後、お待たせしました。
「お昼休憩入りまーす!」
MV撮影が始まってから一度目の休憩時間に突入した。
アネモネさんが仰った通りスケジュールは詰め詰めで、現時間はお昼休憩な訳なのだが、カメラは依然として回り続けている。
そんな様子にルビーが疑問を呈する。
「えー?こんなところまで撮るんですか?」
こんなところというのはB小町メンバーが昼ご飯を食べている場面だ。人によっては食事シーンを撮られるのを嫌がる場合もあるが、B小町のメンバーにはそういった人間はいない。
「アイドルのMVは踊りのパートとドラマパートに分けて撮る事が多いでしょ?メインは全体のダンスで尺を稼ぐけど、ちょくちょく個々の可愛さを切り取ったカットを挿入しなきゃいけないのよ」
アネモネさんが言ったこと以外でもこういった映像は、おまけにつけるメイキングや他のコンテンツとして配信する際に使える可能性がある為とっておくに越したことはない。
「かなちゃん、カメラを“大好きな人”だと思って振り返って」
この場合は多分重曹先輩はアクアを想うんだろうなと予想しながら私は重曹先輩を観察する。
すると重曹先輩は指示通りの表情、おそらく作り物ではなくあの人の顔を想像して自然な恋する乙女の顔で微笑む。
その技量の高さについ感嘆のため息が漏れる。重曹先輩の役者としての実力はやはり優秀だ。
(むー...、おぉ!やっぱり有馬先輩可愛いなぁ!正しく恋する乙女って顔だね)
「へぇ〜...、良いカオ」
アネモネさん分かりますか!?
「かなちゃん好きな人いるんだ?」
「!?」
「どんな人?どこが好きになったの?」
「〜〜〜〜〜〜ッ」
言い当てられた重曹先輩は動揺を隠しきれずに表情が若干崩れている。必死に隠そうとしているが、図星については隠せないらしい。
重曹先輩がアネモネさんの追及を躱している間に別の方向へ耳を向けた。
「MVってコンセプトとざっくりとした流れだけ決めて、どんなものを撮るかはその場の判断になることが多いんだ。いかに被写体の魅力を引き出すか、グラビアカメラマン的な才覚が求められるよね」
「へー」
そう話すMEMさんとルビーの視線の先にはアクアのことを聞かれて赤くなっている重曹先輩がいる。ああいう照れた様子というのもチャーミングな一面なのだろう、実際可愛いことに変わりないし。言葉巧みにその魅力を引き出せるアネモネさんは間違いなくプロというものだろう。
「結構スタッフ多いんだね」
「そうだねー」
「わーっ」
ルビー、私、MEMさんの順で感想を漏らす。
「っていうかルル居たんだ」
「え、私ってそんなに存在感空虚かな...?いや別に周りのみんなに比べたら薄い存在なのは認めるけどさ、気付かないほどかな?」
「ルビー以外はなんとなく気付いてるから安心して良いんじゃ無い?」
「せんぱい、なんかそれ私のことバカにしてない?」
「シテナイワヨー」
そうかルビー以外は気付いていてくれているのか、ならいいや。
「それにしてもここのスタッフ...。カメラマンに助手が二人位付いてて、照明三人、美術や衣装、メイクに諸々。制作PMとか監督も含めたら人数は10とか20になるわよ」
フゥ...と重曹先輩は一旦息をついてから続けて
「全体で言ったら五百万以上掛かってるんじゃない?」
「ひぇっ!」
掛かっているお金の大きさに恐れ慄くルビー。普通に生活していて五百万が動くことなんかそうそう無いからね、その反応も仕方ないね。
それにしても五百万あったら色々出来るよね。私の好きなお菓子をたくさん買っても余裕あるよね。
うーん...、私の頭では出てくる例えが幼稚すぎる。もっと的確な例えはできないものか。
「結局ね、アイドルは搾取されてると言ってもお金掛かるところはガッツリかかるからね」
そうだ。モノを作るのにも、何かを成そうとするのにも結局人や場所、物が関わってくる関係上必ずと言っていいほどお金がかかる。
それもアイドルとなればかかる金額は馬鹿にならないため、そういった投資を決断できる経営者という人間はどれだけすごい人間なのかという事を実感できる。
「こんな金にならないグループにこれだけ出してくれる社長には感謝しなさいよ」
「ミヤコさん大好きーっ♪」
重曹先輩に言われてからルビーが弾けんばかりの笑顔でミヤコさんに抱きついた。
おおっ、美少女が美女に抱きついとる...。同性でも美しいものは美しい、眼福だなぁ。
それにミヤコさんもプレゼント感覚でやっているわけでは無い。新生B小町は私の素人目から見ても絶対売れると確信できる。ただ、直ぐ売れるなんて都合のいい世の中では無いので、当たる時は爆発的に売れるのだろう。
なのであくまでもミヤコさんが行ったのは先行投資の筈だ。
こういった映像は在庫が残ったとしても、売れた際にその在庫を売ったり、データを使えば過去の映像を特典として利用したり、有料で配信したりしてお金にする方法がある。
「まぁ地下アイドルの撮影とかだと“50万位”で作ったりする事もあるって話だけど」
「あるだろうねぇ......」
重曹先輩の余談とも言える一言にMEMさんが同意する。
50万か、内訳がどうなっているのか考えたくも無いが、現代のアイドルは数人編成が基本形態な為、数十万程度しかかかっていない撮影だと色々と十分なクオリティの確保は出来ないだろう。生半可なレベルのMVしか撮影できずに大した売り上げも見込めない。
お金をドブに捨てるような行為だ。
今挙げた通り、クオリティが低い為、人気が出たとしても売りに使えるかが微妙だし、特典としても物足りない。一部のコアなファンしか喜ばないニッチな物にしかならないだろう。
「なんていうか、闇だよねぇ...」
「ま、売れないアイドルなんて大抵そんなものよ」
「ははは...」
これに関しては苦笑いするしかなかった。
最終話良かったですね!
第2期制作決定もめでたい!
12巻も7/19に出る、素晴らしい!