるものとして認める訳にはいきません」
地球としての立場を表明する大統領にデスラーは頷きながら内心、やはり無理か、と言う諦めに似たものを感じつつあった。
大統領の言い分は理解出来る。地球として一度は滅亡の危機に瀕し、一度は本土へ敵性国家の艦隊の侵攻を許すなど二度に渡って全面敗北を喫しかけたのだ。これ以上星間国家同士の戦争に関わるのは御免被りたいと言う地球側の主張は理解出来る。
そもそも多くの地球人が「滅亡」のトラウマを植え付けられた張本人は他ならないガミラスなのである。心の奥底ではこの際一度自分達が味わった「滅亡の淵に立つ絶望感」と言うモノをガミラス側にも体験してもらおうと言う感情すらあるかもしれない。
「ですが……」
再び口を開いた大統領の言葉にデスラーは我に返った。
若干顔を伏せテーブルの上に組んだ両手を握り締めながら険しい表情で大統領はデスラーを見据えて続けた。
「我が国、地球人にも恩義と言うモノはあります。先のガトランティス戦役で貴国が我が地球人類含めた全人類種の防衛に尽くしてくれた事は忘れようもありません。今回貴方が地球来訪に際し乗艦して来た戦艦の名の由来となったガミラス人の献身もあって今の地球があると言っても過言ではない。
それに貴方がたと我が国とでは安全保障条約が存在する。先のガトランティス戦役、イスカンダル事変ではこれに則った軍事作戦が実施された。そして安保条約は現在でも有効です。
デスラー総統、私個人して連邦防衛軍の一部を貴国に派遣して領土の現状維持の助太刀をしたいと言う思いはあります。ですが我が国は知っての通り民主主義によって成り立つ国です。私個人の判断で決めかねる問題であります。議会で討議を要するテーマになるでしょう。
最低でも二週間後には閣下のご希望に添えられる答えを出せるか、出せないかが決まるでしょう。私としても貴国への助力への賛同を得られる様最大限努力させて戴きます」
「大統領閣下、貴方の好意と判断に心から感謝を述べたい。二週間後、どのような形であれ地球側の意思となる答えをお待ちしたい」
感謝の念を述べるデスラーは深々と頭を下げた。二週間は地球側の都合で待たされることになる。それは民主主義を国是とする地球連邦の政治体制上致し方無い。無論デスラーも地球側の事情は心得ている。ダメもとで今回地球へ応援要請を求めに来た事は承知の上だ。だから最悪地球側が協議の末協力を断る事もまた考えておくべきだろう。少なくとも連邦大統領の個人的な心はガミラスへの助力に傾いている。が、地球連邦政府の閣僚や議員たちがガミラス援助に反対する可能性はある。
その時は潔く諦めるしかない。ガルマン・ガミラスに余裕は無い。地球だけが唯一の頼りの綱だった。
(これも、己の選んだ道が招いた結果か)
胸中で独語しながらデスラーは連邦大統領との会談を終えた。
地球連邦防衛海軍 呉基地
武野内駿(たけのうち・しゅん)一等宙尉は宇宙艦艇が多数繋留された海上ドックの埠頭を歩きながら、呉基地の海面に浮かぶ航宙艦艇の数々を眺めた。
葉巻型の艦体の村雨型巡洋艦や金剛型宇宙戦艦、エンケラドゥス級パトロール艦、フリントロック級護衛艦、更にはエンデュアランス級駆逐艦と言うガトランティス戦役以後に就役した新造艦艇も四隻停泊していた。
多数の艦艇が停泊する埠頭の中には武野内が艦長を務める艦も停泊していた。
その艦、第六巡洋艦戦隊所属村雨改二型巡洋艦青葉(CAS485)は三か月前に大規模な改装工事を終えて出渠したばかりだった。青葉の横には同じ村雨改二型への改装を受けた同じ第六巡洋艦戦隊所属の衣笠(CAS486)も停泊している。青葉と衣笠の他に第六巡洋艦戦隊を構成する古鷹、加古も村雨改二型への改装を受けており、第六巡洋艦戦隊は村雨改二型四隻で構成される地球連邦防衛軍初の巡洋艦戦隊でもあった。
