あれから少しして、行われた聴聞会にて──
「スクワッドのリーダーは俺だ。ミカを唆してクーデターを起こさせたのも俺。だから──全責任を俺に寄越せ」
俺は、嘘をついた
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「……イフ君」
「イフさん…」
「イフ…」
「……そんな顔しないでくれよ」
結局、騙す事には成功した。ミカに向いていたヘイトは俺に集まったし、スクワッドとミカにも目立った処分は無し。全ては計画通りだ
ミカやスクワッドを助け、元凶のババアを倒した事や、色んなところに手を貸していたおかげで、俺の処分は退学だけで済んだ。矯正局に送られる事も覚悟していたんだが、それをすると十中八九ワカモが乗り込んできてちょっと大変な事になるからありがたい
「結構頑張って今の結果にしたんだから、笑って送り出してよ。俺の夢が叶ったんだ。根回し大変だったんだよ?」
「……でも」
「今生の別れって訳でもないんだし、また会えるよ。皆で」
「……ごめんなさい。また、全部背負わせてしまって…」
「背負わせたんじゃなくて、俺が背負うべきものなの。俺の未熟が招いたことでもあるからさ」
この学園に未練はない。こうして、悲しんでくれる人がいてくれるから、もういい。それだけで十分だ
「ミカは…うん。あんまり喧嘩しないようにね。ナギサはもうちょっと周りを頼って。セイアはちょっと言葉足らずだから、ちゃんと話して。それじゃ、皆元気でね」
「──イフ君!」
門を出ようとした瞬間の、後ろからの呼び声
「──元気でね!絶対また会うから!」
振り向かずに、手だけを振って返した
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「ととと、やっぱり不便だな……」
あれから俺が向かった場所──連邦生徒会だ
結局、左目の視力は戻らなかった。左手も繋がりはしたが、上手く動かない。右足に撃ち込まれた銃弾のせいで未だに松葉杖を使わないと歩けない。後悔はしていない。俺なりに、全力を出した結果なのだ。これで良かったと思っている
「あ、イフ先輩!」
「あ…ハ、ハイ…」
「……ハイネです」
「ありがとう。いやー悪いね。名前忘れちゃってて……」
体育室長のハイネだ。一人で歩くのは難しかったから、誰かに出会えるのはありがたい。それがハイネなら尚更のこと
「背負おうか?」
「よろしく」
即答である。楽だし、良い匂いするし、背負ってもらわない理由が無い
「何をしているの?」
「あ、アオイ先輩」
「あぁ、アオイか。見ての通り、ハイネに運んでもらってる」
「……重傷だものね。一人で歩くのは厳しいでしょう」
「まぁね。だから助かるよ」
「私の名前は覚えているのかしら」
「さっきハイネが言ったでしょ」
「それもそうね」
本人に教えてもらわなくても、名前さえ耳にすれば思い出せる。その点でも、二人に会えたのは幸運だ
「リ、リ……代行は知ってると思うけど、やる事があるから。代行の所まで頼める?」
「リン行政官ね。ハイネ、行くわよ」
「はーい!」
道中、二人から連邦生徒会の皆の名前を教えてもらいながら歩いていく。用があるのは代行のリンだ
「そういえば、リン先輩に何の用があるの?」
「あぁ、退学になったから、俺のこれからの事とか、色々。多分結構驚くと思うよ」
「退学!?イフ先輩が!?」
「まずはそっちで驚くのね」
マイペースを極めたようなハイネが取り乱す珍しい様子を横目に、目的地に到着した
「おーい!リン!」
「来ましたか。早速………」
「その目をやめたまえ。俺だって一人で歩けたら歩くさ」
「……いえ。傷、これほどとは」
ハイネと一緒にソファーに座らせてもらい、これからの話を始める
「アリウススクワッドをシャーレで保護する事。そして──就任おめでとうございます。イフ先生」
「イフでいいよ。むず痒い」
「先生!?」
「大丈夫なの?表向きはクーデターの犯人って事になってるんでしょ?連邦生徒会がそれを真に受けるとは思えないけど、そういう事になってる以上、シャーレの先生なんて立場を与えるのはまずいんじゃ…」
「あぁ。だから俺に権限は無い。先生の補佐っていうか、助手っていうか。不良生徒を先生が面倒見る!みたいな感じで無理矢理通した。俺の事も、スクワッドの事もね。先生の協力あってこそだけど」
かなり無理矢理な措置だが、意外と何とかなった。アリウスから助けられた時も思ったが、俺のやってきた事が俺を助けてくれるのは嬉しいものだ
「連邦生徒会からの反発の声も上がっていません。貴方なら大丈夫だろう、と。手続きは既に済んでいます。あとは貴方がシャーレに向かうだけです」
「ありがとう。本当に世話になる。俺一人じゃできなかったよ。それじゃ行ってくる」
「……待ってください」
ハイネを連れてソファーを立とうとしたところで呼び止められ、リンが俺の元までやってきて───
