タキオンさん助けて、俺ウオスカの間に挟まれちまう   作:フルゥチヱ

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第17話 緋色と蒼穹

「俺、京都って初めて来ました……!」

「ふふん、アタシはデビュー戦を京都で勝ったんだから!」

 

 

 自慢げに話すスカーレットさんと共に改札を抜けて京都駅に降り立つ。

 すると、そこにはとても開放的な駅ビルが広がっていた。

 特に目を引くのが、鉄骨が格子状に組まれたガラス張りの天井だ。十階分以上はある空間をど派手にぶち抜いたその構造は、建物というよりはなんだか芸術作品みたいである。

 

 

「あそこに通路が見えるだろう? あれは空中径路と言って、我々一般客でも通れるのさ」

「えっ、あそこって通れるんですかっ!?」

「タキオンさんってなんでも知ってるんですね! よし、行くわよプスカ!」

「はい! 行きましょうスカーレットさん!」

「ハハハ。二人とも、走ると危ないよ」

 

 

 タキオンさんの言う通り、空中径路は一般に開放されていて、普通に入れるようになっていた。

 京都の街並みを見渡せるように展望スペースも設けられており、まさに至れり尽くせりといった感じだ。

 

 

「凄いです! リアル京都っ!」

「京都レース場はどこかしらっ!?」

「フフ、スカーレット君もプスカ君もまだまだ子供だねぇ。いったい誰に似たんだろうねぇ」

「…………」

 

 

 終始無言のカフェさんは何故かうんざりとした表情でタキオンさんのことを見ていた。

 

 

「じゃあ僕は、先に京都レース場に行ってるね。タキオンたちも15時には着くようにね?」

「了解したよトレーナー君」

「カフェさん、悪いけどタキオンが変なことしないように見張っててくれる?」

「わかりました……」

「おい、何故私が変なことをする前提なんだい?」

「……日頃の行いを省みてください」

 

 

 京都の景色に夢中になっていると、いつの間にかトレーナーさんがいなくなっていた。

 タキオンさん曰く、今日行われるレースの関係者に知り合いのトレーナーやURA職員がいるみたいで、一足先に挨拶へと向かったらしい。

 

 

「あ、そっか。今日って日曜日ですもんね」

 

 

 中央のレースは基本的に土曜日と日曜日に開催される。当然この日も例外ではなかった。

 ……って、あれ? 日曜日?

 そういえば日曜日には、何か大事な約束があったような……?

 

 

「──あー!!」

「うわぁ!? ビックリした! プスカ、アンタいきなりどうしたの!?」

「ど、どうしよう!? 今日、サムちゃん先輩のレースの日なんです!」

 

 

 思い出した! 今日はサムちゃん先輩が教えてくれたレースの開催日だ!

 寮のロビーにはテレビがあるからそこで見るつもりだったけど、京都の街中では落ち着いてテレビを見られる場所なんてそうそうないだろう。

 スマホで見ようにも、そのレースが配信されているかどうか分からないし、そもそもテレビのチャンネルという形で教えてもらったので調べようにもレース名を知らない。

 

 

「どうしたんだいプスカ君!?」

 

 

 俺が悲鳴を上げたからか、凄い勢いでタキオンさんが駆けつけてきてくれた。

 

 

「た、タキオンさん……俺、サムちゃん先輩との約束破っちゃうかもしれないです!」

「サムちゃん先輩?」

「……メイショウサムソンさんのことですよ。彼女のルームメイトの」

 

 

 同じくこちらへとやってきたカフェさんが補足してくれる。

 すると、タキオンさんは「ああ、サムソン君か」と合点がいったように頷いた。

 

 

「うう……先輩はレースで頑張ってるのに俺は京都で遊んでるだなんて……」

「それなら問題ないよプスカ君」

「……ふぇ?」

「これを見たまえ」

 

 

 ペラリと、タキオンさんが1枚の紙を渡してくれる。

 それは、十六人の出走ウマ娘の名前と顔写真が記された名簿だった。

 上から順にそれを眺めていくと──

 

 

『3枠6番 メイショウサムソン』

 

 

 とてもよく知っている先輩の名前が、そこには載っていた。

 

 

「彼女が出走するのは、本日ここ京都で行われる長距離G1──天皇賞春だからね」

 

 

 応援に行こうじゃないか、と、タキオンさんは言ってくれた。

 

 

   ◯

 

 

「プスカって、サムソン先輩と同室だったのね。そういえば、この前登校した時一緒にいたものね」

「はい! サムちゃん先輩はすっごく優しいんですよ! お菓子をいっぱい買ってきてくれますし、この前はアイスを奢ってくれました!」

「仲が良いのは大変結構だが、それはちょっと師匠的には見逃せないねぇ……」

「あ、えっと……ち、ちゃんとトレーニングしてるので大丈夫だと思います! た、多分……」

「プスカ君、明日からのトレーニングメニューは少し増やさせてもらうよ」

 

 

 というタキオンさんの無慈悲な宣告。とはいえ、おやつの為なら甘んじて受け入れよう。

 日曜日というだけあって、京都駅構内は観光客でごった返している。中にはトレセン学園の制服を着たウマ娘もいて、きっと俺たちと同じように今日のレースの応援に駆けつけた方々なのだろう。

 

 

「ハーッハッハッハッ! 親愛なる我が同胞サムソンのために馳せ参じたよ! 京の都でも爛然とした輝きを放つこのボクがね!!」

「ふあああ……! 眩しすぎますぅ……! ご当地オペラオーさんですぅ……!」

「ちょっと、こんな人目に付くところで騒がないでくれるかしら」

「オペラオーちゃん、京都でもすごく……すごいですね!」

 

 

 なんだか遠くからとても楽しそうな喧騒が聞こえる。

 

