タキオンさん助けて、俺ウオスカの間に挟まれちまう   作:フルゥチヱ

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第26話 プスカくんの楽しい学園生活

 トレセン学園に転入してから、早いもので一ヶ月以上が経過しようとしていた。

 えぬえいちけーまいるは1600メートルだということも覚えたし、迷子になっても迷子センターに行くという対処ができたし、ウマ娘として確かな成長を実感している。

 そんなある日の放課後、俺はタキオンさんの研究室である旧理科準備室へと向かっていた。両手に京都土産の八ツ橋を抱えて。

 事の経緯はこんな感じだ。

 2週間ほど前、俺はタキオンさんたちと共に京都へプチ旅行に行った。その帰りに、お土産としてご当地お菓子である八ツ橋を選んだのだが──

 

 

「サムちゃん先輩! 京都のお土産の八ツ橋です! 一緒に食べましょう!」

「八ツ橋? 私もプスカちゃんと食べようと思っていっぱい買ってきたんだけど……」

「えっ」

「お土産、かぶっちゃったね~……」

「「……」」

「ど、どうしましょう、この大量の八ツ橋」

「とりあえず、日持ちしない生八ツ橋は私たちで食べて~……焼き八ツ橋は友達とかに配ろっか」

「で、ですねっ」

 

 

 どうやらサムちゃん先輩もお土産に同じ物を選んでいたみたいで、今俺たちの部屋には山ほどの八ツ橋があった。

 そんなわけで、八ツ橋を色んな人たちに配って回っているのである。

 こういう和菓子には緑茶が合うんだよね。

 でもタキオンさんが好きなのは紅茶だし、カフェさんが好きなのは珈琲だ。まあ、どちらも和菓子が合わないというわけではないだろうけど。

 そういえばトレーナーさんは何が好きなんだろ? 抹茶色に発光してたし、やっぱり抹茶なのかな?

 

 

「やあディープちゃん。授業は終わったのかな?」

「トレーナーさん! はい、これから研究室に行くところですっ」

「じゃあ一緒に行こうか」

 

 

 噂をすればなんとやら。

 目にも眩しい黄金色に輝くトレーナーさんと、廊下の曲がり角で偶然出くわした。

 

 

「ゴールデンウィークも終わったっていうのに、まだ五月病気分が抜けなくてさ」

「あ、だからそんなにゴールデンなんですね」

 

 

 あれ? でもトレーナーさん、確かゴールデンウィークも働いてたような……。

 俺のトレーニングにも付き合ってくれてたし、タキオンさんの実験にも助手として協力してたし、いつ休んでるんだろう。

 

 

「トレーナーさん、ちゃんと眠れていますか? もしよかったらフトンカンソーキをお貸ししますよっ」

「心配してくれてありがとう。でも、ちゃんとソファーで仮眠を取ってるから平気だよ」

「あの、できればお布団で熟睡してほしいんですけど……」

 

 

 タキオンさんも研究が煮詰まってる時は何日も徹夜してるし、このウマ娘にしてこのトレーナーありって感じだ。

 

 

「そういえば、トレーナーさんはどうしてタキオンさんのトレーナーさんに?」

「ん? そういえば言ってなかったね。話せば長くなるんだけど、まあ一言で言うなら──」

 

 

 トレーナーとウマ娘の馴れ初め。

 きっと素敵な出会いを果たしたのだろう。

 

 

「拉致されたからだね」

 

 

 何故だろう。

 今、この人にかつてないほどの強烈なシンパシーを感じている。

 

 

「トレーナーさん……」

「なにかな?」

「やっぱりあなたは、俺の運命のトレーナーさんです……っ!」

「あはは、ありがとうディープちゃん。僕も、君が一人前のウマ娘になれるように精一杯サポートするよ」

 

 

 この人が俺のトレーナーさんで良かった。

 転入初日でタキオンさんたちに出会えたことは、本当に幸運としか言えない。

 なんだかトレーナーさんがカッコよく見えてきた。常に輝いているからまだ素顔すら見たことないのに。いや、むしろ輝いているからこそカッコいいのかもしれない。

 

