宇宙戦艦ヤマト2207 ザ・ボラー・ウォー   作:岩波命自

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第三話 地球艦隊抜錨

 西暦二二〇七年五月六日。

呉基地には地球連邦防衛軍特別混成第二任務部隊の第一陣を構成する艦艇が集結を完了していた。地球連邦の思惑も絡まり、当初の予定編成より少し艦数が増えた艦隊が集結する様はまさに壮観と言わざるを得なかった。

 艦隊旗艦を務める「ヤマト」以下、編成は次のようになる。

 

 艦隊旗艦ヤマト型宇宙戦艦BBY-01「ヤマト」

 アンドロメダ級宇宙戦艦AAA-17「アナンケ」

 アンドロメダ級宇宙航空戦艦AAA-20「アルタイル」

 すずらん型空母AAAC-0001「すずらん」

 ドレッドノート級主力戦艦フライト3(後期生産型乙)BBS-2105「デネブ」BBS-2235「ドラッヘンフェルス」

 ドレッドノート改級主力戦艦BBS-3182「カントン」BBS-3141「リトリビューション」BBS-4481「ふそう」BBS-4482「やましろ」

 ヒュウガ級軽空母DCV-01「ヒュウガ」DCV-03「サラトガ」

 金剛改Ⅱ型宇宙戦艦BBS-118「レパント」BBS-131「モスクワ」

 パシフィック級軽装甲巡洋艦(パトロール艦)CLS-109「エディンコート」CLS-101「アサマ」

 村雨改Ⅱ型宇宙巡洋艦CAS-485「アオバ」CAS-486「カコ」CAS-487「フルタカ」CAS-488「キヌガサ」

 エンデュアランス級波動ミサイル駆逐艦DDS-101「エンデュアランス」DDS-102「ヴェンジェンス」DDS-103「エクリプス」DDS-104「オリオン」

 フリントロック級護衛艦FFS-229「フジナミ」FFS-230「フェネクス」FFS-251「フレッチャー」FFS-252「ファルケンハイン」FFS-331「プミポン・アドゥンヤデート」FFS-332「ブリスカヴィカ」FFS-362「リンギ」FFS-370「テグ」

 磯風改Ⅱ型空間早期警戒管制艦CEW-02、コールサイン・コスモキャスター

 アスカ級補給母艦DAOE-03「おうみ」DAOE-07「カンチェンジュンガ」DAOE-10「ブエノスアイレス」DAOE-11「オアシス」DAOE-13「オグン」

 

 地球連邦防衛軍海軍各護衛艦隊隷下の護衛隊群麾下の護衛隊や旧来の戦隊などから抽出されて来た艦艇で構成され、第一世代艦艇改装艦から最新世代の艦艇まで、世代も艦種も豊富な艦隊名通り「特別混成」らしい顔ぶれとなっていた。

 地球連邦防衛軍の力の入れようは、海軍でも数少ない保有数である磯風改Ⅱ型空間早期警戒管制艦を編成に組み込んでいる事からも察せる。此処の艦艇の空間索敵能力も勿論高い水準ではあるけれど、波動実験艦「銀河」程では無いにせよ、既存の地球艦艇を遥かに凌駕するスーパーコスモレーダーを搭載し、艦艇から艦載機に至るまでを管制してのける、いわば空軍のAEW&C機の艦艇版とも言える艦だった。但し、元が艦内容積の手狭な磯風型を改装して、スーパーコスモレーダーの関連機器と乗員を詰め込んだものだから、長距離航海のための居住性は皆無に等しく、単独での航続距離は地球連邦防衛海軍艦としてみると、原形の磯風型以下という程に極めて短くなっており、同艦の母艦として急遽「アルタイル」の編入が決定された。

 総計で戦艦一〇隻、空母四隻、巡洋艦六隻、駆逐艦四隻、護衛艦八隻、早期警戒管制艦一隻、補給母艦五隻の三八隻と言う大艦隊が呉基地の埠頭に、身を寄せ合って係留されていた。集結した地球艦隊の近くには、新富士宇宙港から移動して来たデウスーラ三世級「クラウス・キーマン」と随伴護衛艦を務めるメルトリア級航宙巡洋戦艦二隻が停泊していた。

 

 

 午前一〇時、軍楽隊が「乗組員の行進」の演奏を開始し始めた。様々な楽器が行進曲を奏で始めた。集音マイクで拾われた楽器の演奏が呉基地中に響き渡る中、停泊する地球連邦防衛海軍各艦の乗組員が通称「ヤマト式敬礼」をして埠頭を、集まった報道陣や乗員の家族達、その他民間人の前を整然と行進して、それぞれの乗艦の元へ向かった。

 陸軍や空間騎兵隊の様な、地上戦を行う防衛軍兵士と同じように一糸乱れぬ、まるで閲兵式の時の様な足運びで各艦の乗員達は埠頭を行進していく。それを地球連邦防衛軍統括司令長官の藤堂平九郎、同地球連邦防衛軍統括指令副長官芹沢虎徹宙将、艦隊総軍司令官山南修宙将、艦隊総軍参謀長五十嵐速雄宙将補、呉基地司令官風見優斗宙将補と言った防衛軍高官たちが、海軍式敬礼で見送る。普段は禿頭を晒している藤堂や徐々に白髪の増えて来た髪の上に何も被らない芹沢も、この時はそれぞれの立場を示す制帽を被っていると言う珍しい光景が見られた。

