タキオンさん助けて、俺ウオスカの間に挟まれちまう 作:フルゥチヱ
主人公、京都で迷子になる。
「す、スカーレットさん? どこですかぁ……?」
そんなか細い声は周囲の喧噪に掻き消されるばかりで、誰にも届くことはない。
ウマ娘の聴力で辺りを探ろうと耳をクルクルさせてみるも、駅ビルという場所では逆に膨大な雑音が聞こえるばかりで、脳がキーンと揺れた。
「た、タキオンさぁん……カフェさぁん……」
一人は怖い。ひとりぼっちはイヤだ。
既に目の下に熱いものが込み上げていたが、そこはグッと堪える。
中等部は……迷子くらいで泣いちゃいけない……!
「そ、そうだ……こういう時こそ落ち着かないと……!」
慌てふためいて行動を起こす方が危険だ。
足を使うだけがウマ娘じゃない。
タキオンさんのように頭を使って、この状況を切り抜ける方法を考えよう。なんたって俺はあの人の弟子なのだから。
そう、頭を使うんだディープスカイ。
迷子になったのなら当然──
「あの、迷子センターってどこですか?」
迷子センターに助けを求めるべきだ。
これがきっと正解ですよねタキオンさん……!
俺、また一歩ウマ娘として成長しちゃいました!
脳内のタキオンさんは「偉いねぇ」と褒めてくれた。
◯
「ウマ娘のお姉ちゃんも迷子なの? 元気出して?」
「グスッ……ありがとう……。小さいのにしっかりしてるね……」
迷子センターの隅っこで体育座りして泣いていると、5歳くらいの女の子に同情されてしまった。こんな情けないことある?
『──ご来店中のお客様に迷子のお知らせをいたします。東京都府中市からお越しのアグネスタキオン様。お連れ様のディープスカイちゃんが迷子センターでお待ちでございます。至急、迷子センターまでお越しくださいませ』
迷子センターに中学生がやってきたのに、笑ったりせず真摯に応対してくれた受付のお姉さんが館内にアナウンスを流してくれる。ここで大人しく待っていれば、いずれタキオンさんが迎えに来てくれるだろう。
「大丈夫ですよ~♪ きっとすぐに保護者の方が迎えに来てくれますからね~」
「あ、ありがとうございます」
恐らく迷子センターの職員と思われるお姉さんが背中を擦ってくれる。
綺麗な鹿毛を三つ編みにしたそのお姉さんは──トレセン学園の制服を着ていた。
「……えっと、迷子センターの職員さんではない……?」
「初めまして~、私はスーパークリーク。あなたと同じトレセン学園のウマ娘です~」
「ど、どうもです。ディープスカイって言います」
どう見ても俺より年上なそのウマ娘、スーパークリークさんは、何故か迷子センターにいた。
……ん? 待てよ?
これってつまりそういうことなのかな……?
「スーパークリークさん──あなたも迷子なんですか?」
「うふふっ……♪」
何も答えてくれずにただただ穏やかに微笑むスーパークリークさん。
なんだ。この人はいったい何を考えているんだ。
「サムソンちゃんから聞いていた通りです。とっても可愛らしい子ですね~」
「えっ、サムちゃん先輩とお知り合いなんですか?」
「はい、お友達なんですよ~。あの子、オグリちゃんの後輩でもありますから」
なるほど。確かにちょっと雰囲気が似てるかもしれない。
鹿毛なところとか、包み込んでくれるような感じとか、色々と大きいところとか。
「ではディープちゃん。ほら、どうぞ~♪」
トントンと、スーパークリークさんは自分の膝を軽く叩いている。
「……? あの、何がどうぞなんですか?」
「膝枕です~。ほら、遠慮しなくていいんですよ~」
「ひざ、まくら……?」
なんだろう膝枕って。
いや、もちろん意味を知らないわけじゃない。
片方が膝を折って座り、もう片方が横になってそこに頭を乗せる体勢である。
問題は、何故膝枕をする流れになったのかということだ。
「え、ええと」
「緊張してるのかしら? 大丈夫、怖くないですよ~♪」
「ふわああぁぁ……っ」
耳元で囁かれて、言いようのない安堵感と高揚感に全身の産毛までもが逆立つようだった。
例えるならば──母なる海。
広くて綺麗な海面を目の前にした時、全てをさらけ出してそこに飛び込んで行きたくなるような、そんな感覚。
こんなの、抗えるわけがなかった。
「で、では……行かせていただきます……!」
「はぁい、どうぞ~♪」
「ふ、不束者ですが、よろしくお願いします……!」
揃えられたスーパークリークさんの膝に、恐る恐る頭を投下する。
(──えっ、極楽浄土?)
