タキオンさん助けて、俺ウオスカの間に挟まれちまう 作:フルゥチヱ
「た、タキオンしゃんっ! タキオンざ~~んっっ! ありがとうございましゅ! ありがとうございまずぅぅ~~っっ!!」
「ハハハ、気にすることはない。師ならば弟子を守り導くのは当然の務めさ」
タキオンさんは笑いながら優しく背中を擦ってくれる。
神様も仏様も助けてくれなかったけど、タキオンさんは助けてくれた。
俺はこの方に一生ついていくと決めた。
「……ってあれ? タキオンさん、なんだか顔色悪くないですか?」
それに手も少し震えている気がする。
「大丈夫だよプスカ君。これは久しぶりに全力を出したことで著しく心拍数が上昇し、全身の筋肉が痙攣を始め、ついでに謎の動悸が止まらないだけだからねぇ」
「それだいぶ重症ですよ!?」
これっぽっちも大丈夫には見えない。
「心配は無用さ。この程度の症状なら、温かい紅茶でカフェインを摂取すればすぐ治まる」
「こ、紅茶ですか? 買ってきますよっ」
「ああ、紅茶と糖分の割合が1:1の紅茶を頼むよ」
そんな激甘な紅茶は市販されていないと思う。
「プスカ君の髪は紅茶のようだねぇ。可愛いねぇ、将来は完璧で究極のウマドルだねぇ」
「タキオンさん!? 本当に大丈夫ですか!?」
「ユニット名は追い込みシスターズにしようねぇ」
ダメだ、まるで聞こえていない。
ものすごい勢いで頭を撫でてくれるタキオンさんになすがままにされていると、背後から呆れたような声がした。
「お二人共……朝からなにやってるんですか……」
そこには先日俺を助けてくれた恩人で、タキオンさんの相棒であるマンハッタンカフェさんがいた。
「あ、カフェさん! 助けてください、タキオンさんの様子がおかしいんです!」
「様子がおかしいのはいつものことですが……」
「酷い言われようだねぇ」
カフェさんの辛辣な言葉にタキオンさんは苦笑する。
タキオンさんはいつも格好良いと思いますよ。
「……どうせ夜通し実験でもして、ろくに眠っていないんでしょう?」
「たかが三徹さ。何の問題もないねぇ」
「さ、三徹ですかっ!?」
「そんなことだろうと思いましたよ……」
一徹でも尋常じゃないくらい苦しいのに、三徹だなんて、立っていられるのが不思議なくらいだ。
よく見ると、タキオンさんの目の下は深いクマが浮かんでいた。
「タキオンさん、一緒に保健室に行きましょう! ちゃんと眠らないと倒れちゃいますよ!」
「いいかいプスカ君、保健室に行くなんて時間のムダさ。それにもうすぐ調合中の薬品が──」
「……あて身」
「くぺっ」
「うわぁーっ!? タキオンさーん!!」
ドスッ、とカフェさんが首筋に放った恐ろしく速い手刀によって、タキオンさんの意識は刈り取られた。
くの字に折れ曲がったタキオンさんを、まるで荷物でも運ぶかのように抱えるカフェさんである。
「……私はこの人を寝かせてきます。ディープさんも早く教室に向かったほうが良いかと……」
「は、はい。あの、タキオンさんは大丈夫なんでしょうか」
「問題ありません……この人、こうでもしないと眠らないので……」
これは睡眠というより気絶だと思う。
「……ほら、行きますよタキオンさん」
「うう~ん……スカーレット君も可愛いねぇ、プスカ君と一緒にウマドルデビューだねぇ……」
「どんな夢見てるんですか……」
「
「いいからちゃんと寝てください」
「こぺっ」
再び手刀が炸裂する音がした気がしたが、聞こえなかったことにして俺は教室に向かった。
◯
「ここかな……」
事前に貰っていた校舎の地図を手に、俺は教室の扉の前に立っていた。
ウオッカさんとスカーレットさんのおかげ(?)でホームルームには間に合ったようで、まだ教室内には立ち歩いている人や雑談に興じてる人たちがいる。
ち、ちょっと入りづらいな……。
「──入らないの?」
「ひゃあっ!?」
扉越しに中の様子を伺っていると、背後からポンと肩をタッチされる。
ビックリして振り返ると、そこには穏やかな顔をした鹿毛のウマ娘がいた。頭に付けた黒い貝殻のアクセサリーがとても可愛らしい子だった。
「見ない顔だね。キミみたいな可愛い子、忘れるはずないんだけど……」
「えっと……」
「わかったっ! キミが噂になってる転入生でしょ?」
「あ、は、はい」
「やっぱり! 私もこのクラスなのっ、これから仲良くしようね!」
この人すごいグイグイくる!