 艦艇の乗員だけでなく、「アルタイル」を始め各艦に分乗して乗り込む今次派遣部隊唯一の地上作戦部隊となる独立混成空間騎兵戦闘団の隊員五〇〇名も、後に続いて行進していく。艦艇勤務の乗員達の白地を基調とした制服と異なり、空間騎兵隊の緑を基調とした制服の集団が「アルタイル」や乗艦する事になる各大型艦に向かって行進していく。独立混成空間騎兵戦闘団の団長を務めるのは永倉詩織一尉で、彼女は既に乗艦先の「ヤマト」の艦内で待機していた。

 

 

 艦隊旗艦を務める「ヤマト」の艦橋では、既に「ヤマト」艦長兼特別混成第二任務部隊司令官古代進一佐や副長兼航海長島大輔二佐、戦術長土門竜介一尉、砲雷長仁科春夫一尉、船務長西城未来一尉、機関長山崎奨三佐、気象長林繁二尉、通信長市川純二尉、技師長新見薫一尉と言った顔ぶれが揃っていた。また艦長席の左隣に新設された艦隊参謀長席には特別混成第二任務部隊首席幕僚を務める森雪二佐が、艦隊司令官兼「ヤマト」艦長と言う大任を任されている古代のサポート役として配置されていた。

 何人かは二年前のイスカンダル事変から新規に乗り込んで来た新顔だが、多くの艦橋要員は「ヤマト」就航以来の古参乗員達で固められている。

艦橋の大画面ディスプレイには、埠頭を行進する僚艦の乗員達がタラップを伝って乗艦していく様や、短艇に乗って上官の為に移動していく様が映されている。「ヤマト」自体、先任伍長榎本勇宙曹長率いる新人隊員二〇名が短艇で乗艦して来ていた。

「こんなにも大規模な艦隊の旗艦を務める日が来るとはな」

 大画面ディスプレイを見上げながら、島がぽつりと感慨深そうに呟く。それを聞いた隣の土門は確かに、と静かに頷いていた。

 土門が頷くのと同様、古代もまた、これ程の大規模艦隊になるとはと内心、武者震いもしたくなる。これまで「ヤマト」が行って来た作戦行動はほぼほぼ単艦での作戦行動が多かったし、唯一の艦隊作戦行動と言えば二年前のイスカンダル事変の時の第六五護衛隊の三隻編成くらいだ。今回の任務部隊はその護衛隊の三隻編成から一挙に一二倍近くに膨れ上がっている。勿論、任務部隊全艦での作戦行動を行う事があるかは現地についてみない限りは分からないが。

 艦隊の艦の数が増えればそれだけ、艦を指揮する艦長も多くなる。元「ヤマト」の航空隊の隊員だった篠原が艦長を務める「ヒュウガ」や、元「ヤマト」砲雷長だった南部康雄が艦長を務める「ふそう」等、「ヤマト」クルーの見知った顔が艦長を務める艦もあるが、多くの艦艇は「ヤマト」クルーとは縁の無かった人物も少なくない。ただしその中でも「アナンケ」の艦長、北野誠也二佐に関しては、元「ヤマト」クルーの北野哲也一尉の兄と言う血縁者と言う形で縁がある人物もいるが。

 

 

 午前一一時。

「『ヤマト』艦長古代から全艦に達す。出港用意!」

 艦隊司令官兼艦長を務める古代から、任務部隊全艦に向けて、出港用意が発令され、三八隻の艦艇の内部がにわかに騒がしくなる。

 全艦隊を先導する形で出港するのは、第六巡洋艦戦隊の村雨改二型巡洋艦の「アオバ」以下四隻だった。護衛隊編成にも組み込まれず、従来の戦隊編成で纏められていた旧式の村雨型巡洋艦の大規模改装艦、言い方を変えればガミラス戦争以来の古参艦四隻が、ガミラス戦争以降の世代の艦艇達を先導する様に先んじて出港していく。

「抜錨、錨上げ! 両舷前進微速」

 戦隊指揮官も兼ねる「アオバ」艦長武野内の号令がかかるや、歴戦の艦、「アオバ」の艦内で乗員達が幾度となく繰り返し、訓練を重ねて来た日々の研鑽通りに出港の為の手順を消化していく。古参艦なだけに、乗り込む乗員は皆古参兵ばかりだ。単純に第二世代艦艇のハイテクさについていけない老兵とも言えなくはない者も居るにはいるが、古参兵な分、動きに無駄は無い。

 同様の光景が「アオバ」に続いて抜錨を始めた「カコ」「フルタカ」「キヌガサ」でも見られた。改二化改装に伴って実施された省力化で、本来の乗員定数を更に割り込んだ五〇名程度の乗員達の手で村雨改二型四隻は出港していく。

 

 続いてガミラス戦争後に完成した、「レパント」「モスクワ」の二隻が抜錨する。この二隻はガミラス戦争後の新造艦と言う訳ではなく、ガミラス戦争中の戦時急増艦であり、遊星爆弾による地球本土爆撃による地球の国力低下のお煽りを受け、それぞれイタリアとロシア国内の造船ドックで、建造中止状態で放置されていた物を、戦後波動機関搭載艦として改装を行いつつ完成させられた準第一世代艦だ。ガトランティス戦役時には現在の改Ⅱ化改装が施され、波動砲を備える小型戦艦と言う形にまでアップデートが施されていた。

