大人になりたい少年の話   作:かゆ、うま2世

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実は新作を考えてたりする
見てくれる?


囚人達と煙草

 

 

 

「………ふぅ」

 

 

シャーレのビルにあるテラスから、ごく小さな煙が上がっては闇夜に消えていく。煙草の火だ。やはりこれはいい。心を落ち着かせてくれる

 

 

「……はぁ」

 

 

肺に残った空気を全て吐き出すように溜息を吐き、また一本口にくわえる。もう何本目だろうか。五本目から数えていない

 

テラスの柵を肘置きに、物思いにふける。最近はこういう時間が増えた。先生としての業務は事務作業だけではない。各学校に直接出向いたりする事もある。先生となってからまだ日は浅いが──いや、浅いからこそ、溜まった疲労は誤魔化しようがなくなっていた

 

 

「疲れた……」

 

 

煙草を吸い、紫煙を燻らせながら夜空を見上げる。やはり、大人ってのも楽じゃ無いらしい

 

 

「……もう一本」

 

 

持参した灰皿に吸殻を落とす。取り出した新しい一本を口に咥えようとし──

 

 

「吸いすぎですよ」

 

 

白い手袋を纏った指が、煙草を取り上げた

 

 

「……アキラ」

 

 

七囚人が一人。慈愛の怪盗、清澄アキラ。かつて出会い、俺が一人の時に希に会いにくる奇妙な距離感の関係が出来た相手だ

 

 

「あまり、褒められた行為ではありませんね」

「わかってはいるんだけどね……どうにも本数が増える」

「……そうですか」

 

 

彼女は、俺の隣に立って同じように星々の煌めきを見上げた。しばらく沈黙が続き、なんとも言えない雰囲気を破るために口を開く

 

 

「ねぇ、アキ──」

「イフ──」

 

 

全く同じタイミングで口を開き、言葉が被ってしまう。彼女はクスリと笑みを浮かべて、俺の言葉を待つ姿勢をとった

 

 

「……先に話していいよ」

「それでは、お言葉に甘えて。まずは──謝罪を」

 

 

彼女は、頭を下げた。唐突な行動に驚き、目を丸くしてしまう

 

 

「謝る?どうして?」

「エデン条約を巡った今回の事件。傷ついた貴方の助けになれなかった。私はそれを深く悔いています」

「……なんだ、そんな事か。気にしなくていいのに」

「私にとっては、重要な事ですから」

「理解者がいなくなるのは困るから?……なーんて、冗談だよ。うん、俺の事大切に思ってくれてありがとう」

「いえ……こちらこそ、感謝を」

 

 

彼女が顔を上げる。表情はどこか嬉しげだ。追われる身の彼女と、こうして会える時間は貴重だ。今回の事件でも、最後は助けてくれたのだし

 

 

「アキラも、何かあったら遠慮なく俺のところに来てね。できる限り手を貸すからさ」

「おや、囚人である私に手を貸してよろしいので?」

「勿論。大事なアキラの為だからね」

「っ………」

 

 

一瞬、彼女の頬が赤らむ。それから咳払いをして、彼女はいつもの調子を取り戻した

 

 

「あ、てか煙草返して?今日はもう吸わないからさ」

「おや、これは失礼。どうぞ」

「ありがと」

 

 

受け取った煙草を箱に仕舞う。こんなところ、セナやセリナに見られたら注意じゃ済まないだろう。本当、どうにかして控えなければ

 

 

「本当、頑張って禁煙───」

 

 

瞬間、耳に響いた計四発の銃声。赤く光る銃弾がシャーレのテラスに向けて飛来して来ている。しかし、弾道を見るに俺には掠りもしない。狙いは恐らくアキラ。撃ったのは間違いなく彼女だろう

 

 

「おや、これは」

 

 

涼しい顔で難なく銃弾を回避したアキラと共に、テラスの柵に立っている彼女を見つめる。先端に小刀がついた銃に、一際目を引く狐の面。七囚人が一人。災厄の狐、孤坂ワカモだ

 

 

「ワカモ、ストップ。お客さんだよ」

「…………」

 

 

俺の言葉に従い、彼女は銃口を下ろした。そのまま柵から飛び降りてテラスに着地すると、面を外した

 

 

「久しぶり、ワカモ」

「……ええ、お久しぶりです」

 

 

久しぶりに会ったというのに、なんだか表情が優れないように見える。まあ、無理もないとは思うが

 

 

「……気にしないでよ」

 

 

左目の眼帯に触れながら、俺は彼女に微笑んだ

 

 

「……申し訳ありません、あなた様」

「謝らないの。ワカモは何も悪く無いんだから」

「……はい」

 

 

少し俯きがちに、ワカモは小さく返事をした。気を取り直そうと、俺は笑顔を作って彼女に話しかける

 

 

「珍しく二人も揃った事だし、そうだな……俺の禁煙法考えるの手伝ってくれたりする?」

「禁煙、ですか?」

「うん。体に良くないし、今は明らかに吸いすぎだからね」

「……なるほど、であれば───」

 

 

アキラは悪戯っぽい笑みをこぼしながら言葉を紡いだ

 

 

「これから毎晩、貴方の元に出向きましょう。煙草を吸うのは私が訪れる時間まで、というのは?」

「──何故貴方が出向く必要が?私が行きましょう。泥棒猫に任せるわけにはいきませんから」

「こらこら、喧嘩しないの。確かにいいアイデアかもしれないけどさ、いいの?毎日来てもらうなんて悪いし、そもそも来れるの?」

「それは……努力しましょう」

「私はあなた様の為であればいつでも行けますよ?」

 

 

実際、いい案かもしれない。二人、もしくはどちらかが居るなら俺は煙草は吸わないだろうし、二人に会える時間も増える

問題点は、わざわざ来てもらわなければいけないという点だ。これでは申し訳ないし、手間をかけさせてしまう。ただでさえ、アキラとワカモは多忙の身なのだから

 

 

「うーん……でもやっぱり悪いよ。二人もわざわざ来るの大変でしょ?」

「私は大丈夫ですよ」

「……では、こうしましょう」

 

 

アキラが小さく手を挙げる。その提案は、俺にとってとても嬉しいものだった

 

 

「二人で交互、というのは?そうすれば負担は半分になりますから」

「それなら、まぁ…」

「あなた様がそれでいいのであれば、私は従いましょう」

「……あ、二人とも仲良くね?」

 

 

煙草の消費速度が遅くなった事は言うまでもない

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