 

「トレーナーさん、次は青色に光ってほしいです!」

「ごめんね。これ、自分の意思でコントロール出来るわけじゃないんだ……」

 

 

 あ、そうなんだ。

 ……見たかったな、トレーナーさんが青色に輝いてるとこ。

 

 

「ってあれ? トレーナーさん、なんか研究室の辺りが騒がしくないですか?」

「本当だね。普段、あそこに寄り付くのは僕たちくらいなのに」

 

 

 研究室の周囲に、ちょっとした野次ウマが出来ていた。

 皆付かず離れずの距離で、中を覗こうとしている様子だ。

 

 

「遂にタキオンさんの素晴らしさをこれだけの人が分かってくれたんですね! 俺、嬉しいですっ」

「うーん……僕はなんだか凄く嫌な予感がしているよ」

 

 

 そんなトレーナーさんの懸念は的中していた。

 野次ウマの向こうから、怒号にも忠告が響いてきたのである。

 

 

「お前たち、何をやっている! 今すぐここから離れろ! 爆発するぞッ!」

「……え?」

 

 

 爆発?

 爆発……?

 ……爆発???

 

 

「えーっ!?」

 

 

 ドカーン! と。

 研究室からとてつもない轟音が響く。

 野次ウマたちは突然の事態に悲鳴を上げながら散り散りになっていった。

 

 

「わーっ!? タキオンさーん!」

「タキオン! 今日は何をやらかしたんだ!」

 

 

 トレーナーさんと共に研究室の方へと走る。

 研究室の扉を開くと、モクモクと煙が漂う室内でタキオンさんはうつ伏せに倒れていた。

 

 

「タキオンさん! しっかりしてくださいタキオンさん!」

 

 

 爆心地にいたタキオンさんの白衣は煤まみれになっている。

 背中を支えながら肩を揺すると、タキオンさんは「うぅン」と呻きながら目を醒ました。

 

 

「おはよう、マイラブリーエンジェル」

「トレーナーさんダメです! タキオンさん意識が朦朧としてるみたいです!」

「僕には至って平常運転に見えるんだけど」

「おや、トレーナー君もいたのかい」

 

 

 タキオンさんは白衣の汚れを軽くはたきながら立ち上がる。

 良かった、怪我はないみたいだ。

 

 

「それで、この惨状は何があったの?」

 

 

 トレーナーさんが研究室を見回す。

 ただでさえ年季の入った旧理科準備室は、試験管やビーカーのガラス片があちこちに散乱し、足の踏み場もないような状態だった。

 

 

「いやなに、実は風邪によく効く漢方薬の調合を行っていたのだが、急に停電が起こって手を滑らせてしまってねぇ」

「停電……? なんて起こってましたっけ?」

「かなり古い照明だからなぁ。あ、ほら、あそこの電球」

 

 

 そうトレーナーさんが指差した教室の隅には、経年劣化で破損した電球があった。

 

 

「なるほど。ではこれは設備の更新を行っていない学園側の落ち度であって、私の責任ではないねぇ」

「そんなわけあるか、この大たわけが」

 

 

 ひっ、という悲鳴が漏れてしまった。

 いつの間にかタキオンさんの背後には、怒髪天を衝く勢いで眉に皺を寄せたウマ娘の姿があった。

 

 

「おやおや、これはこれは生徒会副会長様。よく来てくれたねぇ。今出せるものは京都土産のぶぶ漬けしかないのだが構わないかい?」

「ほほぅ? それはつまり"そういう意味"で言っているのか?」

「好きに解釈してもらって結構だよ」

 

 

 生徒会──確か、トレセン学園で最も強い権力を有する組織。

 あんまり詳しくは知らないけれど、タキオンさんが関わらない方がいいと言っていたので、できる限り関わらないようにしていた。

 のだけれど、まさかこんな形で生徒会執行部のメンバー、それも副会長にお会いすることになるだなんて思ってもいなかった。

 

