「───」
「─────!」
物心ついた時、一番最初に感じたのは、鋭い痛みと誰かの嘲笑。ガスマスクをつけた三人の少女に囲まれ、リンチされている事を理解して──
「────!?」
尾噛イフの人生は、戦いから始まった
「………痛って」
顔についた擦り傷を拭いながら、尾噛イフは立ち上がる。周囲を見ると、そこにはガスマスクの少女が転がっていた
思う事は何も無い。殴られたから、殴り返しただけの事
「……使えそうじゃん」
少女達の誰かの持ち物なのか、地面には一丁のハンドガンが落ちていた。それを拾い上げ、少女達に背を向けて歩き出す
「……虚し」
この地獄で、虚しく生きていく為に
「まっず」
路地裏のゴミ箱を漁り、なんとか食べられそうなものを探して食べる。ヘイローがある以上、当分食べなくても死ぬ事はないが、それでも食事は必要だ
結局、腐ったものしか手に入らなかったが
「……そろそろ弾が無くなっちまう」
ポケットから取り出した弾丸を見て舌打ちする。先程、銃を拾った時に一緒に回収していたものだ
「ま、奪いに行けばいいか」
遠くから聞こえる足音を聞き、小さく笑みを浮かべた
──────────────────
「何なんだこいつ!?」
「知るか!いいから撃──がっ!?」
「ははっ、やっぱりこの手に限る」
銃を撃ってくるガスマスクの少女の顔面を蹴り飛ばしながら笑う。銃弾も、食料もこうやって奪うのが一番楽だ。銃弾は多めに、食料は腐ってないものが手に入る
「あーもう、痛ったいなぁ!」
銃弾によって体から吹き出した血をそのままに、最後の一人を殴り飛ばす
「たく、他の奴らはこの程度で怪我しないってのに……」
数秒で傷は塞がる。飯と弾を奪って、他の奴らが来る前にそこから逃げた。これが、尾噛イフの日常
飯を探して、時には奪って、貧民街の路地裏で眠る。それだけを繰り返す日々
「……あーあ、虚し」
そんな、苦しくて虚しいだけの日々が、続いて行く筈だったのに
「逃すな!」
「あっちへ行ったぞ!」
「はぁっ、はぁっ、クソッ!」
ある日、大勢から奇襲を受けた
恨みを買っている事は理解してたが、まさかここまでされるとは思っていなかった。傷の治りは早い方だが、それでも傷だらけの体は再生が追いついてない
弾はとっくに切れた。このままでは殺される
「いっ───!?」
足に走った、鋭い痛み。膝を撃ち抜かれたらしい。上手く走れずにバランスが崩れ、地面を転げ回る
「くっ……あっ……」
追っ手が迫る。何とか起き上がろうとするも、体が言う事を聞かない。頭を強く打ったせいで意識もはっきりしない
「やっと大人しくなったか」
「マダムの元へ連れて行け」
言葉の意味はよく分からなかった。だが、今の俺にはどうする事もできない。拘束されて、車に揺られ、そのままどこかへと連れて行かれた
──────────────────
「随分と手間を掛けさせてくれましたね、ウロボロス」
「……誰だよそれ、てかアンタ誰だよ」
拉致られて目を覚ましたのはどっかの教会。目の前に居たのは気持ち悪くてデカい真っ赤な女。挙げ句の果てには名前を間違えられ、正直イラついていた
ただ──見ただけでわかる。この威圧感、間違いなく強者だ
返答を間違えれば殺されるかもしれないが──ぶっちゃけた話、いつ死んだってどうでもいい。全ては虚しいものだ
「俺みたいなガキ拉致ってどうするつもりなんだよ、お婆さん?」
「……身の程をわきまえていないようですが、構いません。どうやろうと貴方を折ることは叶わないでしょうから」
「折る?何を?」
「貴方のその不愉快な笑顔をですよ」
そう言いながら、手に一本の注射器を持って近づいてくる
「ウロボロス……死と再生、不老不死、破壊と創造…貴方であれば、これに耐えうるかもしれません」
「何だよそれ、注射する為に連れてこられたのか?」
「えぇ、数人殺してしまいましたが、恐らくそれもこれで終わりです」
「……?何言って──」
針が首に刺さる────
「ッ─────!?」
瞬間、体を壊さんばかりの激痛が走る。思わず悲鳴をあげそうになるが、必死になって堪える
「ぐっ──ぁ──」
頭がおかしくなりそうだ。呼吸ができない。心臓が破裂しそうな程に脈打つ。視界がチカチカする。意識が飛びそうになるのを必死に耐える
「ぁ───!?」
服の袖から現れた、一本の黒い何か。それは瞬く間に増えて、俺の全身を覆い尽くす
その中の一本が、俺の目に狙いを定めている事に気がついた。圧倒的な速さで、俺の目を貫こうとして───
「は──ぁ?」
その寸前で、ピタリと動きを止めた。それだけじゃ無い、あれだけあった触手が、一本残らず俺の体に溶けるように消えて行った
「素晴らしい……!本当に抑え切ってしまうとは…!」
「……あのさ婆さん。嬉しそうなところ悪いけど、訳わかんないからちょっとは説明してくんない?」
そうして、色々と説明を受けた
何でも俺はウロボロスの蛇……とかいうのの力を宿しているらしい。傷の治りが早いのはそのせいのようだ
さっきの黒い触手は婆さんが作ったらしく、これに適合して強い力を手に入れた駒が欲しかったんだと
「で、何人か試して失敗だったところ、俺の事を耳にしたと。てかアンタ誰だよ」
「品の無い……まぁいいでしょう。私はベアトリーチェ、アリウスの生徒会ちょ───」
「生徒会長!?ぷっ、あははははははは!キッツ!ババアなのに生徒会長とか名乗ってんの!?」
耐えられずに吹き出すように笑ってしまった。だって仕方がないだろ、大人のくせして生徒会長とか……笑うなって方が無理な話だ
「……はぁ、分かってはいましたが。少し、教育が必要ですか」
「意味ないって事ぐらいわかんないのかよベアトリーチェせんぱ〜い?俺に駒になって欲しいんだろ?いいよ、やってあげる」
「どういう風の吹き回しですか?」
「別に?全ては虚しいからな、生きる事も、死ぬ事すらも虚しいだけだ。アンタの駒ってのも、暇つぶしぐらいにはなりそうだからな」
体がいじられた事は、正直もうどうでもいい。それよりも重要なのは、退屈しないかどうか、虚しさを紛らわせられるかだ
「……vanitas vanitatum. et omnia vanitas.」
「急にどうした?ついにおかしくなったのか?」
「この言葉の意味───全ては虚しい。何処まで行ってもただ虚しいものである。理解しているのなら及第点です。いいでしょう、貴方を我が生徒として迎えます、ウロボロス」
「……よろしく、ババア」
こうして、虚しい人生が始まった
イフ君
「虚し……暇つぶしにはなるやろうし従っとくか………ババアwwww」
ベアおば
「触手うねうねできる忠実な駒欲しいけど触手うねうねできるのコイツしかおらん……はぁ…」