村雨改二型の主な改装点は主砲をそれまでの短砲身ショックカノンからパトロール艦の物に換装した事と、艦首の二〇センチ陽電子衝撃砲(ショックカノン)を護衛艦のものと同じ小型波動砲に換装した事、機関部である波動エンジンを同様にパトロール艦の物をチューンアップしたものに換装した事だった。これにより二〇分の間波動防壁と呼ばれる鉄壁の防御力を発揮できるほか、収束モード限定とはいえ絶大な火力を誇る波動砲も発射可能になっていた。また短砲身ショックカノンからパトロール艦と同じ長砲身のショックカノンに変更した事で仰角が大きくとれる様になっていた。
時間断層工廠と言う資源を放り込めば無尽蔵の工業生産能力を発揮出来る工廠を失った地球では、ガトランティス戦役まで続けていた軍拡を止めて地球の国力に見合った軍備整備に方針を転換していた。その為、使えるものは可能な限り使い続けると言う本来であれば退役する予定だった第一世代艦艇にも大規模な近代化改修が実施されており、青葉含む第六巡洋艦戦隊は村雨改型を配備した部隊で最初にその改装プログラムを終えた部隊でもあった。
青葉は歴戦の巡洋艦でもある。武野内が生まれた年でもある西暦2179年の第二次内惑星戦争による当時の国連宇宙海軍の大規模な軍拡と増産計画の中で建造、就役し、西暦2180年の第二次内惑星戦争の最終決戦となった火星沖決戦にも衣笠、古鷹、加古の三隻の僚艦で構成した第六巡洋艦戦隊の一隻として参加しこれを戦い抜いた。
続くガミラス戦争では外惑星防衛戦等の主要な海戦に参加し、第一次火星沖海戦では衣笠、加古が中破して戦線を離脱する中も無傷で生き延びたが第二次火星沖海戦で大破し長期間の修理離脱を余儀なくされた。この為国連宇宙海軍の最後のガミラスとの決戦となった冥王星沖海戦には参加出来なかった。
その後地球再生後の国連宇宙軍を再編した地球防衛軍の発足と、新造艦艇の就役までの間の戦力補填の為にドックで放置されていた青葉を始めとする第六巡洋艦戦隊も改装を施され、核融合炉を主機としていた機関部は量産型波動コアを中核とした波動機関に換装され、魚雷を除く全火器がショックカノンを撃てる村雨改型へとパワーアップされた。
武野内が青葉に乗り込んだのは先のガトランティス戦役の事。砲雷長として乗艦し火星戦線で第六巡洋艦戦隊四隻による一斉ショックカノン砲撃でカラクルム級戦闘艦一隻を仕留めてのけた。最終的には第六巡洋艦戦隊全艦がガトランティス軍との交戦で中破し、戦線離脱を余儀なくされ新造艦艇の建造で一杯の時間断層工廠での修理を受けられず通常ドックで修理中に三度目の戦争を終えた。
そして戦後、砲雷長から艦長へと就任した武野内を新たな艦長として迎えた青葉は大規模改修やその後の試験航海を終えて一息ついている所だった。
埠頭を歩く武野内の先に一人の男が青葉を眺めながら立っていた。その陰に気が付いた武野内は親しみを込めて男の名を呼んだ。
「仁科さん、また青葉の元に戻ってこられましたか」
名前を呼ばれた男、仁科春夫(にしな・はるお)一等宙尉は首を武野内の方に回して姿を認めるやサッと姿勢を正して敬礼した。
「お元気そうで何よりです。武野内艦長」
「そんなに畏まり過ぎないで下さい、先輩」
苦笑交じりに敬礼する仁科に楽にしてくれと頼む武野内を仁科は生真面目な顔のまま敬礼を解く。
先月二尉から昇進したばかりの仁科は第六五護衛隊所属の宇宙戦艦ヤマトの砲雷長として乗艦しているが、二〇歳の時の彼の初陣となった第一次火星沖海戦を当時村雨型巡洋艦だった青葉の乗員として迎えた経歴があった。青葉に乗艦していた、と言う意味で武野内の先輩にあたる人物であり、同時に宇宙防衛大学幹部候補生学校では親友でありライバルの坂巻浪郎(さかまき・なみお)と共に赤鬼青鬼として武野内等を扱き抜いた間でもあった。
一等宙尉への昇進自体は武野内の方が速かったとは言え、年齢でも軍歴でも、そして教官として指導して貰ったと言う意味でも仁科相手に武野内が敬意を抱くのはごく自然な流れであった。
「畏まらなくていい、と言う言葉に甘えさせてもらうよ武野内。やはり古巣が懐かしくなるものでな。特に軍人としての初陣を迎えた艦をこうして今も見られることに嬉しさを感じるものだ」