 

 村雨改二型四隻、金剛改Ⅱ型二隻の出港が終わると、続いてドレッドノート級主力戦艦「デネブ」と「ドラッフェンヘルス」の二隻が出港する。ガトランティス戦役時に大量に建造されたドレッドノート級前衛航宙艦の後期生産乙型と呼ばれるタイプの二隻である。数多くあるドレッドノート級主力戦艦の中でも巡航性能と機動力、艦速が強化された有人型の後期型である。概ね外観はドレッドノート級主力戦艦と変わらない。

 

 続いて抜錨するのはドレッドノート級主力戦艦の改型の「カントン」「リトリビューション」「ふそう」「やましろ」だ。この四隻はガトランティス戦役時に試験的に建造、量産されたタイプで主砲が三〇・五センチ三連装陽電子衝撃砲から四八センチ連装陽電子衝撃砲に換装され、純粋なドレッドノート級主力戦艦の火力強化型として誕生している。艦隊旗艦の「ヤマト」クルーの一人、坂巻浪郎がガトランティス戦役時の火星沖戦線で「やましろ」に乗り込み、連装式陽電子衝撃砲(ショックカノン)の最長射撃記録を作り出した事でも知られる。同級の「ふそう」の艦長して、元「ヤマト」クルーの一人だった、南部康雄三佐が艦長として乗り込んでいた。

 

 ドレッドノート改級主力戦艦四隻の出港が済むと、パシフィック級軽装甲巡洋艦「エディンコート」と「あさま」の二隻の出港が行われる。建造数はまだ多いとは言えないが、第二世代艦艇の中でも各護衛隊に配備される軽巡洋艦と言える艦である。取り回しの良い艦であり、現状、巡洋艦枠の主力を担う村雨改型や改二型を置換すべく同級の量産が進められている。この内「あさま」の艦長として元「ヤマト」クルーの相原義一一尉が乗り込んで指揮を執っていた。

 

 パシフィック級二隻の出港に続いて、空母「すずらん」が艦長熊谷一佐の出港号令一下、出港を始める。改アンドロメダ級空母型として時間断層工廠を用いずに人間の手で建造された新造空母が、その巨体の周囲に波紋を広げ、長い航跡を引きながら出港していく。前級とも言うべきアンドロメダ級空母型、または航空戦艦の「アルタイル」が今次任務部隊においてはコスモキャスターの母艦となる分艦載機を余り搭載していないだけに、「すずらん」は「ヒュウガ」「サラトガ」、それに「ヤマト」と並ぶ特別混成第二任務部隊の航空戦力の中核を担う重要戦力だ。

 

 その「すずらん」に続いてヒュウガ級戦闘空母の「ヒュウガ」と「サラトガ」が抜錨する。二隻とも、ガミラス戦争またはガトランティス戦役時に戦没した金剛型宇宙戦艦や村雨改型宇宙巡洋艦の名前を引き継いだ軽空母だ。先述の「すずらん」と共に特別混成第二任務部隊の航空戦力の中核を担う。その片割れ一番艦「ヒュウガ」の艦長は元「ヤマト」航空隊の隊員だった篠原弘樹三佐が務めている。

 

 空母群の出港が終わると、続いてエンデュアランス級波動ミサイル駆逐艦「エンデュアランス」「ヴェンジェンス」「エクリプス」「オリオン」の抜錨が始まる。同艦は地球防衛軍の艦艇にしては珍しい、波動砲を装備していないと言う思い切った建造思想の艦だが、艦種の現す通り、その艦体には艦隊旗艦「ヤマト」の波動砲の一〇分の一の威力とは言え、護衛艦の小型波動砲に準じる威力を持つミサイル、魚雷を満載した艦だった。波動砲は発射時に全艦内エネルギーを波動砲に回し、航行は慣性航行に切り替えざるを得ないと言う運用上の弱点を持つが、エンデュアランス級は波動エネルギーを封入した誘導弾を発射する艦なので、波動砲運用における弱点を持たない。勿論、誘導弾を使い切れば、後は強力とは言い難い主砲火力しか残らないが、波動砲のエネルギー充填のインターバルの隙を持たないと言う強みを持つと言う意味では充分に強力な艦だ。機動力も護衛艦並に高く、高速宙雷戦を得意とする艦種と言える。

 

 エンデュアランス級の出港が終わると、アスカ級補給母艦の出港となる。「おうみ」「カンチェンジュンガ」「ブエノスアイレス」「オアシス」「オグン」、何れもアスカ級の補給艦仕様であり、今次派遣部隊における補給艦としての任務を任されている。ヒュウガ級と同じく時間断層の閉鎖前に運び出された無人型ドレッドノート級主力戦艦の有人型改装艦だが、ネームシップ「アスカ」よりも省力化が行われており、艦の規模に対して運航に必要な乗員は少な目だった。一方で補給艦としての運用が想定されいるだけに補給作業要員の数は多い。

 

 アスカ級五隻の出港に続いてフリントロック級護衛艦八隻の出港が始まる。現在の地球連邦防衛海軍で波動砲搭載艦として最も安価で最も配備数が多い艦であり、磯風型を除けば最も小型艦だが、機動力と火力、防御力はその実ガミラス戦争時の金剛型宇宙戦艦すら凌駕する。地球連邦防衛海軍の護衛隊の中には護衛艦だけで構成された部隊も存在する。辺境警備から艦隊随伴艦まで如何なる任務もそつなくこなす万能艦だ。

