大人になりたい少年の話   作:かゆ、うま2世

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再起

「……先生に頼めよ。俺にできる事はもう無い。死にに来たんだ、邪魔しないでくれ」

「……駄目だ。お前を傷つけた私達に、先生が手を貸してくれるとは思えない」

「貸してくれるよ。あの人なら」

 

 

例え銃で撃ったとしても、先生は手を貸すだろう。アリウスだろうと、先生の生徒に変わりはないのだから

……俺は、もう違うけれど

 

 

「頼む!私達じゃどうにもできない。助けてくれ!」

「…………そういうの、もう辞めたんだって。先生に頼めよ」

「…辞めた、だって?」

 

 

 

「──なら、何であんな事言ったんだ!」

「……あんな事?」

 

 

心当たりがゼロだ。ミサイルを受けた後の暴走の時、俺はサオリに会ったらしいが、その時の記憶は残ってない

 

 

「──何かあったら、俺を頼れ。お前は確かにそう言った!」

「はぁ──?」

 

 

……俺が、そんな事を?

確かに、まともに意識がある状態で会ったのは数年ぶりだ。言っていないと言い切る事はできない

ただ、意識の無い俺にそんな話ができるとは思えない。嘘をついて俺を乗せようと……いや、この目は嘘をついていない

本当に、そう言ったらしい

 

 

「……勘弁してくれ。本当に諦めてないとでも言うつもりか?」

 

 

どこまでも、中途半端な奴だ。大人になる事を諦めると決めたくせに、心のどこかでまだ諦めていなかった

……でも今の俺は違う。もう完全に諦めた。大人も、生きる事も

 

 

「……俺には無理だ」

「イフにしか頼めない。頼む!アツコを──」

「しつこい!」

 

 

サオリの胸ぐらを掴んで引き寄せる。彼女は抵抗しなかった

 

 

「そもそもお前誰に頼んでんだよ。お前らが俺にした事忘れたのか!?バラバラにされたんだぞ!?まだ先生の方が望みがある!」

「っ───」

「そもそも!お前があの時一緒に逃げなかったからこんな事になったんだろうが!なのに今更俺に頼るだと!?ふざけんな!」

「それは……!」

 

 

言い淀むサオリの胸ぐらを突き飛ばすように離す。そのまま地面に倒れ込んだ彼女に背を向けた

 

 

「もう分かっただろ?俺は手を貸さない。もう死にたいんだよ」

「……頼む」

「……だからしつこいって──」

 

 

煩わしくなってサオリに目を向け──驚愕した

 

 

「お前しか……いないんだ」

 

 

膝をついて、頭を地面に擦り付けていた。土下座。サオリがやっているのはそれだ

 

 

「やめろ、そんな真似……しなくていい」

「虫がいいのはわかってる。私にできる事なら何だってやる。だから、だから──」

 

 

「──お前に、頼りたい。私達の中で、誰よりも大人だったお前に」

「──────」

 

 

その言葉が、深く胸に突き刺さった。大人に近づきたいと願いながら、その道から逃げ出した俺が、大人になれる訳がない。そう、本気で思っていた

……あぁ、認めよう。俺はまだ、諦めていない。ここまで頼られて、俺はまた、抗おうとしている

 

 

「頼む……助けてくれ」

「………!」

 

 

走馬灯のように、脳裏に浮かぶ記憶の数々

 

『……ティーパーティー権限でできる限りの責任は取る。ホシノを助けに行くぞ』

『君がなりたい存在は、君自身が決めていいんだよ、アリス』

『いつも頑張ってくれてありがとう』

 

救う為に奔走して──それで、俺は確かに皆を救えた

 

『うへ、ちょっと助けてくれない?』

『イフ先輩、助けてください』

『イフ、ちょっと手を貸してもらってもいい?』

 

今まで、大人である為にやってきた全てが頭に浮かび、そして消えていく。俺は、子供のまま死にたかったのか? 答えは、否だ

まだ子供だって、ずっと思い込んでいた

 

『───イフは、もう私の生徒じゃない』

 

あの言葉は──そういう意味だ。俺はもう、先生の生徒じゃなくなっていた。先生はもう、俺を一人前の大人として扱っていたのだ

まだ、先生のようにはなれないけれど

 

 

「……まだだ」

 

 

サオリに頼まれたからだけじゃない。動く理由は、まだある

 

『アリウスとも、ゲヘナとも和解してさ、本当の意味で皆が笑い合える、御伽話みたいなハッピーエンドをさ』

 

あの日、ミカと交わした約束。名前は忘れてしまった彼女、裏切り者だった彼女

誰よりも、真っ直ぐだった彼女との約束がまだ残ってる

 

それに──大人になる事だけを願って、何年も生きてきた。アリウスから逃げてきたあの時、尾噛イフは死んだ。そこにいたのは、大人を追う一人の少年だ

なら──アリウスで、大人になろうとしたあの瞬間から、こうなる事は決まっていた。その瞬間から、尾噛イフは始まった

 

それを、俺だけは否定しちゃいけないんだ

 

 

「………立てよ」

「……え?」

 

 

呆然とした表情を浮かべるサオリに手を貸す

ハッタリでもいい。今の俺は──確かに大人だ

 

 

「姫様助けに行くんだろ?」

「───ああ!」

 

 

サオリを立ち上がらせた後、俺は携帯を取り出して電話を掛ける

 

 

『……どうしたの、イフ』

「先生、俺……色々、やったけど──」

 

 

 

 

「もう一回だけ、行ってくる」

『───うん』

 

 

通話を切って、サオリを見る。気合いは充分みたいだ

きっと、時間はほとんど無い。アツコが連れ去られたなら、ババアが例の儀式の準備を始めたって事だ

やる事は明確に決まってる。ババアを倒して、アツコを救い出す。幸いにも今は夜中。自治区へ通じるカタコンベには簡単に侵入できるだろう

 

 

「他のスクワッドを集める。アツコを拾ってさっさと帰るぞ」

「恐らく自治区にいる筈だ。急ごう」

「あぁ」

 

 

俺は今、生きている。まだ死ねない。まだ、諦められない。まだ、先生に追いつけていないんだ

全てを投げ出して、死ぬ訳にはいかないんだ

 

 

「…………」

 

 

ハンドガンに、しっかりと銃弾を込めた

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