大人になりたい少年の話   作:かゆ、うま2世

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君は無邪気な夜の希望(絶望)

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、ナギサ」

「何ですか?」

「補習授業部の最終試験会場ってどこだ?」

 

 

最終試験日前日。大量の事務作業によって泣く泣く補習授業部の手伝いを諦めた俺は、ふと気になる事をナギサに聞いた

 

 

「……聞いてどうするつもりですか?」

「聞きたいだけだよ、嘘は無駄だぞ、最悪補習授業部に教えて貰えばいい」

「……第十九分館です」

「はぁ?お前それ……」

 

 

第十九分館。そこはエデン条約に必要な重要書類を保管する。と言う名目で正義実現委員会が派遣される筈だ。エデン条約が締結されるまで、誰もそこに立ち入る事を許されない

 

 

「……お前な、あんまりあくどい事してると脳破壊されるぞ」

「脳破壊?」

「……何だろうな、それ」

「それよりも、どういうつもりですか?補習授業部を手伝うだなんて。裏切り者と言われても否定できませんよ?」

「……あそこに裏切り者は居ない。生徒を退学にさせない為にやってるだけだ」

「無駄ですよ。補習授業部が最終試験を受ける為には、正義実現委員会を敵に回す必要がある。理解していないとは言わせませんよ?」

「それでもだよ。補習授業部は上手くやる。酷い目に遭わないように気をつけろよ」

 

 

そうして、呆気なく時間は過ぎていき───夜中、アズサからの連絡が入った

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

「着いたぞ、何をすればいい」

「ほ、本当に五分で来ました……!」

 

 

アズサからの連絡を受け、『五分で向かう』とだけ言って全力で走って合宿所まで向かった

 

 

「今日、アリウスが攻めてくる」

「……そうか」

 

 

アズサは、自分の身の上を皆に完全に話したらしい

 

 

「ナギサのヘイローを破壊する為だ。私達はナギサを確保した後、この合宿所で攻めてきたアリウスの軍勢を全滅させる」

「なるほどな」

「難しいことは言わない。ナギサの確保と、アリウス相手に暴れてくれればそれで良い」

「了解。ナギサの確保は俺が行こう。そっちの方が早く済むしバレにくい。場所は……セーフハウスか」

「あぁ、場所はわかるか?」

「勿論だ。早速行ってくる。俺が帰ってくるまでは保たせてくれ、頼んだぞ」

 

 

 

 

 

 

 

トリニティ本校舎より少し離れた場所にある特別棟。そこにあるのはティーパーティーのみが知る緊急避難用のセーフハウス。その中でも特に秘匿性の高い屋根裏部屋。桐藤ナギサはそこに居た

 

今宵、全てが終わる。エデン条約を前に控えた最終調整日程。今日で補習授業部は退学となり、自身は調印式まで雲隠れ。条約さえ締結してしまえば、自身に何かあってもミカとイフが運営を引き継ぐ事が出来る

 

──これで、良かったのだろうか

 

自分のやった事が、到底許されるようなことではない事はわかっている。全てはエデン条約の為、と無理矢理自分を納得させて、今までやって来た

それでも、思考は止まってくれない。もっと穏便な、失う事のない手段があったのではないか。自己嫌悪に満ちた思考を、自分にできた選択肢の中ではこれが最善策だったと信じて誤魔化す。補習授業部の事も、先生との対立も、全ては今後の未来の為───

 

 

「……イフさん」

 

 

ふと、口からでたのは一人の少年の名前。同い年で、同じ組織に属する頼れる男の子

幼い頃、初めて会った時からの口癖だ

 

 

──大人になりたい

 

 

何故、と聞く事はなかった。子供っぽい憧れのようなものだと、勝手に解釈していたからだ

でも、イフの姿勢───来るもの拒まず、ゲヘナであろうとミレニアムであろうと、できる力を全て使って誰かの為にあろうとするその姿勢は、とても眩しく見えた。同い年の筈なのに、ずっとずっと遠くにいる気がしていた

紅茶を飲みながら、四人で笑い合った日々を覚えている。初めて出会った時のことも、一緒に過ごした日々も、忘れる事はない

彼の笑顔が好きだった。屈託のない、太陽のような──と、表現しようと思えば幾らでも言葉が出てくるような笑み。その顔を見る度に、胸の奥底から暖かな気持ちが溢れてきた

 

でも──いつからか、彼は笑わなくなった

代わりに、どこか悲痛な表情を浮かべるようになった。まるで、何かを諦めてしまったかのように。何かから目を逸らすかのように

理由なんて決まっている。嫌な役回りをさせた。補習授業部を疑わせ、邪魔になるようなら先生を殺せ、とまで命じた

誰かの為に努力を重ねてきた彼にとって、生徒を疑い、退学に追い込め、なんていう命令はきっと耐え難いものだったのだろう。試験会場を吹き飛ばした時、彼が怒りを露わにしたのも当然だ

