大人になりたい少年の話   作:かゆ、うま2世

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今回はめちゃめちゃ詰め込んだけど、イフ君視点だとこんぐらい訳わかんない状況だよ


先生

「イフ君、何読んでるの?」

「ドン・キホーテ。ウイの所から借りてきたんだ、何でもスペインって所の古い話みたいだけど、面白いものだよ」

「どんなお話なの?」

「騎士道小説読みまくって妄想に囚われた人がこの世の不正を正そうとする話」

「えぇ……?」

「なんかね、無謀で愚直である事を『ドン・キホーテ的』って言ったりもするんだって。ウイは物知りだよね。何なら最近スペイン語もかじり始めたんだ」

 

 

トリニティの生徒会、ティーパーティーの集会。座っているナギサ、本を読んでいる俺と、それを覗き見るミカ

そして──誰も座っていない一つの椅子

 

バン、と机を叩いたナギサは、鋭い表情で言葉を紡いだ

 

 

「……何をしているんですか?」

「おい落ち着けよ」

「っ!わかっているのですか!?セイアさんが───」

「ナギサ」

 

 

名前を呼んでナギサの話を遮る

 

 

「わかってるよ、だから落ち着いてくれ」

「…………」

 

 

ナギサは俯いて黙り込む。しばらくすると大きくため息を吐き、席に着いた

 

 

「ミカも、ナギサも、ちょっと頭を冷やせ。……気持ちはわかるがな。俺たちはティーパーティーだ、大人がいない以上、俺たちが生徒を引っ張らなきゃいけない」

「……わかりました」

 

 

本を閉じ、ポケットに入れる。ティータイムを楽しめるような気分じゃない、このまま話を始めよう

 

 

「あった事を整理しよう。昨晩、セイアが殺された。犯人も、方法も不明だ。そもそもの話、このキヴォトスで殺人事件なんて前代未聞だ」

「……一つ追加を、セイアさんと共にミネ団長も行方をくらましています」

「……セイアの件含めて、この事件について知ってるのは?」

「シスターフッドのサクラコ様と私達だけです」

「そうか……」

 

 

どういう訳か救護騎士団の団長まで姿を消している。状況は思っていたよりも最悪だ

唯一の救いがあるとすれば、これを知っている者がごく限られている事ぐらいか

 

 

「……セイアは入院中って事にしておこう。ミネの件もセイアについてるって事で誤魔化す。……一時凌ぎだが、その間にできることを考えよう。頼めるか?」

「はい、任せて下さい」

「俺は真相を追う。何があったのかぐらい、知っておきたいからな。……ところで」

 

 

先程から一言も発していない彼女に目を向ける

 

 

「ミカ、大丈夫か?」

「え!?い、いや別に何ともないよ!私そろそろ行くね!」

 

 

慌てて立ち上がって出ていく。心配そうにナギサと目を合わせるが、首を横に振られた。……仕方ない

 

 

「俺も行く。頼んだぞ、ナギサ」

「はい」

 

 

 

─────────────────

 

 

 

当てもなく街を歩きながら、思考する

真相を探る、とは言ったが、こういう時に具体的にどうするべきだろうか

ヴァルキューレ……はダメだ。事件の重要性から恐らくカンナにしか言えない。これ以上カンナのストレスを増やす訳にもいかない

SRT……も恐らく管轄外だ

 

 

「……わからない」

 

 

そもそもの話、今回の事件には不可解な点が多すぎる

 

まずはセイアの死因。キヴォトスに住む生徒はよほどの事では死なない

今回の事件、聞き取り調査の結果、関係がありそうなのは『爆発音が聞こえた』という証言だけだ

セイアは体がそれほど強くないが、爆弾一発程度では死ぬ事はないだろう

 

ミネが消えたのもどうもきな臭い

ミネは強い、死んだわけでは無いだろう。ならば何故消えた?

 

……いや、これは、そもそも

 

 

「セイアは、本当に───?」

 

 

着信音が、俺の思考を遮った

 

 

「リン……?」

 

 

連邦生徒会の主席行政官、七神リン。どうして今…?

 

 

「リン、どうかしたか?こっちは結構ごたついてて…」

『イフ!会長が…!』

「あぁ?連邦生徒会長がどうし──」

『──失踪しました!』

「……はぁ!?」

 

 

 

───リンの連絡を聞いてから、すぐにリンの元へ向かった

 

 

「……本当に何も残さず消えた事は理解した。説明はこの際いらん。俺を呼んだ理由は?」

「貴方に、先生の護衛を依頼したいのです」

「────先生?」

 

 

頭を殴られたような衝撃だった

先生──キヴォトスでは失われつつある職業。いや、重要なのはそこではなく

 

先生という職業である以上、そいつは大人であるという事だ

 

 

(……面倒だな)

 

 

ただでさえセイアの事で頭がいっぱいだってのに、大人まで来るのは厄介極まりない

 

 

「……わかった。肝心の先生は何処だ?」

「既にここにいます。探してください」

「随分と投げやりだが……まぁ、その、お疲れ」

「……いえ、こちらこそ申し訳ありません。突然こんな──」

「いいんだよ、もっと頼ってくれていい。……それより、当面はリンが連邦生徒会長の代理ってことで良いのか?」

「はい」

「オーケー、それじゃ行ってくる」

 

 

最低限聞きたい事は聞いた。……正直に言えば、時間が欲しい。セイアの件、連邦生徒会長の件両方で何が起きているのか詳しく知りたい

だけど──そんな暇はないようだ

 

先生を探すべく、リンに背を向けて歩き出す

 

