「よう、色々言う事があったから来たぞ」
「い、イフさん!?」
「イフ、どうしてここに?」
「あら……」
「ティ、ティーパーティーが何でここに!?」
翌日、俺が訪れたのは補習授業部の合宿所。予想通りの反応が返ってきた
「謝りに来たんだよ。ほら、あっただろ?色々と」
「謝罪……ですか?」
「あぁ、簡潔に言えば……ナギサを、許してやって欲しい」
補習授業部の試験会場を吹っ飛ばし、彼女達の努力を踏み躙った。今のナギサに謝罪は不可能だろうから、せめてナギサの代わりに謝ろう、と言う事だ
「あいつは今、疑心暗鬼に陥ってる。エデン条約の締結を阻む裏切り者を探すって。その為に補習授業部を作ったんだ」
「ど、どういうこと!?私達が裏切り者だなんて…!」
「コハル、お前はそもそも疑われてすらない。ハスミがゲヘナを憎んでるってナギサは思ってるから、正義実現委員会が動けないようにする為の人質だ。……本当にすまない、いきなりこんな事を言った事も、ナギサがやった事も全部」
頭を下げる。……俺がやる義理は無いんだろうが、どうしても言わないと気が済まなかった
「……俺にできる事は何でもする。勉強もまぁできるし、料理も人並みにはできる。……だから、頼む。あいつを許してやってくれ」
「わー!?頭を上げてください!イフさんが謝る事じゃ…!」
「まぁまぁ、落ち着いてくださいヒフミちゃん。せっかく手伝ってくれるというのですし……」
「……私は、別に構わない。イフが居てくれるなら心強いし」
「私も……こんな風に謝られたら怒れないかな……」
「……ありがとう。早速だが、何をすれば──」
「皆おはよ……あれ、イフ?」
いい、と言いかけた瞬間、部屋の扉が開いた。入ってきたのは先生だ
「何してるの?」
「イフさん、ナギサさんのやった事を代わりに謝りに来てくれたんです」
「へー…」
「……なんだよ」
「イフはいい子だなって」
「触るな」
先生は嬉しそうに頭を撫でてくる。……こういう扱いは嫌いだ
「最終試験まであと一週間だろ?ここでミスると退学だ。時間の限り協力する、早速やるぞ」
「うん。ありがとね、イフ」
「あんたに感謝される筋合いは無い」
そうして───一週間が始まった
──────────────────
「──アズサちゃんは、イフさんの事を知っていたんですか?」
「……うん。かなり昔だけど」
そうして始まった一週間。ハナコはアズサに勉強を教え、コハルは先生とイフが教えている
「それは…少し意外です。イフさんに昔の知り合いがいたなんて」
「イフは、ここではどんな風だった?」
「そうですね……」
ハナコとイフは、特別個人的な関わりがある訳では無かった。だからこその、『外から見た尾噛イフ』を話していく
「頼られている人でした。色んな組織のリーダーから、一般生徒まで。みんな、イフさんを頼ってました。評判だったんですよ?大人っぽいって。アズサちゃんの時はどうだったんですか?」
「……大体一緒だ。いつも皆を引っ張ってくれていた。他には何かあるか?」
「あとは……そうですね。すごく強いと。『キヴォトス最強』とまで耳にした事があります」
「……そうだな。イフは、とても強かった」
「でも───そうですね」
ハナコはイフを見つめる。そして、こう続けた
「……心は、そう強くないのかもしれません」
「心が?」
「どう言えばいいんでしょう……メンタルは人一倍強いんでしょうけど、その根底は…何かに依存しているような……」
「依存?」
「詳しくはわかりませんが……そういう感じがします。多分これは、私の勘違いではないと思います」
「……そうか」
──────────────────
「……先生、寝泊まりは別に構わないがな、何であんたと同じ部屋なんだ」
出来る限りこの合宿所で寝泊まりすることになった俺の部屋は、先生と同じ部屋だった
先生はシャーレの業務が落ち着いている時はこちらで寝泊まりしているらしい。今日はどうやらその日のようだ
「イフ、またうなされるかもしれないでしょ?だから一緒にいようと思って」
「余計なお世話だよ」
「……もっと甘えてもいいんだよ?」
「誰がするかそんな事」
先生はベッドで横になっている俺の横に座った
「ねぇ、イフ。……ずっと聞きたかった事があるんだけど」
「……何だ?」
「イフは、どうして大人を信用しないの?」
「……言っただろ、あんたの前ではあまり口は開かないようにするって」
「……どうしても、喋りたくない?」
「………」
どこか切なそうな声音。気づけば口を開いていた
「……大人のせいで酷い目に遭ってきたから。そんだけさ」
「……大変、だったんだね」
「同情なんていらない」
……先生の目つきが、気に入らない。その瞳に込められた感情に名前を付けるなら、憐憫…哀れみ………可哀想?
「……イフ」
「何だ───!?」
文句の一つでも言ってやろうと上体を起こした瞬間、先生は俺を抱きしめてきた
「せ、先生!?おい、離れ───」
「……頑張ったね。ずっと、一人で抱え込んで辛かったよね」
「っ……!」
「偉いよ、イフ。よく頑張りました。言うの遅くなってごめんね」
先生の胸の中で、俺はただ呆然としていた。……こうして、俺がやってきた事を誰かに褒めてもらうのは…初めてだ
でも、でもそれを先生がやると──
「っ、離れろ!あんたに慰められる筋合いは無い!」
「あ……」
「もう俺に構うな!俺に関わるな!これ以上、あんたが関わると……!」
「……イフ?」
「……何でも無い。そうだ、予め言っておくがな、最終日前日は予定が埋まってる。俺は手を貸せない」
「うん。了解」
「……先生も、せっかく早く寝れるんだから、さっさと寝ろよ」
「わかった。お休み、イフ」
「……お休み」
先生が去った後、俺は布団に潜り込んだ。だが、眠気が襲ってくる事はなく、頭の中では先程の先生の言葉だけが反覆されていた
『……もっと甘えていいんだよ?』
同情なんていらない筈だ
ずっと一人でやってきた筈だ
それでも──あの時思った『もうちょっと』が今も尚消えてくれない
それでも俺は、その感情を認める訳にはいかない
「……全部、何かの間違いだ」
先生に背を向けて、無理矢理瞳を閉じる
そうして、日々は過ぎていき──最終試験前、最終日を迎えた
イフ君はどこまでいってもまだ子供だから『誰かに甘えたい』って根源的な欲求があるんだけど本気で大人を目指してる以上それを表面に出す訳にはいかないんだ。けど先生はそんな事お構いなしにイフ君の事を『大人を目指して背伸びしてる可愛い生徒』として甘やかすんだ。甘やかされればされるほどイフ君は嬉しいけど先生がいい大人である事を理解していくから頭がバグっていくんだよね。もっと先生に甘えたいと心の奥底では思いつつもその心に従えば存在価値を否定される事をイフ君は誰よりも分かってるんだ。でも先生はそんな事お構いなしにイフ君を甘やかすからどんどんイフ君は存在価値を否定されていくし、先生は大切な生徒の夢や存在価値を否定していくんだ。実質『お前が大人である必要はないよ』って言ってるようなものなんだ、可愛いね!!!!