大人になりたい少年の話   作:かゆ、うま2世

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爪痕 その1

 

 

 

見慣れた校舎の中、一人ゆっくりと歩いて行く。沢山の教室がありながら、声が聞こえるのは教室ではないある一室

そこの扉を開き──開き……

 

 

「……開けん」

 

 

仕方ないのでノックをすると、普通に開けてくれた。中に入ると、そこにいた全員がこっちを見てきた

 

 

「イフせんぱ……イフ先生!おはようございます!」

「あ、イフ先輩!」

「ん、おはよう」

「おはようございます〜」

「うん、おはよう」

 

 

対策委員会の面々。以前と同じように様子を見にきたわけだが、一人足りない気がする。病室を出られるようになってからここに来たのは初めてだから、できれば顔を見ておきたいんだが……

 

 

「ホシノは?」

「ホシノ先輩でしたら……」

「───イフ?」

 

 

後ろから聞こえた声。間違いなく探していた彼女だ

 

 

「あぁ、久しぶり───!?」

「イフ!」

 

 

飛びついてきた。そう、飛びついてきたのである。そして今の俺にはその勢いを抑え切るだけの力がない。つまりどうなるか

普通ならこのまま床に叩きつけられてしまうだろう。しかし……

 

 

「……ナイスノノミ」

「……ふふっ」

 

 

上手く俺の体を掴んだノノミが軌道修正。そのままソファーに座ったノノミの膝に頭を乗せるような姿勢で寝転がる事が出来た

 

 

「それはそれとして、中々すごい状態だね今」

 

 

ノノミに膝枕してもらいながら、上にはホシノが乗って抱きついている。なんとも言えない体勢だし、周りの視線も痛い

 

 

「ホシノ、おも……」

「なんか言った?」

「重くないです」

 

 

体重をかけてくる。重いと言ったらまた拗ねると思ったので言わなかったけど、流石にそろそろ苦しい

 

 

「……皆置いてきぼりだから。シロコもくっつこうとしないの」

「仲良いですね……」

「私達が入学する前から一緒なのよね…それなら納得というか…」

「……駄目だ、離れてくれない」

「あはは……今日はもうお開きにしましょうか」

「悪いな」

 

 

結局この日は解散になった。ノノミとシロコは離れてくれたものの、ホシノは離れてくれず、ずっと引っ付いたままだったので連れてアビドスの校舎を歩く。向かう先は、あの日ホシノがマットを引いた空き教室

 

 

「いつまでひっついてるんだよ」

「嫌?」

「別にいいよ」

「じゃあいいじゃん」

 

 

そのまま教室に入り、二人マットに座り込む。ホシノは俺の肩にもたれかかってきて、そのままじっとしている

……バラバラになったのがよっぽど効いたのか?

 

 

「ホシノ、俺夢が叶ったんだ」

「……そうだね。大人になって、それで──どこかに行っちゃうかと思った」

「ッ───!?」

 

 

気付けば、俺は天井を向いていた。押し倒されたのだ。目の前には、俺を見下ろすホシノの顔がある

 

 

「……イフの夢を否定しないし、叶った事は祝ってあげたい。でも…」

 

 

ヘイローのヒビに触れる。実体がないヘイローを触る事はできないので、ただ指を当てるだけ

 

 

「その果てに…自分が死にかけて、それでイフは満足なの?」

「……怒ってる?」

「私だって、怒る時はあるよ。今みたいにね」

 

 

ホシノらしく、冷静に怒っている

……当然か。俺も、ホシノが俺みたいな真似をしたら同じように怒る。心配させるような事をしてほしくないと願う

 

 

「……嘘はつかずに答えて欲しいな。その傷の具合と、何であんな事したのか。あの時のイフに、あんな事ができると思えないから」

「…………」

 

 

正直に話すべきか迷うが……隠しても意味はないな。全部話そう

 

 

「……左目はもう見えない。左腕は上手く動かないし、まだ全然傷が治らない。多分、元通りにはならないよ。手に力がまったく入らないし」

「……そう」

「それと、動けた理由は先生のおかげ。詳しくは省くけど、行ってこいって言われてさ。先生を恨まないでやってくれよ。ああするしかなかった。あれが最善手だったんだ」

 

 

ホシノの手が、顔から順番に傷口をなぞってゆく。痛くはない。ただくすぐったくて──ホシノの顔が、ちょっと嫌なだけ。そんな顔、して欲しくはなかったんだけど

 

 

「……そっか、もう、目見えないんだね。傷も、全部元通りにはならないんだ」

「……そうなる」

 

 

両手を使い、包帯でぐるぐる巻きの左目と腹を同時に撫でながらホシノは呟いた。表情は変わらない。どこか陰のある表情のままだ

 

 

「……イフの目、もう見れないんだね」

「?そうだけど…何で二回言ったの?」

「……そういう意味じゃない」

 

 

腹に置いた手をどけて、両手を俺の顔に添えてくる

 

 

「……イフの夢も、選択も、否定するつもりなんてない。イフの選択は正しかったと思う。でも、それでも……イフが傷つくぐらいなら、間違ったままでいい」

「ホシノ……」

「……だから、だからね」

 

 

「二度とあんな事しないで」

 

 

感覚で理解した。三年前の彼女が、そこにいる。明るさも、ふわふわした雰囲気もそこには無い。ただ、有無を言わせぬ威圧感があった

 

 

「……努力はする」

「そう言うと思った」

 

 

俺の顔が、段々とホシノの方へ引き寄せられて行く。気づいた時にはもう遅く、ホシノの唇が俺の唇に触れていた

 

 

「ん……」

「……っ」

 

 

触れた時間はほんの一瞬。すぐに離れたが、ホシノの体温を感じるには十分な時間だ

 

 

「……なに、してんの?」

 

 

きっと、滑稽な程声が震えていたと思う。俺の問いに、ホシノは少し照れくさそうに笑った

 

 

「……どうしてもって時は私を呼んで。助けに行くから」

「いや、さっきの……」

「あと、力弱いよ?おじさんでも簡単に抑え込めるぐらいには」

 

 

それだけ言って、ホシノは教室から出て行った。残されたのは、状況を理解できずに固まっている俺一人

 

 

「……どんな顔して会えば良いんだよ」

 

 

もう、まともにホシノの顔を見れる自信が無くなった。これからどうすれば………

 

 

『ホシノ先輩?顔真っ赤だけどどうしたの?』

『見ないで……』

「……お互い様か」

 

 

──────────────────

 

 

「先生、モテ期到来かもしれん」

「どうしたの急に」

 

 

アビドスから帰ってきたイフが、開口一番に私に言ってきた言葉がこれである。何の話かわからない

 

 

「いやね、ホシノにキスされたの」

「……うん。私の前以外でそれ言わないようにね」

 

 

未だに彼氏の一人もいない私への当てつけかな?とも思いつつ、修羅場を避ける為に念を押しておく。イフは鈍いわけではないので、自分が周りにどう思われているか、薄々察してはいると思うのだが……

……キス、か

 

 

「ん?先生どうかした?」

「んー…ちょっと、ね」

 

 

 

 

 

 

 

「……なーんか、モヤモヤする」




一応言っておくと、最終編をやる予定は無いです
大人イフ君が無双して終わるし、ここまでいったイフ君を曇らせるには目の前で誰かぶち殺すぐらいしかないんですよね
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