目的の人物は案外すぐに見つかった。ヘイローが無い以上、このキヴォトスでは目立つ

言ってしまえば、特徴の無い女だった

顔は整っているが、それだけ。痩せている訳でもなく、太っている訳でもない。かと言って筋肉がある訳でも無い

 

 

「あんたが先生か?」

「そうだけど、君は?」

「……尾噛イフ、好きに呼べ。あんたの名前は聞かない、先生って呼ぶ、一分一秒が惜しい。ついてこい」

 

 

これから先生が所属する事になる組織『シャーレ』

概要を聞いたが、どうも結構な権限を持っているらしい。……嫌な話だ

 

 

「うわぁぁぁぁあああ!?」

「黙ってろ舌噛むぞ!」

 

 

直線距離で向かう為、先生を抱えて街の中を飛び回る。今は一分一秒が惜しいし、そもそもキヴォトスの治安の悪さを舐めてはいけない。シャーレなんて物ができたら、不良生徒が示威目的で襲撃を仕掛けるのは道理だ

 

 

「……案の定か」

 

 

シャーレの建物の前には大勢の不良生徒が集まっていた

 

 

「隠れてろ、先生。終わらせてくる」

「ま、待って…大丈夫なの?」

「自分の心配だけしてろ。流れ弾が当たらないようにな、致命傷だろ?」

「えっと……うん」

 

 

先生を物陰に隠して飛び出す。狙うは速度を生かした奇襲。ハンドガンは使わない、肉弾戦で一人ずつ確実に仕留める

 

 

「次!」

 

 

一人の腹に掌底を叩き込み、次の瞬間には離れたもう一人に回し蹴りを叩き込む。これを繰り返し、不良生徒達の意識を刈り取っていく

 

キヴォトスの生徒は、銃弾を受けようが爆発に巻き込まれようが死ぬことはない

だが俺は例外だ。

()()()()()()()()()()()()()()()。先生よりは頑丈だろうが、銃弾は充分脅威だ。だからこそ、こうして銃弾を避ける必要がある

 

 

「っ……!」

 

 

銃弾の雨を掻い潜りながら、一人一人丁寧に処理していく。だが数が一向に減らない

だから、無意識のうちに叫んでいた。確証があった訳ではない。ただ、いるような気がしたから叫んだ、それだけの事だった

 

 

「ワカモ!手を貸してくれ!」

 

 

叫んだ瞬間、赤く光る銃弾が不良生徒の頭を撃ち抜き、気絶させた。間違いなくスナイパーライフルによる狙撃、どうやら本当にいたらしい

七囚人が一人、狐坂ワカモ。脱獄した、という噂は本当だった訳だ

 

 

「今!」

 

 

ワカモと共に不良生徒達を蹴散らしていく。狙撃は完璧、みるみる不良生徒の数が減っていく

 

 

「これで最後──!?」

 

瞬間、悪寒を感じて飛び退いた

 

 

「またこれか…!」

 

 

さっきまで立っていた地面は黒く焦げて凹んでいた。悪寒の正体は戦車の砲撃。そして、目の前にはその戦車がいる

ワカモのスナイパーライフルでは有効打は与えられない。前と同じ手を……と、思考した時だった

 

 

「───ッ!?」

 

 

轟音と共に、高速で飛来した何か。それは砲身を貫き、そこを起点として砲身が折れた

 

 

「っ、ヤバっ!」

 

 

戦車の中から生徒を引き摺り出し、爆発から保護した。既に気を失っているため、これ以上やる事はない

 

 

「……サンキュー、アキラ」

 

 

高層ビルの屋上に見えた白い影に対して礼を言いながら、物陰に隠れていた先生を呼びにいった

 

 

──────────────────

 

 

 

シャーレの建物内を、先生と並んで歩く。ワカモにはまた会う約束をしてから帰ってもらった

 

……まだ整理がついてない。セイアが死んで、連邦生徒会長が失踪して、先生がやってきた。この事象に対し、俺は碌な説明も聞けていなければ、真実を知っている訳でも無い

 

 

「イフ、大丈夫?」

「……何で」

「いや、怖い顔してるよ?」

「…かもな」

 

 

ぶっきらぼうに返事をして、歩みを進める。そもそもの話、俺はまだ先生を信用できない。カイザーの奴らも、赤い女も、間違いなく大人だった。それも悪い方の

俺が……俺たちが見てきた大人は、殆どが悪い大人だった。いい人は柴関の大将くらいだ

もし、先生がそうなら───

 

 

「ここがオフィス。これからのあんたの職場だ」

 

 

シャーレのオフィスに通じる扉を開く。先生は品定めをするかのようにオフィス全体を見ている

……俺に無防備な背中を見せたまま

 

体は既に動いていた。調理用ではない、戦い──殺す為に作られたナイフを取り出しながら先生に近づき──

 

 

「っ──!?」

「動くなよ、少しでも動けば首を切る」

 

 

先生の肩を押さえつけて膝立ちにさせ、首元にナイフを突きつけた

 

 

「イフ、君は…」

「あんたが何者なのかはこの際どうでもいい。重要なのはあんたがどういう人間なのかだ。正直に答えろ。あんたはどっちだ?」

「……何か、あったの?」

「質問に答えろ。あんたは何だ」

「私は……生徒の味方だよ」

「……あぁ、俺もだ」

 

 

突きつけていたナイフを仕舞い、先生を解放する。先生は何も言わずに立ち上がってこちらを見た

 

 

「信用した訳じゃない。害があると判断した瞬間に殺す。……それにさ、先生」

 

 

その時の俺の目は、先生の目にどう映っていただろうか。知る由もないが、一つ言える事があるとすれば───

 

 

「もう、何もかも遅いんだよ」

 

 

きっと、酷い目をしていただろう




感想3件、評価14件……FOOO!!
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