宇宙戦艦ヤマト2207 ザ・ボラー・ウォー   作:岩波命自

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 久方ぶりの投稿となります。


第四話 大国と亡国の影

「方位184、上げ2に味方艦隊を確認」

 コンソールのレーダーディスプレイを確認していた西城が、艦橋内に良く通る声で知らせた。

 士官制帽を被った顔を微かに上げ、艦橋上部の大画面ディスプレイに表示されるマーカーを見て古代は呟いた。

「第一一護衛隊か」

「第一一護衛隊旗艦『アルフェラッツ』の藤堂隊司令より入電です」

「繋いでくれ」

 程なくディスプレイに「アルフェラッツ」に乗艦し、第一一護衛隊の指揮を執る藤堂新信乃宙将補が映し出された。

 率いる艦隊規模では上でも、階級が一つ下であり、尚且つ年齢も上の藤堂に古代が先に敬礼すると、藤堂も年長者としての余裕ある答礼を返す。

≪第一一番惑星までの行程で脱落艦を始め、目立った問題も無しと聞いているわ。初めて艦隊を率いる艦隊司令官としては、まさしく上出来と言うべき指揮能力ね。

 亡き沖田宙将の血脈が貴方達若い世代に脈絡と受け継がれている、とでも言うべきかしら?≫

 微笑を浮かべて言う藤堂に、古代も少し表情を崩す。

「恐縮です、藤堂隊司令。大船に乗ったつもりとはいきませんが、小官に果たせることを成すまでと心得え、今次派遣に当たりたい所存です」

≪今次派遣に当たって、艦隊司令官へ貴方を推薦する声には随分と反対意見も多かったと聞いているわ≫

 微笑を吹き消し、真面目な表情に変えて藤堂は言う。

≪『あの古代か』の台詞に代表される不安。派遣部隊内部でも貴方や、『ヤマト』クルーそのものへの一種の不安が、防衛軍でも囁かれているのは貴方も存じているでしょう。気安く頑張って来なさい、とは言わないけれど……精進をしなさい。

身内からの不信は、己の努力による実力で排するものよ≫

「身に刻んでおく事とします。ご忠告、感謝致します」

 傍らの席、首席幕僚を務める雪の席を左半身で意識しながら古代は答えた。

 そこで藤堂は通信を締めるかと古代は思ったが、藤堂は一つ頼みを入れて来た。

≪戦艦『アナンケ』の北野艦長に挨拶を入れさせても宜しいかしら?≫

「はあ、構いませんが」

 何故北野艦長? と疑問を浮かべる古代に答える事無く藤堂は一時的にディスプレイから消えた。

「北野艦長は、藤堂隊司令が第二次火星沖海戦時に艦長として乗り込んでいた巡洋艦『タカオ』時代の副長ですよ。旧知の共に挨拶を入れて行きたい、って感じでしょうかね」

 事情を察した仁科の言葉に、古代は成程、と頷く。

 

 

「私信ですかな?」

≪そんな大逸れた事でもないけれどね≫

 少し軽口とも冗談交じりとも言える北野誠也の言葉に、彼のかつての上官は相好を崩した。

≪長々と話すのもアレだから簡潔に言うわ。古代は若い。若いが故に青臭い所がある。

 私程、貴方も長い事やって来ている訳では無いけれど、古代よりは培った経験の長さは貴方にはある。何かあった時、古代と『ヤマト』を止める事が出来る身分はそう居る訳では無いわ。総じて古代と大差ない若い艦長が多い今次派遣部隊において、年長者の貴方は艦隊内でのご意見番として重要な役割を担う事もあるでしょう。それを胸に刻んでおいて頂戴≫

「もしもの事があれば、古代さん諸共『ヤマト』を撃て、と?」

≪そんな物騒な事態になる前に、貴方を含め周囲の人間が対処するのよ。良き指揮官は、良き参謀が居て成り立つものよ≫

「肝に銘じておきます」

 ふっと笑みを浮かべて北野は答えた。

 

 

