私、魔術師です   作:みえふぁ

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大変身、あるいは大洗脳

 最近、ちょっと財布に余裕がなくなってきました。稿料があるからと散財しすぎたようです。近頃は冒険者の面々とも暇が合わず、魔術師ギルドの仕事は変わらず選り好みしているので、お金が出ていくばっかりです。

 昨日ギルドマスターと飲んだのが完全にとどめとなりました。あの人、お金持ってるのに全然奢ってくれないんですよねえ。

 二日酔いの腹いせもかねて、今日は我らが魔術師ギルドマスターについて書こうと思います。

 

 だいたい四十年くらい前「私は魔術師ロベルテである」と主張する少女が現れました。

 魔術師ロベルテ。魔術革命の中心人物であり、術式全体の基礎を作り上げた、皆さんご存じ「魔術の父」です。

 ですが、晩年は狂気とも表される姿勢で魔術研究に没頭、彼がそのまま研究室で没したのは、今から五十年ほど前。つまり彼女が現れたときには、魔術師ロベルテは死人だったのです。

 

 無論、初めは誰もまともに取り合いませんでした。しかし、少女が国に仕える魔術師、それもトップクラスの極一部しか知らない機密や、おおよそロベルテしか知り得ないようなエピソードを語り出すと、状況は一変します。

 少なくとも彼女は、ただの気のふれた女の子ではなくなったのです。高度な魔術知識を披露できたことも、それに拍車をかけました。

 

 そこで当然湧き上がってくるのが、死んだはずのロベルテが、何故少女の姿となって生きているのか、ということです。

 これに彼女(彼女、としておきます)は「より魔術に適した体を手に入れるため、少女の体を作り出し、それと自分の体を入れ替えた」と発言。魔術師たちは大いに混乱します。

 まず「少女の体を作り出した」というところが既におかしい。現代の魔術でもほとんど不可能、理論上でも欠片しか掴めないような代物です。

 さらに「自分の体と入れ替えた」という点です。これはもう意味が分かりません。理論を組み立てる土台すら用意できない、ほとんど夢物語と言っても過言ではない。

 

 あまりに突拍子もないので「やはりただの頭のおかしい少女だったのではないか」という話が帰ってくることとなります。

 あるいは、高度な魔術知識を持っていたことも踏まえて「ロベルテが一人の少女を洗脳し、第二のロベルテとしたのではないか」とも言われ始めます。そしてだんだんと、こちらの説が有力視され始めます。

 

 人の体を作り出す魔術や体を入れ替える魔術の仕組みを説明してくれれば、彼女の話ももっと説得力を持ったのでしょう。

 しかし、彼女は「少なくとも現代にあっていい魔術ではない」と言って、これを公開せず、秘密のままとしました。

 

 困り果てた政府は、とりあえず彼女をロベルテ本人として扱わず、国の研究機関に入れることを拒みます。

 とは言うものの、真偽はどうあれ、彼女がかのロベルテに匹敵するほどの魔術師であることも確かです。腐らせるには惜しい。

 そこで、一応私営の団体である魔術師ギルドの重役に、少女を据えることとしたのです。それから彼女はギルド内で立場を上げ続け、第十一代ギルドマスターとなりました。

 

 ところどころ端折っていますが、まあだいたいこんなところでしょう。本人から聞いた話も沢山ありますが、それはまた別の機会に。しかし一通り書いてみましたが、やっぱおかしいですねあの人。

 一応現在も、彼女がギルドマスターの地位にあることを疑問視する声はあります。しかしまあ、本物だろうと偽物だろうと優秀な魔術師であることは間違いないし、別にいいんじゃないかしらねえ。

 

 言うことがあるとすれば、もし本当に少女の体を作って入れ替えたのなら、普通にちょっと気持ち悪いなということです。いや、確かに女性の方が魔術に適してはいるのですが、それでもやっぱり、ねえ?

 酒の席でそれを本人に直接言ったことがあるのですが、あのときは面白いぐらい凹んでいました。意外と誰も指摘しないんですねえ。言えばいいのに。

 (エスメラ)

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