「第二次内惑星戦争、ガミラス戦争、ガトランティス戦役で多くの第一世代艦艇が失われましたからね。坂巻さんの初陣を飾った鬼怒も沈んでしまいましたし、思い入れのあった艦が軒並み沈んでしまったと言う先輩は結構見ますね」
「俺と青葉は運よくガミラス戦争もガトランティス戦役も生き延びた。それに最初に乗る機会は逃したが本来乗艦する予定だったヤマトに今は乗れている。運が向いて来た感じはあるな」
「そう言えば、一尉に昇進されていましたね。昇進おめでとうございます」
「ありがとう。先に一尉になって青葉の艦長を拝命したお前がちょっとだけ羨ましくも感じたが、正直今の俺は今の自分に満足しているよ」
「あの名艦ヤマトの砲雷長ですからね、皆が配属先として希望すると言う艦」
宇宙戦艦ヤマトの名とその活躍を知らぬ者は地球にも、今の同盟国ガミラスでも知らぬ者はいないと言っていい。青葉で最初のキャリアを飾った仁科もヤマトの初の航海にクルーとして乗り込む予定だったが、乗艦予定のクルーが退避していたシェルターがガミラス軍の爆撃で破壊された際に負傷して乗艦出来なかった。それから六年後の2205年に初めて二等宙尉の砲雷長としてヤマトへの乗艦を果たした。
「今日は新型空母の就役式典があるが、お前は見に行かないのか?」
「生憎、青葉の艦長としての仕事があるので後でライブ配信録画を見る事にしますよ。本音を言えば立ち合いたかったんですがね」
「そうか。艦長になると仕事も増えて大変だな」
「仁科さんもヤマト砲雷長になって結構忙しいのでは?」
「ああ、一分隊のトップが俺だからな。最近若手乗員の補充もあってその監督で忙しいぜ。だがヤマトは誰でもプロ級の働きをしないとやっていけない艦だからな。そこの所はきっちりやっていかねえと駄目だ」
仁科の口癖である「プロは甘くぁねーんだよ」の言葉通り厳しい上司としてヤマト砲雷科の部下に檄を飛ばしている姿が武野内の脳内で容易に想像できた。職人気質なだけあって自分にも他人にも厳しい。
頼もしい限りだ、とほほ笑みながら武野内は視線を別方向に向けた。仁科の言っていた新型空母の就役式典が執り行われているドックだった。
武野内が視線を向けている先のドックでは軍艦マーチが演奏される中、新造空母の就役式典が執り行われていた。
「改アンドロメダ級すずらん型空母一番艦AAAC0001すずらん。ようやく完成ですね」
新造空母の就役式典の来賓席に座る古代進(こだい・すすむ)一等宙佐がドックに巨体を置く空母すずらんを眺めながら、隣の地球防衛軍統括司令長官の藤堂平九郎(とうどう・へいくろう)に言う。
「時間断層を用いらない、人の手で作り上げられた艦だ。造船技術の継承を目的としただけあって相応の期間を要してしまった為にガトランティス戦役には間に合わなかったが、現在の多機能複合型標準戦艦構想にも沿った空母だ。
ところで艦名でもあるすずらんの由来となった鈴蘭の花言葉は知っているかね?」
そう尋ねる藤堂に古代は「いえ」と軽く首を横に振る。
藤堂は古代と同じく巨大なすずらんの艦体を見上げ、その舷側に書かれた「SUZURAN」の名前を見つめながら続けた。
「すずらんの花言葉は『再び幸せが訪れる』と言う意味だ。ガトランティス戦役以後イスカンダル事変を除いて今の地球は平和だ。その地球に再度の幸せをもたらす艦の名前として私はすずらんと言う名を選んだのだ」
「再び幸せを……しかし、デスラー総統が来訪したと言うのが気になります。ただ親善交流の為だけに来たとは思えない」
「うむ……現在大統領を始め政府閣僚や議会で最重要課題として討議が行われている事なのだが、デスラー総統は我々地球防衛軍にガルマン・ガミラスへの派遣軍を要請して来たのだ。地球ガミラス安保条約に基づいて、と言うのがデスラー総統の主張だ」
「敵はボラー連邦ですね」