 通信を切った藤堂は、艦橋の窓の向こうに見える大規模な艦隊の行軍の列を眺めた。

「壮観な眺めね」

 特別混成第二任務部隊三八隻、それに本国へ帰国するデスラーの座乗艦「クラウス・キーマン」と随伴護衛艦のメルトリア級巡洋戦艦二隻の大艦隊を見て、藤堂は感慨深い思いを抱く。これ程の大艦隊を見たのは、先年のガトランティス戦役を除けば、第二次火星沖海戦を思い起こす。第二次火星沖海戦で藤堂は乗艦「タカオ」を沈められ、副長を務めていた北野誠也には「いっそ死なせてやった方が幸せ」と言わしめる程の重傷を負わされた過去がある。

 あれから随分経ったわね、と独語しながら藤堂は多様な艦艇で構成された第二任務部隊を眺めた。

「アルフェラッツ」を旗艦に、パトロール艦「アトランティック」、護衛艦「フォワード」からなる第一一護衛隊が、地球の領海から旅発つ特別混成第二任務部隊を右翼から見送る。その向こう側左翼には、第一一護衛隊と共に第一一番惑星近海でボラー連邦軍への警戒対応に当たる第二八護衛隊のアンドロメダ級宇宙戦艦「アルデバラン」ヒュウガ級戦闘空母DCV-02「レキシントン」ドレッドノート級宇宙戦艦「デヴァステイター」の姿が見えた。

 最後衛を務める「クラウス・キーマン」とメルトリア級二隻が領海を出た後、艦隊は初めての領海外でのワープに移行した。

 

 

≪今回の派遣は、特例に当たる事を予め言っておく、同志ボローズ、同志スペルコフ≫

 表情一つ崩さず、ボラー連邦が存在するボラー星系の寒冷さを想起させる冷徹な口調でリュドミ・ダーリヤ一等書記官は言った。

「はっ……」

 ボローズ自身、言いたい事は山ほどあるが永久管理機構内での上下関係はほぼほぼ絶対であるが故に、諫言も中々出来ない。

 特例も何も、始めから一線級部隊を送ってくれていれば、ここまで苦労する事も、貴女が出る事も無かろうに、と内心呟きながらもボローズはダーリヤの続きを待つ。

≪要請のあったA級旅団の派遣の許可が下りた。ガルマン・ガミラスの者達に、これ以上の領土侵害を許せば、最も近傍の我が連邦構成国、バース星にも最悪侵攻の手が及ぶ可能性がある。

 工作員からの報告では、ガルマン・ガミラスは地球連邦からの増援を取り付けたとの知らせがある。地球の領海近傍に展開する辺境巡視艦隊からの情報によれば四〇隻程の規模の艦隊がガルマン星へ向けて進軍中との事だ。かの艦隊がガルマン・ガミラス軍と共同で全戦線に渡っての大規模な反攻作戦を行えば、我が連邦構成諸国にも動揺が広がる事だろう。

 送ったA級旅団の構成人員は属民なのが懸念事項だが、彼らの連邦への忠誠心は確かなものがある。問題は無いだろう。

 今回の増援派遣は、ベムラーゼ最高管理委員長の特例である事を忘れるな。むざむざA級旅団壊滅の憂き目でも起こした暁には、現場最高責任者である貴官の処遇も決まるところとなる。心してかかれ≫

「ビエッシュナ・ベムラーゼ」

 ボラー連邦での決まり文句を直立姿勢で口にするボローズの前で、ボラー連邦の女傑の映像が消える。

 はあ、と大きな溜息を漏らすボローズの一歩引いた後ろで、レバルスとスペルコフは同時に顔を見合わせ、レバルスは軽く、スペルコフは腰に手を当てて鼻の奥を鳴らした。

「兎にも角にも、これで少しは反攻体制が整う……」

 肩の位置を戻しながら、少しばかり活気を戻した声でボローズは言った。

「しかし、地球か……座礁していた我がボラーの艦を解析して成り上がって来た奴らが、大軍を送り込んで来たか」

 ボローズもかつて永久管理機構の官吏だった頃に、地球の事情はある程度は把握していた。ボラーと今後関係や交流の生れる様な国だとは思ってもみなかったが、少なくとも遭難したボラー連邦の艦を解析して、技術躍進を遂げている事、程度の事は分かっているし、イスカンダルと言う超文明からの技術供与を経てからは更にその発展は急激になっていると言う。数年前のガトランティスとの大戦以降は軍縮傾向にあると聞いていたが、波動砲と言う決戦兵器を小型艦単位でも搭載している分、侮りがたい星間国家であった。