 

 護衛艦の出港が終わると、「アルタイル」の出港となる。慣性制御のお陰で今にも転覆しそうな見た目ながらその前後左右の姿勢に乱れは全く無いアンドロメダ級航空戦艦の上部の航空艤装の上には、コバンザメのように磯風改Ⅱ空間早期警戒管制艦CEW-02が重力アンカーで固縛されていた。大きな航空艤装の上に第一世代の駆逐艦改装の早期警戒管制艦を載せると言う見た目のアンバランスさに拍車をかけた様相だが、「アルタイル」は全くの不安定さを見せる事無く粛々と出港していく。

 

「アルタイル」の出港に続いて、「アナンケ」の出港が始まる。有人型アンドロメダ級の一七番艦であり、ガトランティス戦役時に火星防衛線で第一五艦隊旗艦として艦隊を率い、ガトランティス艦隊との戦いで大破、放棄された艦だが、大破したとはいえ損傷の具合が比較的良好だったことから戦後サルベージ、修理されて戦列に復帰したアンドロメダ級の一隻だった。元防衛大学校の鬼教官であり「ヤマト」クルーの一人、北野哲也の兄北野誠也二佐が艦長を務める同艦は、ヤマト級を除く地球連邦防衛海軍の中でも最強格のアンドロメダ級戦艦だ。また「アナンケ」には万が一「ヤマト」が艦隊旗艦能力を喪失した場合の予備の艦隊旗艦の戦艦としての任務を任されている。

 

 多くの艦艇が出港を終え、港外を出て豊後水道を滑走して空へと上がっていく中、最後に出港する事になっていた「ヤマト」が遂に波動エンジンの唸り声を高まらせて、出港を開始する。

「土門戦術長、操艦」

「土門戦術長、操艦頂きました。出港用意!」

 艦長の古代から航海長の島ではなく、戦術長の土門に出航の舵取りが任される。航海長席では島が操艦を土門に任せる一方、出港に当たっての副長としての確認に取り掛かる。

 操縦桿を握りしめた土門が出港用意を発令するや、「ヤマト」の錨が巻き取り上げられ、海底に沈んでいた錨が海面に大量の海水の飛沫と飛沫を撒き散らしながら引き上げられ、所定の位置に固定される。

「艦内機構オールグリーン、総員配置完了」

 新見が艦内各部から上げられて来た報告をコンソールで即座に確認して、報じる。同様に自身のコンソールで機関部のコンディションをチェックした山崎が土門にGOサインを出す。

「補器は充分温まっている、土門、いつでもいいぞ」

「了解。補助エンジン、動力接続」

 同じだな、と土門は握りしめる操縦桿、確認する計器やディスプレイを見ながら、二年前の自身の初航海の時、いきなり「ヤマト」操艦を任された時の事を思い出し、フフッと微笑を浮かべた。

「補助エンジン、動力接続」

(接続)

 機関室にいる機関員の徳川太助二尉が補助エンジンの動力接続レバーを押し込む。「ヤマト」の補助エンジンが接続され、静かな機関部の唸り声が徐々に高まり始めて行く。

「補助エンジン定速回転一六○○、両舷推力バランス正常。異常なし」

「前進微速、〇・五」

 スロットルレバーを微速前進にまで軽く押し込みながら土門は言う。補助エンジンの回転音が更に高まり、「ヤマト」が微速で動き出す。他の地球連邦防衛海軍艦よりも船としての形状をしている「ヤマト」の舷側に波が立ち、艦尾から航跡が伸びていく。補助エンジンの胎動が更に上がり、ゆっくりと「ヤマト」の動力部が目覚めていく。

「補助エンジン、第二戦速から第三戦速へ」

「波動エンジン、シリンダーへの閉鎖弁、開放」

(閉鎖弁、開きます!)

 機関室から徳川の声が返る。海面下の補助エンジンのノズルからスラスターの噴射が大きくなり、「ヤマト」が更に加速する。二年前の時とは大違いのスムーズで優雅さすら感じさせる丁寧な運用に、山崎が機関室の徳川にさりげない一言をかける。

「徳川、機関士として随分上手くなったじゃないか。天国の親父が喜ぶぞ」

(どうも)

 二年前はこの段階で太助達が戦速の入力を間違えてエンストしたんだよな、と土門は内心苦笑を浮かべていた。二年前に上がってしまい戦速入力をミスして「ヤマト」の機関部をエンストさせた太助に対して、背後から聞こえた山崎の怒鳴り声は今でも土門の背中に染みついている。あれから二年。太助は階級を一つ上げ、機関部の扱いに関しては戦死した彼の父親である徳川彦左衛門三佐を彷彿させる程に巧みになっていた。

「フライホイール始動」

「波動エンジン、点火一〇秒前」

 ほぼ山崎と土門の声しか上がらない艦橋で、土門はリラックスした姿勢で操縦桿を握りつつ、一〇秒カウントを始める。

「五、四、三、二、一」

 土門のカウントがゼロになる直前、山崎のコンソールに表示される波動炉心圧力計の上の波動エネルギー充填率のメーター表示が一二八パーセントに達する。

 土門が「ゼロ」を読み上げた直後、山崎が波動エンジン接続レバーを押し込んだ。

「接続、点火」

 艦尾から点火の轟音と共に「ヤマト」のメインノズルから噴射炎が力強く噴き出し、艦尾に溜まっていた海水を勢いよく後方へ吹き飛ばし、それまで補助エンジンで海上航行していた「ヤマト」に離水上昇可能な推力を与えた。

