タキオンさん助けて、俺ウオスカの間に挟まれちまう   作:フルゥチヱ

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第12話 君は完璧で究極のウマドル(後編)

「うっ~しゃい!☆」

 

 

 という謎の掛け声と共に、俺の顔を覆っていた麻袋がすぽーんと脱がされる。

 目の前には先ほどの三人のウマ娘。俺はどこかの空き教室の椅子に座らされていた。

 なんだかすっごい既視感(デジャヴ)!!

 

 

「あ、あ、あの……どどどうかこれで勘弁していただけませんか……!」

 

 

 幸いなことに今回は手を縛られていなかったので、ポケットから財布を取り出して差し出す。

 小銭しか入っていない上に、さっき紅茶を買ったから残高は無いに等しいが、それでも何も出さないよりはマシなはずだ。

 

 

「頬の紅潮と涙腺から液体の分泌を確認。どうやら彼女は泣いているようです」

「え!? ご、ごめんね!? 泣かないでっ!」

「泣いてません! これは目汁です!」

「これ使う……?」

 

 

 サラサラストレートの栗毛の美人さんがそっとハンカチを差し出してくれた。優しい。

 

 

「ぐすっ……ひぐっ……! 俺、まだ転入したばっかなのに二回も拐われてて……タキオンさんやカフェさんにも迷惑掛けちゃうし……こんなんで立派なウマ娘になれるのかなって……っ!」

「そうなんだ……辛かったね。大丈夫、ファル子が側にいるよっ」

「母性本能インストール。なでなでを開始します」

「ありがとうございましゅ……」

「あの……恐らく二度目の誘拐の犯人は私たちなのだけれど……」

 

 

 親身になって話を聞いてくれる先輩たち。

 この人たち良い人だ。

 

 

「ところで、先ほど仰っていたウマドル? ってなんなんですか?」

 

 

 やけにまんまるなお顔をした先輩に尋ねる。

 すると彼女は「よくぞ聞いてくれました!」と高らかに宣言した。

 

 

「ウマドルはね、走って歌って踊れる完璧で究極のウマ娘のことだよ! 私はスマートファルコン! トップウマドルを夢見て、ウマドルユニット"逃げ切りシスターズ"のリーダーやってます! ファル子って呼んでねっ☆」

「私の名はミホノブルボン。同じく逃げ切りシスターズ所属のウマ娘です」

「私はサイレンススズカ……一応、逃げ切りシスターズのメンバーです。一応」

 

 

 ファル子さんに、ブルボンさんに、スズカさん。

 って、逃げ切りシスターズ……? そういえばどこかで……。

 

 

「あ、あのポスターに写ってたアイドルの方たちですか!? 凄い! 本物だっ!」

「ウマドルだよっ!」

 

 

 さ、サインとか貰えるかな!?

 

 

「はいっ、サインあげる☆」

「え、今声に出してましたか!?」

「ウマドルはね、ファンの心の声も絶対に見逃さないのっ☆」

「ウマドルって凄いっ!」

「握手もしてあげるっ☆」

「あ、ありがとうございます!」

 

 

 わあ~! アイドルに手を握られちゃった! 好きになっちゃいそう!

 

 

「どうしてかしら、あの子を見てると何故かスペちゃんを思い出すわ」

「奇遇ですねサイレンススズカさん。私は何故かマチカネタンホイザさんを想起しています」

 

 

 ファル子さんは握手中にウィンクを決めてくれるファンサービスまでしてくれた。

 って、見惚れてる場合じゃない。

 相手に名乗ってもらったんだから、こっちも名乗らないと。

 

 

「あ、申し遅れました。俺はディープスカイです。えっと、逃げ切りシスターズさんたちのファンクラブに入りたいのですが受付はどちらに行けば……」

「嘘でしょ……この子チョロすぎるわ」

「アグネスデジタルさんにお願いすれば入会できるかと」

「うんうん! ファンクラブの運営はデジタルちゃんに一任してるからねっ☆」

 

 

 デジタルさん……? 誰ぇ? また知らない人だ。

 

 

「って違う! プス子ちゃんっ! ファル子はね、あなたをスカウトしにきたの!」

「へ? す、スカウト? ファンクラブにですかっ?」

「じゃなくて、ウマドルにだよっ」

「う……ウマドルに? だ、誰を?」

「だからプス子ちゃんをだって!」

 

 

 お、俺が?

 俺なんかが、アイドルに……?