「あ、先生きたよ! 教室入る前に挨拶しておいた方がいいんじゃないかな?」
彼女が廊下の向こうを指差す。確かにスーツを着た女性がこちらに歩いてきていた。
「後でまたお話ししようね!」
「う、うん」
とても元気なその子はガラッと教室に入っていった。すごいコミュ力だった……。
俺は先生に挨拶をすると、そこでチャイムが鳴る。
そして、先生と一緒に教室へ入ることになった。
「皆さんおはようございます。今日からこのクラスに転入生がやってくることになりました。それではディープスカイさん、自己紹介をお願いします」
先生にそう促されて、俺は教壇の上に立つ。
集まる皆の視線。
うう、緊張してきた。
でも、何事も第一印象が肝心と言うし、最初の挨拶はバッチリ決めなきゃ……!
「は、はじめまして……! 俺はディ──」
「ワハハハハ!! 吾輩、見参ッ!!」
「……ぷす?」
突然、なんだかものすごいご機嫌なウマ娘が入室してきた。
全員の意識が俺ではなく扉の方へと向う。
そこには、とても大きな海賊帽子を目深に被った、とても小さな芦毛のウマ娘がいた。
「む? 見ない顔だな。貴様、名を名乗れ」
たった今名乗ろうとしたところをあなたに邪魔されたんです。
「はいはい、キャプテンは遅刻してきたんだから静かに座ろうね」
「遅刻ではない。常に23時間55分前行動を心掛けている吾輩が遅れるはずないだろう」
「それ一周回って遅れてるんだって」
さっき声をかけてくれた鹿毛の子が彼女をグイグイと引っ張っていき着席させる。
な、なんてまともな人なんだ……! トレセン学園で出会った数少ない常識人の一人かもしれない。
「あ、改めて、ディープスカイと申します。これからよろしくお願いします!」
ペコリ、と頭を下げると拍手が巻き起こる。
よし。ちょっとしたハプニングはあったけどなんとか普通に自己紹介できたぞ……!
あとは無難に好きなものと目標でも言えばいいだろう。
「好きな食べ物はエクレアです。トレセン学園での目標は──」
俺の目標。
それは当然。
「クラシック三冠を取ることです」
ザワッ──と。
瞬間、和やかだった教室内の雰囲気が、張り詰めたような空気になる。
さっきまでの見守るような視線とはまるで違う。
刺すような据わった目つきで、皆が俺を見ていた。
……あれ? もしかして俺何かやっちゃいました?
「な、仲良くしてもらえると嬉しいです! 以上です!」
居た堪れなくなって、逃げるように教壇から降りる。
一つだけ空いている窓際の一番後ろの席。そこが転入生である俺のために用意された机なのだろう。
丸くなるようにしてそこに座る。すると先生がホームルームを始めた。
だが、周囲の意識は明らかにまだ俺へと向けられている。
どどど、どうしよう。何がいけなかったんだろう……!?
お、落ち着け、今はホームルームだ。ひとまず先生の話を聞かないと──
「あっ」
メモをしようとペンを取り出すも、誤って取り落としてしまう。
カランと床に落ちたペンは、コロコロと転がって隣の席の下へと落ちてしまった。
「す、すみません」
謝りながら隣の席に目を向ける。
そこには派手めなネイルをした、明るい栗毛のウマ娘がいた。
ギャルだ……! この人絶対ギャルだ!
ど、どうしよう。ペンを拾いたいけど、そのせいで因縁つけられたりしないよね!?
俺がビビっていると、片肘を突いてぼーっとしていた彼女はチラリとこちらを一瞥して、
「……ん」
ペンを拾い上げてくれると、それをこちらへと差し出してくれた。
「あ、ありがとうございますっ……!」
良い人だ、この人すごく良い人だ!
俺がペコペコ頭を下げてお礼すると、彼女は軽く片手を挙げてくれた。
怖いギャルなんじゃないかって疑ってごめんなさい!
「あの……よかったらお名前を教えてくれませんか……?」
恐る恐るそう聞くと、彼女は再び目線だけをこちらに向けてこう言った。
「アンタ、転入生なんだよね?」
「は、はい」
「とりま転入初日くらい、センセーの話はちゃんと聞いたほうがいいと思う」
返す言葉もなかった。
この人ギャルだけどすごく真面目だ。
◇ディープスカイ
朝に色々あって朝食抜きなので腹ペコのウマ娘。
三冠の重みをまだ知らない。
◇アグネスタキオン
大の甘党かつ重度のカフェイン中毒ウマ娘。
この後12時間くらい眠った。
◇芦毛のクラスメイト
コスプレ用の海賊帽子を被ったウマ娘。
厳粛な口調で話すが身長は低め。
◇栗毛のクラスメイト
隣の席のダウナー系ギャルウマ娘。
ギャルだが真面目な性格でとてもストイック。
◇鹿毛のクラスメイト
最初に声をかけてくれた心優しいウマ娘。
父親がくれた黒い貝殻のアクセサリーが宝物。