 いや寧ろ、とボローズは考える。波動砲を持って、全銀河の制覇を目指す覇権国家としての路線を切っていても、全くおかしくない軍事力を誇りながら、地球連邦と言う星間国家はその実、全くの平和主義的とも、孤立主義寄りとも言えた。

 少なくとも、似たような国家形態でありながら、所詮はガルマン星系を中心に至って地味で細々とした拡張政策に留めているガルマン・ガミラスとはまた別に、ボラー連邦とは激しい軍備、領土拡張で争う中であるゼニー合衆国と比べれば、遥かにまともな部類であると言える。

「地球連邦は、ガルマン・ガミラスへの全面的な軍事支援に乗り切ったのでしょうか」

 疑念を口にするレバルスに、スペルコフが異を唱えた。

「それは無いでしょう。本格的な軍事支援であるなら、派遣される艦隊の規模は一〇〇隻を超える大部隊になる筈です。我が連邦軍で言う軍団規模に匹敵する艦隊を派遣して来る可能性大でしょう。

 地球連邦側としても、我がボラーと全面的な武力衝突は避けたいのでは無いか、と思われます」

「四〇隻程度の規模と言っても、奴等には小型艦サイズでも波動砲と言う戦略兵器がある。我がボラー連邦でさえ、小規模な交戦はあれど、全面的武力衝突は回避して来た帝政ガトランティスとの全面戦争において、ある程度の互角の戦いをしてのけたのは奴らに波動砲があっての事でもある。

 我が西部戦域軍に念願のA級師団が送られるとは言え、向こうもまたこちらのA級師団と遜色のない装備、練度、人員の部隊を受け取る事となれば、寧ろ戦争はここからが激しい所となろう」

 ここ最近は酒への逃避もすっかり抜けたのか、醒めた目で言うボローズの言葉に、レバルスは生唾を呑み込む。

「しかし、今度送られてくると言うA級師団。一体どこの部隊なのでしょうか」

 珍しく口を開く「ラブロコフ」のグダン艦長の言葉に、その事に関しては事前に情報を入手していたレバルスが答えた。

「『紅き星旅団』と名前は伺っている。部隊の番号は聞いていないが……」

「『紅き星旅団』……故郷が赤い大地の星、だと言う由来か?」

 グダンに答える口調で言っていたレバルスに、ボローズも質問を向けると、レバルスは語尾を改めて答えた。

「恐らくそう言う由来では無いかと思われます」

「赤い大地の星が母星……連邦広しと言えど、その様な国土の星がありましたかな?」

 首を傾げながらスペルコフがボローズに言う。元永久管理機構の官吏であり、情報通なボローズなら何か知らないかと言う期待を込めたその言葉に、ボローズも頭を振った。

「私が把握している中ではその様な未開の地の様な星は無いな。寒冷なボラー星系において、その様な色の星は無い」

「ゼニーからの亡命者で結成した有志の部隊かも知れません」

 脇から口を挟むグダンの言葉に、三人が成程と頷く。連邦国外から亡命して来た勢力で結成されたから、ダーリヤも属民と言う言葉を使ったのかも知れない。

「しかし、ベムラーゼ閣下。いつの間に首相閣下から最高管理委員長閣下になられたのか……」

「独裁国家では、為政者の肩書はその時世、挙句には気分に応じて変わる。事細かく気に病む事でもない」

 ころりと変わるボラー連邦の最高峰の肩書にぼやきを呟くレバルスに、ボローズは声をかけた。永久管理機構の上下関係は絶対だが、少なくとも役職名を間違えて言う事くらいで更迭される事は無い。ボラー連邦の広大さ所に事前通知が届いていない可能性があるだけに、そこの所はボラー連邦の政府機関と言えど飴と鞭の飴を駆使している所ではあった。