 

 

「……私は、最低ですね」

 

 

信じている、と言ってくれたのを覚えている。疑心に満ち、外道に堕ちた私を、それでも信じると、そう言ってくれた

殴られたって文句は言えない。恨まれても仕方がない。それ程までに酷いことを、私は彼にしたのだから

 

 

「……ごめんなさい」

 

 

呟くように謝罪の言葉を口にする。誰にも聞こえないように、小さな声で

 

 

「……ナギサ」

「っ!?」

 

 

背後から声をかけられ、慌てて振り返る。そこには───

 

 

「イフ、さん?」

「他の誰に見えるっていうんだ」

 

 

尾噛イフが、立っていた。それも、私にハンドガンを向けて

 

 

「裏切り者の答え合わせといこう。言っちまえば、全員だよ」

「──え?」

「俺を含めて、みーんな裏切り者だ。これからお前にはちょっとの間寝ててもらわなきゃいけないが……その前に、リーダーからの伝言だ」

 

 

未だに状況を理解できない私に近づくと、彼はハッキリと言い放った

 

 

「『あはは…楽しかったですよ。ナギサ様とのお友達ごっこ』……だってさ」

 

 

脳を殴られるような衝撃。同時に彼の手が首元まで伸び、私の意識は闇に沈んだ

 

 

 

「……ごめんな」

 

 

 

──────────────────

 

 

 

「回収してきた。道中遭遇したアリウス生は気絶させてきた。……なぁ、本当にここまでする必要あったのか?ナギサに酷い事されたのはわかるけどさ……」

「えぇ、このくらいはいいと思います。あとは──」

「攻めてきたアリウス生を全滅させるだけだ」

 

 

あの後、気絶したナギサを抱えて合宿所まで戻った。道中、それとなくナギサを連れて合宿所に向かう事をアリウス生の無線に流しておいたので、恐らくここに集まるだろう

 

 

「じゃ、おさらいだ。ハナコ、コハル、ヒフミと……先生は体育館でナギサを守る。俺とアズサは前に出てアリウス生を迎え撃つ。いいな?」

「わかった」

「り、了解です!」

「えぇ」

「や、やってやるんだから!」

「上出来だ。アズサ、早く行く──」

 

 

アズサを呼ぼうとした時、俺のすぐ側に先生が立って居た

 

 

「せ、先生?」

「……本当に二人だけで大丈夫?」

「馬鹿言え、アズサから俺の事は聞いてるんだろ?二人以上いる方が危ないんだよ」

「でも……」

「いいから黙ってここに居ろ。心配なんていらない。すぐに終わらせてくるから」

「……怪我、しないでね」

「……自分の心配だけしてろ」

 

 

無理矢理会話を切り、アズサと共に体育館を出る。走りながら、隣を走るアズサに話しかける

 

 

「"スクワッド"は来ると思うか?」

「……状況が悪くなれば、多分来る」

「同感だ。正義実現委員会への通報は済ませたか?」

「うん」

「完璧だ」

 

 

正面玄関の近くの物陰に身を潜め、その時を待つ。入り口は限られており、元々アリウスは夜中の間に隠密行動で全てを終わらせるつもりだった。つまり、壁を破壊する量の爆薬など持ち合わせていない。ならば、警戒するべきは正面玄関のみ

 

玄関の外から聞こえる足音を聞きながら、息を殺す。緊張しているのだろうか、心臓の鼓動が少し速い気がする

扉が僅かに開かれ、一人のアリウス生が中を覗き込み───

 

 

「──オーケー、ゲーム開始だ」

 

 

扉に仕掛けられたワイヤートラップ。扉を開けたアリウス生は暗闇の中光るワイヤーを確認し、しかしそれが何なのか理解する前に爆発に巻き込まれて扉ごと吹き飛んだ

 

 

「─ッ、何だ!?」

「爆破トラップ──!」

 

 

混乱に乗じ、物陰から身を乗り出した二人の射撃がアリウス生を襲う。狙いを被せる事なく、されど弾を外す事なく放たれた弾丸は正確に相手の頭部を撃ち抜いた

しかし、相手も幼少期から厳しい訓練を受けたアリウス生徒。銃声が聞こえた瞬間、二人の銃撃から逃れた数人は射線から身を隠していた

 

 

「充分だ、下がるぞ」

「うん」

 

 

当然、そこまで織り込み済み。十人単位の小隊のうち六人を仕留めた。ファーストコンタクトとしては充分ずきるくらいだ。身を翻し、合宿所の奥へと駆け込む

 

瞬間、合宿所の裏手から響く爆発音。裏手から侵入しようとした部隊が罠にかかってのだろう。あちらには罠を多めに仕掛けておいた、恐らくそれだけで全滅している

 

やがて辿り着いた合宿所の奥、廊下の角で二人は身を潜める。廊下の奥から体制を整えたアリウス生が近づいてきているのを、足音と気配で感じ取った

 

