タキオンさん助けて、俺ウオスカの間に挟まれちまう   作:フルゥチヱ

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第31話 夏休み日記(ジュニア編)

7月×日 はれ

 今日から夏休みです。先輩たちが夏合宿に行ってしまったので、トレセン学園はなんだかすごくガランとしています。

 でも、だからといってトレーニングをおろそかにするわけにはいきません。いつものように研究室に向かうと、なんとタキオンさんがいました!

 夏合宿は不参加で、俺のトレーニングに付き合ってくれるそうです。

 タキオンさん優しすぎます。

 

 

7月×日 はれ

 今日はゲートの練習をしました。

 前扉にぶつかって怪我をしたりしないための、とても重要なトレーニングなのだそうです。

 単純なことのようで、すごく難しかったです。何度も頭をぶつけました。

 狭いハコの中で立ち止まった状態から一気に加速するためには、もっと反射神経や瞬発力を鍛えなきゃいけないなと思いました。

 

 

7月×日 はれ

 今日も引き続きゲートの特訓です。

 すると通りかかったゴールドシップさんがアドバイスをしてくれました。

 ゲートが苦手ならゲートに入らなければいいというコペルニクス的転回だそうです。

 それは果たして解決になっているのでしょうか?

 というかゴールドシップさん、夏合宿はどうしたんだろ……?

 

 

7月×日 はれ

 クラスメイトのキャプテントゥーレちゃんがレースで勝ったことをLANEで教えてくれました。

 デビュー戦ではアーネストリーちゃんという子に負けちゃったみたいですが、夏にデビューしてもう勝っちゃうなんてすごい!

 しばらく九州を観光してからトレセンに帰るそうです。

 俺も頑張らなきゃいけないなと思いました。

 でもキャプテン、夏休みの宿題のことすっかり忘れてるみたいだけど大丈夫なのかな?

 

 

7月×日 はれ

 クラスメイトのオウケンブルースリちゃんとブラックシェルちゃんがケンカしていました。

 ポッケさん? とクロフネさん? のどっちがすごいかということで口論になっていたみたいです。

 ケンカはよくないよ、あとタキオンさんがイチバンすごいよって教えてあげました。

 巻き込まれました。

 

 

7月×日 くもり

 先輩たちがいないとやっぱり寂しい。

 

 

8月×日 はれ

 今日はファル子さんと一緒にダンスのレッスンをしました。

 ファル子さんは俺がデビュー戦に向けてトレーニングに集中している間も、ウマドル活動を両立していたみたいで、やっぱりトップウマドルはすごいなって思いました。

 ところで、ファル子さんとウマドル特訓をしている間、ずっと誰かの視線のようなものを感じたのが怖かったです。

 じゅるりら、っていう舌なめずりのような音も聞こえたし、ま、まさかお化け……!?

 

 

8月×日 はれ

 ファル子さんと一緒に三女神像の前でトレーニングをしていると、なんと俺のファンだという小さくて可愛らしい先輩が声をかけてくれました。

 長いリハビリでレースに参加できなかった時、たまたまあの日のライブを見てファンになってくれたそうです。

 これからも一番近くで応援するとまで言ってくれました。

 まさか自分が誰かの力になっていたなんて思いもしていなかったので、すごく嬉しかったです。

 もうすぐ新潟で復帰戦とのことなので、頑張ってほしいです!

 でも、なんで自分のことをおじさんって言ってたんだろう?

 

 

8月×日 はれ

 トレーナーさんが夏合宿から一時的にトレセンに戻ってきてくれました。

 夏休み中、トレーナーさんはトレセン学園と合宿所を行ったり来たりしていてとても忙しそうです。

 そんな合間を縫ってトレーニングを見てくれる上に、作り置きのお弁当まで用意してくれるトレーナーさんには本当に頭が上がりません。

 食堂のご飯もすごく美味しいけど、トレーナーさんが作ってくれるお弁当もとっても美味しいです。

 トレーナーさんは夏の日差しで少し焼けたみたいで、なんだかいつもより輝いている気がしました。

 

 

8月×日 はれ

 栗東寮のロビーからなんだか音がしていたので覗いてみると、レッドディザイアちゃんがコピー機を使っていました。

 ダービーを勝った時のウオッカさんの等身大ポスターを何枚も印刷して、自室の壁一面に貼るそうです。

 ルームメイトの許可は得ているのかな?

 そんな疑問には、たぶん彼女と同室の黒鹿毛の子が「ドン引きですよね」と何かを諦めたような表情で答えてくれました。

 

 

8月×日 はれ

 研究室宛に"親愛なる大空へ 世界が見上げた月"というメッセージカードと共に荷物が届きました。

 大きなダンボールを開けると、そこには人とウマ娘をダメにすることで有名なビーズソファが入っていました。

 いったい誰からの贈り物なんだろう。親切な人もいるものです。

 せっかくなのでタキオンさんに試してもらうと、タキオンさんはふにゃふにゃと溶けちゃいました。

 タキオンさんはお疲れだったのか、そのまま12時間くらいふわふわの上で眠っていました。

 

 

