「あらスズカさんこんにちは」
「アヤベさん、今からトレーナー室ですか?」
「そうね、でも貴女もでしょ?」
とあるトレーナー室近くの廊下でアドマイヤベガとサイレンススズカが鉢合わせる。別に不思議なことではない。なにせ同じトレーナーに師事しているのだから。
初夏の放課後。トレセンではこれからが本業のようなもの。トレーニングの時間である。
二人もいつものように愛しのトレーナーのもと…もとい厳しいトレーニングの準備に向かうところだ。
今日はこの時期にしては比較的暑いから水分補給とスタミナに注意して云々…と早速プラン立てするアヤベ。一方少し暑くなってきたからどこを走ろうかしら?川辺がいいかな?と頭先頭民族なスズカ。二人は特に会話もなくトレーナー室の前につく。
別に仲が悪いというわけではなくこれがこの二人のデフォルトといえる。あまり他人に干渉せず自分の世界を持っていると言えばいいだろうか。
ガチャリとトレーナー室のドアを開けて入る二人。しかし愛する…いや尊敬するトレーナーはいない。ちょっとした用事だろうと先に準備に取り掛かろうとした二人はあるものを見つけた。その瞬間今日の練習プランは吹き飛んだ。
「これは…」「まあ…」
トレーナーのジャケットである。普段着ているものだから見間違えるはずがない。それが椅子の背もたれに掛かっている。
次の瞬間二人の目はゲートイン状態となる。当然だろうこの賞品は譲れないのだから。
「ねえスズカさん。私忘れ物をしたの。取ってきてもらえない?多分京都レース場にあるからお願いね?」
「なんで私が行かないといけないんですか?」
「だって速いのでしょう?ゆっくりでいいわよ?」
若干思考が乱れてるアヤベである。
「それよりアヤベさん。今日は星が綺麗ですよ?見に行かないんですか?」
「まだ明るいし夜は雨の予報よ。」
「雨の中の星も綺麗ですよね?見えたことないですけど」
こちらも支離滅裂なスズカである。
二人とも同時同タイミングでジャケットに接近する。
実況解説が見れば「掛かっていますね」と言う目つきである。
あと一歩で手が届くタイミングでどちらも止まる。
「ねえスズカさん、手を引く気は無いのかしら?」
「ありません。先頭の景色(ジャケット)は譲れません。アヤベさんだってそうでしょう?」
「そうね…私にも理由があるわ…あの子のために誇れるようになる…そのために勝利(ジャケット)は譲れない」
ついにジャケットに二人の手がかかる!バラバラに引きちぎられる無惨なジャケットが誕生するまさにその寸前
「おお、二人とも来てたのか。相変わらず早いね。やっぱりここに置いてあったか。」
件のトレーナーが戻ってきたのだ。二人は入り口を見て停止する。ジャケットはまだ原型を留めている。
「大事な用事を連絡するのに携帯を忘れちゃってさ。そのジャケットの中。急いで戻ってきたから暑いな。二人も水分補給しっかりな?」
トレーナーは少し汗ばんでいる。急いで戻ってきたのは間違いないようだ。一方アヤベとスズカの目は彼に釘付けになる。同時に彼からかすかな汗の匂いが漂う。戦闘態勢になっていたウマ娘の嗅覚は敏感にそれを捉える。アドレナリンドバドバの二人には劇薬だ。
「スズカさん…ジャケットはあなたに譲るわ…京都まで遠いから冷えるわよ?」
「いいえアヤベさんこそ持っていってください…雨の中寒いでしょうし」
「え?京都?雨の中って何?」
「あなたには関係ないわ…いえ大有りね」
「そもそもトレーナーさんが原因なんですから」
「責任取ってもらうわよ?」「責任取ってくださいね?」
この二人は仲が悪いわけではない。ただ依存と執着の対象が一致しているだけなのだ。
彼の携帯はしばらくジャケットの中で昼寝を楽しむことになるだろう。
実はアヤベさんとスズカさん好きなんですよね~(2回め)今日暑いしアヤベさんとスズカさんに挟まれてミンチ肉になりてえなあと思ったら生えてきたお話です。
今回の二人は病んでないですね。もともとちょっと執着心が強いだけで健気で可愛らしいヒロインですからね。この後二人はトレーニングじゃなくておやつタイムに入ったんじゃないですかねたぶん。
そもそもアヤベさんとスズカさんに迫られて理性を保てるわけないじゃないですか、即オチしないだけいいと思いませんか?まあ耐えるほど落下時にはダメージが大きくなるのはお約束ですけどね?