泣きそ
昔、野暮用で少しだけスクワッドの元から離れた事がある
帰ってきた時に聞こえたのは、誰かの怒号
「……何やってる」
目に入ったのは、白い髪の少女を庇うサオリの姿
これが、白洲アズサとの出会いだった
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「あーあー、こりゃまた手酷くやられたな」
「……すまない、助かる」
アズサの顔に付いた傷を処置しながら、アズサと言葉を交わす。殴られていたようで、見かねたサオリが止めたらしい
「いいんだよ。で、何で殴られてたの?」
「……教えに、逆らったからだ」
「逆らった?」
「全ては虚しい。そうだとしても、抗う事をやめるべきじゃないって、そう言ったら」
「殴られた、と。頭ん中に留めとけよ、それ」
内心、凄く驚いたのを覚えている。このアリウスで、こんな考えを持つ子が育つとは思っていなかった
「んな事言ったら殴られるに決まってるだろ。思うだけにしとけ、口に出すんじゃねぇぞ、殴られたくなきゃな」
「……わかった」
「……サオリも言ってたが、俺達がお前を鍛える。ここじゃ正しさよりも強さが物を言う。だから強くなれ。お前が正しいと思った事、それを貫けるくらいに強くなればいい」
「……あぁ、頼む」
「任せろ」
それから、アズサとの日々が始まった。どんなに厳しい訓練をしても文句一つ言わずについてきた。それは他の五人も同じで、全員が全員、強くなる為に必死だった
五人の中、一番熱心だったのはアズサだった
「はぁっ…はぁっ…」
「もう終わりだ、アズサ。一旦休め」
「っ、まだ──」
「リーダー命令だ。休憩しろ」
「……わかった」
「急ぐのは分かるが、焦るなよ。良い事ないぞ」
熱心な分、自分の限界を超えてでも訓練を続けた。そのせいで何度も怪我をした。それでもアズサは、強くなる事を諦めなかった
「……そんなに大事か?それ」
「……あぁ、虚しくなんかない。もしそうだとしても、今最善を尽くさない理由にはならない」
「……憎しみは、習っただけか?」
「習っただけだ」
「……まぁ、概ね同意見だ」
「!」
アズサの考えは嫌いじゃない──というより、アズサの姿勢が嫌いじゃないのかもしれない。誰がどんな思想を持っていようとどうでもいいが、何があってもそれを曲げない姿勢は好きだ
「…ま、何かあったら頼れよ。多少は力になるからさ」
「……イフは」
「ん?」
「頼りになるな。何だか、お父さんみたいだ」
「……お兄さんにしろ、そんなに老けてない」
「ふふっ……」
アズサの笑顔は好きだった。表情の変化が乏しいアズサが、たまに見せる笑顔
俺にとって、とても眩しかった
「……その顔」
「どうかしたか?」
「……何でもない」
アズサの頭を撫でると、不思議そうな顔をする
……生まれも育ちもここだが、憎む事、戦う事だけを教えられ、逆らえば殴られるようなこの環境が異常だと理解している
それでも、俺達子供は大人の支配からは逃げられない。おかしいと、間違っていると思っていても、どうする事もできない
「……いつか」
「?」
「……いや、何でもない」
いつか、アズサがアリウスの外の世界を知って、俺達以外の友達を作って、恋をして、幸せになって欲しい。アズサは──皆は、きっとここにいるべきじゃない
「……休めた。再開しよう」
「俺も疲れるんだが……わかった。もうちょっとキツめに行くぞ」
「あぁ、よろしく頼む」
いつか──ババアを殺して、皆をアリウスから連れ出そう
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「……イフ?」
「……アズサか」
酷く、困惑したのを覚えている。あの時から私の面倒を見てくれた、頼りになる父お……兄のような存在
弱音を吐く事もなく、常に圧倒的な強さと統率力でアリウススクワッドを引っ張っていくれた
それが──どうにも、弱っているように見えた
「どうかしたのか?」
「……聞いて欲しい事があるんだ」
「遠慮する事はない、何でも言ってくれ」
イフは優しい。いつだって私達に優しくしてくれた。時には厳しく叱ってくれたりもしたが、それも全て、私達の事を思っての事だというのは分かっていた
だから、イフの望みならできるだけ叶えてあげたい
「……提案、なんだけど」
「何だ?」
だから、私はこの時初めて、イフの弱い部分を見た気がして、少し嬉しくなった
「皆を連れて、アリウスの外に行かないか?」
「───それは」
「わかってる。厳しいかもしれないけど、不可能じゃない筈だ」
唐突にされた提案。理由だとか、色々と聞きたい事はあったが、有無を言わせぬその目に、言葉が出てこなかった
「……私は、構わない」
「!本当か!?」
「皆が……イフがいるなら、どこでもいい」
「……ありがとう」
返答を間違えた訳ではないと思う。イフは笑っていたし、その目には希望が宿っていたように見えた
なのに───
その日から、イフは何処かへ行ってしまった