ユスティナの銃弾、バルバラのミニガンとミサイル、アンブロジウスの炎が飛び交う中、全てを回避して俺は走った
もう一発だって銃弾を受けられない。元々アツコに血を見せない為に練習した実用性もクソもない戦い方が、こんな形で役に立つとは思わなかった
「多い…!」
バルバラとアンブロジウスだけでもギリギリなのに、大量のユスティナがかなり厄介だ
「……やっぱり」
一人のユスティナをすれ違いざまにナイフで切りつける。触れただけの小さな傷。ユスティナを倒すには至らない筈の一撃。しかし、その一撃でユスティナのヘイローは砕け散った
「これはよく効くらしいな!」
ヘイローを破壊するナイフ。ヘイローのようなものが浮かんでいるユスティナにはよく効くようだ。これで少しは楽になるか?
「これならバルバラも!」
ミニガンとミサイルの雨の中を走り、バルバラに接近する。ここでバルバラを倒してしまえばかなり楽になるはずだ。そう思ってナイフを振るい──
「ッ、クソ!」
アンブロジウスとユスティナに阻まれ、ナイフで深く傷をつけるには至らなかった。切り傷はつけたが、ユスティナとは違ってそれだけでは倒せないようだ
「邪魔だ!!」
新しく湧いたユスティナに蹴りをいれて倒し、もう一体のユスティナを盾にして炎を防ぐ。バルバラの目を狙ってハンドガンを放ち、怯んだ隙にバルバラの顔に向かって飛んでいく
切り傷では駄目ならば、思いっきり首元を刺してやる
目眩しの効果は思ったよりも低いようで、空中にいる俺に対してミニガンを向けてくる。だが、撃ち込むよりも早くミニガンを足場にして走り、バルバラの首元へ向かう
「またかよクソ!」
──しかし、またも銃弾と炎に阻まれた。一発だって貰えないこの状況では、攻撃に移るのが難しい。何とかして突破口を探さないとダメだ。スタングレネードで無理矢理隙を作る?駄目だ、あのガスマスクがある以上、光は遮られるだろう。どうすれば───
「……あれだな」
見れば、アンブロジウスの頭上に球体の青い炎が作られつつあった。かなり大きい。奴の切り札の一つだろうか
「当てられると思うな!」
銃弾の中を駆け抜けて、アンブロジウスの元まで向かう。あの炎が完成する前に奴の元に辿り着く事は、そう難しい事じゃない
やがてアンブロジウスの元に辿り着き──その足元に、手榴弾を置いた
「完璧だ」
爆ぜた衝撃で、アンブロジウスは炎を投げる事ができずにその場に落とした。ドーム状の爆発に巻き込まれていくアンブロジウスを一瞬見て、次にバルバラの元へ向かう。一瞬で背後に回り、背中を蹴って爆発の中まで吹っ飛ばした
「……まだ駄目かよ」
爆発を逃れたユスティナを処理しつつ、アンブロジウスとバルバラの様子を伺う。大ダメージを負ったのだろうが、倒すまでには至ってない。まだ油断はできない
「……?」
バルバラがミニガンとミサイルを向ける。しかし──何か、向きが変だ。俺の方ではない。なら、どこに……何を、狙っている?
