「びっ……………………くりしたーーー!!」
状況を整理しよう。
オレは封印の間から出た途端、いつのまにか後ろに立ってた生物に鎌のような何かで首チョンパされた。だか、ブウの体の再生能力を舐めてもらっては困る。オレは切断された頭部を首から上のない体ですぐさまキャッチする。そして頭を体の切断面に近づけると、
「よしっ! くっついた!」
なんと、切り離されたはずの頭と体がピタッと元通りにくっついたではありませんか。たとえどんなマジシャンでもこれほどの芸当はできないに違いない。まあ、マジックじゃないから本当に種も仕掛けもないけど。
ちなみに、このどこをどう見ても普通の人間にはできそうもないこの芸当は魔人ブウの持っていた能力であり、今のオレの技能でもある肉体操作と超再生によって可能となる。
【肉体操作】
自分の体を自由自在に操る能力。体の形状を変化させたり、大きくなったり小さくなったりすることが可能。その上、自分から切り離された肉体であっても操ることも可能であり、オレが首だけの状態であっても体を動かせたのはこのおかげだ。欠点があるとすれば、切り離した部位に意識を持ってかれる以上、他のことが疎かになりがちになるくらいだが、慣れれば問題ない。
【超再生】
文字通り、異常に高い再生能力を持つ。通常の再生とは異なり、魔力を消費することもない。試したことはないが、どれほど破壊されたとしても細胞の一片だけでも残っていれば肉体を無傷な状態まで再生することが出来ると思う。ちなみに焼かれて気体になった状態でさえも煙から肉体を再生させられるが、さすがに細胞一つ残らずきれいさっぱり消されたら再生はできない。
この二つの技能を使い、肉体の修復を終えたオレは再度襲い掛かってきた殺気に反応し、前方へ転がるように攻撃を回避して背後の敵から距離を取る。
「まったく、油断も隙もない」
体を反転させて襲撃者を探すも、やはりこの暗闇では相手の姿は視界に収めることはできない。大体の場所ならば気で把握できるが、いつ、どのタイミングで、どんな攻撃がくるか、などの細かい情報は今のオレの技量では判別できない。視界がふさがれることがいきなりオレを追い詰めている。
逆に相手にはオレの姿がばっちり見えてるらしい。先ほどから正確に頸めがけて攻撃を繰り出してくる。顎を切ることに何か拘りがあるのかは知らないが、そこを執拗に狙ってくる。狙っている場所が明確な分、まだ避けやすいのは唯一の救いだ。
「よく最初に落ちてきた時にこいつに出くわさなかったな。やっぱりオレは運がいい」
ブウに吸収されるより前、最初にこの光のない暗闇に落ちてきた時にはこんなやばい相手には出くわさなかった。今でこそブウに吸収されたおかげでなんとか対応できてはいるが、もしも、あの時のオレがこいつに出会っていたら、最初の一撃でとっくにこの世からおさらばしていた。そう考えると鳥肌が立ってくる。
「見えない以上、迂闊に近づくのは無謀だな」
姿も見えない相手に近距離戦闘を仕掛けるのはあまりにも危険すぎる。そう判断したオレは再度、オレの頸目掛けて攻撃を仕掛けてくる相手から、バックステップで距離をとりながら、エネルギー弾(気を光球の形で放出したもの)を放ち応戦する。オレがブウに吸収されたからだろうか、今放ったエネルギー弾やエネルギー波のような集中させた気は青白かった色から赤紫色に変わっている。だからといって何かが決定的に変わるわけではないが、少し気にはなった。
エネルギー弾は火力でいえばエネルギー波に比べて圧倒的に劣るが、連射速度が早く、低コストで使えるから結構使いやすい。加えて説明するならばオレの気の総量は一般的に考えればかなり高い。一発一発の威力がロケットランチャー並の火力は出ているだろう。
それほどの火力の攻撃をオレは襲いかかって来た敵から距離をとりながら、すでに30発は当てている。単体でのダメージは少ないようだが、塵も積もれば山となるという言葉があるように何度も何度も食らわせた影響か少し動きが鈍くなっている。
そして遂に敵は動きを止めた。その隙ができることを待っていたオレはすぐさま気をためエネルギー波を放つ。
「くたばれっ!」
「ぐおっ!」
闇の中にいるナニカは呻くような声をあげる。しかしまだ気を感じるため死んではいない。
その事実にオレは純粋に驚いた。全力ではないとはいえ、エネルギー波はエネルギー弾とは比べものにならない威力のはずだ。それをダメージが蓄積している体で受けたにも関わらずまだ相手の体力は残っている。いや、むしろまだまだ余裕があるといっても過言ではない。異常なほどの耐久力、それに加えてこの暗闇ども視界を確保できる能力。断言できる。この敵はオレの知る限りでは一番強い。