8月×日 くもり

 大変です! サムちゃん先輩が合宿先でインフルエンザにかかってしまったみたいです。

 なので先輩はひと足早くトレセン学園に戻ってきました。

 看病してあげたかったのですが、君はもうすぐデビューだからということで断られてしまいました。

 招待されていた海外のレースを断念しなければならないということで、サムちゃん先輩はとても残念そうにしていました。

 

 

8月×日 はれ

 夏休み最終日です。

 宿題も無事終わり、今日は遊ぶぞって思ってたら、カバンの底に恐ろしいものが眠っていました。

 英語のドリルです。もちろんこれも夏休みの宿題です。すっかり忘れてしまっていました。

 なので今、研究室に閉じこもって、全力で追い込みをかけています。

 タキオンさんが「手伝おうかい?」と言ってくれましたが、忘れていた俺が悪いのでお手をわずらわせるわけにはいきません。

 自分の力で頑張ってみます。そして終わらなかった時は先生に土下座する覚悟です。

 

 

9月×日 はれ

 どうやらドリルを解いている間に寝落ちしてしまったみたいです。

 目を醒ますと、肩の上に毛布がかけられていました。

 しかもいつの間にか、英語ドリルが解いた記憶のない範囲まで終わっていました。

 これはいったい???

 タキオンさんも「不思議なこともあるものだねぇ」と言っていました。

 

 

   ◯

 

 

「ディープスカイさん──なぜ呼び出されたか分かりますか?」

「えっと、転入ハーフアニバーサリーのお祝いでしょうか……?」

「あなたの提出した宿題についてです」

 

 

 放課後の職員室。

 担任の先生は、机の上に俺の夏休みの宿題を広げていた。

 はて……? ちゃんと全部終えて提出したはずなんだけどな。

 

 

「この問題の回答について、あなたの弁明を聞いてあげます」

 

 

 と、先生が指差したのは理科の問題集だ。

 光は波であって、(  )である。

 

 

「トレーナーさんである」

「……じゃあ、これは?」

 

 

 次は社会の問題だった。

 PKOとは何か、説明しなさい。

 

 

「ピカピカ、輝く、男(トレーナーさん)」

「…………ふう~」

 

 

 先生はものすごい溜め息を吐いていた。

 

 

「あ、ディープスカイさん、その話が終わったらこっちに来てね。夏休み中にスマートファルコンさんと無断で路上ライブをした件について話があるから」

「アグネスタキオンがまた不特定多数に怪しい薬品を飲ませようとしたと問題になっている。できればディープスカイ、君も含めて三人で面談をしたいのだが……」

「なんで!? どうしていつの間にか先生たちに囲まれてるんです!?」

 

 

 これじゃまるで俺が問題児みたいじゃないですか。

 俺は至って普通の一般生徒なのに。

 

 

「他の先生方も用があるみたいなので、これで最後にしておきます。あなたが提出してくれた夏休みの日記ですが……」

「毎日頑張って書きました!」

「ええ。頑張ってるのは伝わってきました。しかし──なぜ絵日記なんですか?」

「? 夏休みの日記といえば絵日記ですよね?」

 

 

 タキオンさんが用意してくれた、緑色の表紙のえにっき帳である。

 やっぱり日記といえばこれだろう。

 特にタキオンさんの絵は気合を入れて描きました!

 

 

「………………ふうううう」

 

 

 何故ですか先生。

 なんでそんなに深い溜め息を吐くんですか。

 

 

「まあ、そうですね。日記の形式を指定しなかった私にも落ち度があります」

「え? 絵日記以外の日記って存在するんですか?」

「…………」

 

 

 何故ですか先生。

 なんでそんなに泣きそうな顔をしてるんですか。

 

 

「……ディープスカイさん」

「は、はい」

「日記での一人称は"俺"ではなく、"私"かせめて"僕"にしましょう。その方が印象が柔らかくなります」

「な、なるほど……」

 

 

 ガシッと肩を掴まれる。

 一人称。そういえば意識したことなかったけど、今はウマ娘な訳だし"俺"はあんまり良くないのかな。でもウオッカさんやギムレットさんも一人称は"俺"だし……。

 ん? ギムレットさん? そういえばギムレットさんって、"俺"だけじゃなくて"ワタシ"とも言ってたような。

 なるほど!

 

 

「分かりました先生! 使い分けろってことですね!」

「理解していただけたようで何よりです」

「はい! 完全に理解しました! これからは俺と僕の二刀流でいこうと思います! 最近の流行りですもんね、二刀流!」

「…………ん?」

 

 

 実はギムレットさんが一人称を使い分けているの、ちょっとカッコいいと思っていたのだ。

 俺も先輩をリスペクトして、たまに僕も使っていこうと思う。

 

 

「……あなたの4つ上の先輩に、似たようなことを言ってた子がいました。彼女は"俺様"と"私様"でしたね」

 

 

 か、カッコいい……!

 ギムレットさん以外にも、そんな素敵な先輩がいるだなんて!

 いつか会ってみたいな。

 

 

「確かにちょっと似てるかもと思っていましたが、まさか同じくらい変則的な問題児だとは……良い子ではあるんですが……」

 

 

 先生は何故か頭を抱えていた。




◇ディープスカイ
 弟子(問題児)

◇アグネスタキオン
 師匠(問題児)

◇トレセン学園の教職員の皆さん
 強く生きてください……。
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