 メインエンジンの点火を待って、艦長古代が凛と張った声で命じた。

「『ヤマト』発進!」

「『ヤマト』発進します!」

 復唱しつつ土門が操縦桿をゆっくりと手繰り寄せると、「ヤマト」の艦体が滑るように、まるでふわりと鳥が飛び立つように海面を離れていく。赤い艦底部から大量の海水の雫を滴らせ、ちょっとした霧雨を直下から後方にかけて降らせながら、先行して出港した各艦に続いて「ヤマト」も天空へと昇って行く。途中主翼も展張されて揚力を稼ぎ、更に推力を上げたメインスラスターの光を太陽のように輝かせながら宇宙戦艦「ヤマト」が発進して行った。

 

 

「ようし、全艦、攻撃開始!」

 空母「ランベア」の艦橋でバーガー艦隊を率いるフォムト・バーガー大佐の号令がかかるや、ガルマン・ガミラス帝国艦隊の一群であるバーガー艦隊が一斉に前進を開始する。ボラー連邦軍が奇妙な程に仕掛けて来なくなった分、損傷艦の修理が進んだお陰で、それまでどの艦も修理の痕を艦体に残したまま戦っていたのとは違い、綺麗に修理を終えた艦艇群が機関部の心地よいエンジン音と共に前進していく。

 同時に航空隊の発艦が令達された。バーガー艦隊の首席参謀のデニム・メルヒ大尉が、「ランベア」や「ノイ・バルグレイ」「ノイ・シュデルグ」「ノイ・ダロルド」の航空隊に発艦命令を下すや、四隻の航空艤装から一斉にDWG109デバッケ空間艦上戦闘機とDMB87スヌーカ空間艦上攻撃機が発艦して行った。

 三群に分かれてバーガー艦隊の前面に展開し、包囲戦を仕掛けて来るボラー連邦軍艦隊に対して、バーガー艦隊は持ち前の部隊の得意技と言える機動力を生かした各個撃破戦術に打って出ていた。艦艇数の少ない中央の部隊をまず撃破し、次いで右翼の別動隊を、最後に最も数の多い恐らく主力と見られる艦隊を順繰りに撃破する。三方からの包囲を仕掛けようとしているボラー連邦軍艦隊だが、相互距離は遠く、連携を取るには不十分な距離である。また主力以外の二個群の艦艇数も、戦闘艦三二隻を有するバーガー艦隊よりも微妙に少なく、動きもやや悪い。

「航空隊の攻撃完了と同時に、艦砲射撃全力斉射を敢行する。航空隊に令達、ドジっても味方の射線に入らせるなよ」

「了解」

 八年前、ガトランティスとの戦いで戦死したバーガーの部下であり戦友のクリム・メルヒ少尉の弟のメルヒ大尉が頷く。彼の兄が戦死してから八年もの歳月が経ち、ガルマン・ガミラス帝国軍の人材不足も相まって本来であればまだ少尉か中尉のパイロットである筈のメルヒも否応なく大尉に昇進の上、バーガーの艦隊で航空参謀として活躍する事を余儀なくされていた。最も彼自身は、兄が尊敬していたバーガーの元で戦えることを喜んでいたのでこれと言って不都合は起きなかったが。

「敵艦隊の空母より艦載機多数発艦。戦闘機隊と交戦開始します」

 

 艦隊に先んじて発艦したデバッケとスヌーカの編隊に対して、ボラー連邦軍艦隊も艦載機を発艦させて対応に出て来ていた。IK-301レブートとガルマン・ガミラス帝国では識別される艦載機が制宙権確保の為に同じ戦闘機のデバッケと交戦を開始する。互いに長射程の宙対宙ミサイルの撃ち合いから始まり、長射程のミサイルを撃ち尽くせば、今度は距離を詰めての空戦に移行する。デバッケに乗るガルマン・ガミラス帝国のパイロットは、二年前のガミラス本星の崩壊やら、旧帝星ガミラスの領土縮小や植民惑星の自治独立などの影響で、教官を担える熟練パイロットが減少傾向にある為に補充される新人パイロットの練度が徐々にだが下がりつつある一方だが、ボラー連邦軍艦隊の艦載機はそれを下回る酷さだった。

 パイロットの練度が悪いので、デバッケとも充分に渡り合える機体性能のレブートも充分にその性能を発揮出来ていない。一部には熟練とは言わずとも中堅程度の練度を持つと見られるレブートがデバッケと互角の戦いを繰り広げ、何機かのデバッケが撃墜される被害を出したものの、多勢に無勢と言わざるを得ない。第一波の攻撃隊としてバーガー艦隊から発艦したデバッケは凡そ八〇機。レブートも概ね同数だが、互角に渡り合える腕を持つレブートパイロットは三分の一にも満たない。

 