 

 

 氷床を突き破って浮上する潜水艦を彷彿させるワープアウトの閃光が幾つも走り、総勢四〇隻程の規模のA級旅団が「ラブロコフ」以下、西部戦域軍の展開する宙域に出現した。

「見た事も無い艦ですね」

 率直な意見を述べるレバルスに、ボローズも無言で頷く。

 オレンジを基調としたカラーリングの葉巻型艦体に、上部前部に二基、後部に一基、艦底部の前後に一基ずつ連装砲を備えている航宙艦艇が一五隻程に、ミサイルランチャーと思しき構造物を増設している艦が一五隻、それを一回り大きくしたような艦が二隻、ボラー連邦軍のガノンダ型のオレンジ色塗装の艦が二隻、艦隊の主力艦をスケールダウンした様な艦前部に連装砲二基のみの軽装備の艦が数隻、それが「紅き星旅団」の戦闘艦艇の編成だった。遅れて補助艦艇の一団がワープアウトして来る。

「ボローズ司令、『紅き星旅団』旗艦『アレス』の旅団長から通信です。我、貴艦への接舷許可願う」

「許可してやれ」

 通信士の報告に、ボローズが命じる。

 

 制動のスラスターを噴射して、「ラブロコフ」に接舷した「アレス」から、程なく「ラブロコフ」艦橋に「紅き星旅団」旅団長と参謀長が上がって来た。

 ボラー系の緑の肌では無く、数時間前にボローズが話をしたダーリヤと同じ様な色の肌に白い髪、赤い瞳を持ち、ボラー連邦軍の制服を着て、ボラー連邦軍のとは違う制帽を被った将校二名を前に、ボローズは形式的な挨拶を交わす。

「西部戦域軍司令官、ヴィルキ・ボローズ少将だ。『紅き星旅団』の来援、百万の味方を得た思いである」

「『紅き星旅団』旅団長マックス・デカブリスト大佐であります」

「同旅団参謀長エドガー・メルツェル少佐であります」

「参謀長付とは珍しいな。スペルコフの率いてきた部隊には居なかった役職のものだが」

「我が『紅き星旅団』は独立旅団ですので。永久管理機構を最上位に置きつつ独自の指揮系統に元に活動しておりました。此度の派兵に当たっては、ボローズ少将の指揮下に入ります」

 独特な低音の声で語るメルツェルにボローズは眉を動かす。

「今回は独立部隊としてでは無く、俺の指揮下の元動くと? 独立部隊と言うのは、独自の指揮系統で動くからこその強みのある部隊の筈だが」

「独立部隊だからと言って、好き勝手やっていて良い訳ではありませんから」

 苦笑交じりにデカブリストは答えた。

 ボローズはふむと口を閉じる。今でこそ少将の階級を経て、西部戦域軍司令官をやっているとは言え、ボローズと言う人物の本来の職業は永久管理機構の文官の官吏である。今日に至るまで、レバルスと共に無理やり軍司令官を任されて、ガルマン星系奪還を務めさせられて来ただけに軍事にも造詣が増えたとは言え、デカブリストやスペルコフの様な本職の軍人にはまだ及ばない所がある。

「俺もまだまだだな」

 今度はボローズが苦笑する番だった。

「ところで一つ聞きたい事があるが、貴君らはどこの星の生まれだ? 『紅き星旅団』と名乗る以上、故郷は赤い大地の星だろうが、俺の覚えている限りではボラー広しと言えど、その様な赤茶けた大地の星は無い筈だ」

「我々の成り立ちから話す事になりますね」

 長い話ですが宜しいですか、とデカブリストは問う。ボローズは構わんと頷いた。どの道、今日明日、ガルマン星の領海へ進入する予定はない。特殊な成り立ちらしいA級旅団の経緯を聞くくらいの時間はあろう。

