大人になりたい少年の話   作:かゆ、うま2世

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救い

 

 

 

 

誰にも、その瞬間を捉える事はできなかった。尾噛イフの姿が掻き消え──ユスティナ信徒の首が、一人残らず飛んだ

 

 

「こっちだよ」

 

 

その声に反応し、バルバラとアンブロジウスは後ろを振り向く。一瞬の内に大量のユスティナ信徒の首を切断し、二体の背後を取ったのだ

人間の域を超えた、神速とも呼べる程の圧倒的な速度。だが、それを可能にする力が、尾噛イフには備わっていた

 

反応の遅れたバルバラはすぐにミサイルを放つ。しかし、イフが大量の触手に覆われた腕を振った瞬間、ミサイルはどこかへ消えた

 

 

「おっと」

 

 

アンブロジウスの炎をジャンプで回避し、空中にいる間に二体目掛けて取り込んだミサイルを発射。怯んだ隙に天井を蹴って加速し、バルバラの顔面に拳をめり込ませた

 

 

「次」

 

 

吹っ飛んだバルバラを横目に、アンブロジウスに視線を向ける。かなりの大きさで、ハンドガンで傷をつけるのは難しそうだ。かといって、ナイフが効くかどうかも怪しい

 

 

「いいもの発見」

 

 

何本も束ねた触手の先に、切断したアンブロジウスの腕を接続。アンブロジウスの腹を貫いてそのまま振り回し、勢いをつけて壁に叩きつけた

吹っ飛ばしたバルバラに目を向けると、またもミカに銃口を向けていた

 

 

「芸がないな」

 

 

触手を振り回し、アンブロジウスの腕を投げた。バルバラに向かって一直線に飛んでいき、かなりの勢いで衝突。その隙にミカの元まで走る

 

 

「ちょっと失礼」

 

 

ミカを抱えて銃弾と炎をかわしながら、聖歌隊室を駆け回る。少しかかるが、抱えたまま二体を倒すしかない───

 

 

「……最高」

 

 

聖歌隊室の入り口に集まった四人の影。スクワッドが俺を助けに来たらしい

 

 

「ミカを頼む。瞬殺してくる」

 

 

一方的に言葉を告げ、ミカをスクワッドに預けて戦闘態勢に入る。壁面を走ってバルバラの銃弾を避け──壁を蹴って直線距離でバルバラの元へ向かう

身を捻って全ての銃弾を回避し、両手におびただしい量の触手を纏わせ──バルバラの両腕にむけて振り抜いた

結果。触手に巻き込まれたバルバラの両腕は無くなり、持っていた武装を全て落とした

 

 

「お返しだよ」

 

 

触手で腕とミニガンを接続。膝をついたバルバラの腹に押し付け、至近距離で連射した

バルバラの体に風穴が空き、消滅していくのを最後まで見届ける事なく、ミサイルも取り込んでアンブロジウスに向き直る

 

 

「あとはお前だけ」

 

 

二体一じゃ無くなった以上、戦いが長引く事はない。捉えきれない程の速度で近づき、ナイフを使って四肢を切断。そして──

 

 

「Hasta luego」

 

 

その首を落とした

 

 

「……ま、もう会わないだろうけど」

 

 

バルバラとアンブロジウスは倒した。後はスクワッドとミカを連れてアリウスを出るだけだ

 

 

「おーい、終わったぞー!?」

「イフ君!」

 

 

ミカが飛びついてくる。受け止めて抱きしめると、震えているのがよくわかる。理由はわかる。目の前であんな──誰かを守る時、俺はいつも血塗れになる

 

 

「生きてる…生きてるよね?」

「うん。生きてるし、勝ったよ」

 

 

ミサキとアツコの視線が怖いが、少しはこのままでいよう。それにしても、スクワッドには助けられた。スクワッドが来なければ、恐らく少し長引いていただろう

 

 

「……皆も、ありがとね」

「お前の力になれたなら、何よりだ」

「さ、早くアリウスを出よう。もうここに用は───」

 