「そうだ。デスラー総統の話では無尽蔵に思える物量をもった波状攻撃を行ってくるガトランティスを彷彿させる敵だとの事だ」
ガトランティス。その名に古代の表情が曇る。ガトランティスのと地球との決戦の最前線にヤマトに乗り込んで戦い、結果として時間断層破棄に至るまでの騒動の中核となってしまった古代である。様々な感情がひしめいている事はその顔をみれば分かる事だった。
「だがボラー連邦はガトランティスとは違うメンタリティーを持つ。降伏を認めず、戦うか死ぬかの二択を強制して来たガトランティスと違いボラー連邦には慈悲がある」
「デスラー総統からボラー連邦については多少伺った事があります。自分達を家畜と見て相手にしない、と」
「確かにガルマン・ガミラスを自分達と同じ人類種とみなしていないボラー人もいる。だがボラー連邦はその名の通り連邦国家だ。多くの自治共和国で構成された国である事もあってガルマン・ガミラスと対等な外交交渉の座に就く事をのぞむボラー人もいる」
地球連邦と同じく自治国を多数一つの統治機構の元に統べた国であるボラー連邦はそれ故にガルマン・ガミラスへの対外姿勢も多種多様になっていると言う事か、と古代は納得した。地球連邦も日本やアメリカ、ドイツ、ロシア、英国と言った地球連邦を構成する州となったかつての国家群から構成されている。地球防衛軍も日本の航宙自衛隊を始め、アメリカ宇宙軍、ロシア航空宇宙軍、英国宇宙軍等が寄り集まって一つの地球防衛軍と言う組織を構成している。
古代と藤堂の目の前に鎮座しているすずらんは地球防衛軍日本艦隊航宙自衛隊が保有する事になる新造空母だ。二人が揃って見下ろす先では艤装委員長兼初代艦長である熊谷弘人(くまがや・ひろと)一等宙佐が就役式典に参加した一般市民やこれからすずらんの初代乗員として乗り込むことになる乗員達を前にスピーチを行っていた。
五分程度で自身のスピーチを締めた熊谷が演台から降りると、地球連邦大統領の祝辞が始まった。
「大統領、会議に出席しなくていいのですか?」
「大統領府では既に見解は一致したそうだ。今は上下の議会での審議が行われる」
「ボラー連邦との戦争は既に始まっていると言うのに、地球は呑気に会議を通してからですか」
「感情論から一軍人としての現場判断でイスカンダル事変に介入した君と違って大統領を始め、上に立つ者達は地球連邦政府の政治家なのだ。本来であれば軍と政府が協議を重ねたうえで他国の戦争に介入するか否かを決めなければならん。それが民主主義を国是とする地球連邦だ。
無論誰もが分かっている事でもある。地球ガミラス安保条約。これがある以上は助けを求めるガルマン・ガミラスへ助力の手を差し伸べないと言う話は無い。だが仮に地球側として派遣軍をガルマン・ガミラスへ送ってしまったらそれはボラー連邦からガルマン・ガミラスの同盟国と認識されてまた地球を星間戦争に巻き込むことになる。
君自身常に最前線に立って来たから分かると思うが、地球は大規模な星間戦争を四度経験し、その内三回は負け、その三回とも本土への敵の攻撃または侵入を許している」
藤堂の言う四度の星間戦争は国連宇宙軍時代に勃発した火星に移住した人類(マーズノイド)と地球との二度に渡る内惑星戦争が含まれている。第一次内惑星戦争では火星側の隕石を利用した地球本土攻撃が数回実施され、この時の火星側の攻撃に対して避難用の地下都市を建設したのが結果としてガミラス戦争時の遊星爆弾による爆撃から当時の人類の人口の三分の一以下を守り抜いた。
地球本土が赤茶けた大地に変貌させられたガミラス戦争の後、ガトランティス戦役では防戦に当たった地球軍は壊滅し、地球本土へガトランティス軍の艦艇の降下を許した。ガトランティス軍の着上陸などは行われなかった為地球市民は陸上戦に巻き込まれずに済んだとはいえ地球は三度にわたって外敵からの攻撃や侵入を許した苦い経験がある。
地球連邦政府がまた地球本土への侵攻や攻撃を受ける可能性がある状況を忌避しようとするのは当然の事と言えた。
