大人になりたい少年の話   作:かゆ、うま2世

28 / 53
血脈のスクワッド

 

「イフ、イフ」

「はいはい何でしょう」

「ふふ、呼んだだけ」

「アツコ……」

 

 

ちょっと困ったような顔でこちらを見る彼を見て、思わず笑みがこぼれる。彼はいつもそうだ。私に対してだけ優しい。他の人に見せる姿とはまるで違う。それが嬉しかった

 

 

「相変わらずだなお前は……用がないなら俺は戻るぞ。まだやることがあるんだ」

「駄目」

「駄目って、お前なぁ……」

 

 

ため息をつくその仕草も、呆れたように私を見つめる彼の目も、全てが愛おしく感じる

 

 

「イフの任務は何?」

「……お前の護衛」

「じゃあ、できるだけ私を見てないと」

「……」

 

 

彼が私をじっと見てくる。少し恥ずかしくなって目を逸らすと、彼はまた小さくため息をついた

 

 

「……俺である必要性が無い。スクワッドの誰かがいるだろ」

「駄目。イフじゃなきゃ」

「だから何で」

「………そんなに、嫌?」

「……ずるいだろ、それは」

 

 

我儘なのはわかっている。それでも、こうしないと不安なのだ。彼が私の傍から離れていくんじゃないか、と

彼を困らせる事になったとしても、あの時のように目の前で傷付くのは耐えられない。だから手元に置いておくのだ

 

 

「……わかったよ、もう」

「ふふっ、ちょろい」

「調子に乗るな」

「いてっ」

 

 

軽くデコピンされる。痛いけど、嬉しい。こういうやり取りが、彼といる時間が好きだった

 

 

「それで、何すんの?」

「……何しよう」

「考えてなかったのか」

「うん」

「そうか……」

 

 

とにかく一緒に居たいだけだったから、何をするかは考えていなかった。どうしたものかと考えていると、彼が突然手を握ってきた

 

 

「ど、どうかした?」

「ちょっと来い」

 

 

そのまま手を引かれ、連れていかれたのは貧民街。アリウススクワッドとしての立場がある以上、もう襲われる事はない

 

 

「また花でも探そうかと思って。あそこで何もしないよりはマシだろ?」

「ありがと」

「……ただ、やっぱりこの辺じゃ限界はあるな。目新しいのは見つからない」

「……イフ」

「どうした?何か気になるものでも──」

 

 

振り向いた彼に抱き着く。心臓の音がよく聞こえた。トクントクンという音は心地良く、いつまでも聞いていたくなる

 

 

「アツコ、離れろ」

「やだ」

「どうし──あぁ、ここは」

 

 

あの時、イフが撃たれた場所。今はもう血の跡すら無いけれど、確かにここでイフは私を庇って撃たれてしまった

 

 

「……置いてったりしないから。このままじゃ動けない」

「うん」

 

 

ゆっくりと離れて、二人で並んで歩を進める。私達の関係が深まった場所──思い出の場所と言えば聞こえはいいかもしれないが、結局はトラウマのようなものだ。この場所を見ると、どうしてもその時の事を思い出してしまう

 

 

「……大丈夫だよ。俺はここに居る」

「……うん」

 

 

頭を撫でられる。私はきっと、甘えているんだろう。だけど、今はそれに身を任せたかった

 

 

「行こっか」

「うん」

「お前が引っ張るのね」

 

 

イフの手を引いて歩き出す。今度は私が引っ張る番だ。いつかは、こうして自然に手を繋げるようになりたいと願いながら、足を進めた

 

 

──────────────────

 

 

「結構歩いたな……」

 

 

あれからしばらく歩いていたが、中々景色が変わることは無かった。彼も私も少し疲れてきたので、適当な所に座って休んでいる

 

 

「………」

 

 

イフは喋らない。歩いている時も返答はあったが、それ以外は無言。上の空、という奴だろうか

……正直、ちょっと腹が立った

 

 

「イフ」

「どうした?」

「最近、ミサキと何してるの?」

「………」

 

 

ミサキと会ってきた後のイフからは、いつも決まって血の匂いがする。怪我をした様子は無いから、恐らく血はミサキのもの。それに気づいてから、ずっと気になっていた

変に追及するのも良くないと思ったが、やはり気になるものは気になるし、嫌なものは嫌だ。なので、思い切って聞いてみた

 

 

「何でミサキと会うたびに血の匂いがするの?」

「……」

 

 

イフは何も言わない。それが答えだと、私は捉えた

 

 

「……言いたくないならいいよ。でも、約束して欲しいことがあるの」

「……?」

「あんまり、一人で抱えないでね」

 

 

彼は強い。戦闘面でも、精神面でも。それはよくわかっている。幾度となく私達はそれに救われた。だから、余計に心配だった。彼は何でも自分で解決しようとする。他人に頼る事をあまり知らない。私にだって、たまに頼ってくれる程度だ

 

 

「……わかったよ。なるべく頼るようにはする」

「ん」

 

 

彼の言葉を聞いて安心する。これなら、最悪の事態にはならないだろう。多分

 

 

「……それにしても、血が付くなんてよっぽど近くにいたんだね」

「……怒ってる?」

「全然?」

「怒ってるね……」

 

 

イフは苦笑いしている。別に怒っていないというのは本当だ。私も人の事は言えないから。ただ、やっぱり少しモヤっとはするが

 

 

「……よし、できた」

 

 

そう言った彼の手元に、いつの間にかあったもの。それは───

 

 

「……冠?」

 

 

花でできた冠があった

 

「これ作ってたんだよ。あんまり器用な方じゃないけど、何とか形になった」

「……綺麗」

「ほい」

 

 

頭の上に、そっと載せてくれる。何だかくすぐったい感じがした

 

 

「……上手くできたか、わかんないけど。壊れちゃったらまた作ってやるからさ」

「……ありがとう」

「どういたしまして」

「……本当に、大切にする」

 

 

──────────────────

 

 

 

その日を、私は生涯忘れる事はないだろう

 

 

「イフ?どうしたの?」

「……アツコ」

 

 

雨に濡れるのすら気にせず、イフは走っていた。それを呼び止めて理由を聞くと、彼は私の肩を掴んで言った

 

 

「……ごめん。ごめんなさい。必ず──戻るから」

 

 

今にも泣きそうな顔で、そう告げられた

次の瞬間には、私の前から消えていた。その手を掴む暇も、呼び止める暇も無かった

 

 

その日以来、イフは消えた。ミサキの怒鳴り声を聞きながら、私は座り込んでいる

 

 

「………嘘つき」

 

 

ボロボロの冠が、直される事は無かった

 




次でアリウス編はおわーりー
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。