「リン先輩!?」
「何してんの!?」
俺の服をめくって腹を見てきた。突然の行動に驚いたが、今の俺の腹はあまり人に見せられる物ではない。ババアとアンブロジウスに刺された傷に、バルバラに開けられた風穴。包帯でぐるぐる巻きになっていることだろう
「り、リン……?」
「…………」
リンは包帯越しに傷に触れ、しばらくそのままでいたかと思ったら、今度は俺の左胸に手を動かしてきた
「──あまり、無理をなさらないでくださいね。会長は貴方のことを気に入っていましたから」
「う、うん…」
「……もちろん、私も」
それだけを言って、リンは何処かへ去って行った。ハイネとアオイの視線が痛い
……まぁ、リンの考えていた事はある程度わかる
「……ヘイローのヒビ、か」
あの時、ヘイローに入ったヒビはそのまま残っている。無限の蛇を、ちょうど半分に割るように入ったヒビ。ヘイローが壊れれば人は死ぬ。ヒビが入ったという事は死にかけていたということ
「……もっと自分を大切にしなさい。貴方がいなくなったら悲しむ人が沢山いるのよ」
「イフ先輩のおにぎり食べられなくなるの嫌だよ」
「……そうだな。もう無茶はしない。自分の事もちゃんと考えるよ。それじゃ」
そうして、立ちあがろうとして──
「……ハイネ、手伝ってくれない?」
「おっけー!」
……まさか、一人で立つのがこんなに難しいとは。ハイネ様様だ。こうなる前にも色々助けられることも多かったし
「………ほんと、イフ先輩は僕がいないとダメなんだから」
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そうして外に出て、これからシャーレに向かう。流石にハイネを連れて行くわけにもいかないので、ここからは一人で向かう事になるわけだ
「……さ、歩くか」
「歩かれるのですか?」
「おう、松葉杖に慣れておきたいし……ん?」
隣を見ると、そこにはトキが居た。いつの間に来た?ていうか何でいるんだ?
「何でいるの?」
「私は完璧なメイドですので。イフ様あるところに私あり、です。ぴーすぴーす」
「……そっか。助けに来てくれたんだ。ありがとうぅぅぅ!?」
碌に話す時間もなしにお姫様抱っこされて、そのまま運ばれていく
「イフ様、一人で歩くつもりだったのですか?」
「そりゃあ、そうだけど」
「……出歩く時は、必ず私を側につけてください。一人は駄目です。危険すぎます」
「そんなに心配?」
「当然でしょう」
そう言う彼女の顔は真剣そのもので、冗談とかではなく本気で言っているのだとわかった。だから俺は素直に謝った
「ごめん。これからは気をつけるよ」
「約束ですよ」
「あぁ」
そのままトキに抱えられて移動し、すぐにシャーレについた。不良生徒に襲われることもなく、先生とスクワッドがいるオフィスに辿り着く
「あ、お帰り、イフ」
出迎えたのはアツコだった。先生も手を振っているし、ミサキとサオリ、ヒヨリもいる
「リンちゃんの所に行ってきたの?」
「うん。これからよろしく、先生」
「こちらこそ。よろしくね、イフ先生」
「……まだ補佐だってば」
スクワッドの皆も、かなり表情が柔らかくなったような気がする。この顔が見たくて、俺はここまでやってきたのだ
「あ、そうだ先生。聞きたいことがあったんだけど」
「どうしたの?」
「……カードについて」
「……あぁ」
あの日、あの瞬間、何故か持っていた正体不明のカード。一瞬だけ、俺の傷を全て無かった事にするという奇跡を起こし、その一瞬が過ぎれば段違いの不快感に襲われたあのカード
聞けば、先生も同じものを持っているらしい。使用自体にデメリットが伴う、というのが俺の立てた予想だが……
「正解。あれは時間を使うカード。私のなら私の時間。イフのならイフの時間を使う。よっぽどのことがない限り使っちゃ駄目だよ」
「……そうする。先生もあんまり使うなよ」
「うん」
意見を違う事は無かった。あのカードは切り札にして、いざという時の為にとっておくべきだし、時間を使うって事は使い過ぎれば死ぬって事だ。そんなものを使わせたくはない
「それじゃ、仕事を始めよっか」
「はーい」
「……大変そう」
「手伝います」
「私も」
集まってきた皆の手を借りつつ、俺の仕事が始まった
「………あ、そうだ先生」
「どうしたの?」
「俺が破った服だけどさ、弁償させてくれない?」
「……………」
荒れてた時期、先生の服を破ってしまった時があった。一部を千切る程度だったけれど、あの服は多分ダメになっていただろうし、弁償させて欲しいのだが…
先生の体が固まっている。心なしか冷や汗が出ているように見えなくもない……
「……それ、どういう事?」
「詳しく話が聞きたいな」
「イフ様、先生、少しお時間よろしいでしょうか」
「……イフ、時と場所を考えるべきだったね」
「………カード使って良い?」
うん。これは俺が悪い