そして次の瞬間、その敵はオレをさらに驚愕させてみせた。
「うぐ、ぐ。おまえ……なにものだ!!」
「…………は?」
しゃべった。
今、オレの耳がおかしくなったわけじゃなければ間違いなく目の前の相手は意味のある言葉を発した。今までオレは相手が魔物だとばかり思い込んでいた。この迷宮の奈落に人なんかいるはずがない。こんな暗闇でオレの位置を正確に把握できるのは五感の優れた魔物であるからだと。実際にも感じられる気も人よりも魔物に近い。
「……確かめてみるか」
そこで、オレは正体不明の襲撃者の正体を明らかにすることにした。
封印の間から脱出する前、オレはこの暗闇への対策案を二つほど考えていた。一つは最初に実行したような視覚以外の感覚を頼りに空間を把握すること。それが一番効率的ではあるし、すぐにでもできる。そしてもう1つは……自分で光を作ってしまおうという考えだ。
本当に思いつきの考えでしかないが、修行の末、光を作り出すことには成功した。作り出した光で辺りを照らし、相手の姿を確かめる。それからでも倒すのは遅くない。
もし……ありえないとは思うが、相手が人間だった場合ならばまだ交渉の余地はある。
オレは手のひらを上に向け、白色に輝くエネルギーの塊を作り出す。攻撃用ではない、特殊な効果を持ったエネルギーの塊だ。今の状態ではマッチ程度の明るさしかないが、今はまだこれでいい。
「おまえ……なにを……」
「なに、すぐに分かるさ」
そのエネルギーの塊をオレは天井に当たらない程度の高さに上昇させる。
そして、
「弾けて、混ざれ!」
エネルギーの塊に右手を突き出し握るような動作をしながらオレがそう言うと、それは光り輝く満月へと変化した。
「グオぉぉ!!」
暗闇の中に突如現れた輝きにオレを襲った相手は狼狽える。
この技はオレが気の修行をしている最中に偶然発見したものだ。空気中の酸素とオレの気で作り出されたエネルギーの塊を混ぜ合わせることで短時間ではあるが、人工的な小型の満月を作り出せる。なぜ満月なのかは知らん。なんかこうなった。
ただこれには大きな欠点がある。気の消費がとんでもないほどに激しいのだ。しかし、気を使いすぎて負けるなんて無様な真似をオレはもうしない。目の前の相手を倒す分の気はちゃんと残してある。
先程の暗闇とは違い明るくなったその場所でオレ初めて襲撃者の体を視界におさめた。
「おおぉぉぉぉ、眩しい! なんだその光は!」
その姿はニ足歩行で歩く爬虫類のような見た目をしており、手首から伸びた特徴的な爪に下半身よりも上半身の方が大きいアンバラスな緑色の体。どこからどうみても人間ではなく、魔物なのは間違いない。にも関わらずその魔物は人の言葉を発している。
「人の言葉を話す魔物……聞いたことがないな。能力的な面でも知能的な面でもベヒモスよりやばそうだが、こんな魔物もいるんだな」
まだ王国にいた頃、知能が高い魔物がいるとは聞いたことはあるが、せいぜいカラス程度のものであり、人語を扱う魔物なんて教えられたことはなかったし、考えもしなかった。
目の前の魔物はよほど長い間この闇の中で過ごしていたのか、光が苦手らしい。今も光から自分の目を守るように手で目を覆っている。
もしかしたらこのまま死ぬんじゃないか? あまりの動揺ぶりにそうオレは考えていたのだが、魔物の次の行動はオレの予想の範疇を大きく超えた。
「うぐおぉぉ! こんな光食ってやる! ギュォォォォォン!!」
なんと魔物は口を大きく開き、オレの作った人工満月を吸い込んだ。人工満月が消えたことにより、辺りは再度暗闇へと戻る。
「ま……マジかよ。こいつ、光を食いやがった」
この場所が異様に暗い理由がようやく分かった。
きっとこの場所にも上の階層と同じように緑光石はあったのだろう。だが、その緑光石の輝きはこの魔物が住み着いたことによって食われて失われた。結果、奴の巣となったこの場所は暗黒へと変化した。どうりでまったく光がないわけだ。
「ゲフゥー!……う、うまい!! こんなにうまくてボリュームのある光を食べたのは初めてだ〜〜!!」
「…………勝手に人の気を食って食レポしてんじゃねーよ」
感激に体を震わせながらがら魔物は人工満月の味の感想を聞いてもないのに伝えてくる。
「もっとだ! もっと食わせろ!!」
「アホかこいつ……」