なお藤堂の言うイスカンダル事変とはガミラス星への謎の外敵デザリアム軍による攻撃とそれによるガミラス星の破壊、続くガミラス星と連星であったイスカンダル星を巡るガミラスとデザリアムの戦いとそれに第六五護衛隊のヤマト艦長古代の独断による介入によって発生した軍事衝突の事を示す。このイスカンダル事変で曲がりなりにも既に当時のガミラスと対立路線が確定していたボラー連邦とガミラスの戦争に地球も巻き込まれる不安が惹起する中で別勢力であるデザリアムを敵に回してしまったと言う過去がある。イスカンダル事変の時の報復を名目にデザリアムが地球へ侵攻してくる可能性も無きに非ずと言う状況下でボラー連邦とも相手取らねばならなくなる、と言うのは地球にとって余り良い事とは言えない。
時間断層を破棄した結果、既存艦艇の有人化回帰が進められはしたものの結局人的資源の不足はどうにもならず、地球防衛軍の戦力増強を名目に地球防衛軍戦略空軍保有の無人艦隊の新造も進められている。ガトランティス戦役時の無人艦隊とは一線を画する無人艦隊整備は地球防衛専門の部隊として整備される予定だ。地球防衛の戦略では有人艦隊を持って外惑星系防衛ラインを始め地球圏外での防衛行動に当たる地球防衛軍海軍と、無人艦隊を持って内惑星系及び地球本土防衛ラインでの防衛行動に当たる戦略空軍と言う形で担当エリアの区別が付けられていた。
地球連邦大統領の長いスピーチが終わると一通りの就役式典の過程が終わり、軍楽隊の演奏のもとすずらん乗員の乗艦が始まった。
「古代よ」
「はい」
巨艦すずらんへ乗艦していく若い乗員達を眺めながら古代は藤堂の呼びかけに耳を傾ける。
「まだ決定事項では無いが、君には恐らくは結成されるであろうガルマン・ガミラス派遣軍の司令を勤めて貰いたい。私からの個人的なスカウトだ」
「小官がですか?」
驚きの表情を浮かべる古代に藤堂もすずらんへ乗艦していく乗組員を見つめながら人選の経緯を語る。
「先のイスカンダル事変を始め、最も経験豊富な指揮官を考えた場合君に任せるのが最適だと判断したのだ。真田君はイカロス天文台での仕事に忙しい、森君はアスカの艦長の仕事がある。山南君は新設の艦隊総軍司令官としての仕事がある。他にもアルデバラン艦長の谷君、尾崎君なども候補に挙げたが彼らは彼らでそれぞれの仕事がある。
消去法で幕僚過程を履修し終えたばかりかつ過去の戦歴を含めて第六五護衛隊臨時隊司令も経験したと言う実戦経験も豊富な君に白羽が立った訳だ」
「はあ、それで旗艦はやはりヤマトに?」
そう伺いながら古代は視線を村雨型巡洋艦や金剛型戦艦が停泊している埠頭とは別の埠頭に停泊している宇宙戦艦ヤマトに視線を向ける。自分が一時的に幕僚過程を学びに行っている間副長だった島大輔(しま・だいすけ)が臨時艦長を任されていた。
「ヤマトにする予定ではある。ガミラス、今はガルマン・ガミラスだが、彼らへの心象も良い艦だ。イスカンダル事変でヤマト以下の第六五護衛隊のヒュウガとアスカにも好印象や恩義を感じるガミラス人も多い筈だ。
だが相手はボラー連邦だ。非常に巨大な物量を誇る軍事国家でもある。イスカンダル事変で介入した第六五護衛隊の様な小規模艦隊でどうにかなる相手でもない。だから相応の規模の艦隊を派遣する予定だ」
「……長官的にはどの程度の艦を動員されるおつもりで?」
「三〇隻程度の艦からなる任務部隊を投入しようと思っている。今の地球艦隊の事情を鑑みればこれ以上の艦を動員する事は出来ん。
ボラー連邦と敵対する事になる以上はそのボラー連邦からの逆侵攻を受ける可能性も視野に入れなければならんし、君がイスカンダル事変で交戦したデザリアム軍と言う不明勢力がいつ報復の為に地球に攻め込むかもわからん。本土防衛戦力に致命的な穴が開かない最適な数の艦を動員する」
そこまで言ってから藤堂は古代に顔を向けて自身の考えを締めた。
「まあ、最終的な判断は政府が下す。それまではこの案はお蔵入りだ。この場で先の事を気に病み続けても始まらん、今は目の前の空母の就役を笑顔で見送ろう」