 

「……タキオンさん、見覚えのある人たちがいるんですがどうします……?」

「カフェ、見なかったことにしよう。私たちは何も見ていない。いいね?」

「ですね……」

 

 

 何故か急に早足になったタキオンさんとカフェさんに背中を押されてコンコースを進む。

 すると、そこには駅構内のマップが映る掲示板があった。どうやら100以上あるレストランの案内用のものらしい。

 大きい駅ビルなだけあって凄いお店の数だなと圧倒されながら眺めていると、スカーレットさんが声を上げた。

 

 

「タキオンさん見てください! ここって紅茶が有名なお店です!」

「なんだって!?」

「それにカフェさん! こっちは珈琲が凄い評判の喫茶店ですよ!」

「なんですって……!?」

 

 

 スカーレットさんってオシャレなお店とかに詳しいんだな。イメージ通りだ。

 タキオンさんとカフェさんは食いつくように案内掲示板に近づき、場所を確認する。

 

 

「すまないね二人とも。ちょっと急用を思い出したので席を外させてもらうよ」

「私も急用です……。申し訳ありません……また後で合流しましょう」

 

 

 そう言い残して、二人はそれぞれ別の方向へ風のように走り去っていった。

 

 

「「……え?」」

 

 

 取り残された俺たちは、あまりの突然の出来事に、その場に立ち尽くして顔を見合わせる。

 ……もしかして、スカーレットさんと二人っきりになっちゃった?

 

 

   ◯

 

 

「きゃああああああ~~!! 可愛い~! 可愛いすぎるわよプスカ! 私の次にカワイイ! ねぇ、写真撮っていい!?」

「あ、アハハハ……。ど、どうか写真は勘弁していただけますか……」

 

 

 スカーレットさんの提案で、俺たちはタキオンさんたちと別行動でウィンドウショッピングに訪れていた。

 京都駅のビルには洋服屋さんもいくつか出店しており、それを見てみたいと彼女が言ったのだ。

 レディース向けのキラキラしたアパレルショップには、確かにスカーレットさんに似合いそうな可愛らしい洋服が揃っている。

 しかし──何故かその可愛らしい服を着ているのは、スカーレットさんではなく俺だった。

 制服のスカートはどうしようもないのでもう受け入れたが、こんなヒラヒラの女の子してる服を元男が着るというのは……想像以上キツイ……ッ!

 

 

「ねえねえ! 次はこれを着てみましょう!?」

 

 

 と、お次にスカーレットさんが持ってきたのは、フワフワのスカートが目立つ、あちこちにリボンが飾られた──いわゆるロリータ系のコーディネートだった。

 

 

「むむむ無理です! それは流石に後戻りできなくなる気がします!」

「でも絶対似合うと思うわよ?」

「に、似合う似合わないの問題ではなくてですね! 色々ともう限界というか……!」

「着替え方が分からないならアタシが着せてあげるわ!」

「ひゃああああ!? そうじゃないのにぃ~!?」

 

 

 それからはもう着せ替え人形扱いである。

 プチファッションショーが催され、俺のメンタルとか男としての矜持とかがガラガラと瓦解していく音が聞こえる気さえした。

 もう……お嫁に行けない……っ!

 

 

「あー楽しかった! プスカ、今度は東京でお買い物に行きましょ!」

「ぐすん、ぐすん……。もう嫌です……絶対行きません……」

 

 

 さめざめと泣いていると、店員さんと思われる女性がニコニコしてスカーレットさんに話しかけていた。

 

 

「本当に仲がよろしいんですね、ご姉妹ですか?」

「いや違」

「はいそうです! ね~プスカちゃん?」

 

 

 何を言っているんだろうこの人は。

 俺にこんな美人なお姉ちゃんがいた記憶はない。

 

 

(いいからここは話を合わせておきなさい! ほら、お姉ちゃんって呼んで! お願い!)

 

 

 物凄い眼力で睨まれる。

 これはお願いではなく脅迫ではないだろうか。

 

 

「そ……そうだね──お、お姉ちゃん……?」

 

 

 ほぼ半泣きでそう告げると、何故かスカーレットさんはぷるぷると震えだした。

 

 

「きゃあああああああ~~!? アタシの妹が可愛すぎる~!? 美人三姉妹としてご近所で評判になっちゃうわ!」

 

 

 なんでこんなテンション高いんだろこの人。というか何故三姉妹? スカーレットさん、お姉さんがいるのかな?

 

 

「お姉ちゃんがなんでも買ってあげるわ! プスカ、何か欲しい物ある!?」

「し、強いて言うならこの涙を拭くためのハンカチがほしいです……」

「オッケー! 行きましょ!」

 

 

 コンセントレーションで駆け出すスカーレットさん。

 雑踏の中でも淀みないその足取りは、流石G1ウマ娘といったところか。

 その背中を追いかけようとしたところで──急に辺りが人でごった返す。

 

 

「えっ、ちょ……!」

 

 

 どうやら近くの店でバーゲンが開催されているらしく、そこに向かう人々の波だった。

 俺にはスカーレットさんのように人混みを掻き分け前進できるほどの実力はなく、あっという間に流されてしまう。

 そして、ようやくその一団から抜け出せたのも束の間。

 

 

「……どこだろ、ここ」

 

 

 京都駅の、全く知らない場所で一人ぼっちになってしまう。

 端的に言えば──迷子になった。




◇ダイワスカーレット
 姉(姉ではない)
 彼女の圧の強さと人の話の聞かなさはいったい誰に似たんだろうねぇ……。

◇ディープスカイ
 妹(妹ではない)
 彼女の幼さとトラブルメーカーっぷりはいったい誰に似たんだろうねぇ……。
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