 

 

「ボラー艦隊、離れて行きます」

 旗艦「ヤマト」の艦橋に西条の声が上がる。

「早くも、我が艦隊の出港を察知されましたね」

 艦隊司令官兼艦長席に座る古代に、左隣の席に座る森雪首席幕僚が事務的な口調で言う。恐らく地球で最も名の知れた恋仲同士の二人とは言え、軍務中に私情を交える様な軽率な人間でもない。古代も古代で、恋人では無く、首席幕僚を見る視線で見ながら頷く。

「どの道、我々の出港は彼らの知られる所となる。寧ろ、今知って本国へ打電して貰えれば、幸いとも言えるが」

「と言うと?」

 戦術長土門の問いに、古代は答える。

「我々地球軍の派兵を彼らは見届けた。大規模な全面的軍事支援の派遣では無く、大きすぎず、小さすぎずの規模の艦隊の派遣を知ったボラーが、ガルマン星への再侵攻を躊躇い、外交的解決の機運が高まれば御の字と言った所だ。

 消耗が激しいガルマン・ガミラス軍に、完全装備の地球艦隊が増援として到着すれば、ボラーも今後の出方に慎重なるかも知れない。我が艦隊の戦艦級のみならず巡洋艦、護衛艦クラスにも波動砲が備わっている事をボラーが把握すれば、より彼らはガルマン・ガミラスへ振るっていた拳を止める可能性もある」

「砲艦外交ですか」

「文字通り、波動砲艦外交だな」

 土門に島が少しばかり皮肉る様な口調で言う。

「勿論、私の希望的観測でしかない……。地球の増援、恐れるに足らずとボラーがガルマン・ガミラスへの攻撃を続けるなら、我が艦隊は持てる武力を持って彼らをガルマン・ガミラスの領海から押し出すだけだ」

 少しばかり表情を歪めて言う古代に、土門は黙して戦術長席に座り直す。古代進と言う男は、無論、戦う時は徹底的に抗い、地球人としての意思を貫き通す武人としての心も持ち合わせている。一方でまだ二九歳とは言え、波瀾万丈の人生を送り、その間に様々な異星文明と語り合って来た古代は地球を脅かす異星人であろうと、武力による解決よりも対話による解決を重んじる思考を持ち合わせている。彼の兄が、異星人との対話を説いていた事や、その異星人であるイスカンダル人と結ばれた事などが古代に思想に大きな影響を与えていると言えた。

 それだけに、古代としても地球軍の出兵はボラーに早期に把握される事は願っても無い事である。これでガルマン星への武力攻撃を止め、ボラーがガルマン・ガミラスとの対話の席に立てば理想だが、古代とて決して楽観視している訳では無い。寧ろ、地球軍の出兵に伴って、ボラーが動員戦力を更に増やし、ガルマン・ガミラスだけでなく、地球にまで侵攻の手を伸ばせば銀河大戦へと発展する可能性は充分にある。

 せめて、古代としてもその様な銀河規模の大戦へと発展しない事を切に願うばかりだったが……。

 

 

「ボラーめ、最近は妙におとなしくなったな」

 ユーリ・ダゴン大佐は旗艦ガイペロン級航宙母艦「バルクラム」の艦橋から、星々を見渡しながら呟いた。

 ダゴンが艦長と隊司令を兼務する東部方面軍第一八任務部隊、通称「ダゴン艦隊」は旗艦「バルクラム」、ゲルバデス級航宙戦闘母艦「リノケレス」以下二八隻から成り、バーガー艦隊とは別の宙域の警備に当たっていた。

 一週間前の資源惑星ゼランを巡る第七次ゼラン攻防戦でダゴン艦隊が勝利を収めて以降、ボラー連邦軍はゼラン近海への展開を控えており、それまでの絶え間ない大軍による波状攻撃が嘘の様な静けさをもたらしていた。