瞬間、雲の上にいるのかと思った。
重力という誰にも逃れられない縛りさえも忘れてしまうほどの浮遊感。
母の腕に抱かれた赤子が目を細めてキャッキャと笑うように、自然と目を閉じて笑顔になってしまう。
「……っ!」
「あら? どうしたの? もういいの~?」
落ちるような眠気を感じてふと正気に戻った俺は、素早く頭を上げてスーパークリークさんの膝から離れる。
あ、危なかった……! 今離れていなかったら、俺は一生あの膝の上で過ごすウマ娘人生を歩むことになっていた……! なんて素晴らしい膝をお持ちなんだ、スーパークリークさん……!
「も~っと甘えていいんですからね?」
「わぷっ」
落ち着きを取り戻しかけたところで、スーパークリークさんにギュッと抱きしめられ、頭を膝の上に戻される。
超高級な低反発枕のようにどこまでも沈み込んでいくその感覚は、再び俺を楽園へと導いた。
「いいこいいこ~♪」
「ひひぃぃぃん……っ」
あ、やばい……これ、本当に眠っちゃう……。
でも、それも良いかも……。
「──そこまでにしてもらおうか、淀の
バキッ! と扉が乱暴に開け放たれ、そのけたたましい衝撃にハッと意識を取り戻す。
本当に危なかった。今のは完全に堕ちかけていた。
突然の乱入者に、スーパークリークさんは驚きの声を上げる。
「だ、誰ですか~……!?」
「生憎だが、ソイツはこの俺の認めた
なんだか聞き覚えのある特徴的な口調で話すその人は──黒光りするゴツいサングラスを掛けていた。
「えっ、本当に誰ですか?」
スーパークリークさんは困惑していたが、俺には心当たりがあった。
それは先日、ウマドルのメンバー探しで初めてお会いしたあの人──
「今だウオッカ! やってしまえ!
「了解っすギム先輩!」
「わあああ!? 助けてー!?」
「あっ……! ディープちゃん!?」
スーパークリークさんの視線が離れた瞬間、死角から現れたもう一人のウマ娘が、俺をひょいっと膝枕から引き剥がしてスタコラサッサと駆け出す。
その誘拐実行犯もサングラスを掛けていたが、その顔には凄く見覚えがあった。というか普通に名前呼んでるし。
「よおプスカ! さっきのアナウンス聞いて急いで駆けつけたぜ! 相変わらずおもしれー奴だなお前は!」
「ウオッカさん!」
ニッと笑うイケメンウマ娘、ウオッカさんに連れ去られるのはこれで二度目だった。
「フッ──久しぶりだな
「ギムレットさん!」
サングラスを外しながらニヤリと笑みを零すのは、右目をすっぽりと眼帯で覆ったウマ娘、タニノギムレットさんである。
二人にえっほえっほと担がれて京都駅を駆け抜ける。周囲の人たちが何故かぎょっとした目で俺たちのことを見ているが、何か問題でもあるのだろうか。
「ギム先輩、なんか俺ら注目されてるみたいっすけどなんでですかね?」
「皆目見当が付かないな。この程度の戯れ、
「やっぱりそうですよねっ! 俺のルームメイトの先輩が普通は誘拐なんてされないだなんておかしなことを言うんですよ! 誘拐はトレセン学園ではよくあることですよね!」
「その通りだぜプスカ! 周りの奴らがなんと言おうと自分の信じたいものを信じる! それが俺たちウマ娘だ!」
「良いことを言うじゃないかウオッカよ。それでこそ我が
「流石ウオッカさんですっ!」
「「「アッハッハッハッ!!」」」
三度目の誘拐。
だけど、俺の心はとても晴れやかだった。
◇スーパークリーク
大きな身体と慈愛の心で包み込んで全てを赤ちゃんにしてしまう淀の
彼女もかつては
◇タニノギムレット
ウオッカは彼女にとっての光であり、彼女もまたウオッカにとっての光。
◇ウオッカ
先日の桜花賞でスカーレットに負けて落ち込んでいたが、憧れのギム先輩とお出かけしたら元気になった。
次の目標レースは日本ダービー。
◇ディープスカイ
優しくしてくれる人とご飯をくれる人にはすぐ懐いてしまうちょろイン
ギムレットに誘拐されなければ赤ちゃん堕ちしてたので助けられたとも言えるし、そうでないとも言える。