タキオンさん助けて、俺ウオスカの間に挟まれちまう   作:フルゥチヱ

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第3話 ドゴーン三銃士

「それじゃタキオンさん、今日はありがとうございました」

「ああ。またおいで」

「そ、それと向こう側にいる方も……お、お邪魔しましたっ!」

 

 

"──……バイバイ"

 

 

 そんな別れ際に聞こえた声を幻聴だと思い込む事にして、俺はタキオンさんの研究室を後にした。

 沈み始めた夕日に思わず目を細めてしまう。

 ここトレセン学園は数多のウマ娘が通う超マンモス校なだけあって、その敷地面積の広さも桁違いである。ちょっと喉が渇いたからと飲み物を買うために自販機を探していただけで、結構迷ってしまった。なるべく早く構造を覚えなくてはならない。

 

 

「なんだろう」

 

 

 ようやく自販機を発見し、お財布を取り出しながら近づく。すると、自販機の前でなにやら言い争いをしている二人組を発見した。

 

 

「おいスカーレット、出てこねえじゃねえか。まさかお前、自販機壊したんじゃないだろうな。俺もう喉カラカラなんだけど」

「うっさいわね、どうしてアタシが犯人扱いされなくちゃならないのよ」

 

 

 二人は自販機のボタンやレバーをガチャガチャと弄っているが、飲み物が出てくる気配はない。

 

 

「こういう時ってどうすりゃいいんだ? 自販機の会社に電話するべきなのかな?」

「それより先にたづなさんに報告した方がいいんじゃない?」

「案外、ブルボン先輩に触ってもらったら直ったりしてな」

「いや……それは絶対に取り返しがつかなくなるだけだと思うわ」

 

 

 長い栗毛をツインテールにしたウマ娘と、鹿毛を外にハネさせたボーイッシュなウマ娘だ。

 とても容姿端麗な二人なのだが……何故だろう、さっきから身体の震えが止まらない。

 俺が底冷えするような正体不明の寒気を覚えている間にも、その二人は話を続ける。

 

 

「てか、なんでアンタはアタシに奢らせる前提なのよ」

「あん? あ~……ほら、あれだあれ。貸し一つあったろ」

「はあ!? アタシがいつアンタに貸しを作ったってのよ! どう考えても逆でしょうが! むしろアンタが奢りなさいよ!」

「なんだと!?」

「なによ!?」

 

 

 すっかりヒートアップする二人。

 

 

「ったく、アンタのせいで余計に喉が渇いたじゃない!」

「俺のせいじゃねーよ! 全部この自販機(ポンコツ)が悪いだろ!」

「そうね……悪いのはドリンクを出さないこいつだわ」

 

 

 別の自販機へ向かおうかと、踵を返そうとした瞬間である。

 

 

「──いい加減出しなさいよ、こンの"おたんこにんじん"っっ!!」

 

 

 ドゴーン! ドサドサドサドサ……

 

 

 大地が揺れたのかと思った。

 ツインテールのウマ娘の怒りに任せたローキックが、劈くような轟音と共に自販機に炸裂したのだ。

 強烈なキックをお見舞いされた自販機は、これで勘弁してもらえませんかと泣きながら懇願するかのように、取り出し口から急に大量の缶を吐き出している。

 

 

「……」

「……」

「……」

 

 

 そして目が合う俺と二人。

 ひっ、という声にならない声が自分の口から発されたことがハッキリとわかった。

 しばしの沈黙。しかしその間も自販機は壊れた機械のようにボロボロと飲み物を吐き出し続けている。

 

 

「あ、あの俺、何も見てないので……それじゃ失礼しますっっ!」

 

 

 即座に逃走を図る俺。

 見てないぞ! 俺は何も見ていない! うん!

 

 

「待ちなさいそこのアナタ!」

「一旦落ち着こうぜ!」

「追ってきたぁ!?」

 

 

 しかも、もう並ばれてしまった。

 この人たち超速ぇぇ!?

 

 

「ど、どうして追ってくるんですか!?」

「むしろなんでお前は逃げるんだよ!?」

「逃げるに決まってるじゃないですか! 本当に誰にも言いませんから!」

「ご、誤解よ! これは事故というか……手違いというか……!」

「思いっきり蹴ってましたよね!?」

 

 

 何も誤解じゃないと思う。

 

 

「とにかくアタシたちの話を聞いてちょうだい!」

「話せばきっとわかり合えると思うぜ!」

「嫌ですっっ! 無理ですっっ!」

 

 

 悪夢のような3頭立てレース開幕。

 逃亡者になろうとするも"逃げ"への適性がなかったのかすぐに追い込まれてしまった。

 

 

「捕まえたぜお嬢さん……!」

 

 

 ドォン! と。

 逃げ場を失った俺に、ボーイッシュなウマ娘は壁越しに手を叩きつける。

 壁ドンというやつだ。知識としては知っていたが、実際に体験するのは初めてである。

 しかも相手はイケメンなボーイッシュウマ娘。一部の人達にはたまらないシチュエーションだろう。

 なるほど、確かにこれはドキドキだ。

 恐怖で……ドキドキが止まらない……っ!

 

 

「アタシたちと一緒にお茶でもしましょうよ……!」

「おお、そりゃいいな。三人で楽しくな……!」

「ど、どうか……い、い、命だけは……!」

 

 

 二人の美少女に言い寄られる。

 なるほどなるほど、これが漫画やアニメでしか見たことないハーレム展開というやつか。男ならば誰しも一度は憧れを抱く光景だろう。自分も主人公のようにモテモテになってみたい、と。

 だったら名乗り出て欲しい。

 羨ましいというのなら代わってあげるから。今すぐにでも、美少女に挟まれるこの立ち位置を譲ってあげるから……!

 

 

「お姉ちゃんの言うことを聞きなさい……良いコだから、ね?」

「た、助けて! 誰か助け──」

 

 

 悲鳴を上げようとしたその瞬間。

 俺の顔はズタ袋のようなものに覆われていた。

 助けは来ない、現実は非情である。




◇ダイワスカーレット
 本能的に超怖いウマ娘その1。
 アグネスタキオンをとても慕っている。

◇ディープスカイ
 百合に挟まれる宿命(カルマ)にあるウマ娘。
 ああ逃れられない!

◇ウオッカ
 本能的に超怖いウマ娘その2。
 タニノギムレットをとても慕っている。

◇自動販売機
 蹴ってはいけない(戒め)

◇壁ドン
 乙女が憧れるドキドキシチュエーション。たぶん。

◇ハーレム
 複数の女の子に言い寄られているモテモテな状態のこと。たぶん。
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