タキオンさん助けて、俺ウオスカの間に挟まれちまう 作:フルゥチヱ
「あっ! 宇治抹茶色に輝くあのシルエットは! ゴールドシップさん、あれが俺のトレーナーさんです!」
「よく見つけたディープ! よし! つっこむぞつかまれッ!」
「はい!」
「うおおおおおおお! ゴルシちゃん以上に輝いてんじゃねえええええ!」
京都レース場のスタンドを一気に駆け下りるゴールドシップさん。
しかしあまりに勢いをつけすぎたためか、トレーナーさんとタキオンさんのところに到着する前に通行人に激突してしまう。
!?
「"
「大丈夫ですかゴールドシップさーん!?」
しかし、吹っ飛ばされたのはゴールドシップさんの方だった。
そ、そんな! あのゴールドシップさんが物理的に弾かれるだなんて、いったいどんな相手……!?
「ハーッハッハッハ! すまないねゴルシさん! このボクが発する
「ひゃああああ!? すみませんすみませぇん! 通行の邪魔をしちゃってすみませぇん!」
そこにいたのは栗毛と鹿毛のウマ娘だった。
一人はまるで舞台役者のように手を天に掲げるポーズを取り、もう一人はゴールドシップさんの方へとペコペコと頭を下げている。
「あ、あのぅ、あなたも大丈夫ですかぁ……?」
ゴールドシップさんが吹っ飛ばされたということは、当然その手に抱えられていた俺も投げ出されたということで。
地面を転がっていた俺に、その鹿毛のウマ娘は優しく手を差し伸べてくれた。
な、何がとは言わないけど大きいなこの人……!
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ、お怪我がないようで何よりですぅ~」
おっとりした雰囲気で温和に微笑むそのウマ娘。
あれ? なんだかこの人、サムちゃん先輩に似てる……? いや、サムちゃん先輩がこの人に似てるのかな……?
「ほらゴールドシップさん、立ってくださいまし。ディープさんを送り届けたことですし、
「え~!? アタシも天皇賞見てえよ~!」
「ダメです! レース中こそ稼ぎ時ですのよ!」
「マックちゃん、メッチャやる気満々じゃん」
「こ、これは貴方がバイト後に京都のスイーツをご馳走してくださるというから仕方なくであって、決して貴方のためでは……!」
「おっし! 販売ノルマの焼きそば564個、売り尽くすぜマックちゃん! ということでディープ、またな!」
「それではディープさん、ごめんあそばせ」
「あ、はい! ありがとうございました! ゴールドシップさん! マックちゃんさん!」
芦毛の二人は「安いよ安いよー!」「安いですわよー!」と声を上げながら焼きそば販売のアルバイトへと戻っていった。
いつか俺も高等部になったらゴールドシップさんのアルバイトをお手伝いしよう。
「ディープ? ほう、君がサムソンのルームメイトのディープ君かい?」
カッ、という美しい足音と共に、先ほどの栗毛のウマ娘に問いかけられる。
「は、はいっ! サムちゃん先輩と同室のディープスカイと申します!」
「ボクはテイエムオペラオー。サムソンの師範だ。君の話は彼女からよく聞いているよ」
「サムちゃん先輩のお師匠様……!?」
「わ、私はメイショウドトウと言いますぅ~。サムソンさんとは同じチームで仲良くさせてもらってましゅ……!」
「メイショウ……!?」
サムちゃん先輩と同じ名前だ。
「えっと、もしかしてサムちゃん先輩のお姉さんですか?」
「ひえええ~……!? 私がサムソンさんの姉だなんて恐れ多いですぅ~!」
「君、中々見る目があるね! 確かに彼女たちは、たまに本物の姉妹同然のように見えることがあるよ!」
「そ、そういうオペラオーさんこそ、サムソンさんと姉妹みたいに見える時がありますよぅ!」
「そりゃあ師弟だからね! ボクたちの絆はグリム兄弟にも匹敵するだろうさ!」
なんというか、楽しい人たちだ。
サムちゃん先輩の何事にも動じない穏やかな性格は、この人たちの影響もあるのだろうか。
「ちょっとあなたたち。レースが始まるわ、静かにして頂戴」
「オペラオーちゃん、ドトウちゃん、飲み物買ってきましたよ~」
すると、両手にペットボトルを持った二人のウマ娘が歩いてくる。そして、テイエムオペラオーさんとメイショウドトウさんに一本ずつ飲み物を手渡した。
その凛としていながらも、どこか優しさを感じる声に、俺は聞き覚えがあった。
「アドマイヤベガさん! お久しぶりですっ」
「あら、あなたは……確か、ディープスカイさん」
「先日貸していただいたフトンカンソーキ、毎日使ってます! 凄いですねあれ、軽く世界が覆るレベルでした!」
「ふっ、どうやらあなたも歩み始めたようね──ふわふわ道を」
「流石はアヤベさん。後輩への布教活動も欠かさないんですね!」
溌剌と頷く栗毛の先輩。
この四人の先輩たち、揃ってると凄く絵になるなあ。
「私はナリタトップロードです。よかったらあなたも飲み物いります? 何本か余分に買っておいたので」
「いいんですか!? ありがとうございます、いくらでしたかっ?」
「いえいえ、気にしないでください」
財布を取り出そうとした俺を手で軽く制して、飲み物を差し出してくれた。
ナリタトップロードさん、なんて親切な方なんだろう。
ありがたく冷えたペットボトルを受け取ると、コース中央の大型ビジョンにゲートが映し出され、スピーカーからは実況が流れ始めた。
『今年も淀の季節がやってきました。3200メートルの長い旅、天皇賞春。昨年の覇者である"彼女"が日本を去り主役不在になるかと思われた今年のシニア戦線ですが、ここ京都レース場には成長著しい精鋭たちが集っています』
彼女……? 誰のことだろ?