そう言って微笑を浮かべた藤堂はすずらんへ再度顔を向けなおす。古代もどういう表情をすればいいのか分からないまま取り敢えず目の前のすずらんへ視線を向けなおした。
乗組員の乗艦が終わり、タラップが収容されてすずらん発進のフェーズへと入っていた。
波動エンジン直列二基と言う主機仕様を取るすずらんのメインノズル一基と補助エンジンノズル四基に火が入り、波動エンジンの胎動の唸り声が鳴り響く中最後の演奏曲を演奏する軍楽隊が奏でるマーチがドック内に響き渡る中、ガントリーロックが解除され、すずらんが浮航状態に入る。
微速前進に転じたすずらんが五基のノズルからほんの少しだけ噴射炎を伸ばしながらゆっくりと前進を始める。五〇〇メートル近い巨艦がゆっくりと一般市民の見学者や地球連邦大統領等の来賓、地球防衛軍の高官らに見送られて前へと進む。ドックを出て海上へ出るや艦首を天空へ向けて徐々にピッチアップして急上昇を始めると高高度で大気圏離脱のブースターモードに点火し一気に高空の彼方へとすずらんは消えて行った。
宛がわれたホテルの一室でデスラーは遠い宇宙の先にある新たな故郷ガルマン星に思いを馳せていた。
今ガルマン星、ガミラス人発祥の地を護るべくガルマン・ガミラス軍が物量に勝るボラー連邦軍を相手に日々激戦を繰り広げている。
二年前、ガルマン星を統治管理していたボラー連邦永久管理機構のボローズ総督との邂逅と会談、その後の交渉決裂からのデスラー艦隊による電撃戦によるガルマン星の奪取。奪取成功後の移民船団によるガミラス臣民の大規模な移住開始。全臣民が移住を始める前にガミラス星はデザリアムによって破壊されガミラス臣民の七割が命を落としてしまった。
現在のガルマン星に居住するガミラス人は銀河各地に一時的な移住を行っていたガミラス人が集まって来た事もあって、失われる前のガミラス本星と同じ規模にまで人口が回復しているが、銀河各地に築いた入植惑星の中には現地民を強制的に弾圧して移住した星もあるのでガミラス人が去った後に武器を取って反ガミラスを掲げる元植民惑星は少なくない。そんな反ガミラス感情に染まる星をボラー連邦は取り込んで自勢力の一つとしていた。
策士だ、とデスラーはかつてのガミラス植民惑星を連邦の勢力として引き込む策を取る相手の顔を脳裏に浮かべる。
ボラー連邦の首相ジュガヴィ・ベムラーゼ。ボラー連邦の国家元首にしてボラー連邦を恐怖政治と権謀術数で統治する独裁者。圧倒的軍事力を背景に銀河各地の惑星を併合し自治共和国として圧政を敷いている。単に併合するだけでなく、反ガミラス感情が高まったかつてのガミラス植民惑星を連邦構成国として誘う等単なる拡張主義に留まらないやり方で自国の領土を拡大していた。
ガミラス人もといガルマン人が「青い血の呪い」と言われる「ガルマン人に適した特有の環境の惑星で無ければ一〇年は生きられない」と言う特性と星としての寿命を迎えつつあったガミラス星。デスラーと当時のガミラス帝政政府はガルマン星を発見するまでの間に銀河各地に侵略の手を広げ、結果多くの植民惑星を作った。全ては種の存続をかけたものだったが先述した「青い血の呪い」が枷となりガルマン星以外で自分達の居住に適した星が見つからないままだった。ようやく二年前にそもそもガミラス人発祥の地であるガルマン星を発見した事でガミラス人は新天地に落ち着く事が決まった。
ガミラス帝国の頃から侵略戦争に明け暮れたガミラスは今ではすべての侵略行為から手を引き、ガルマン星の防衛と言う死活案件に注力している。ガルマン星は複雑な理由あって本来の惑星としての寿命が縮んでいたガミラス星と違ってその寿命は充分にある。新天地を求めた侵略戦争はもうする必要はない。今は外敵ボラー連邦から身を護る事が最重要課題だった。
通信が入る音がデスラーの傍のパーソナル通信機から上がり、バレルの姿がホログラムで表示された。
≪総統、ガルマン本星のタランから通信が入っております≫
