一昨日、お兄ちゃんの作った美味しい朝食を食べた後、予定もなく暇だったものですから、何となく、朝っぱらからお酒を飲みました。これこそ、自由気ままな冒険者の特権というもの。
しかし、あまり飲みすぎて居候先に迷惑をかけるわけにはいきません。私は飲みすぎた時の酔い方が酷いらしいので(ほとんど記憶にありません)、家ではちょっとだけ飲んで、外で飲み歩きを始めました。
結局この日はそのまま一日中、知人を見つけては連れ回し飲み歩きを繰り返し、夜中にトミダ君に担がれて帰宅したそう(やはり、記憶なし)。
おかげで昨日は二日酔いが酷くて、二度とあんな馬鹿な真似はしないと誓いました。お酒とは節度あるお付き合いを心がけましょうね。
と、こんな出来事を書いておきながら、こう主張することも憚られるものですが、一応私も普段は、お酒を飲む量は加減しているのです。
魔術とは、容易に人間を傷付けられる力です。そんなものを持った魔術師が、あろうことか人前で泥酔なぞしようものなら、どうなってしまうでしょう。おまけに私は酒癖が悪いようですし。
お酒は大好きですが、これでも結構、我慢しているのです。
しかし、ずうっと我慢していると、いずれ恐ろしいかたちで爆発してしまうのが人間というものでして。
そのような中、賢くも誇り高き一級魔術師エスメラは、ある条件をつけることにしました。暴走する私を、どうにかできる人間の前でのみ、思いっきり飲もう、と。
なので私は、「今日はもう、飲めるだけ飲んでやる!」と決めた日には、マスターかトミダ君を誘うことにしています。
マスターの実力は私の遥か高みにあるので、私が何かしようとしても、何も魔術を発動できないまま抑えられるのがオチです。
こうなると、私に残された手段は最早、嫌がらせのように肩を小突くことのみ。「えいえい」と可愛らしいパンチなりキックなりを繰り返していると、どこかで手痛いしっぺ返しが飛んできて、終わりです。
基本的には冷水を浴びせられることが多いですが、この前なんか電撃を食らわされましたからね。あれには流石に酔いも覚めました。そんな高度な魔力技術を、酔っ払いへのお仕置になんて使わないでほしいものです。すごく痛いんですよ、あれ。
トミダ君も、泥酔した私なら十分抑えられる程度の実力はあります(酔っていなければ私が勝ちます)。マスターほどの余裕はないため、ときどきえらい事態になってしまいますが。
一番酷いときなどは、ノリノリになった私と、決闘さながらの魔術勝負を酒場で繰り広げたようで。被害の方は、奇跡的に少しの弁償をする程度で済みましたし、酒場も大盛り上がりだったそうですが、後でトミダ君に滅茶苦茶怒られました。彼は怒ると恐いのです。正論に次ぐ正論をグチグチネチネチと。そんなんだから貴方はモテないのです。
そして、酔っ払った魔術師の最もタチの悪いところは、詰所に拘留しておけないところにあります。何せ、いつ魔術で暴れ出すか分かりませんから。魔術師を縛る法はあれど、魔術そのものを奪うことはできない。
そのような事情で、魔術師ギルドの業務には、「酔っ払って危ない状態の魔術師の回収」というお仕事も含まれています。回収された魔術師は、後から罰金を支払うことになります。だから、「飲む時は知人の魔術師と一緒に」というのは、魔術師にとっては常識のようなものになっているのです。
つまり、私は常識に則って行動しているわけで。お二人とも、誘う度、そんなに嫌そうな顔をしなくてもいいじゃないですか……。
(エスメラ)