それだけに飽き足らず、強欲にも再度オレに人工満月を作ることを要求してきた。当然食われると分かってて、オレがその要求に応えてやるはずがない。それに、奴が人工満月を食ったことで多少ではあるが、気が増えているような気がする。もしそうならば余計食わせてやるわけにはいかない。
「光を食わせてくれないなら、おまえを食ってやる〜〜!!」
人工満月を作らないオレに痺れを切らした魔物は先程のように頸を狩ろうと急接近してくる。だが、もう避ける必要はない。
さっきまでは姿形が分からず手間取っていたが、こう何度もおんなじ攻撃ばかりされてたらいくらなんでも学習する。それに一度とはいえ体の全体像も見ているんだから、鎌のリーチや形状も把握した。
オレは振り下ろされた鎌を右腕で受け止めようとする。当然このまま受け止めても腕がすっぱりと切断されるだけだ。だからこそ、オレは鎌が直撃するスレスレで腕をアメーバのような不定形へと変化させ、魔物の腕ごと鎌を包み込む。そして一瞬の内に変化させた腕を固めると、魔物の腕はオレの腕によりガッチリと固められ、魔物は腕を動かせなくなる。
「なっ!?」
「おまえ馬鹿だろ。なんで喋る知能はあるのに戦い方ずっと同じなの? オレが見切れないとでも思ったか?」
固定された腕を見て、焦ったような声を上げる魔物。顔は見えないが、きっと面白い顔をしているに違いない。そんな魔物の体の中心部分をオレは空いている左手で触れ、今集められる最大の気を集中させる。
耐久度はさっきのエネルギー波で分かってる。今度のこの一撃は耐えられない。
「じゃあ、死ね!」
「ま、待っ!」
この攻撃は耐えられないと直感で理解したのか、魔物は静止を懇願するが、その声を無視してオレはエネルギー波を撃つ。放たれた光線は魔物の腹を貫通し、そのまま飛んでいき、後方にある壁に直撃する。
「おっと、これは思わぬ収穫だったな」
思った以上に火力が出てしまったからかエネルギー波が直撃した壁はぼろぼろと崩れ去っていく。その先からは決して明るくはないが、わずかに光が差し込んできているのが見えた。
拘束していた腕を解き、元の状態へと戻すと、魔物はやっと倒れる。もう動くことはないだろうと、壁の穴も光に向かってオレが足を進めようとした時、
「う、うぐ、ごはっ! まだ、だ」
オレの足を倒れたままの状態で魔物が掴む。
「嘘だろ。まだ生きてるのかよ」
足を振るうことでその手を振り払う。しかし、魔物はオレのような再生能力を持っているわけではないにも関わらず、腹に風穴を開けられた状態で立ち上がった。
「……どうして立ち上がる。人語を理解できるほどの知能があるおまえならば、勝機がないことぐらい分かるだろ。何がおまえをそこまで奮い立たせる」
今の魔物はどうみても立ち上がれるような状態じゃない。感じる気も後数秒もすれば消失してしまう程しかない。動くことすら異常としかいいようがない体で、なおその魔物は立ち上がった。それにこの数秒間で何があったのかは知らないが、先程のような狂った雰囲気とは違い魔物の目には狂気の中に薄らとだが冷静さが垣間見えた。
そして自分の体に言い聞かせるかのように、その魔物は宣言した。
「おれの名はヤコン! 解放者の意志を継ぎ、おまえを殺す! 魔人ブウ!」
◯
その魔物は生まれたその時から理性というものを所持していた。
自分の生まれた意味を理解し、これから何をすればいいのか最初からすべて分かっていた。
自分に与えられた役目……それは魔人ブウと呼ばれる厄災が封印されている場所へと無断で入ろうとする侵入者を排除すること。そのためだけに唯一の入り口がある場所へと魔物は配置された。
だが、知性のある魔物にとってその時間はあまりにも長すぎた。人間でいえば、三度は生涯を繰り返せる程の長い時間、その場所で、いつ終わるのかすら分からない役目を真っ当するため過ごしてきた。それほどの苦痛ならば、もはや理性などない方が良かっただろう。一時的とはいえ、人間と過ごした記憶のある魔物の精神はその孤独に耐えられず、だんだんと壊れていく。
その影響はしだいに、魔物にとって最も重要な物である記憶や知性にまでも及んだ。
気づけば、自分の目的も役割も何もかも忘れてしまった魔物は何も分からない状態でただただ生き続けた。しかし、どれほどの時間が経とうとも、与えられた持ち場だけは離れようとはしなかった。それは記憶を失ってもなお、自分はこの場でやらなければならないことがあるということを心のどこかで理解していたからだろう。
