大人になりたい少年の話   作:かゆ、うま2世

1 / 53
大人

激痛と共に、力が俺の中に流れ込む

その様を見て、目の前の赤い女は笑っている

 

どうすればよかった?

訳の分からない憎しみの連鎖から、皆を救いたかった

もし、もしも───

 

 

 

 

 

 

───俺が、もっと大人だったなら

 

 

 

──────────────────

 

 

 

「……嫌な夢だ」

 

 

眠い目を擦りながら、尾噛イフは呟く。寝起き特有の気怠さを感じながらも体を起こし、伸びをする。

窓から差し込む朝日に照らされた室内を見回し、ここが自分の部屋であることを確認した。

見慣れた勉強机と本棚、それにクローゼットがあるだけのシンプルな部屋。

たまに寂しがり屋のメイドが起こしに来るからなのか、日の光で目覚めるとなんとも言えない気分になる

 

 

「……起きよ」

 

 

上下に黒い服と、足まである同色の上着を羽織り、机の上に置いてあるハンドガンとナイフを手に取る

 

食材はあったかな、何て思いながら、冷蔵庫を開けようとした時──

 

 

「イフ様、起きて──ますね」

「一足遅かったな、トキ」

 

 

飛鳥馬トキ──ミレニアムのC&C五番目のエージェント。元々はセミナーの会長専属のメイドだったが、アリスの件以来、俺に付き纏うようになった

 

 

「飯作るから手伝ってくれるか?」

「仰せのままに」

「………」

 

 

同じ生徒という立場なのにこういう反応をされるのは何というか………むず痒い

直せるものでもないので、これについて考えるのはやめる事にした。ただでさえ今は考える事が多い

 

 

「そういえば、もうすぐですね」

「何が──あぁ、"エデン条約"か」

 

 

エデン条約。犬猿の仲だったトリニティとゲヘナの間でもうすぐ結ばれる条約の事だ

内容は……簡単に言えば「憎み合うのはもうやめよう」という事だ

 

 

「うちもそれでごたついてるからな、こうやって手伝いに来てくれるのはありがたいよ」

「私は完璧なメイドですから」

「はいはい……」

 

 

エデン条約がこのまま何事もなく結ばれれば、俺の夢に一歩近づける

 

"大人になって、皆を救う事"

 

これを実現する為に、俺にできる事は何だってやる。どこにも居ない大人の代わりに、俺が皆を救ってみせる

 

 

 

──────────────────

 

 

 

「おはよ、皆」

「おはようございます、イフさん」

「おはよう、イフ」

「イフ君おはよ〜☆」

「元気そうで良かったよ」

 

 

トリニティの生徒会"ティーパーティー"

聖園ミカ、百合園セイア、桐藤ナギサ、そして──尾噛イフの四人で構成される

と言っても、現状特にやる事がある訳ではない

 

 

「イフ君、またゲヘナの奴らに会いに行ってたの?」

「悪いかよ」

「イフさん……エデン条約が目前に迫っている事をお忘れですか?軽率な行動は謹んでください」

「友達に会いに行く事の何が悪いんだよ。……エデン条約が結ばれれば、こんな事気にしなくてもよくなるんだよな」

「少なくとも、表面上はね。それよりもイフ、疲れてないかい?」

「……最近はアビドスとアリスの事で大変だったし…疲れてると言えばそうなのかもな」

 

 

アビドス、ゲーム開発部、アリス、トキ、そして──謎の集団ゲマトリア

アビドスにはホシノも居る。彼女が捕まった時は肝を冷やしたが、もう大丈夫。対策委員会はきっと上手く廃校の危機を切り抜けることだろう

アリスも毎日を楽しそうに過ごしている。彼女の本質が何であろうと、アリスがなりたい存在はアリス自身が決めるべきだ。願わくば……彼女の中の存在も

 

 

「イフ君色んなところ行き過ぎじゃない?」

「アリウスには行ってないぞ、残念な事にな」

「……イフさんはお疲れのようなので、一旦解散にしましょう」

 

 

ナギサの一言で、ティータイムは終わりを迎えた

 

 

──────────────────

 

 

 

それから少しして、ある人に会いにゲヘナの方へ足を運んでいた時の事だった

 

 

「見つけたぞ、イフだ!」

「ここで仕留めてやる!」

 

 

ゲヘナ名物の不良生徒だ、来るたびに必ず会う気がする。ヒナのおかげでこんな風に目立った真似をするような奴は少なくなっているらしいが、毎回会うのでそうも思えなくなってきた

 

ただ今回のは少々面倒だ。戦車まで持ち出してきた

キヴォトスに住む生徒達は頑丈だ。銃に撃たれようが戦車の砲撃を喰らおうが死ぬことはない、喰らい続ければその限りではないが、そこまでするのは難しい

だから、手加減の必要はない

 

 

「撃て!」

 

 

砲撃と共に、無数の銃弾が降り注ぐ。それを────

 

 

──回避した

 

 

 

 

瞬間移動と見間違うほどのスピードで迫り来る銃弾を全て回避しながらハンドガンを発砲。正確に頭を撃ち気絶させる

 

 

「あぶねっ!?」

 

 

咄嗟に後ろに飛び退いて戦車の砲撃を回避する

 

 

「数ではこっちが上だ!撃ち続けろ!」

「無限かこいつら…!」

 

 

ハンドガンを構え直そうとしたその時、不良生徒達の奥からこちらへ向かってくる影があった

目的の彼女だ、それなら俺は戦車を潰そう

 

 

「──今!」

 

 

砲弾を発射する為の火薬が爆ぜたその瞬間。弾が砲身を出るよりも前に砲身を殴り、曲げた

砲身を曲げた影響で外に出ることができなかった砲弾は内部で爆発。戦車は機能を停止した

あとやる事は───できるだけ伏せる事だ

 

 

伏せた俺の頭上を、無数の弾丸が通り抜ける。大量に居た不良生徒は一人残らず気絶した

 

 

「俺の事考えて撃ってくれよ、ヒナ」

「きっと避けると思ったから」

 

 

ゲヘナの風紀委員長──空崎ヒナがそこに居た




尾噛イフ
トリニティ総合学園三年生
性別:男

ティーパーティー所属の三年生。過去の経験から『大人になって皆を救う』事を人生の目標としている
その夢を追う為にキヴォトス中を駆け回っている為、顔は広い
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。