 

 

「む──むむむ無理です絶対!!」

「でも絶対向いてるからっ!☆」

「むむむむむむむむむむむ……!!」

「首の高速横スクロールを確認。どうやら本気の拒絶のようです」

「そこまで嫌なのね……」

 

 

 そもそも元が男なのに、可愛らしいアイドルなんて出来るわけがない。

 せいぜいネタ枠になるのが限界だろうし、他の真剣にアイドルをやっているウマ娘に対しても失礼だ。

 

 

「でもでもっ、ファル子は本気で才能あると思うのっ! 朝、あなたを見た時ファル子のちっちゃくてかわいい脳がピーンときたんだから!☆」

「え、朝ですか……?」

 

 

 ファル子さんと朝に会った記憶はないが……。

 

 

「うんっ! プス子ちゃん、朝に空を飛んでたでしょ! それを見て思ったの──この子しかいない! って!☆」

「み、見てたんですか!?」

「校舎の目の前を飛んでるウマ娘がいるんだもの。流石に驚いたわ」

「恐らくあの時間に校舎内にいたウマ娘の半数以上は目撃しているかと」

 

 

 なん……だと……?

 俺の醜態がトレセン学園内で拡散されているだと……!?

 

 

「お、終わった……俺の学園生活……」

「終わってないって! むしろこれからが始まりだよプス子ちゃん! そう、ウマドルになればね!☆」

「ほ、本当ですか……? ウマドルになれば救われますか……?」

「うんうん! ウマドルは全てを解決するよ!」

「なりますっ! ファル子さんっ! 俺、ウマドルやってみます!」

「その言葉が聞きたかったよ! それでこそファル子の見込んだウマ娘だよプス子ちゃん!☆」

「嘘でしょ……本当に大丈夫なのかしらこの子」

「幼児を騙している気分になりますね」

 

 

 差し出されたファル子さんの手を固く握る。

 ウマドルとファンとしてではなく、今度はウマドル同士として。

 

 

「しゃいしゃーい! じゃあ早速プス子ちゃんをリーダーにしたウマドルユニットを考えなくちゃ! 実はファル子、ずっとライバルウマドルユニットが欲しかったの!☆」

「えっ!? 俺がリーダーなんですか!?」

「プス子ちゃんはキュート系だから~……後はクール系とパッション系のメンバーが欲しいね☆」

 

 

 キュート? クール? パッション?

 一体なにを言ってるんだろうファル子さんは。

 

 

「──そういうことなら、アタシの出番だぜェ!」

 

 

 ガシャーン! と。

 空き教室の天井に設置された通気用のダクトが突然破壊され、けたたましい音が鳴り響いた。

 モクモクと埃が舞い上がり、そこへシュタッと影が舞い降りる。

 その声に。

 その孤独なシルエットに。

 俺はものすごく覚えがあった。

 

 

「正体不明の奇襲を確認。警戒レベルMAX、迎撃を開始します」

「待ってミホノブルボンさん! 彼女は……!」

「心当たりがあるの!? スズカちゃん!?」

「う、うん。できれば他人のフリをしたいところなのだけれど……」

「おいおい冷てえじゃねーかスズカ! アタシとお前の仲だろ!?」

「そ、そうね──ゴルシ先輩」

 

 

 そこには悪魔的な笑みを浮かべ、両手を組んで仁王立ちする芦毛のウマ娘の姿があった。

 

 

「待たせたなテメエら! ゴルシちゃん再登場だぜェッッ!!」

 

 

 か、カオスが極まっちゃう……!




◇スマートファルコン
 無敵の笑顔でメディアを荒らす天才的ウマドル。
 彼女のファンサービスはどんな相手でも虜にしてしまう。

◇ディープスカイ
 メイクデビューの前にウマドルデビューすることになった。
 今のところ作中で笑った回数より泣いた回数の方が多いと思う。

◇サイレンススズカ
 トレセン学園では貴重なツッコミ役。
 本人もボケ気質なのだが周りにボケ要員しかいないとツッコミに回らざるを得ない。

◇ミホノブルボン
 鉄の身体に優しい心を持つサイボーグ。
 プスカの高速首振りを見てるとなんだか温かい気持ちになった。

◇ゴールドシップ
 主人公の危機に駆けつけてくれた(?)王子様の白バ。
 我々がゴルシちゃんを覗く時、ゴルシちゃんもまたこちらを覗いている。

◇ストックホルム症候群
 誘拐や監禁された被害者が、加害者に好意を抱いてしまう症状。
 今回の話とは関係ないが、全く関係ないが、何故か解説しなければいけない気がした。
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