 

「グレネードの用意」

「できてる」

「俺が行く、投げろ」

 

 

アズサの手から放たれたスタングレネード。一瞬の閃光が暗闇を照らし、アリウス生達の視界を奪う。無防備なアリウス生達に高速移動で接近し、打撃を繰り出していく

 

一人、また一人とアリウス生を殴り飛ばし、相手の視界が戻るタイミングを見計らい、再びアズサの元へ戻る

俺一人が暴れて全滅させる事も可能だろうが、"スクワッド"の存在がある以上、出来るだけ余力を残しておきたい

 

 

「あと二十人ってとこか?」

「あぁ、もうトラップもない。体育館へ急ごう」

 

 

アズサの提案に従い、体育館へと走る。逃走ではなく、待ち伏せ。俺とアズサのゲリラ戦で出来るだけアリウス生を削り、残った勢力を体育館に誘い込んで一気に叩く

 

 

「あ、アズサちゃんと、イフさんです!」

「あと二十人ってところだ!ここで叩く!」

 

 

体育館の前にいた補習授業部に合流し、迎撃の準備を整える。残り少ないアリウス生達は、この正面入り口から入ってくるだろう

 

 

「ハナコ、ヒフミ、コハルは先生とナギサを守ってくれ。アズサ、行けるな?」

「もちろん」

「わ、わかりました」

「……えぇ」

 

 

全員の返事を聞いた後、銃弾を防ぐ為に物陰に隠れる。そして、ついにアリウス生達が姿を見せた

二十人、完全に入り切るまで待つ。ナギサと先生、二つの目標がここにいる事すら気づかせずに終わらせる

 

 

「……第二ラウンドだ」

 

 

小さく呟いて、側にいるアズサに手を差し出した。意図を理解したアズサは、その手に足を乗せて──────

 

 

「───っ!?」

 

 

それを踏み台にして、高く跳躍した。正確にアリウス生を狙う銃弾の雨の中、俺は先程と同じように、物陰から飛び出した

 

 

「遅い!」

 

 

アズサが十人、俺が十人。狙いを被せる事はない。あまりに効率的にアリウス生を気絶させていき──やがて、最後の一人が倒れた

 

 

「か、勝ったの……?」

「うん、全員戦闘不能」

 

 

倒れ伏したアリウス生に銃口を向けながら、アズサは答えた

 

 

「い、イフさんが居てくれて助かりました……」

「居なくても、お前らは上手くやったよ。次のフェーズだ。正義実現委員会が到着するまで時間を稼ぐ。コハル、連絡は済ませたか?」

「あ、うん!ハスミ先輩に連絡しておいたから、すぐ返事がくる筈!」

「完璧だ。それまで耐えれば俺達の完全勝利。気を抜くなよ」

 

 

ナギサの失踪、コハルからの連絡。少なくとも状況確認には動き出す筈だ。正義実現委員会が到着するまで、或いはトリニティ全体が異常を察知するまで────

 

 

「─ッ!先生!」

 

 

瞬間、唐突に体育館横合いの壁が吹き飛んだ。先生に覆い被さるようにして爆発から庇い、衝撃で転がった

 

 

「ッ、これは──増援部隊?」

「アズサ!壁を抜かれた、工作部隊までいる!」

「何──?」

 

 

アズサが呟くよりも早く、先程とは比較にならない量のアリウス生が立ちはだかる

 

 

「大隊規模……アリウスの半数近い数だ!」

「ありえません、これだけの爆発、銃声が響いているのに、正義実現委員会は何を──」

 

 

先生は黙ってアリウス生達視線を向けていた。しかしその意識は──その奥に潜む彼女に向けていた

そして、俺も同じ人を──見てしまった

 

 

「──え」

「ミカ……?」

 

 

砂埃を掻き分け、現れる人影が一つ。いつも通りの白い制服と、どこか浮ついた雰囲気を纏う彼女

ティーパーティー、パテル分派首長、聖園ミカがそこにいる───!

 

 

「やっ、イフ君も先生も久しぶり!」

「……ミカ」

「それから、正義実現委員会は動かないよ、私が改めて待機命令を出しておいたから、今日は学園が静かだったでしょ?正義実現委員会以外の所にも、ティーパーティーの権限が及ぶ限り、色んな理由をつけて足止めしておいたから。ナギちゃんを襲うときに邪魔なんてされたら困っちゃうもんね」

 

 

理解が追いつかない。目の前で起きている光景は本当に現実なのか、全部悪い夢なのではと疑ってしまう

 

 

「な、にが、起きて」

「も〜、イフ君も案外鈍いなぁ〜。簡単に言うと───」

 

 

あまりに軽い、いつも通りの雰囲気を崩さぬまま、残酷な真実を告げた

 

 

「黒幕登場☆ってところかな?」

 

 

 




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