 いくら大兵力のボラーと言えど、流石に予備兵力が尽きたか、と顎を揉みながらダゴンは考える。どれ程ガルマン・ガミラスを遥かに凌駕する規模の兵力を整えようと、それを失い、補う力が途絶えればそれまでだ。それとも何か他に要因があるのか。

 ガイペロン級の中でもガルマン星への遷都完了後に工廠惑星で竣工したての後期建造型である「バルクラム」なだけに、新造艦の香りが漂う艦橋内において、ダゴンは麾下の艦隊を分散して哨戒艦隊を構成し、ゼラン近海から各方面へと偵察に送り込みボラーの動向把握に努めていた。「バルクラム」と「リノケレス」も例外では無く、ダゴン艦隊第一群としてデストリア級二隻、ケルカピア級二隻、クリピテラ級四隻を侍らせゼラン近海から外海にかけて哨戒に当たっていた。

 事に今日はよりゼランの外海への偵察を兼ねた航海でもあった。

「索敵、流星一つ見逃すなよ」

 ダゴンがオペレーターに発破をかけている時、別のオペレーターが報告を上げた。

「左舷二時方向に敵味方不明艦船。数一〇隻程、距離……」

 この宙域に不明艦? ダゴンは訝しみつつ報告された距離に応じて、艦橋上部のディスプレイに拡大投影する様指示する。

 直線的で無機質な工業製品さを思わせる大型艦一隻と、箱型の中型艦が一〇隻程、ダゴン率いる艦隊と相対する形で隊列を組んでいるのが映し出された。

「ボラーの艦ではない?」

 訝しみつつダゴンは不明艦船への呼びかけを試みる。同時に自動翻訳機を通信機に介させ、ダゴン自ら呼びかけを行う。

「こちらはガルマン・ガミラス軍第一八任務部隊、旗艦『バルクラム』。前方の不明艦に告ぐ、所属を明らかにされたし」

 ディッツ提督の元で辣腕を振るった古参将校であるダゴンは、勿論現在は同盟国である地球とガミラスとの初邂逅時の悲劇を知っている。確かに地球からの一方的な先制攻撃を受けたからの開戦だったとは言え、当時のガミラス側の自動翻訳機の機能にも限界があった事もあり、双方の通信のすれ違いからの戦争勃発となってしまった。ダゴンも当時、地球圏へ進行した艦隊の後方に待機していた艦に勤務していた事もあり、当時の事はある程度理解していた。

 それだけに地球を除くとガトランティス、デザリアム、そしてボラー以来のファーストコンタクトになり得る相手にはダゴンも慎重な姿勢になる。ただでさえボラーとの戦争で余裕がない中、他に敵を抱える事態の発端となるのはダゴンとしても願い下げである。話が通じる相手であるなら、穏便に話し合いで解決できればいいのだが。

「不明艦より応答。ディスプレイに出せます」

「出せ。私が話す」

 オペレーターに指示を出し、ダゴンは身なりを軽く整え、ディスプレイに向き直る。

 若干のノイズの後、ディスプレイに不明艦からの応答通信の相手が映し出される。白い頭髪と顎髭の初老と言った風貌の地球人に似た顔立ちの人物が映し出される。

≪こちらはゼニー合衆国軍第七艦隊司令、ボルト・ヴォルイ司令官である。旗艦『ゼーガル』より通信中である≫

「ガルマン・ガミラス軍、ユーリ・ダゴン大佐である。貴軍の行動目的を教えられたし」

≪ダゴン大佐、貴官の艦隊は我がゼニー合衆国の領海に接近しつつある。我がゼニー合衆国はボラー連邦と敵対する、貴国のあらゆる艦艇の合衆国領海への進入を認めない所である。速やかに進路を変針されたい≫

 ゼニー合衆国……ガルマン・ガミラスがまだ知らない星間文明が、思っていた以上に近い場所に存在していたとは、とダゴンは驚きつつも表情一つ崩さずに言うヴォルイ司令官に視線を戻し、抗弁せずに従った。

