私、魔術師です   作:みえふぁ

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どうか水だけで

 昨日は冒険者ギルドへ、討伐依頼を受けに行きました。しばらく魔術師の仕事ばかりだったので。

 

 私は誰かとパーティを組んでいるわけでもないので、こういうときは、知り合いを見つけるまでひたすら待つことになります。

 冒険者ギルドに入ると、まず、掲示板を覗いて、目ぼしい依頼を確認します。その後はギルドの酒場で塩豆をつまみながら、適当な知人が通りがかるのを待つわけです。

 

 しかし、この冒険者ギルド直営酒場(職工ギルドにも酒場があります。魔術師ギルドにはありません、ないのです)、一杯目の水は、有難いことに無料なのですが、二杯目からはお金を取られるのです。つまり、口の中にたまっていく塩豆のしょっぱさを、一杯の水で如何にやり過ごすか。これこそが、この待ちの作業の肝となります。

 魔術でこっそり水を足したりしたこともあったのですが、以前にどこぞのトミダ君が密告してくれたおかげで、お店にバレてしまっています。よって、この手は使えません。ええ、私も今はやっていないです、本当ですよ?

 

 とはいえ、一杯の水で節約しながら、塩豆をちびちびと食べ続けるのも、なかなか辛い。ついつい水を飲み切っちゃって、「どうせお金を払うのなら」と、二杯目に酒を注文するということも、まあよくある。しかし、これを始めてしまうと、もうダメです。

 これで体よく手の空いている知り合いを捕まえられたって、本来の目的なんか忘れているのですよねえ。そのまま酒盛りに入って、翌日の朝か昼、二日酔いの頭痛と共に後悔することになる。よって、ここでは何があっても、お酒は頼んじゃいけません。

 

 それ以前に、日の出ているうちから酒場で飲んでいる人間なんて、同じ冒険者であっても、良い目では見ませんからね。飲んだくれている私を見つけた時点で、まともな知人は避けていくでしょう。そんな私に寄ってくるのは、同類のろくでなしばかり。結果、ろくでなしの宴会しか起こりません。

 

 そのようなわけで、昨日はずうっと塩豆と水だけで耐え忍んでいました。二杯目も水にしました。酒場の隅で豆と水だけ口にしながら、知り合いを探して冒険者たちを眺める私……。これはこれで不審者なのでは?

 挙句、夕方まで粘ったにもかかわらず、知人は一人も姿を見せませんでした。その上、目をつけていた依頼書たちも、全て掲示板から無くなっている始末。残されたのは硬貨がいくつか減った私の財布と、口の中の微妙な塩辛さだけ。

 

 馬鹿らしくなって、飲めるだけ飲むことにしました。そして、酒を入れ始めると、狙いすましたようにやってくるろくでなし共。昼間はどこにもいなかったのに、今になってやって来ます。私もその頃には酔いが回っていましたから、やっぱり本来の目的なんか忘れちゃっていて。

 今こうして、無駄に終わった昨日一日と、二日酔いと、明日に迫った原稿の締め切りで、昨晩の酒に後悔しているというわけです。やはり飲んではいけない、いけません……。

 (エスメラ)

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