大人になりたい少年の話   作:かゆ、うま2世

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皆イフ君がどうやって戻ってくるのか気になるよな


蹂躙

 

 

 

 

 

「リーダー、どうする?無傷は流石に想定外。あの二人も、計画には無かった筈だけど。勝ち目があるとは思えないよ」

「うわぁ…辛いですね、苦しいですね…どうして人生はこんなに苦しいんでしょう……」

 

 

言うまでもなく、アリウススクワッドは厳しい状況下にあった。本来、ミサイルで各武力組織に大打撃を与え、先生を殺害する筈だった

だが現実はどうだろうか。尾噛イフの姿は見つからないが、空崎ヒナは無傷。加えて二人、知らない人間が増えている

見ただけでわかる。あの二人もかなり強い。まともに戦っても、勝てるビジョンが全く浮かばない

 

 

「……"爆弾"を使う。せめて一人、穴を開けて先生を殺す。それさえできれば後はユスティナに全てを任せれば良い」

 

 

ヘイローを持つ生徒同士の銃撃戦は、一瞬で終わる事はまずあり得ない。あるとすれば、キヴォトスでも指折りの強者に目をつけられたその時だけ

だが、アリウスが持っているヘイローを破壊する爆弾。これは別だ。まともに喰らわせる事ができれば、誰が相手でも一撃で勝負がつく

 

三人に勝つ必要はない。たった一発、先生に銃弾を撃ち込めばそれでいい。爆弾を上手く使えれば、まだ勝機はある

 

 

「っ、来るよ!」

 

 

トキの武装から放たれた無数の銃弾が降り注ぐ。アツコのドローンから撒かれた煙幕を利用して銃弾は回避。視界状況が最悪の中、戦いの幕が上がった

 

 

「……ゲリラ戦、ですか」

 

 

アリウスの狙いは、この煙幕を利用してのゲリラ戦。確かにこの視界状況では、目立つ武装を纏っているトキは不利とも取れる

ホシノの位置がわからなくなるが、二人に当たる可能性がある以上、ヒナも無闇に撃てない。実際、分断としてはほぼ完璧に近い作戦と言えよう

 

 

「……舐められたものですね」

 

 

静かな怒りを込めた声が、小さく響いた

 

 

──────────────────

 

 

 

言葉無く、それでも意思は伝わっている。幼き頃、尾噛イフから教えられた戦い方。時に圧倒的な物量差、実力差すら覆す戦術

煙幕による最悪な視界の中、戒野ミサキは煙の中でも目立つ"それ"に向けてスティンガーミサイルを構える

あのパワードスーツ相手では、普通の銃弾はパイロットに当てなければ殆ど意味がないだろう。だが、スティンガーミサイルであれば多少は効く筈だ

 

死角から放たれたミサイルが、真っ直ぐに目標に向かって飛んでいき──撃墜された

 

 

「っ───!」

 

 

まるで予測していたかのような銃撃。ミサイルは撃墜され、ミサキ自身も少し被弾してしまった

 

 

「そこですね」

 

 

一瞬の時間差もなく銃撃は続く。ギリギリでサオリがミサキを抱えてその場を離れた為直撃は免れた

 

 

「リーダー!出し惜しみしてられない!」

「わかってる!ミサキとヒヨリは姫を、私は奴を殺す!」

「……了解」

 

 

煙幕の中を走り回り、ミサキはアツコの元へ、サオリは"爆弾"の用意を開始する

 

確実に当てるべく、煙の中でもよく見える黒い影に向かって走り出す。やがて、その姿を鮮明に捉え───

 

 

「──何?」

 

 

そこにあったのは、パイロットを失くした空っぽのアビ・エシュフだった

 

 

「後ろです」

「ッ───!?」

 

 

背後からの殺気。咄嗟に振り返った瞬間に腹部に蹴りを貰い、アビ・エシュフの足元に転がった

それよりも前に再びアビ・エシュフに乗り込んだトキは、その重量を生かしてサオリの背中を踏みつける。その拍子に、サオリの手からは"爆弾"が転がった

 