「そちらの警告、了解した。我が艦隊は速やかに進路変更し、貴国領海への進入を回避する。

 但し司令官、一つ、我々にご教示願いたい事がある」

≪何用かな?≫

 軽く首を傾げながら言うヴォルイにダゴンは何処となく、この人物は話が分かる相手なのではないかと思いながら、要件を述べる。

「我がガルマン・ガミラスには、ゼニー合衆国の領海を記した海図が無い。貴国の領海の範囲を示した海図情報を共有して貰えると、我が方としてもいらぬ貴国との問題を起こさずに済む」

≪了解した。直ぐに貴艦に情報を共有しよう≫

「情報提供、感謝する」

 そこで通信が切れた後、「ゼーガル」からゼニー合衆国の領海情報を記したデータが送られて来た。

 先程までヴォルイ司令官を映していたディスプレイに、ゼニー合衆国の領海が表示される。

「初邂逅の異星文明の割には、データコードから通信の送受信容量、何より自動翻訳に完全対応とは、何か裏があるように思えてならんな」

 そう言いつつ、ダゴンは顎を揉みながら、ふむと鼻を鳴らした。随分と規模の大きな星間国家だ。ボラーの判明している領域とほぼ大差がない。

 何よりの発見はゼニー合衆国の領域と明言されている星の幾つかが、かつての帝政ガミラスの植民惑星だった事だ。何れも本星崩壊後に独立宣言して、駐留部隊事独立してしまった星々だ。

「我がガミラスを裏切って独立宣言したは良いが、地力足らずにゼニーに併合されたか?」

 若干皮肉と批判を交えつつも、決してかつての植民惑星の事をダゴンは唾棄しなかった。ガルマン・ガミラスとて現在は国家としての再編成が進んでいるとは言え、ゼニー合衆国に目を付けられるのが早かったらボラー連邦と対峙するだけでなく、ゼニー合衆国までもを敵に回して独立戦争を戦っていたかもしれないのだ。そう考えれば、旧ガミラス軍の装備品をガミラス本星崩壊のどさくさに紛れて奪って言ったとは言え、ガルマン・ガミラスとは民族も文明も違う旧植民惑星がガルマン星に代わってゼニー合衆国に併合されたのは寧ろ現在のガルマン・ガミラスにとっては運が良かったのかも知れない。

 添付されている情報には領域だけでなく、ゼニー合衆国軍艦艇の情報までが載せられていた。今後識別に役立ててほしいと言う意味なのかもしれない。

「タイアス級宇宙戦艦に、ティラード級宇宙巡洋艦……これがゼニー合衆国軍の主力艦か?」

 恐らくヴォルイ司令官の座乗艦はタイアス級だろうなと考えるダゴンの視界の端で、「バルクラム」が進路を変更する。僚艦が粛々と従う中、ヴォルイ司令官率いるゼニー合衆国軍艦隊は、ダゴン艦隊が退去するまでの間、主砲の砲身をダゴン艦隊各艦に合わせて警戒を続けていた。

 

 

 亜空間ゲートを通過し、何度かの長距離ワープを経て特別混成第二任務部隊と、「クラウス・キーマン」らがガルマン星の帝都ルダの海へ着水したのは、地球出発から二週間後の事だった。

「両舷前進微速、赤二〇。進路090」

 操艦を航海長操艦に切り替え、舵輪を自ら握る島が、適切な舵取りを行って三八隻の地球艦隊の先陣を切って着水する。

 一斉に四〇隻近い艦艇が着水すると、小規模な津波を沿岸部にもたらす可能性があるので、着水は相応の時間と順序を持って行われた。

「ヤマト」以外の地球製の大型艦艇としては初めての異星の海への着水となる「すずらん」や「アナンケ」「アルタイル」「サラトガ」達も、若干のポーポイズ現象を起こしつつも、艦体をガルマンの海に沈め、指定された埠頭へ向かって洋上航行に移行した。