「繋いでくれ」
ガルマン星本土防衛軍兼ガルマン・ガミラス軍総司令官を務めるガデル・タラン大将がバレルに代わってホログラム表示される。
ガミラス式の敬礼の後、タランはデスラーに現状報告を入れた。
≪総統≫
「挨拶は省略だ。戦況報告を頼む」
≪はっ、現在ディッツ艦隊とその前衛となるバーガー艦隊、リッケ艦隊が二方面でボラー連邦艦隊を食い止めております。現時点ではディッツ艦隊が支える二つの戦線でボラー連邦は済ませていますが、ヒステンバーガー艦隊、キーリング艦隊が受け持つ戦線にもボラー連邦艦隊出現の兆候が見られ、キーリング艦隊貴下のルーゲンス艦隊隷下の駆逐艦がボラー連邦艦隊哨戒艦隊と小規模な戦闘を行う等三方面からの三正面同時作戦になる可能性が極めて高まっています。
現在ガルマン本星及び各工廠惑星でデスラー砲搭載の新型艦艇の増産が最終段階に入りつつあり、初期ロット艦に関しては試験航海開始にまで漕ぎ着けております≫
「突貫工事で出来が悪い艦は使えない事を各工廠惑星の監督官に伝えてくれ。もし地球が助力を断った場合は我々だけでボラーの侵攻を食い止めなければならん。多少時間がかかり前線の兵に負担がかかる事になってでも新造艦艇の工事は抜かりなく行うようにとな」
≪承知しております≫
地球の派遣軍を含めた軍事援助が取り付けられなかった場合に備えて、ガルマン・ガミラス側でも戦力の増強が行われていた。ガミラス側のいう所の波動砲にあたるデスラー砲を装備した新造艦艇が多数ガルマン本星や各地の植民工廠惑星で建造され、本星艦隊を含めた現在のガルマン・ガミラス艦隊の主力艦となるべく急ピッチで量産が進められていた。
とは言え、ガルマン・ガミラスもかつて程の人口は無い。人的資源の不足は軍への入隊者にも直接影響を与えて来る。国民皆兵制度や徴兵制を導入してもそれまでの職業軍人と比べれば軍人としての質は落ちる。それに全臣民が軍人としての生活や環境に適応出来るとも言えない。相応の数の軍人としての適性が全く持ってない徴兵兵士も少なからず出て来ている。
そんな軍人に向いていない者を訓練課程で振るい落として軍人としての適性がある者を各部隊への補充兵として練成して送り込む日々がガルマン・ガミラスでの日常だった。元々五〇〇〇万人程度いたガルマン人は長い間非武装、無抵抗主義を貫いて来た事もあり軍人として役に立つ者が少なく、ならばとデスラーの判断で都市建設やインフラ整備、工業生産、農業生産などの非軍事面での社会奉仕を推奨した。多くのガルマン人は資源として自分達を使い潰していたボラーと違い、同じ人間として接してくれる入植者ガミラス人の取る政策に諸手を挙げて賛同してくれているので現在のところガルマン・ガミラスの内政は安定している。民主ガミラス政府時の様な混乱も無く、スムーズに社会構築は出来ていた。
後はこの今あるガルマン・ガミラス本星の、国家総動員法状態ではあるものが本星そのものの治安は保たれている平和を恒久的に守る為の防衛戦主体の武力平和を維持する事だった。
ボラーとの最前線で戦う前線の将兵も艦隊も疲弊が激しく、いつまで戦線を維持出来るか分からない。あまりにも損害が激しい場合は現在ボラーと戦っているディッツ艦隊への増援として別方面でボラーへにらみを利かせているヒステンバーガー艦隊とキーリング艦隊から戦力を抽出せざるを得ない。当然ながらそうする事で両艦隊の戦力は低下してしまう。一艦たりとも他部隊に回したくは無いだろう。
だがもし地球が派遣軍の派遣を決定してくれて、ボラーとの戦いが続くディッツ艦隊の戦線に投入する事が出来れば状況は好転するかもしれない。無論ボラーが地球を敵対国とみなしてガルマン・ガミラスのみならず地球へも侵攻を行うと言う二正面作戦に出る可能性もある。
全ては二週間後の地球連邦大統領からの議会決議の結果を待つだけだ、と自分自身に言い聞かせてデスラーは夕焼けに染まり始めた地球の赤い空を眺めた。
感想評価、ご自由にどうぞ。