 

響く、大量の足音。俺たちを挟むように、大量のユスティナ信徒とアリウス生が現れた。ババアはもういないというのに

 

 

「薙ぎ倒して帰ろう。今の俺なら簡単に───!?」

 

 

動き出そうとしたその瞬間。体に──砂嵐が浮かび上がった。左腕、腹、足──カードで消した筈の傷の所に、砂嵐が現れている

 

 

「あのカード、まさか──!」

 

 

そう、都合の良い力ではないらしい

 

 

「ご──ほっ」

 

 

砂嵐が無くなり──無傷の俺も無くなった。カードで消した筈の傷がまた現れた。それだけじゃない、不快感が段違いだ。あのカード……そう多用できるような力でもないのか

 

 

「イフ!」

「イフ兄さん!」

「イフ君!」

 

 

 

スクワッドはここまでの戦いで消耗している。ミカは言わずもがなだ。こいつらを帰すには──

 

 

「……もう一度、カードを──!?」

 

 

取り出そうとした、その瞬間。聖歌隊室の窓が割れ──桃色の影が入ってきた。黒い盾に、見慣れたショットガン

それは、俺を守るように盾を構えた。ユスティナとアリウス生達の方を向けてではなく──自分が入ってきた、窓の方に向けて

 

 

「───伏せろ!」

 

 

なんとなく、意図を理解した。だからこそ叫び───瞬間、青いレーザーと紫色の弾丸が、ユスティナとアリウス生を吹き飛ばした

この銃撃は、間違いない

 

 

「ホシノ…?ヒナにトキまで」

 

 

小鳥遊ホシノ、空崎ヒナ、飛鳥馬トキの三人が、俺達の前に現れた。助けに来た──のだろうか

 

 

「イフ、傷は──」

 

 

振り返ったホシノが、俺の状態を見た──見てしまった。ヘイローに入ったヒビ、明確な死の気配。俺と彼女は、それをよく知っている

 

 

「──っ!?大丈夫なの!?ねぇ!」

「ちょ、ホシノ、くるし──」

「お願いだから──私を置いて行かないで!」

「……ごめん」

 

 

胸ぐらを掴まれ、涙目で訴えてくる彼女に、一言謝った。それしか、言えなかった

 

 

「……ホシノ先輩。早く治療が必要です。急ぎましょう」

「色々言うことはあるけど、イフを助けてからでいい」

「あー…それならさ、あいつらも連れてってあげてよ」

 

 

ミカとスクワッドを指差すと、複雑な表情を浮かべつつも、三人は受け入れてくれた

 

 

「イフ様を運びましょう」

「私が運ぶ」

「私も!」

 

 

アツコとミカの肩を借りながら、なんとか立ち上がる。俺もミカも、一人で歩けるような状態ではない。アツコの力を借りて、三人でなんとか歩ける程度だ

 

 

「腕は私が持つよ」

 

 

千切れた腕はミサキが抱え、俺達はアリウスを後にするべく移動を始めた

 

 

「……お前ら、三人で助けに来たの?てか、何でここがわかって───」

「私達だけじゃないよ」

 

 

出てくるユスティナとアリウス生を薙ぎ倒しながら進む三人に尋ねる。入り組んだカタコンベを抜けるのはかなり難しい。ならば何故───いや

 

 

「アズサか──んぐ」

「喋らないで」

 

 

ミカに口を塞がれる。確かに一番重傷ではあるし、大人しく運ばれるべきか

 

 

「また、来たぞ……!」

 

 

ユスティナはまだ湧いてくる。新しい個体が湧いているのかどうかの確認はできないが、元々とんでもない数を顕現させてたのだろう

ヒナが銃を向けた瞬間──ユスティナ信徒のすぐ横の窓が割れた。そこから入ってきた二つの影。あの青い制服───

 

 

「SRT──RABBIT小隊!?」

 

 

名前は相変わらず思い出せないが、どの学園で、どういう組織なのかは覚えている

だからこそわからない。何故彼女達がアリウスにいる?