 

「これは……危ないですね」

 

 

アビ・エシュフから降りたトキは、爆弾を拾ってそう呟く

 

 

「これを使えば、簡単に終わるのでしょうが──」

 

 

トキは"爆弾"を遠くに投げ、愛銃のシークレットタイムで撃って爆発させた

 

 

「そんな事はしません。楽に殺すつもりはありませんので」

 

 

唯一の勝機は破壊された。アリウススクワッドにとっても、想定外の強さ。逆にこちらの裏をかかれ、手痛いしっぺ返しを食らってしまった

 

 

「さぁ、フェアにしましょう」

 

 

アビ・エシュフの背中に搭載された主砲が展開。エネルギーをチャージし始める

 

 

「──アビ・エシュフ、殲滅モード!」

 

 

横薙ぎに発射された極太のレーザー。煙幕は吹き飛び、視界が晴れていく

 

 

「ぐっ……」

「ミサキ!」

 

 

レーザーが掠ったのか、片腕を押さえて苦しむミサキの姿があった。これを好機と見たトキは、片腕をミサキへと向ける

 

 

「させるか!」

「……!」

 

 

しかし、トキ本体を狙ったサオリのハンドガンにより、トキは射撃を中断して後ろに飛んだ

解放されたサオリは負傷したミサキの元へ向かおうとし───

 

 

「逃がさない」

 

 

そこに、ホシノが突っ込んできた

 

 

「ッ──!」

 

 

サオリは咄嗟にアサルトライフルを放つが、それら全てをギリギリで回避したホシノはサオリの腹部にショットガンを当て、そのまま引き金を引いた

 

その様子を一瞥し、トキは残りの三人に両腕を向ける。状況は絶望的だが、まだ諦めては居なかった

トキが引き金を引くよりも先に、ヒヨリの狙撃がトキを撃ち抜こうとして───ヒナのデストロイヤーの射撃が三人を襲った

 

 

「───!」

「姫──ぐっ!」

「うぅっ──」

 

 

仲間を庇う暇も、銃弾を防ぐ暇も無く、三人は銃撃をまともに受けた。どれだけ痛みに喘ごうが、憎しみに囚われたトキとヒナが止まる事は無い

トキは両腕を、ヒナは愛銃を向け──銃声が響いた

 

 

 

──────────────────

 

 

腹部にショットガンをまともに食らったサオリは、痛みと不快感に抗いながら必死に敵を視界に捉えようとする

捉えたのは、近づいてくる小さな影

 

 

「っ……」

「簡単に死ねるなんて思わないで」

 

 

三年前のホシノを想起させる、冷淡な声が響いた。すぐに立ち上がったサオリは、正面からホシノを睨み付ける

 

 

「ッ───!」

 

 

ホシノに向けたアサルトライフルの引き金が引かれ、無数の弾丸がホシノを襲う。ホシノは避ける事すらせず、全て正面から受け止めた

 

 

「……それで終わり?」

 

 

ホシノの身体には傷一つ無い。相対した時から抱いていた思いが、確信に変わる

──私よりも、強い

 

 

「なら、貴方の負け」

 

 

高速で走り出したホシノが、サオリの懐に飛び込む。反応が遅れたサオリはホシノに殴り飛ばされ、地面に叩きつけられた

 

 

「ッ……!」

 

 

それでも尚立ち上がろうとするサオリに、更なる追撃が襲い掛かる。今度は頭を掴まれ顔面に膝を叩き込まれた

 

 

「がっ……!」

 

 

鼻血が溢れ、視界がぼやける。それでもサオリはまだ折れていない。それを嘲笑うかのように、ホシノのショットガンがサオリの頭に撃ち込まれた

 

 

「ご、ほっ……!」

 

 

