超能力?そんなの(ヾノ・∀・`)ナイナえっあるの? 作:黎火
いつも定期テストの2週間前になるとバイトを一旦休まさせてもらっている。店長さんは事情を説明したら快く快諾してくれた。『学生の本分を疎かにするのいけない』と言いながら応援としてまかない(余った食材)をプレゼントしてくれたのだからそれなりの点数は取らなければ申し訳ない。最近数学の点数がお世辞にも良くないし。
テスト勉強がひと段落したので時計を見てみると午後9時を過ぎている。最後に見たのが午後6時ごろだったので3時間以上経過していた。自分でもなかなか集中することが出来たんじゃないかと思う。進行度は微妙だが。苦手教科なんだもん仕方がない。
・・・お腹すいたな。作り置きしてあるものもないし、食材はあるが、料理をする気も起きないとなると、
「コンビニでも行くかー・・・」
あんまり夜遅くにご飯食べるのは良くないとは聞くが、空腹なんだから仕方が無い。
外は雨が降っている。コンビニが徒歩10分くらいの所にあるのが幸いだ。雨は嫌いではないが出かける際は鬱陶しい。
「~♪・・・ん?」
誰かが雨の中で傘も差さずに佇んでいる。こんな雨の夜に・・・っていうかあれ?この姿見覚えあるぞ。
「送川?傘も差さずに何してるんだよ」
また変なことして──
「な、んで、なんで今なんだよぉ・・・」
消えてしまいそうな声で、雨でよく分からないがきっと泣いているだろう顔で、どこか壊れてしまいそうな姿の彼女がいた。いつも笑顔で変な言葉づかいで、だけど普通の子供っぽい彼女の姿はどこにもなかった。
「─っ、どうしたんだよお前、風邪ひくぞ」
なんかすごく嫌だ。お前のそんな顔見たくなかった。ただでさえ人の辛い顔を見ると自分もつらくなる性分なのに、普段明るいお前がそんな顔するとこっちも余計に辛くなる。
「関係、ない、だろ」
「関係ある、友人なんだから」
面倒くさいことになった。俺と送川が出会った当初、こういう雰囲気になることがあった。ただそれはあくまで遠慮気味になる、といった感じではあるがここまで深刻なのは如何せん初めてだ。いつもはなぁなぁで済ませていたが今回ばかりはどうもそう簡単には行きそうにない。いつもの仰々しい話し方じゃなくて素が出ている感じだいぶ重症だ。
「なにがあったんだよ」
「関係、ないって、言ったじゃないか」
「分かったよ、話さなくていい」
大抵こういう場合無理に聞き出すのは良くない。本人が話したくないと拒絶してる以上俺が無理やり聞き出すのはお門違いでもある。だけど──
「行くぞ」
「・・・放してよ」
「碌に抵抗もしてないじゃないか」
「どこ行くんだよ・・・」
「どうせこの後も立ち尽くしてるかふらふらしてるだろ。風邪ひかれたら困るから俺の家に行く。」
「放っておいてよ」
「やだね。関係ないんだろ、じゃあ関係ない俺が何しようと勝手じゃないか」
無理やりではあるが手を引いて家に連れていく。女子をこんな夜中に、だのなんだの言われるかもしれないが関係ない。ただの自己満足だってわかってる。でもここで放っておくほうが遥かにダメだ。結局送川は家まで素直に付いて来た。取り合えず風呂に入らせて体を温めさせる。あんな状態だ。風呂上がりでも体は多少冷えてるだろうからホットココアの準備をする。あとコンビニは行き損ねたので、食パンとありあわせの食材でサンドイッチを作る。
「・・・・」
風呂から上がってきても送川は黙ったままだ。ただ俺の方をチラチラ見ている。言いたいことがあるなら言えばいいのに。
「ほら、サンドイッチとココアあるから」
「・・・ありがと」
「「・・・・」」
気まずい、めっちゃ気まずい。勢いで連れてきたとはいえこの後どうしたものか。
「・・・君は僕のことをどう思ってるんだ?」
「どう、ってどう答えて欲しいんだよ」
「・・・知らない」
これ、なんか俺との関係か何かで思い悩んでいる感じだな。前にも急に遠慮がちになることはあったが今回はひどい。一体こいつの何がそんな風に思わせてしまうのか。
「ルカ、お前にも色々あるんだろう。周囲との関係に悩むような何かが。それを話せとは言わない、解決できる保証もないし。」
「・・・・」
そうだよね、という感じの諦めの表情が見える。それ以上にルカは悲しそうだった。
さっきは自分から拒絶してたのに、こっちから拒絶の意を見せると悲しむとか、結局こいつも拒絶されたくないんじゃないか。