「敵戦闘機隊、我が方の戦闘機隊によって駆逐されつつあり。スヌーカ隊、対艦攻撃に移行します」

「敵艦隊、間もなく対艦巡航ミサイルの射程圏内に入ります」

「こっちが射程に収められると言う事は、向こうも収められると言う事だ。対空監視、怠るなよ」

 

 ボラー連邦軍艦隊でもアマンガ型ミサイル戦艦の持つ対艦ミサイルは集中投入されると非常に厄介である。艦隊乗員の練度は低くても、ミサイルの練度迄低いと言う事は無いので、デストリア級航宙重巡洋艦でも命中すれば一撃で轟沈する威力の対艦ミサイルが大量に発射されると、非常に危険だ。その為、バーガーは対艦攻撃を担当するスヌーカ隊にはアマンガ型を優先攻撃するよう命じている。

 スヌーカ隊はボラー艦隊から打ち上げられて来る隠顕式主砲や隠顕式空間機銃による対空砲火を易々と突破すると、各機、翼下にぶら下げていた対艦ミサイル二発と推進器付き航宙爆弾六発を一斉に解き放った。空間機銃だけでなく、ボラー艦の強みである速射が効く主砲の陽電子砲までもが弾幕を張る中、一発、二発とその弾幕に絡め捕られ、爆散するミサイルや爆弾が宇宙の閃光となって果てる。

 それでも弾幕を突破したミサイル、爆弾は次々にアマンガ型、一部は僚艦防空の為に猛烈な対空砲火を撃ち上げていたクロトガ型の艦体に突き刺さり、弾頭の爆薬を起爆させた。真空の宇宙に、衝撃波が走り、破孔から爆炎が噴き上がり、連鎖的に艦内で誘爆の炎が広がって、敢え無くアマンガ型の一隻がガルマン・ガミラス艦を屠る筈の対艦ミサイルの誘爆で自らの身体を引き裂かれる。僚艦をカバーしようと奮戦していたクロトガ型は対空射撃の死角になるエンジンノズルにミサイルを食らい、機関部が爆発して隣のクロトガ型を巻き込んで爆沈する。

 爆装を全て投下したスヌーカ隊の中には、その優れた機動性を誇るスヌーカを軽快に操り、対空砲火をアクロバティックな軌道で掻い潜って、何隻かのアマンガ型、クロトガ型の艦橋に機銃掃射を加えて離脱していく。艦橋を破壊されたボラーの戦艦が操艦不能に陥って、進路を逸らしたところへ、回避が遅れた別の艦が衝突して激しい衝突音と火花が散り、艦内の空気を消費して火災の炎が噴き上がる。

 バーガー艦隊が主砲斉射を開始する前までに、スヌーカ隊の対艦攻撃によって二五隻のボラー艦隊は一〇隻が撃沈乃至大破炎上で戦闘不能に追いやられていた。それでも残る艦が主砲を真正面に向けなおし、接近して来るバーガー艦隊に備える。

 

「敵中央部隊に、突破口を形成」

「敵艦隊を分断するぞ。第一七戦闘団、前へ! 楔を打ち込め!」

 

 隊列の乱れているボラー艦隊に対し、バーガーは自身の率いる艦隊を構成する分艦隊と言うべき戦闘団に突撃を命じる。その発令に、「ノイ・バルグレイ」率いるデストリア級、ケルカピア級、クリピテラ級からなる八隻の戦闘団が、ノズル口から加速の噴射を吹かせ、ボラー艦隊に吶喊した。

 宙雷艇を思わせる軽快な動きをして突入した第一七戦闘団が、主砲と魚雷の射程内にボラー艦を収めるや、一挙に持てる火力を残存艦に叩き込む。地球艦と同じ蒼白い光芒を「ノイ・バルグレイ」の三連装主砲が放ち、デストリア級が赤いビームの長刀を振るって、ボラー艦を切り裂く。ケルカピア級とクリピテラ級がボラー艦隊の主砲の弾幕を易々と交わして魚雷、ミサイルを放ち、ガルマン・ガミラス艦とは異なる設計思想に基づいて建造された一体感のあるボラー艦に着弾の閃光と艦体破損の爆炎を瞬かせていく。

 たった八隻の第一七戦闘団を相手に、ボラー艦隊は一方的に損害を被った。彼らが主砲を回し、ミサイルの照準を合わせ終わった時には、第一七戦闘団はボラー艦の火砲の射程外へと離脱していた。

 大破艦三隻、中破艦二隻、撃沈五隻。更に一〇隻を喪ったボラー艦隊は後退する事無く、猪突に前進し、数で勝るバーガー艦隊の主砲斉射三連射を前に全滅した。後退出来なかったのでは無かった。ボラー連邦軍は寧ろその軍事ドクトリンにて、劣勢にある時、無理をせずに期を見て後退して再起を図る事を明記している。しかし二〇隻に上る味方艦を破壊され、後退の二文字が思いつく様な老獪で、粘り強さを見せる分艦隊指揮官では無かったのが、ボラー艦隊中央部隊の明暗を分けた。

 

 休み間もなくバーガーは右翼のボラー艦隊へ攻撃を開始した。航空隊は再度の兵装装備を整えさせ、宇宙へと送り出される。旗艦「ランベア」以下、アンドロメダ級空母型ガミラス生産艦四隻から相次いでデバッケとスヌーカが第二次攻撃の為に発艦していく。

