大人になりたい少年の話   作:かゆ、うま2世

52 / 53
こんな未来もあるよって話
続きはない


ルート???/最悪のヒーロー

「こんぐらいあれば充分かな………」

 

 

ずっしりと重さを感じさせるタンクを、どすんと音を響かせながら地面に置いた。中身はガソリン。普段なら重くなど無いだろうに、怪我をした今の身体にはかなりの重労働だった

 

 

「…………」

 

 

懐から取り出したハンドガンを、地面のタンクに向ける。引き金を引けば一気に引火して大爆発。再生は追いつかず俺は確実に死ぬ

 

 

「………降ってきやがった」

 

 

降り出した雨が唯一気がかりだが、きっと大丈夫だろう。俺はちゃんと死ねる筈だ

 

 

「思えば、いろんな事があった」

 

 

大人になる。それだけを思って積み重ねて来た全てを、今この場で俺の命とともに焼き払う。

喪失感とも、開放感とも、あるいはそのどちらとも言えないような不思議な感情が、俺の中に渦巻いた

 

引き金に指をかけた。あとは引くだけ、それだけで死ぬことが出来る。

 

 

「……みんな」

 

 

結局は、身勝手。俺は俺が起こした問題の全てを誰かに丸投げして、ただ何もかもが嫌だからと逃げている

こうする事を選んだ時点で、俺は人間でも化け物でもないただのクズに成り下がった

構わなかった。クズならクズらしく、自分のエゴのままに死んでやる

 

 

「さよなら」

 

 

バン、銃声が響いた

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 

「……………?」

 

 

放たれた銃弾はタンクに当たることはなく、代わりにアスファルトに小さな痕を刻み込む

 

外したんじゃ無い、外された

 

 

「………まに、あった」

 

 

銃を持つ俺の手を、誰かが握っている

黒いドレス、長い銀髪、狼の耳。よく似た人は知っているけど、目の前の人を俺は知らなかった

 

 

「邪魔するなよ」

 

 

知らない相手だったけど、心の中には苛立ち以外何も感じなかった。死ぬのを邪魔された怒り。それだけだった

 

 

「誰だか知らねえけど、人の問題に勝手に踏み込んで────」

 

 

言葉が、止まった

雨の中だけど、泣いているように見えたから

 

 

「……あぁもう」

 

 

何だかバツが悪くなって、目の前の少女から視線を外して銃を手放した

 

 

「……死ぬ気、だったんだ」

「お前がいなきゃとっくにな」

 

 

少し口が悪くなったかな、なんてどうでもいい事を思った。死ぬつもりだったし、別にそれが変わったわけじゃない

 

 

「……んで、なんかやたらと知り合いに似てるのは気のせいか?」

「気のせい……じゃないよ。私、シロコ」

 

 

しろこ

シロコ

 

………砂狼、シロコ

 

 

「シロコ、か……悪いな。色々あって名前忘れててよ」

「うん。大丈夫、気にしてない」

 

 

夜明けが近いのか、東の空は少しずつ明るみ始めている。周りは建物だらけでよく見えないが、きっと綺麗な空なんだろうな

 

 

「………んで、何か色々違うってのはもう省くけど、何しに来たの?」

「………その、わからない」

「はい?」

 

 

 

「ただ………先輩に、言いたかった事がずっとあって。そればかり考えてたら、いつの間にか…………」

 

 

事情は知らない

けど、何となく嘘はついてない気がした

 

 

「んで、言いたいことって?悪いけどさっさと死にたいんだ。なる早で頼むよ」

 

 

投げやりにそう言うと、シロコは少しの間黙り込む。きっと考えているんだろう。だけど俺には、その待っている時間が苦痛だった

 

 

「…………」

「……あっそ、何も無いなら俺はもう行くから」

 

 

立ち去ろうとした俺の腕を、シロコが掴んで止めた

 

 

「……なんだよ?」

「私は」

 

 

……あぁ、本当に嫌だな。またこれだ

 

 

「私、は……ずっと、言いたかったの」

「だから何を────」

 

 

「ありがとう」

 

 

 

 

 

「ずっと一人で、私たちのために」

 

 

 

 

 

「先輩は強いし、頼りになるからって、ずっと甘えてた」

 

 

 

 

 

「先輩に頼り切りで、それでいいって思い込んで───こんな事になっちゃった」

 

 

 

 

 

「後悔とか、たくさんあるけど」

 

 

 

 

 

「一番言わなきゃいけない事は、それじゃないの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう、イフ先輩」

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

涙、だった

 

頬を伝うそれが何なのか気づいたのは、それを流し初めてから数瞬の後だった。

 

 

「なっ……なんで、なんで………!」

 

 

今更。なんで今更

今までやってきた大人モドキを感謝されて、なんで今更心が揺れる?

捨てたはずだ。終わらせたはずだ。ただただ無意味で、空虚だったと切り捨てたはずだ。なのに、なんで

 

 

「今度は、私が助ける」

「シロ……コ」

 

 

心の揺らぎに突き動かされるように、俺は無意識のうちに口を開いていた

 

 

「なぁ、頼むよ。俺、頑張ったんだよ。みんなのためにって必死になって戦ってさ。でも───結局、皆俺を拒絶するんだ」

「うん」

「大人でもなくて、子供でもなくて、ただの化け物になって……俺もう、嫌で────」

 

 

首に感じた、柔らかく、暖かい何かの感触

 

 

「……マフ、ラー?」

「先輩がいたから、失くさずに済んだの」

 

 

シロコ自身と俺。繋ぐように互いの首に巻かれた一つのマフラー

 

 

「私、先輩の生きる理由になれる?」

 

 

途方もない苦しみを味わった

でも、その果てにこれを見つけた

 

 

「おれ……俺は……」

 

 

動きの鈍い手で、シロコの細い手と俺の手を繋ぐ

 

 

「……俺は、生きたい」

 

 

朝日は、俺たちを照らさなかった

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 

「痛………」

 

 

色彩との最終決戦。アトラ・ハシースの中心部にて行われた、砂狼シロコによく似た存在との戦い

戦闘だけの事を話すなら、相手一人に対してこちらは多数。圧倒的有利に戦闘を進めていた

 

だが──爆音と共に放たれた一撃が、状況を完全にひっくり返した

 

吹き飛ばされた小鳥遊ホシノの盾はひしゃげ、体に目立った傷は無いが、かなりのダメージを負ったことは疑いようもなかった

 

 

(今の、は───!?)

 

 

衝撃の正体を探るべく、小鳥遊ホシノは周囲を見渡して───

 

 

「いやぁ、悪いなシロコ。体治すのに思ったより時間かかってさ」

「……ん、大丈夫」

 

 

絶句していたのは、小鳥遊ホシノだけじゃない

 

 

「んじゃ、とりあえず決めゼリフはいるよな」

 

 

その場の誰も、絶望で動けなかった

 

 

「もう大丈夫!」

 

 

だって、そこには

 

 

 

 

「俺が来た!」

 

 

最悪のヒーローが、いたから




プレ先「とりあえず延命させたわ。ほな!」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。