「だけどな、俺はお前と一緒にいて迷惑だとか不幸だとか思ったことはないぞ。相手のことを気にするのもいいけどな、お前自身がどうしたいかを選べばいいじゃないか」
「うん・・・」
普段の仰々しい言動で分かりにくいけど、ルカはしっかりと他人のことを考えられる『人間』だ。だからこんな風に思い悩むしこんな風に悲しむ。ルカ自身はそれを否定してる部分がある。でもそんなことはない。ルカは──
「もっと気楽に生きてもいいと思うぞ。」
◇───◇
久しぶりの組織に『殺しの依頼』が来た。元々組織の構成員だったが、裏切ってそのまま逃げた相手がターゲットだった。
特に何もない依頼。すぐにでも終わらせて彼に会いに行きたい。実際、すぐに追いつめることは出来た。
「さぁ覚悟はできたかい。君の終焉がやってきたよ」
「お前、相も変わない化け物っぷりだなっ」
男の足はすでに『ずれている』。逃げることは出来ない。
さっさと殺して──
「あのガキも苦労してるだろうな、こんな化け物に絡まれてよ」
「あ"?」
自分でも驚くような声が出た。ガキとは斎木颯真のことだろうか。
「どうして、僕の運命の事を知ってるんだ」
「運命w?あの斎木っていうガキが運命?ヒヒヒッ、こいつは傑作だ、俺を笑い殺す気かよ。まるでロマンチストな人間みたいだなお前」
「僕は人間だ・・・」
「お前が人間?ひっでぇ冗談だよ。」
男はずっとこちらを嗤っている。
聞き流せばいい。こんなの戯言だ、ただの挑発だ。なのにそれから耳を離せない。
「その力は何だよ、見ただけで相手をぶっ壊せる力。そんなの持ってるやつが人間か?そんな奴が人間社会に馴染めると?俺たちみたいなクズの方がまだ適合できるってもんだ」
─やめろ
「こんな風に平気で人間を傷つけられる奴が人間?ごみ屑みたいに俺たちを殺せる奴がか?殺してもそんなふざけた態度ができるやつがか?俺たちの方がまだ慈悲があるってもんだ」
─やめろ
「なんだ気になる相手でも見つけて人間にでもなったつもりかよw予想してやるよ。お前がどんな理由であのガキを気に入ったかは知らねぇが、お前はきっと弾みであのガキを『ずらしちまうよ』今更人間らしくいられるわけがねぇ」
「やめろ!」
男の腕を『ずらす』。
男の腕がボトリッと音を立てて落ちて、悲鳴を挙げる。
「ひっヒヒヒッ、そうだよ。そんな弾みで『ずらし』ちまう。分かったか?お前は化け物なんだよぉ!」
「黙れ、黙れ黙れ黙れっ!!!」
男を見える場所全てを『ずらす』。男は無残な姿になって死んだ。もうこの死体が先ほどのように不快な言葉を発することはない。でも─
「なんで、なんでこんなに苦しいんだよぉ」
胸が痛い。今まで心無い言葉を浴びせられることは何度もあった。こんな生き方をしているんだから仕方が無いと覚悟はしているし気にしないようにしていた。大概口汚く罵ってくる連中は自分以上の屑だからだ。でも今回は全然違う。
彼、斎木颯真のことが頭に浮かぶ。言葉を投げつけられるたびに彼の姿が思い浮かぶ。そしてそんな彼の隣にいる血まみれの自分を。
苦しい。彼のことを思い出すたびに今まで投げかけられた言葉が奥へと入り込んで苦しくなる。
途端に自分の存在が許せなくなってくる。
違う、正確には、こんな化け物が彼の隣にいることが許せなくなってくる。
でも彼の近くにいたい。
気が付いたら傘も差さずに彷徨っていた。
このまま雨が全てを洗い流してくれたらいいのにとか思ってしまう。
「送川?傘も差さずに何してるんだよ」
聞き覚えのある声がした。とても会いたくて、でも今は会いたくない声だ。最初にあったときもそうだ。仕事の後に彼は何処ともなく表れた。どうしてこんなにタイミングが悪いんだろう。
「な、んで、なんで今なんだよぉ・・・」
結局彼に連れられて彼の家まで連れられた。
抵抗しようと思ったけれど、そう考えると体に力が入らなかった。
◇───◇
今はベッドに寝転がっている。
彼は僕を励ましてくれた。別に迷惑なんて思ってない、お前の思った通りにやればいいと、言ってくれた。
自分は化け物だと自分に言い聞かせているのに、こんな彼のなんてことない言葉でそれは崩れてしまう。
彼の寝顔を見る。普段からはあまり想像できないあどけなさを残す寝顔に少しドキッっとした。
「運命、君は、ずるいよ」
僕の目の前に現れては心をかき乱す。
そのせいでこんなに苦しむけれど、たぶん、これが『人間』なんだろう。
もし許されるなら、僕は、君のそばで『人間』で有り続けたい。