「一人だとする事がねぇ」
一人の家でただテレビを眺めている。シャーレの仕事は休日だし、トキはC&Cの任務でいない。誰かと会う予定も無ければやることも無く、暇を持て余している
「……待てよ?一人って事はつまり…」
彼女、来るんじゃないだろうか
「……ん、正解」
「あ、おはようクロコ」
いきなり隣に現れたのはクロコだった。俺が一人でいる時にたまに現れる謎の存在。一体何者なのか、何故俺の前に現れたのか。何もわからないが、害がある訳でもない。なので気にせず接している
「てか近いね」
「そっちの方が都合がいい」
ほぼ密着状態でソファに座っている。肩を抱かれているような状態だし、正直かなりドキドキする。クロコは美人だし、色々大きいし
「飲み物取ってくるね───!?」
そう言って立ち上がった瞬間、足に痛みを感じた。怪我の影響は今も尚尾を引いており、時々こうして痛む事がある。そのせいで体勢が崩れて転んでしまった
「……イフ、先輩」
「あはは…ごめんね?まだ元通りにはなってなくて──待って、イフ先輩?」
今、クロコは俺の事をイフ先輩と呼んだ。今までは俺を呼ぶ事は無かったが、こうして呼ばれてしまうとますますクロコについての謎が深まっていく
「クロコ、君は───」
何者なんだ、と言う前に、クロコは俺の肩を掴んだ。そのまま押し倒すと、馬乗りになるような形で覆い被さってきた
「……ついてるの?」
「な、何が?」
「ちゃんと、全部あるの…?」
「か、体の事かな?左目以外はくっついてるけど……」
「……ちゃんと、ある。生きてる」
「ど、どうしたの?」
様子がおかしい。俺の体を確かめるようにあちこち触ると、そのまま胸に顔を埋めてきた──というより、俺の心臓の鼓動を確かめているようだ
「えっと…大丈夫?」
「……うん。ごめん、いきなり…」
「あぁそれは別に全然ウェルカムなんだけど……」
「……じゃあ、もう少しだけ」
そう言うと、また俺の胸へと顔を押し付けてくる。流石に恥ずかしいのだが、クロコは離してくれそうになかった
「……あったかい」
「そう?なら良かった」
「……」
「あの、この状況で聞くのもアレだけどさ。君は一体何者?あ、言えないなら別にいいんだけど」
そう聞くと、クロコは顔を上げた。少し複雑そうな表情を浮かべているが、やがて口を開いた
「……言えない。今は…例えるなら、学校の休み時間みたいなものだから」
「休み時間?」
「とにかく、今は害するつもりもないし、イフ先輩を見守ってるから。危なくなったらすぐに助ける」
「……ちゃんとあるって、どういう意味──っ!?」
首筋に感じた鋭い痛み。噛まれたのだ、と理解するのにそう時間はかからなかった。血が出ており、クロコはそれを舐め取っている
「……思い出させないで」
「……なら、聞くのはやめておく。あと噛むのもやめてもらっていい?結構びっくりしてる」
「わかった」
そう答えると、素直に離れて行った。本当によく分からない子だ。結局、彼女は誰なんだろうか
「イフ先輩」
「ん?」
「大好き」
「おおぅ…ありがと」
こんな風に甘えられるのは初めてではないし、きっとlikeの方だろう。俺がそう解釈した。きっとそうだ。だからそれ以上は踏み込まない
「じゃ、飲み物取ってくるから離して」
「…………」
「クロコさん?離して?」
「……」
「クロコさん?クロコさん?」
そのままソファまで引き摺られていき、クロコの膝の上で抱きしめられる形になった。そして頭を撫でられたり頬をつつかれたりする。背中に当たる二つの柔らかい感触がすごい
「ん、か弱いね」
「うわっ!?」
耳元で囁かれる。背筋がゾクッとした。クロコは自分の美人さをちゃんと理解するべきだと俺は思う
「変わんないね。か弱いのに、ボロボロになりながら皆の為に戦って。本当、変わんない」
「……俺たち、会った事あるっけ?」
「ん、こっちの話。気にしないで」
話す前の『ん』とか、見た目とか、俺の呼び方とか、知れば知るほどシロコにしか見えない。気になる。気になるけどいくら聞いても教えてくれないので諦める事にした
「……今日はトキも帰ってこないし。泊まってく?」
「ん、泊まる」
「ご飯作るの手伝ってね?この体だと不便でさ、いつもはトキがやってくれてるんだけど、今日いないから」
「任せて」
クロコは家事能力は高い方だった。クロコに関しての重要な情報だ。よく覚えておこう
「いやー、本当ありがとね。助かったよ」
「ん、これくらい当然」
いきなり現れた彼女との奇妙な関係は、これからも続いていく。その中で、いつか自分の事を話してくれる日が来る事を願いながら、時間は過ぎていった
「……少しだけ。あと、少しだけだから…」