目の前で好きな人がバラバラになったらそりゃ病むよなって
アリウス組も湿度高いよなって
反省はしなぁい…
「何してる」
まともに話し合ったのはその瞬間が初めて。アリウススクワッドが結成された当初、いつものように手首を切っていた時の事だった
「それ、もうやめろ。包帯が無駄になる」
「……何で」
「話を聞いてないのか。包帯が無駄になるから──あぁ、それともお前が大事だからとでも言って欲しいのか?」
「……」
「自惚れるなよ、ここじゃ人は道具だ。お前程優秀で使える道具は珍しいから今の立場があるだけ。そうじゃなきゃ使い捨てだ」
「……わかった。もうしないから消えて」
話せば話すほど、苛立ちが募っていくのを感じた。人生とは虚しく辛いもの、このアリウスでは尚更だ。希望なんて無い
なら、さっさと終わらせてしまいたいと思うのは自然な事ではないのか?
「……消えない。お前の傷の治療をしなきゃいけないし、また切るかもしれないからな」
「……ムカつく」
包帯を取り出して、私の腕に巻いていく。手際が良いのは、私以外にも治療をしているからだろう。姫か、サオリ姉さんか、ヒヨリか、あるいは自分自身か
「……」
「……」
会話は無かった。こいつは喋らないし、私も話しかける気は無い。そもそも、私はこの男があまり好きではない
「終わったぞ」
「……」
「……おい、聞いてるのか?」
「聞こえてる」
会話は続ける気がなく、すぐに静寂が訪れる。嫌いな奴と二人きりというのは苦痛でしかない。早く居なくなってくれないかと考えていると、向こうから話しかけてきた
「で、何で切ってたんだ?」
「関係無いでしょ」
「あるだろ。またやられたら包帯が無駄になる。いっつもお前の事見てる訳にはいかないからな。……まぁいい、理由があるなら後で教えろ、これ以上お前に時間は割けない。二度とやるなよ、次は撃つからな」
「……わかった」
うわべだけの了承だ。当然、後で私は撃たれた
「またやってるのか」
それから数年、あの時と同じような状況になった
「もー…何回目だよこれ……治療するこっちの身にもなれよな」
「ごめん」
「……」
適当に謝ると、何故か驚いたような顔をされた。そして少しの沈黙の後、こう言われた
「いや、まぁ……いいけど。そろそろ理由ぐらい教えてくれてもいいんじゃないか?」
「嫌だ」
「……そっか」
大体察しているのだろう。追及してくることは無かった。また、器用に包帯を巻いていく。その時、ふと目に入ったものがあった
イフがいつも持っているナイフ。説明を受けた事がある。ヘイローを壊すナイフ、危険だから絶対に触るなと言われていた
無意識のうちに、手を伸ばし───
「……ダメだよ」
その手を、イフが掴む。反射的に、その手を振り払った
「このナイフはダメ。ミサキが死んじゃうから。はい、巻き終わったよ。治療はするけど、あんまりやらないようにね」
「……うん」
……何だか、気持ち悪い
昔はこんな柔らかい態度じゃなかった筈だ。それが急に、まるで兄のような振る舞いで接してきたり、優しい言葉をかけてきたりする。正直気味が悪い
「そんじゃ、戻るから。もし傷が悪化してきたら俺に言って。何とかするから」
「わかった」
……まぁ、前よりは今の方がマシかな
「そこまでにしときなよ」
まただ。イフは私が自傷行為をすると必ず現れる
「ミサキの身体なんだ。大切にしろって言っただろ」
「……道具に傷がつくと嫌だから?」
「ミサキが大事だからだよ」
「あの時と言ってる事違うじゃん」
「……あー」
バツの悪そうな態度。イフ自身も覚えているのだろう。だが、すぐに表情が変わる
「……悪かったよ。あんな事言って」
「…………」
心の底から申し訳なさそうな顔。演技とは思えない。こいつがこんな風に感情を表に出すなんて想像できなかった。それに、こんな簡単に謝罪をするなんて思わなかった
「……何だその顔」
「いや……ちょっと驚いてただけ」
「何に?」
「前は怒ってたから」
「……まぁ、死にたくなるのもわからなくもないしな」
「え?」
本気で驚いた。一番最初に同意を示したのが、サオリ姉さんでもヒヨリでもなく、こいつな事に
「ゴミ食って、撃って撃たれて、挙げ句の果てには道具扱いだもんな。そりゃ生きたくもなくなるわ」
「…………」
「どうした?」
「別に。ただ、ちょっと意外だっただけ」
「意外、ね。別に、俺とお前の違いはさ、死ぬ事すらも虚しいって思ってたかどうかだけだよ。今はそんな事思ってないけど」
「どうして?」
「お前らがいて…外があるからだな」
言葉の意味がわからない。理解できない。何故、私達がいる事が生きる理由になるのか。外、とは何のことか
「いつかさ、ババア殺して、皆でアリウスの外に行こうぜ。ここよりはマシだろうし、ミサキも生きようって思えるかも」
「……ババアって、マダムの事?」
「うん、ババアだろ。何歳かわかんねーけど、大人の癖に生徒会長名乗っててキモいし」
「……へんなの」
正直、あんまり興味はわかなかった。アリウスの外がどんな場所かなんて知らないし、マダムを殺すまで私が生きている保証も無かったから。だけど───
「──でも、そうだな。もし、アリウスの外でも駄目で、ミサキが本当に死にたいって思った時は、俺も一緒に死ぬよ」
この言葉は、私の胸に響いた。
「保護者みたいなものだしな。責任……の取り方として正解かはわかんないけど、そうする」
「……本当に?」
「嘘はつかない。約束だ」
「そっか」
嬉しかった。歪で狂った誓いかもしれないけれど、私にとってそれは救いの言葉で、希望で、未来で────
「ありがとう」
自然と出た感謝の言葉
「ん?何か言ったか?」
「何でもないよ」
「ふーん。はい、巻き終わり。あんまりやらないでね」
「わかってる」
「よし。それじゃ戻ろうか」
「うん」
差し出された手を握る。優しく握ってくれる手は温かく、何故か泣きそうになった
それから──手首を切る事はなくなった。きっと、次に切るときは約束したその時だけ
そう──思っていたのに
──────────────────
痛みと、手首から流れる鮮血が意識を思い出から現実へと引き戻す
……手首が痛い
「イフを──」
その先の言葉は、出てこなかった
尾噛イフは──何処かへ行ってしまったのだから
新しい包帯を取り出そうとして、元々付けていた──イフに巻いてもらったボロボロの包帯を手首に巻いた
「……本当に」
全ては、虚しい