 右翼のボラー艦隊は、中央のボラー艦隊よりまだマシな動きをしていた。航空隊の対艦攻撃で一時的な混乱こそ起こしたものの、側面を突かれたボラー艦隊は右回りに全速前進を始め、バーガー艦隊の後ろに周ろうとしたのだ。しかしバーガー艦隊の主砲斉射と各戦闘団の機動力を生かした攪乱攻撃を前にバーガー艦隊の背後を取る前に、ボラー艦隊の右翼部隊は中央部隊の後を追った。唯一、アマンガ型の放った対艦ミサイルがクリピテラ級一隻に直撃し、これを轟沈させて一矢報いたものの、C級艦隊師団の指揮官と将兵の練度の限界を如実に表した戦いになった。

 

 各個撃破に成功したバーガー艦隊の方も、決して問題なしに事を進めていた訳ではない。実体弾兵器であるミサイルや魚雷は消耗が著しく、航空隊の兵装は勿論、被撃墜機による攻撃隊の数の減少もバーガーの頭を悩ませた。八年前、ガミラス帝国軍最盛期の頃の航空隊なら、ボラー艦隊相手であれば損害と言う概念すら遠い存在だった筈なのだが、八年の間に起きた政変、戦争で新生ガルマン・ガミラス軍も総じて練度は低下しつつある。

 それでもまだ自分達の艦隊は上澄みの方だ、とバーガーは不満と胸の内に湧き上がる焦燥を呑み込む。他の艦隊はもっと酷い状態であったりするから、受け持つ戦線で負けなしを続けているバーガーはまだマシな方だった。少なくとも別戦線でボラー艦隊相手に、稚拙な戦闘をして、返り討ちにあったルーゲンス艦隊よりはまともな方だろう。

「次は敵本隊か」

 ディスプレイに表示される左翼の本隊らしきボラー艦隊を見て、バーガーは腕を組んでため息を吐く。艦艇数は四〇隻。バーガー艦隊よりも数が多い。空母もガノンダ型が二隻も含まれており、航空戦力は良くて拮抗レベルと言うべきか。

「こちらの戦闘可能艦は三一隻、敵は四〇隻か」

「大佐、ここは拡散波動砲で一気に決着を付けては」

 メルヒの提言にバーガーは即座に答えず、思考を巡らせた。確かに拡散波動砲を使えば、四〇隻程度の艦隊など瞬く間に消し炭に出来る。こちらは一切の損害を被る事も無く、ワンサイドゲームで完勝出来る筈だ。波動砲周りに精神的な制限をかけていた存在のイスカンダルも既になく、波動砲使用に置いて、文句を言う存在は既にない。自軍の損害を最低限に、敵には最大の損害を。それは軍事上の絶対的なものでは無かったか。

 それでもバーガーが波動砲使用は控える事にした。尚イスカンダルの説いていた波動砲の禁忌を真面目に守ったからという訳ではない。ガルマン・ガミラス軍の将兵で、波動砲を使った経験がある者は、イスカンダル事変で凡そ同じ原理を用いるデスラー砲を搭載した「デウスーラ三世」の乗組員くらいだ。ガルマン・ガミラス軍一般将兵、特に波動砲搭載艦を全て配備されているバーガー艦隊の将兵ですらまともに訓練を行った事が無い兵器だ。手順を誤った時のリカバリーもまた経験不足である。

「駄目だ、波動砲の使い方を俺達は熟知していない。正攻法でやるぞ。全艦及び航空隊は交戦開始エリアまでに戦闘配食等で休める奴は休んでおけ」

「了解です」

 

 

「第二群、第三群、共に壊滅」

「生存者救助の様アリとの救難信号を多数受信」

 上がって来る報告にボローズは胃がキリキリする思いだった。それと同時に今回の作戦を提案して来たスペルコフの冷徹さとも言える大胆な作戦に、内心驚いてもいた。そして現在までの所、スペルコフが提案し、立てた作戦計画通りに事は進んでいる。

 隣を進む「カスタロコフ」を見て、その艦橋に立っているであろうスペルコフの姿を思い浮かべて、同時にボローズは納得も覚える。若くして大佐の階級を与えられる程に昇進して来ただけの事はあると言える。

「ガルマン・ガミラス艦隊、前進して来ます。会敵まで約三〇分」

 オペレーターの報告を聞きながらボローズは思った。もしかしたら今回は上手くやれるのではないか?

 

 

「撃ち方始め!」

 バーガー艦隊の旗艦「ランベア」の艦橋からバーガーの号令が令達されるや、一斉にバーガー艦隊の主砲が砲撃の火蓋を切った。デバッケ隊も突入を開始し、「ラブロコフ」「カスタロコフ」から発艦したレブートと空戦を開始する。

「中央突破だ。敵艦隊の戦列中央に火力を集中! 然る後、後詰のスヌーカ隊が左右に分断された敵艦隊を叩く!」

 全艦突入するバーガー艦隊の主砲が休まずに陽電子の奔流を砲口から放つ。赤と蒼白の二種の光芒が、撃ち返される赤の速射ビームとすれ違い、漆黒の宇宙に着弾と爆発の閃光を幾重にも光らせる。