 

 

「私達だけじゃないって言ったでしょ」

「いや、まさか……そんなこと」

「…!イフ!?お前それ…何で生きてるんだよ!?」

「話している時間はありません。急いで回収地点へ向かってください!」

 

 

話している暇はなかったが、少しだけ、状況がわかった気がする。割れた窓から、少しだけ外が見えて……走る中でも、色んなものが見えたから

風紀委員会、正義実現委員会、玄龍門、玄武商会、ヘルメット団、万魔殿、ヴァルキューレ……キヴォトス中の様々な組織の人間が、アリウスにいる

先生が着任した日、助けてくれた二人もいる。山海経で会った事のある、白と黒の髪が特徴的な彼女も見えた。恐らく、残りの四人もいるだろうし、ウサギがいるならキツネもいるだろう

 

 

「皆……まさか」

 

 

曲がり角から、一台の車両が現れた。あれは──ゲヘナの救急医学部のもの。回収地点は、恐らくここだ

後ろのドアから出てきたのは、救護騎士団団長……救護騎士団!?

 

 

「え…?」

「ミネです。イフさん、早く乗ってください。後は任せて」

 

 

そのまま進んでいった彼女に背を向け、車両に乗り込む。中にいたのは、セリナとハナエにチナツ。運転手はセナだった。名前を忘れている事が周知されているのか、開口一番に名前を教えてもらった

 

 

「急いで!」

 

 

全員が乗り込んですぐに、車両は発進した。それと同時に担架に寝させられ、治療が始まる。といっても、止血などの応急処置だが

 

 

「……これは、ヘイローにヒビが…」

「必ず助けます。絶対に死なせません」

 

 

止血の治療を進めていく中、聞きたかった事を聞く

 

 

「……なぁ、皆…俺を助けに来てくれたの?」

「先生が、キヴォトス中に連絡したのです。イフ様が危ない、と」

「それで……」

 

 

皆、助けに来てくれた訳だ

 

 

「C&Cの先輩方も来ています。本当に文字通り、キヴォトス中からイフ様を助けに」

「イフ君が今まで頑張ってきたから、皆来てくれたんだね」

 

 

ミカがそう呟く。そうだとしたら、嬉しいな。俺がここまでやってきた事が──俺を助けてくれたわけだ

 

 

「もう少しだから、耐えてね」

 

 

 

──────────────────

 

 

 

あれから少しして、モエに、アコに、アヤネに……色んな人に通信越しで若干キレられながら治療を受け続け、アリウスを出た事を伝えられた

 

車を降りて、最初に出会ったのは……

 

 

「イフ!ミカ!」

「イフさん!ミカさんも…!」

 

 

ナギサとセイアだ。ティーパーティー四人、こうして揃うのは久しぶりのような気もする

 

 

「無事なんだね!?」

「あぁ…何とか生きてるよ」

「良かった……!」

「……ナギちゃん、こんな時でもお茶持ってるし」

 

 

四人で話している暇はあまりない。スクワッドをトリニティに連れてきてしまった以上、彼女達への責任追及も始まる。それはミカも同じ事。少しの間──傷が癒えて、聴聞会に出席できるようになるまでの間。俺たちに与えられた休暇時間だ

戦いはひとまず終わりを告げた。これから、ミカとスクワッドがやり直す。俺の最後の仕事は、それに一片のノイズも入れない事だ

スクワッドに居場所を保証し、ミカの退学を防ぎ──恐らく行われているであろういじめもさせない。難しいが、何とかするしかない

 

 

「……イフ」

「……ぁ、先生…」

 

 

ちょっと目を合わせづらい人が来た。かなり色々やったせいで、素面に戻るとかなり恥ずかしいものがある

 

 

「……お疲れ様」

「……ははは、ありがとう、先生」

 

 

 

「……大人ってのも、楽じゃないね」

 

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