タキオンさん助けて、俺ウオスカの間に挟まれちまう   作:フルゥチヱ

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第5話 放課後エスケープ

「ほぉ……そうかいそうかい。カフェ、つまり君はそういう奴だったんだねぇ」

 

 

 どうしてか鋭い眼光で睨め付けてくるタキオンさんに、カフェさんは呆れたようなジト目を返す。

 

 

「何のことだか分かりませんが……いいから帰りましょう。ディープさんは無事だったわけですし……」

「ほほう? それはつまり"お持ち帰り"ということかい? そんなの私の目の黒いうちは絶対に許さないねぇ!!」

「さっきからなにを言ってるんですか……今日のアナタは一段と面倒ですね……」

 

 

 威嚇するように白衣の袖を振り回すタキオンさんである。

 そんなおかしな様子の彼女に応答している間も、カフェさんはがっちりと俺のことを支えてくれていた。凄い安心感だ。

 でも、ずっとこの格好というのは気恥ずかしさもハンパじゃない。

 

 

「あ、あの、カフェさん、ありがとうございます。えっと、そろそろ……」

 

 

 下ろしてもらって大丈夫ですよ、と俺が言う前に、カフェさんは「安心してください」と微笑んでこう続けた。

 

 

「アナタは私が守りますから……」

 

 

 か、かっこよしゅぎりゅぅぅ~~っっ!!

 

 

「カァァ~フェ~?」

 

 

 タキオンさんの怒りの形相がさらに深くなる。

 釣り上がった目尻は天井にまで届いてしまいそうな勢いだ。

 

 

「──お? なんだなんだ? 面白そーなことになってんじゃねえか!」

 

 

 すると、喧嘩を終えたらしいゴールドシップさんたちがタキオンさんとカフェさんに気づく。

 一触即発の雰囲気になりつつあるタキオンさんに声をかけたのはスカーレットさんだった。

 

 

「た、タキオンさん、凄い顔してますけど一体どうしたんですか……?」

「止めないでくれたまえスカーレット君。今から私はあの不届き者に裁きを下さなければならないからねぇ……!」

「裁き……?」

 

 

 スカーレットさんは頭上にクエスチョンマークを浮かべている。

 俺達にも何が原因でタキオンさんがここまで怒っているのか分からないのだから当然だろう。

 

 

「ああ、そうだスカーレット君。この辺りにプスカ君を拐った犯人がいるはずなのだが、何か知らないかい? カフェを裁いた後は、そっちの落とし前もつけなければならないからねぇ」

「え゛っ……」

 

 

 タキオンさん、犯人は目の前のその人です。

 

 

「え、ええと──多分あそこの二人だと思います!」

 

 

 ビシィッ! とウオッカさんとゴールドシップさんを指差す。

 スカーレットさんはとても見事な責任転嫁を繰り出していた。

 

 

「おぉい! スカーレットてめぇ!?」

「おんっ? 何のことだ?」

 

 

 華麗な裏切りに抗議の声を上げるウオッカさんと、ポカンと首を傾げる無関係のゴールドシップさん。当然の反応だ。

 しかし、タキオンさんは合点がいったかのようにポンと手を叩く。

 

 

「ゴルシ君、やはり君か……覚悟の準備をしてもらいたいねぇ」

「ま、待ってくださいタキオンさん! ゴールドシップさんは──」

 

 

 流石に誤解を解こうと声を上げる。

 しかし、何故かゴールドシップさんは歌舞伎役者のようなポーズを取りながらこんなことを宣言した。

 

 

「チッ、バレちまったもんは仕方ねえ! 天下のウマ娘泥棒たぁ俺様のことよ! 明日の朝刊の一面はアタシが飾ってやんぜぇぇ!」

「えええっ!?」

 

 

 ゴールドシップさんは叫びながらカフェさんに襲いかかろうとする。

 いや、正しくはカフェさんに抱き抱えられている俺の方へと向かってきていた。

 なんで!? なんで誤解なのに自分から事実にしようとしてるのこの人!?

 

 

「……させません」

 

 

 カフェさんが俺を庇うようにしながら突っ込んできたゴールドシップさんをブロックする。

 強烈なタックルだったのか、流石のカフェさんも後退りをしていた。

 

 

「イケメンから女を奪う! これに勝る快感はねぇよなぁカフェ~っ!」

「ふざけないでください……純愛こそ至高です」

「そんな戯言をのたまう奴にこそ、素質はあるんだぜェェェ!」

 

 

 言っていることはよくわからないが、鍔迫り合う二人の迫力に思わず息を呑んでしまう。

 

 

「いいぞゴルシ君! そこだ、そのまま差し切れ!」

「タキオンさんっ!?」

 

 

 何故かタキオンさんはゴールドシップさんサイドを応援していた。

 カフェさんはあなたの相棒なのでは……?

 困惑していると、カフェさんにそっと耳打ちされた。

 

 

「埒が明きませんね……ディープさん、少しの間しっかり掴まっててもらえますか?」

「えっ、あっ、ひゃい!」

 

 

 俺はコクコクと頷いてからカフェさんの背中に手を回して、ぎゅっと密着する。すごく良い匂いがした。

 

 

「……お願い」

 

 

 カフェさんがボソッと呟く。

 すると突然、バタン! というけたたましい音と共に施錠されていたはずの窓がひとりでに開け放たれた。

 

 

「ひえっ!?」

 

 

 怪奇現象に驚く俺を尻目にカフェさんは窓枠に足を掛けると、そのままジャンプして脱出を果たした。

 背後から聞こえるタキオンさんやゴールドシップさんの声が徐々に遠ざかっていく。

 俺達が抜け出した建物は、プレハブ造りの小屋だった。カフェさんは驚異的なスピードで駆け抜けてその場を立ち去り、そして拓けた道に出ると、ゆっくりと下ろしてくれる。

 

 

「……災難でしたね」

 

 

 そして、そっと頭を撫ででくれた。

 女神様だろうか、この人は。

 顔中に熱が集まって真っ赤になっているのが自分でもハッキリとわかった。

 い、いけないいけない。ちゃんとお礼を言わないと……っ。

 

 

「あのっ! か、カフェさん、あ、ありがとうご──」

 

 

 お礼、お礼……!

 

 

「ご──ご趣味は……?」

 

 

 あれ? なんかお見合いの切り出しみたいになっちゃった。

 カフェさんもそんなことを聞かれると思っていなかったのか、ポカンとしている。

 しかしすぐに、ふっと苦笑して、

 

 

「そうですね……珈琲を淹れることは、少し自信があります」

 

 

 そう教えてくれた。

 大人な趣味だ……カッコいい……!

 ぽけーっとしている俺に対して、カフェさんは先導するかのように前を歩く。

 

 

「寮まで送ります……栗東寮ですよね?」

「は、はい……っ」

 

 

 後から知ったことだけど、カフェさんの寮は反対側の美浦寮だったらしい。

 どこまで紳士的な方なのだろう。あまりにも優しすぎる。

 

 

「足元……段差なので、気をつけてくださいね」

「ひ、ひゃい……!」

 

 

 ──タキオンさん助けて、俺この人のこと好きになっちまう。




◇マンハッタンカフェ
 身も心もイケメン。

◇ゴールドシップ
 芦毛のやべーやつ。

◇アグネスタキオン
 アグネスのやべーやつ。

◇ディープスカイ
 カフェの夢女子。
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