 旗艦「ランベア」の主砲も加わり、クロトガ型一隻を真っ二つに叩き割って撃沈する中、健在なアマンガ型のミサイル発射管の蓋が開き、猛烈な噴煙を噴き上げて対艦ミサイルの群れがバーガー艦隊のアンドロメダ級空母型に向けて発射される。対宙機銃などの対空砲火は焼け石に水で、集中砲火を浴びた「ノイ・ダロルド」が多数の対艦ミサイルの直撃を受ける。しかし、直撃の直前、蒼白い閃光が「ノイ・ダロルド」の艦体全体を包み込んでいた。

 傍目には轟沈した様にしか見えないが、ひとしきりの爆炎が治まった後、「ノイ・ダロルド」が無傷の姿を煙の中から見せる。地球製艦艇なだけに、ガルマン・ガミラス軍艦艇には標準搭載されていない波動防壁でその巨大な艦体を完全に守り切ったのだ。波動防壁の蒼白い閃光とは別に艦首側の二基の三連装ショックカノンの砲口から陽電子の光芒が迸り、アマンガ型の艦首に直撃し、艦内に陽電子の粒子を撒き散らして内側から溶かしながら、艦尾へと突き抜ける。串刺しにされたアマンガ型の艦体が爆散し、飛び散った破片が僚艦の艦体を殴りつける。

 他にデストリア級重巡、ケルカピア級軽巡、クリピテラ級駆逐艦の砲撃でボラー艦隊は瞬く間に一〇隻余りを喪い、中央の隊列が崩れ始める。左右に分断されたボラー艦隊は高速ですれ違うバーガー艦隊の側面に射撃を行う事すらせず、ただただ分断されて左右に分かれていく。

「ん、何かおかしいな……」

 ディスプレイに表示される戦況図を見てバーガーは違和感を始めて覚えた。ボラー艦隊の中央を突っ切るバーガー艦隊は、つまり左右に分断されたボラー艦に側面を撃たれる危険を孕んでいる。無論、無闇に撃てば、反対側の味方艦に当たりかねないと言う危険があるから、撃って来ないのかも知れないが、それにしては何かがおかしい。

 バーガー艦隊はほぼ全艦が無傷でボラー艦隊の中央を突破し、突き抜けようとしている。対してボラー艦隊は左右に分断され、分かれて……。

 

「くそ、やらかしたぞ!」

 初めてバーガーは気が付いた。敵は中央突破で戦列を崩されたのではない。始めから中央突破される事を想定して、左右に分かれ、一斉に回頭してバーガー艦隊の背後を奪う気だ。

 右翼の艦隊がやろうとして失敗した戦術を、巧みに成功させつある。

「全艦、急速反転だ!」

「それは拙いです、大佐! 今無理に反転しても、混乱が起きて隊列が乱れてそこを狙い撃ちされます」

 焦って急速反転を命じようとしたバーガーに、メルヒが即座に反対する。無理に向きを入れ替える急速反転をすると、それまで秩序を以て組まれていた隊列が一時的に乱れ、そこを回頭を終えたボラー艦隊に滅多打ちにされかねない。幾ら練度の低い艦隊とは言え、ボラー艦の主砲の速射能力にものを言わせた猛砲撃を浴びれば、バーガー艦隊は一瞬で瓦解する。

「スヌーカ隊に左右の艦隊を叩かせて、敵に新たな混乱を生んでいる間に、こちらも時計回りに全速前進して、敵の背後を取るか、戦闘宙域から離脱するべきだと、小官は考えます」

「よし、メルヒの案を採用だ。スヌーカ隊に敵艦隊を攻撃させろ。敵の混乱に乗じて現宙域から離脱する!」

 

 

「同志諸君。砲身が焼き付くまで、撃ち散らせ!」

 ガノンダ型「カスタロコフ」の艦橋で、スペルコフは麾下の艦艇に命じた。黄緑色の陽電子の光が赤い陽電子の光に交じって主砲の砲口から放たれ、後衛のガルマン・ガミラス軍艦艇数隻を背後から射抜く。

 しかし、スヌーカ隊がスペルコフの率いる艦隊に対艦攻撃を仕掛けて来た。後詰戦力として温存されていたらしい艦上攻撃機の攻撃で、味方艦が次々に被弾する。

「敵も対応が早いです。航空隊が敵艦隊の援護に回り始めています」

「我が方の戦闘機隊はどうか?」

「敵戦闘機隊の対応で、手一杯な模様です」

「カスタロコフ」の艦長の返答に、スペルコフは黙ってディスプレイを見上げた。しばしディスプレイに表示される彼我の損害を見て、もういいだろうと彼女は切り上げる事を決意した。

「『ラブロコフ』のボローズ様に打電。敵艦隊は逃げに徹する模様、深追いせず、我が方の生存者救助に当たるべきと具申す」

「了解」

 

 意外にもボローズはあっさりとスペルコフの具申を受け入れた。全速前進で逃げに徹するガルマン・ガミラス軍艦隊を主砲が捉えられなくなって来たのもあるし、なんだかんだで結局補充を受けたばかりの艦隊もまた大損害を被っている以上、これ以上の戦闘はただでさえ上がらない自身の評価を余計に下げるだけだと分かったからだった。

 遠くに消えて行くガルマン・ガミラス軍艦隊の背中を見つめながら、ボローズは初めて掴んだ引き分けに近い勝敗に深いため息を吐いた。

「これでようやく、一引き分けと言う所か……」




 一言あとがき

 ヤマト二次創作って、執筆カロリー高いですね……(←すんごい下調べに時間かかったヤツ)
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