 ほぼほぼ殿となった第六巡洋艦戦隊も、慣れた動きで着水する。新人乗員の多い「すずらん」や「アナンケ」らと違い、勤務歴の長い乗員の多い艦なだけに、「ヤマト」並みの綺麗な着水を決めた「アオバ」「カコ」「フルタカ」「キヌガサ」の四隻は先に着水している艦の航跡の後を追った。

「最高気温は摂氏一六度、大気中の酸素、窒素、二酸化炭素の濃度は地球と全く同じです」

 副長兼船務長の萩谷二尉の言葉に、武野内は呟いた。

「最高気温が一六度……寒い星だな。今は確かガルマン星も夏季の筈だが」

「ここ二年で気温低下の環境問題が進んでいるとは聞いていますが、これでは穀物が育ちませんね」

 実家が農家である萩谷が渋面を浮かべて返す。ガルマン星で農耕されている穀物と地球の穀物は異なるが、ガルマン星でも米や麦に似たものは育てられている。育成環境も同じと言っていいだけに、夏季に近い季節でこの最高気温は冷夏と言っていい。一年の内に冷夏となるのは兎も角、ガルマン星への遷都以来続いている気温低下となれば話は違う。

「ガルマン星の恒星が弱まっているのか?」

「それは無いかと。まだガルマン星の恒星寿命は地球と大差ないくらいには余裕がある筈ですから」

「となると、何かしらの自然現象がここガルマン星で発生しているのか」

 宇宙気象学の専門ではないので、武野内と萩谷が考えた所で始まらないが、何かしらの以上がガルマン星で発生している事は、彼らにも伺い知れた。

 冷えた大気によって冷える海を「アオバ」の艦首が切る中、最後に着水する艦の着水音が後方で鳴り響いた。

 

 

「寒い……ですね」

 ガルマン星に上陸し、デスラーに謁見した古代は挨拶の後、初めて発した言葉がそれだった。

 デスラーも否定せず、寧ろ深刻そうな表情で頷く。

「ガルマンへの遷都は終わり、各植民惑星から残存臣民のガルマンへの再移住が進むとは言え、こうも寒くては成り立たん。

 様々な産業に問題を生じさせているが、最も深刻なのは農耕業だ。人工プラントの建設も進めてはいるが、その人工プラントの動力源となるゲシュタム機関ですら、出力が上がらない程に星の寒冷化の影響が広がりつつある。

 最移住を決定にまでも持ち込んだ植民惑星のガミラス臣民が、見送りに急遽切り替える事案が最近では目立つようになった。冷えた星で凍死するつもりはない……彼らの理屈も分かる」

「何故、星の寒冷化が?」

 雪の問いにデスラーの側近であるガルマン・ガミラス軍参謀長のガデル・タラン大将が答える。

「目下調査中ですが、少なくともガルマン星の恒星に問題があると言う訳では無いようです。調査艦隊を幾つか編成して、ここガルマン星近傍の調査を行っていますが、どうもボラーも同様の現象に見舞われている様です。

 と、言うよりは、ボラー星系の方から、寒冷化を引き起こす何かが流れて来ているのでは無いか。それが現在の中間報告になっています」

 ゲシュタム機関の出力が上がらないと言う事は、同様のメカニズムである波動機関もまた、出力低下の恐れがあると言う事になる。どの程度の影響があるのかは分からないが、自然農耕に代わって農作物の生産を担当する人工プラントに安定したエネルギー供給が出来ていないと言う時点で、大分咳き込んでいるのかも知れない。

 この手の分野については技術科の解析を待つ必要があるだろう。「ヤマト」の技術長を務めてきた真田志郎は今回同行していないが、彼の脈絡を受け継ぐ技術科員は大勢「ヤマト」に乗り込んでいる。彼らがガルマン・ガミラスの技術部と共同で寒冷化の原因を究明出来れば、何か変わるかも知れない。

 

 

 




 3で没ったゼニー合衆国を新規に加えてオリジナリティを加えています。
 ヴォルイ司令官の元ネタは復活篇のゴルイ提督です。復活篇リメイクが来たら頭抱える事になりますが……。

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