「まさか───!」
銃弾とミサイルが発射されてから、ようやく考え至った。狙いは俺じゃない。後ろにいる彼女だ
「一瞬、遅れた──!」
抱えて避ける?駄目だ、もう間に合わない。それでは二人とも食らって終わりだ。なら──方法は一つだけ
「───ぁ」
力なく座り込んで、飛んでくる銃弾とミサイルを見つめる彼女の前に飛び出した
「───ッ!」
「イフ君!?」
左腕を突き出してミサイルを防ぐ。接続がまだ甘かったのか、衝撃で腕は千切れ飛んだ。とにかく一番の脅威は防いだ。このまま彼女を物陰に───
「ッ、足……!」
無情にも、銃弾が足を貫いた。膝をつきながらも彼女を庇う。彼女も足を怪我しているため、自分で物陰に隠れてもらう事は難しい。そもそも、バルバラの銃弾の威力が高すぎて物陰に隠れたところで意味がない
「ぐっ、あ……!」
ユスティナも射撃を開始し、その殆どが俺に命中する。左目に銃弾が命中して見えなくなる。傷口から血が吹き出し、痛みで意識が飛びそうになる。それでも、守らないと
「イフ君!何やって……なんでそんなこと!今ならまだ逃げられるでしょ!?私はいいから、お願いだから早く逃げてよ!」
「……馬鹿言え、そんな事できるか」
アンブロジウスの炎まで飛んできた。炎が直撃し、熱さのあまり叫び声をあげる。だけど、この子だけは守る
「意地張らないでよ!名前も覚えてない人の為に命かけないでよ!イフ君が死んだら悲しむ人が沢山居るんだよ!」
「っ…お前も、そうだろ」
熱い、痛い、痛い───思い、出せない
「あ………」
腕の傷を抑えながら膝をつく俺に、大きな影が差した。人型の影が二つ──近づいてきたバルバラとアンブロジウスのものだ
「あ─ぐっ!?」
アンブロジウスの腕が、俺の腹を貫く。ババアにやられた傷とはまた別の傷口ができ、そのまま持ち上げられた
そして──ババアにやられた傷には、バルバラのミニガンが押し当てられた
「──やめ、て」
彼女の声が、聞こえる
「いや、いやだよ、こんなの、いやだ……」
きっと、泣いている
「イフ君を───殺さないで」
無情にも、ミニガンの引き金が引かれた
「いやああぁぁぁ!!」
一発一発の銃弾が、確実に肉を削り取っていく。ゼロ距離での射撃。ヒナですら耐えられるかどうかわからないほどの威力を、ただでさえ体の脆い──再生能力も失った俺では、とても耐えられない
やがて、俺の体に風穴ができ───
────ヘイローに、ヒビが入る
「──!────!」
声が、よく聞こえない。誰かが叫んでいるのはわかる。でも、それが誰なのか、何を言っているのか───何も、分からない
誰を守って、こんなことになっているんだっけ
確か、そうだ。俺は───
「──イフ君!」
───思い、出した
「ッ───!」
ナイフでアンブロジウスの腕を切断、バルバラのミニガンの上を走って顔面に蹴りを入れる。空中にいる間にアンブロジウスにも同じ事をし、二体を大きく吹っ飛ばした
「は──ぁ──」
息をするだけで苦しい。頭が割れるように痛くて、視界は霞んでいる。もう、体は指一本動かせそうもない。ヘイローにヒビが入った自覚もある。明確な死が、すぐそこに迫っている
銃弾の雨は一旦止んだ。が、それだけ。またすぐに再開されるだろう。今の内に、何とか………
「もう、もうやめてよ……イフ君みたいな人に──私みたいな魔女が守ってもらう資格なんて無いんだって!」
激痛の中、打開策を考えるよりも、それを優先して口を開いた
「───ミカは魔女じゃないよ」
余程驚いたのか、呆けたような表情で俺を見ている。俺だって驚いている。何だって今、思い出すんだ
「……なん、で、名前」
「……確かに、ミカは悪い子だよ」
「人を騙して、傷つけて。己を偽って、痛めつけて」
「それでも結果を受け入れられずに泣いてしまう子でもあるし」
「和解の手を差し伸べようとする優しさも持ってて、嫌われる事を恐れて自傷する、不安定な子でもある」
「そういうの、ただの不良生徒って言うんだよ」
心の底まで見抜く事はできなかったけれど、ミカがどういう子なのかはわかっているつもりだ。ずっと、見てきたのだから
「自分はこうだから、なんて誰が決めたのさ」
「ミカには、無限の可能性があるって言ったでしょ?俺にだってあったんだから、ミカにだけ無いなんて有り得ないよ」
「だから──自分を決めつけないで、道は、俺が作るから」
「………イフ君」
「───どうして欲しい?」
涙でぐちゃぐちゃな顔のまま、ミカは言った
「───助けて」
「──任せて」
残った右手を、服のポケットに突っ込む。取り出すのは──一枚のカード
何故持っているのかわからない。いつから持っていたのかわからない。俺が無意識に創り出したのか、あるいは──大人に達したと、そういう事なのか
どちらでも構わない。最後の切り札は、これだけなのだから
「俺の───!」
カードが放つ光に、俺の体が包まれていく。ユスティナのガスマスクを貫通するであろう程、強い光が
やがて光が晴れていく。そこにいたのは───
「──俺の姫に何やってる」
無傷の、尾噛イフだった