私、魔術師です   作:みえふぁ

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禁術書第××番「魔力砲」 一頁目

 私はずっと、あの日感じた恐怖を忘れられないでいる。

 記憶は薄れつつあり、その日共にいた同僚の顔の全てを思い出せない。それでも、この恐怖だけは昨日のことのように思い出せる。きっと、これから先ずっとそうなのだろう。

 この文章を読む前に、貴方は既に、この術式の仕組みを知ってしまっているのかもしれない。だが、もしそうであったとしても、貴方はまだ、この魔術の全貌を知ってはいない。これの恐怖を、貴方は知らない。それをこれから書こうと思う。

 そしてもし、この文章を術式より先に読んでいるのならば、どうかこれを読んだ後に、先の頁を読まれないことを願う。

 

 この禁術が初めて公的に使用されたのは、已歴×××年の「巨大悪魔討伐作戦」である。私は、その討伐隊に魔術師ギルドから参加していた。

 それまで確認されたことがなかったほどの巨大な悪魔を、この目で見てみたい。そのような好奇心があったことは否定できない。私以外にも、そのような考えの魔術師は多かった。

 そして、私を含む魔術師の全てが、あの魔術に圧倒された。その衝撃の前では、後に控えている巨大悪魔への興味など弱々しいものだった。

 

 エスメラ・アズール氏の開発した禁術「魔力砲」の仕組みを、端的に説明する。しつこいようだが、貴方がそれ以上の詳細な内容を知ることがないことを私は願っている。

 まず、体内魔力を体の一部に誘導し、集める。無論、非常に危険な行為である。さらにそれを、外部の魔素と混ぜ合わせ、練り上げることで薄く膨大な魔力の塊を作り出す。後にこの過程を知ったときは、最早私にできることはため息をつくことだけであった。

 そして、練り上げたそれを放出する。魔物の体はその膨大な魔力から身を守るために体内魔力を高めるが、高められ続けた体内魔力はいずれ過剰なものとなる。その過剰な体内魔力によって、魔物の体は多くの故障を起こし、そのほとんどは死に至る。以上が、魔力砲という攻撃魔術の仕組みである。

 

 この魔術の洗練されている部分は、人間に大きな被害が出にくいところに挙げられよう。

 体内魔力を高め続けるには、元から一定以上の体内魔力を保持していることが必要になる。魔物と呼ばれる生物が強大である所以は、生まれ持った大きな体内魔力であり、人間を含む他の生物が持つ魔力など、それに比べればあまりに小さい。

 よって、この魔術がたとえ人間に命中しても、命にかかわるような事態には、ほとんどならないのだ。実際、巨大悪魔討伐作戦にてエスメラ氏の放った魔力砲に兵士数人が巻き込まれたが、どれも多少の体調不良を訴える程度であった。

 

 この魔術の大枠自体は、それほど難解なものではない。魔術の進歩と呼ぶよりも、原始魔術に近い場所へ立ち返ったと言うべきである。だからこそ、恐ろしい。

 エスメラ氏の口元から放たれた深い黒に飲み込まれた魔物たちは、少しの間悶え苦しむと、そのまま息絶えた。生き残った魔物もいたが、ほとんど瀕死の状態だった。

 生まれ持った魔力というものに干渉し、死に至らしめるこの術は、魔物であれば逃れようがない。魔物からすれば、心臓を直接握り潰されたような感覚であっただろう。私は、魔物に生まれなくて良かったなどという、馬鹿らしい考えすら抱いた。

 

 あれは駄目だと、本能的に思った。魔術を、生物を、世界を、根源から破壊しかねない。理屈ではなく、そのような漠然とした恐怖を感じた。

 この魔術が発展すれば、いずれ人間は魔物の恐怖から解放される日が来るのかもしれない。しかし、もしそうなったとしても、また別の恐怖がずっと世界の底で横たわることになるのだろう。

 命中した魔物は苦しんでいたが、同時に術者であるエスメラ氏も、地に伏せ、えづき、苦しんでいた。体内魔力を誘導すれば当然そうなるわけだが、それ以上に、この魔術の本質が、その両者の姿にあったように思う。

 

 私自身、このような文章を、大した根拠のない話を、禁術書庫に持ち込んで良いものか非常に悩んだ。

 それでも、私は立場を盾に無理を言い、周りの反感を買いながら、これを禁術書に挟みこんだ。その意味を理解してくれれば幸いである。

 この魔術は文字通りの「禁術」なのだ。

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