そんな魔物に一つの変化が訪れた。
以前から何故か入る気にすらならなかった穴から突然人の形をしたナニカが飛び出してきた。
それが何者であるかなどは分からないが、それを倒すべき敵だと本能で認識した魔物は躊躇うことなく殺そうとしたが…………そのナニカはあまりにも強すぎた。
首と胴体を切り離したのにも関わらず死なない。
暗闇で姿が見えないはずの自分に正確に攻撃を当ててくる。
光を食い尽くした暗闇の中で新たな光を作りだし。
どれだけ攻撃を当てようとも疲れた様子すら見せない。
そして、自分の命を奪える程の光線を放った。
赤紫色に光を放つ光線が自身の体を貫き、命を奪うほどのダメージを与えられたことで魔物が死の淵をさまよっていたその時、魔物は忘れていたはずのとある光景が頭の中に流れた
それは自分が生また頃の記憶。
とても暖かく、優しい心を持った7人の人間達が笑みを浮かべながら自分に声をかけていた。
その瞬間、魔物は忘れていた全てを思い出した。自分の目的を、自分の役目を、そして忘れてはいけなかったはずの自分を生み出してくれた彼らのことを。
そして同時に理解した。
姿こそ見た事はないが、目の前の化け物が彼らの話していた"魔人ブウ"であることを。自分は狂気に溺れ、任された役割すら真っ当出来なかった事実を。
魔人ブウが相手では自分は逆立ちしても勝てない。先程の戦いでそれは嫌というほど理解出来た。しかも、今は肉体に深いダメージを負っている。ここで戦ったところで負けるのは目に見えている。
だが……
それでも……
このまま無様に倒れていることなんて出来なかった。
たとえ勝ち目がなかろうとも、それが任された役割ではなかったとしても、このままでは7人の恩人達にあの世で合わせる顔がない。
だからこそ立てた。立ち上がれた。
たった一つの約束すら守れなかった自分が少しでも彼らのために役立てるなら、そう考えると体の痛みは気にならなかった。
そして魔物は宣言する。
「おれの名はヤコン! 解放者の意志を継ぎ、おまえを殺す! 魔人ブウ!」
差し違えても構わないと覚悟を決めた魔物……ヤコンは再度、魔人ブウへと挑んだ。
しかし、結果が変わることはない。
「ま、だ、まだ……だ! おれは……死ねない」
満身創痍の体、加えて今は外から光が入り相手からは自分の姿が丸見えになっている。自分に有利な環境でさえ敵わなかった相手にこの状況で勝てるはずがない。
それは分かっていたが、ヤコンは諦められなかった。
倒れ伏したヤコンは既に虫の息、もう体を動かすことすらままならない。心だけは未だに戦意が残っているが、無理を重ねすぎた体はそれについてはいかない。
もはやこれまで。
死を覚悟したヤコンは薄れゆく視覚の中で魔人ブウが倒れた自分に手のひらを向けているのが見えた。先ほどような光線を放つつもりなのだろう。
(ああ、おれは、死ぬのか……)
あと数秒もすれば訪れる自分の命の終わりを理解し目を閉じる。
(ごめんな。おれ、あんたらとの約束、守れなかった)
もう人としての生涯を終えているであろう彼らに心の中で謝罪をし、意識を手放そうとしたその時だった。
壊れる寸前であった自分の肉体に体力が戻ってきた。
「な、なんだ……」
朦朧としていた意識がはっきりとし始め、ヤコンは自分の身に何が起きたのかを理解する。
(こいつが、おれを助けたのか?)
それは信じられないことだった。
彼らから聞いた話では、魔人ブウという存在は残酷で冷酷な存在で、殺戮と破壊を楽しむ化け物だった。実際に彼らの仲間がたくさん殺されたという話も聞いている・
そんな混乱しているヤコンをよそに魔人ブウは語り出す。
「オレの気を分けてやった。傷は残るが、おまえの生命力ならなんとかなるだろ。あとは好きにしろ。おまえとオレにどんな因縁があるのかは知らんが、今のオレはおまえを殺す気分じゃない。それでもまだオレを殺したいなら、体力が完全に回復してからかかってこい。いつでも相手をしてやる」
それだけ言い残すと、魔人ブウは……いやヤコンが魔人ブウだと思っていた相手は崩れた壁から外へと向かって歩いていった。
「あいつは…………一体なんなんだ」
その疑問に答える者は……ここにはいない。
……どうしてこうなった!?
適当にそこそこの雑魚出して主人公つよつよアピールしたかっただけなのに。
「文字数少ないな~。ちょっとだけ足すか」って感じで書き足したらなんかヤコンがいいキャラ風になってしまった。どうしよう、この先、ヤコンを出す予定なんかまったくないよ。