先の戦争、巷では「魔法合戦」なんて呼ばれていますが、分かりやすい名前だと思います。
魔法、もとい魔術が、ここまで大規模な争いに使われた前例はありません。今回の経験をもとに、色々なことを考えさせられます。
近頃の魔術師ギルドは、魔法合戦で使われた術式の話題で持ちきりです。
私もある程度は目を通しましたが、画期的ではないにしても、実用性の高い魔術が多かった印象ですね。飛躍はないけれど、柔軟な発想が見て取れた。
ただ、こうも戦争の話ばかりだと、魔術と戦争の距離は、随分近くなったのだなあと実感させられます。
研究者気質の魔術師たちは、次々入ってくる情報に目を輝かせています。
しかし、他の魔術師は必ずしもそうでもなくて。どちらかと言うと、今度は自分たちが戦場に出なければならないのかと、ため息をこぼしている。
私も戦場に出たくはありませんが、まあ出ろと言われれば出なければなりませんからねえ。一応私営のギルドですけれど、命令されれば拒否は難しいでしょうし。
実は最近、弟子を取りました。と言っても、居候先のお家の子に、軽く魔術を教えている程度ですが。せっかくなので師弟関係を名乗っておきましょう。
このお家には二人のご兄弟がいて、このお兄ちゃんの方教えています。冒険者志望だそうです。
弟君の方は父親にあこがれて大工を目指しているのですが、どうやらお兄ちゃんは冒険者になりたいのだとか。本人がわざわざ、居候の私に教師役を頼んできたくらいです。
もちろん、私は反対、とまでは言わないにしても、冷静に諭すくらいはしました。
冒険者なんて名乗っているけれど、実態は狩人とか傭兵とか言った方が正しい。このへんは親世代の方が実感があるでしょう。
まさか「荒くれ者ギルド」と名乗るわけにもいかないから、少しでも印象よくするために「冒険者ギルド」と看板を掲げているにすぎません。
そして、大半の冒険者は、そんなこと分かっています。その上で、恰好つけるためだったり、承知の上での誇りがあったりするから、あくまでも「冒険者」と名乗ることを憚らないのです。
これは私も結構、かっこいいなと思っています。乱暴者には乱暴者なりの、秩序や誇りがある。現実離れした御大層な夢を語る方が、やたらと自らを卑下するよりも、よほどいい。
そのような自覚があってこそ、冒険者は冒険者足りえると思います。
世間が言うような無法者ではないが、吟遊詩人が唄うほど夢に溢れた職でもない。冒険者とはそういう立場です。
もし、彼が夢見がちな若者であったのなら、年長者として優しく諭して終わりかな、と思っていました。
近頃はそんな若い冒険者志望の子が増えて、現実を知ってすぐに辞めていったり、夢に溺れたまま死んでしまうことも多い。彼にそうなってほしくはありません。
しかし、私はこのお兄ちゃんの熱意を見くびっていたようでした。
冒険者の収入がどの程度か。仕事の内容はどんなものか。生活していけるだけの力を得るには、どのくらいの実力が必要か。全部調べて、まとめて、私に提示してきたのです。その上で、魔術の知識が必要だ、と。
ここまでのものを見せられては、私も簡単には断れません。事実、既にご両親も同じ方法で説得してきたようでした。旦那さんは「そこまで先を見通せるのなら、商人でもやった方が良いと思う」と言っていました。私も同意見です。
正直、あまり気乗りしない心もあります。私が今やっていることは「戦える魔術師」の育成です。戦争でも起これば、真っ先に戦場へ引っ張り出されることになる。
せっかく魔術を学ぶのだから、研究室にでも入ってしまえばいい。危険な道を歩む必要はないと思ってはいるのですが、私が言ったところで説得力ありませんしねえ。
ほどほどに頑張ってほしいものです。
(エスメラ)