『まずは長距離重賞を2連勝中のアイポッパー。淀の舞台でもそのスタミナと末脚を遺憾なく発揮できるか。1番人気です』
1番人気、サムちゃん先輩じゃないんだ……。
「頑張れ、ポッパーちゃん!」
ナリタトップロードさんが大きく手を振る。
当たり前のことだけど、俺がサムちゃん先輩を応援するように、他の出走ウマ娘にも応援してくれる人がいるんだ。
家族、友達、仲間、ファン、そしてトレーナー──そんな全ての人たちの想いも背負って、彼女たちはあの舞台に立っている。
想像を絶するような緊張感なのだろう。
これがG1レース。
ここにいる先輩たちも、皆この舞台に立ってきたのかな。
「おやプスカ君、こんなところにいたのかい?」
振り返ると、そこには優しい師匠の姿があった。
タキオンさんも、きっと何度もG1を戦ってきたんだろうなぁ。改めて、俺の周りにいる先輩たちは凄いウマ娘ばっかりだ。
「京都レース場名物のどて煮は買えたかい?」
どて煮……?
「す、すっかり忘れてました……!」
「えっ。じゃあ君、今まで何してたんだい?」
「あ、ご先祖様に会ってました! 地脈がトライアングルで声が聞こえたんです!」
「ふむ。熱はないようだが、念のため病院に連れて行った方が……」
「タキオンさん? 俺は至って健康ですよ?」
おでこに手を当てて体温を確認される。
タキオンさんの手はひんやりしてて気持ちよかった。
『──3番人気は菊花賞ウマ娘のデルタブルース。前走の阪神大賞典は4着に敗れましたが、海外の長距離G1メルボルンカップを制した実力者です』
あ、出走ウマ娘の紹介を一部分聞き逃しちゃった。
「もうレースが始まる。行こうかプスカ君」
「はいっ」
そんなスタスタと歩くタキオンさんを、オペラオーさんが呼び止める。
「まあ待ちたまえよタキオンさん。せっかくなら一緒に応援しようじゃないか。君の目的もサムソンだろう? やはり皐月の後輩は気になるのかい?」
「……まあ、気にならないと言えば嘘になるがねぇ。今回の主な目的は、弟子にG1の空気を肌で感じさせることさ」
「弟子? ディープ君がタキオンさんの?」
オペラオーさんは目をパチクリとさせて、俺とタキオンさんを何度も交互に見ていた。
「ハーッハッハッハ! なるほど! 新たなる運命は既に芽吹いているという訳か!」
「君の言葉は実に抽象的だねぇ、オペラオー君」
「そう褒めてくれるな、タキオンさん!」
「いや褒めてはいないのだが」
「テイエムオペラオーさんって、役者さんなんですか?」
気になったので聞いてみる。
オペラオーさんって顔立ちも綺麗だし声もよく通るし、まさに舞台女優って感じだ。歌劇団とかにいても違和感はないと思う。
「やはり君は見る目があるね。自分を演じるという意味では、ボクも役者の一人さ!」
「え、えっと……?」
「プスカ君、彼女の言うことは話半分で聞いておきたまえ。それより、いよいよ始まるよ──天皇賞春が」
ざわついていた場内が一気に静まり返る。
自分が走るわけでもないのに、心臓がバクバクと鳴っていることがハッキリと分かった。
『さあ全てのウマ娘がゲートイン完了、出走の準備が整いました。誇り高き春の盾を手にするのはいったいどのウマ娘か。天皇賞春──今、スタートしました!』
◇メイショウドトウ
オドオドとしてるが心優しき宝塚ウマ娘。
応援している出走ウマ娘は3枠6番メイショウサムソン。
◇テイエムオペラオー
舞台の上で輝く覇王こと皐月賞ウマ娘。
応援している出走ウマ娘は3枠6番メイショウサムソン。
◇アドマイヤベガ
ふわふわソムリエのダービーウマ娘。
応援している出走ウマ娘は3枠5番アドマイヤタイトル。
◇ナリタトップロード
たまに語彙が貧弱な優等生の菊花賞ウマ娘。
応援している出走ウマ娘は4枠8番アイポッパー。