 

「アグネスタキオン、貴様……最近弟子を取って大人しくなったと聞いていたが、どうやら誤報だったようだな」

「ハハハッ。むしろ逆さ、彼女の存在こそが私の探究心をより滾らせるのだよ! 原石を一から磨くことがこれほど面白いだなんて知らなかったねぇ」

「まさか、教え子にまで凶悪な思想を流布しているわけではあるまいな?」

「酷い言われようだな全く……。プスカ君、君から見て師匠としての私はどうだい?」

 

 

 と、タキオンさんに聞かれる。

 師匠としてのタキオンさん? それは勿論──

 

 

「とっても優しくてカッコよくて完璧で、俺にとっての憧れの存在です!」

「そうだろうそうだろう! いやぁ、誰かに慕われるというのも存外悪くない気分だねぇ!」

「貴様……既に洗脳教育を……ッ!」

「いや副会長。彼女のあの目を見てくれたまえよ」

 

 

 副会長さんとジッと目が合う。

 すんごい美人さんだ。

 

 

「なんて純粋な目をしてるんだ……ッ!?」

「タキオンさんタキオンさん。京都のお土産の八ツ橋があるんですけど食べますか?」

「頂こうかな。トレーナー君、紅茶を淹れてくれたまえ」

「えっ、この研究室の惨状で団欒するの?」

「あ……あの、よかったら副会長さんもどうです? 沢山あるので、生徒会の皆さんで食べてください」

 

 

 一箱、八ツ橋を副会長さんに差し出す。

 タキオンさんが言ってたほど怖い人には見えない。むしろその凛とした雰囲気の奥から、隠しきれない優しさが滲み出ている気がした。

 

 

「……貴様、名は?」

「えっ、あっはい! ディープスカイといいますっ」

「そうか、ディープスカイ……良い名だな」

「ど、どうも」

「単刀直入に言う──何故タキオンなんだ?」

「えっと……?」

「おいおいエアグルーヴ君。人の弟子にちょっかい掛けないでもらえるかな」

 

 

 副会長さんの前に、タキオンさんが割り込むようにして立ち塞がる。

 

 

「私と彼女は運命共同体の師弟関係なんだ。彼女と話がしたいのなら、まずは私を通してもらいたいねぇ」

「タキオンさん……!」

 

 

 やっぱりタキオンさんは優しい!

 

 

「すみませんエアグルーヴさん! タキオンの奴、ディープちゃんのことになると熱くなるというか……!」

「そうか……まあいい。私にも覚えがある」

 

 

 トレーナーさんがペコペコと頭を下げるが、副会長さんはそれを片手で制する。

 

 

「だが、今回の件はしっかりと会長に報告させてもらうぞ。貴様の処分はその後だ」

「またお得意の反省文かい? まあ、甘んじて受け入れるさ」

「それと……感謝するディープスカイ。この菓子は、生徒会の皆で分けさせてもらう」

「あ、はい。どうぞっ」

 

 

 フッと小さく微笑んで、副会長──エアグルーヴさんは去っていった。

 やっぱり、怖い人には見えなかったなぁ。

 すると、タキオンさんにポンと頭を撫でられる。

 

 

「流石プスカ君。菓子折り一つで生徒会を懐柔してしまうとは、見事な手腕だよ」

「えっ!? い、いやそんなつもりでは……!」

「やはり私に似て、人を扱う才能があるのかもしれないねぇ」

「タキオンの人を扱う才能は、人を実験動物(モルモット)として扱う才能だけどね」

 

 

 トレーナーさんの身体をライト代わりにしながら、俺たちは研究室に散らばったガラスを片付けた。




◇ディープスカイ
 自分のことを研究室でカフェの次に常識的だと思っている。

◇アグネスタキオン
 自分のことを研究室でカフェの次に常識的だと思っている。

◇タキオンのトレーナー
 自分のことを研究室でカフェの次に常識的だと思っている。

◇エアグルーヴ
 生徒会副会長の一人。強く生きて……。
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