膝をついたサオリの頭を、ホシノは容赦なく蹴り飛ばす。サオリは地面を転がり、それによって開いた距離をホシノはゆっくりと歩いて詰めて行く

 

 

「は、ぁ──!」

 

 

鈍い輝きを放つ、一際威力の強い銃弾がホシノに向けて放たれる。流石に無傷では済まないだろうと、サオリはその一発に賭けた

 

 

「無駄」

 

 

その一撃は──遺品(ナイフ)で弾かれた

 

 

「何───?」

 

 

サオリの口から漏れる、驚愕の声。銃弾が弾かれた事への驚愕ではなく──

 

 

「何故──何故それを持っている!?」

 

 

──かつての家族が、持っていたナイフ。眼前の少女がそれを持っている事に対しての驚愕だった

 

 

「これは───」

 

 

一秒と経たずにサオリとの距離をゼロにし、馬乗りになったホシノはサオリの首にナイフを突き刺そうとする

サオリは全力でナイフを持つ手を掴んで止めた。ただ、怪我を防ぐ為の行動ではなく───

 

───あれが、ヘイローを壊す為の物だと知っているから故の行動

 

 

「──貴方達がバラバラにした、私の大切な人の物」

「え──」

 

 

どこか狂気を孕んだ笑みを浮かべるホシノ──は、サオリの意識の外にいた。サオリの意識を支配していたのは、ホシノの放ったある一言

 

『──貴方達がバラバラにした、私の大切な人の物』

 

それは、つまり───

 

 

「ッ……!」

「抵抗は無駄だってわからないの?」

 

 

ホシノの力が、大幅に増した。拮抗は崩れ、段々とサオリの首にナイフが迫る

 

 

「イフを奪った貴方達が、私は許せない」

「ぁ───」

 

 

追放されたアリウスの憎しみすら超える、底知れぬ深い憎悪。それを目の前にして、サオリはようやく理解する ───復讐鬼は、自分達だけではなかったのだ

 

大切な人を無惨に殺されたという、最もシンプルな理由。その怒りに燃える瞳を見て、サオリは恐怖と共に悟る

絶対に、止められない

 

 

「ねぇ、なんでイフが死ななくちゃいけなかったの?」

「左腕が千切れて、右足が千切れて、頭は抉れて千切れて、あんなにバラバラになって。どうして、あんな酷い死に方しなきゃならなかったの?」

「……いいよ、答えなんて求めてない」

 

 

「奪われた分、私達も奪うだけ。貴方の命も、仲間の命も、一人も残さない。全員──殺してやる」

 

 

刃が、サオリの首に触れる───

 

 

「ッ───!?」

「何───!?」

 

 

寸前、二人の目の前に黒い何かが通り過ぎた。本能的にホシノは飛び退き、自由になったサオリも黒い何かから距離をとった

通り過ぎた黒い何か──触手のようにうねっている、ただ長細く黒いだけの何か。生物である事は辛うじて分かるが、それ以外には何も分からない

 

 

「っ、ナイフ──!?」

 

 

手に持っていた筈のイフのナイフが、いつの間にか消えていた。ホシノは周囲を見渡し、触手の先端にそれを見つけた

 

 

「ッ、何!」

 

 

もう少しで、殺せそうだったのに。ホシノは歯噛みしながら、触手の伸びている方向に視線を向け──

 

 

「───は?」

 

 

言葉を失った

ホシノの視界に映ったのは、一人の男

 

 

「…………」

 

 

千切れていた筈の右足と左腕は何故か繋がっている。口元を残して無くなった顔の左半分はそのままに、右目だけが真っ赤に染まっていた

傷口からは黒い触手が数本生え、それぞれが意思を持っているかのように蠢いている

 

 

「……あ、りうす」

 

 

理性のない、掠れた声が響く

あの瞬間、ミサイルを覆い尽くした黒い何かの主。人外の化け物

 

 

───尾噛イフが、立っていた

 





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